論文

特集  第47回 加賀全国研究集会 分科会テキスト
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全国研究集会・震災関係・レジメ
神戸会 佐藤 庸安

1.はじめに

阪神・淡路大震災の被害状況、 税理士事務所の業務状況、 税理士会・支部の震災対応、 震災税務の複雑性、 阪神以後への提言、東日本大震災への参考事項等について報告するところですが、時間の関係で要約的な報告となります。
詳細なところは「震災・その轍」(近畿税理士会編集)、「激震 神戸・あれから2年」(近畿税理士会神戸支部編集)、「税務広報」(2011/7)の計算例(橋本恭典会員寄稿)を読んでいただいて補足してください。
2.自己紹介

 近畿税理士会阪神・淡路大震災対策特別委員会委員として、「震災・その轍」の編集作業に参加
 近畿税理士会神戸支部副支部長(直後の当時)として、「激震 神戸・あれから2年」の編集作業に参加
 サンテレビで被災直後の震災税務の解説、取材対応
 阪神・淡路街づくり支援機構、近畿税理士会派遣事務局
 阪神・淡路街づくり支援機構付属研究会編「提言 " 大震災から学ぶ住宅とまちづくり " 」共同建替の税務・執筆
 自宅・事務所の被災体験
事務所半壊、自宅一部損壊、事務所1週間閉鎖、約1ヵ月隔日出勤。全壊した姉一家を自宅に引き取る。ライフラインの回復、交通の回復、倒壊建物・焼失建物の撤去、事務所探し、避難所の格差、仮設住宅の問題点・・・・・絆の切断、独居老人、障害者への配慮
 阪神・淡路大震災の規模等
死者6,434名、行方不明者3名、負傷者43,792名、避難人数(ピーク時)316,678人。
家屋全壊104,906棟、半壊144,274棟(約46万世帯)、一部損壊390,506棟、火災被害全焼7,036棟、焼損棟数7,574、罹災世帯8,969世帯、被害総額約10兆円規模
(Wikipedia 23.6.30)
3.税理士事務所の業務

 1月17日大震災勃発、1月20日の源泉所得税の納期特例の特例納付書を倒壊した街中を歩いて届ける税理士がいた。
 期限延長の告示は1月25日、11市7町
 ライフラインの復活、約1週間、通信は復旧1部、携帯電話は一部普及していた、事務所のビジネスフォンは電気につき通電なく使用不可
 家族、関与先、知人の安否確認の全力を挙げる。
 被災を受けた税理士が被災地外の縁者を頼って地元を離れた。
 1ヶ月程度は隔日出勤、事務所半壊につき新しい事務所探し、大手企業が賃貸ビルを抑えて街中の空室は皆無
 3月9日、震災税務の被災地税理士向け研修会実施される
 被災地は、震災ルック一色、肥満者は1ヵ月で痩身に変貌
 期限延長は、翌年5月31日まで、その後は個別申請、個人は翌年3月15日まで「災害のやんだ日」は1月17日(被災当日)と公表。法人は個別延長申請で延期申請多数
 期限延長に頼らず、出来る限り前倒しで事務を遅らさないことが大切、2年分は無理、雑損控除の書類作成に時間がかかった。
 翌年5月末の法人税申告が大きな山場であった。そのころから、税理士の震災疲れが表面化
 被災者が被災者を支援する図式が定著、震災実務の特殊性と、周辺の税理士の業務は期限延長の対象外ので、近隣の税理士の援助は難しかった。今回の教訓とすべき点
4.税理士会・支部の対応(被災会員および被災者支援)

 緊急税制要望(第一次)7. 2.23大阪国税局長宛
 緊急税制要望(第二次)7. 3. 8大阪国税局長宛
 緊急税制要望(第三次)7. 4.28大阪国税局長宛
 緊急税制要望(第四次)7.10.12大阪国税局長宛
 兵庫県知事、県下市町村へ期限延長措置について7.2.8
 被災地10市11町へ「災害減免制度」のお尋ね7.12. 1
 被災地10市11町へ「雑損控除」と「災害減免制度」の選択に関する取扱いについてお尋ね8. 2. 2
 日税連会長へ法務省に「被災地の中小会社の最低資本金達成猶予期限の延長( 8. 3.31)についての要望書を提出すべき旨要望
 特別融資の斡旋(会員向け、日税連を通じて国民金融公庫に)
 仮設事務所の容認、登録変更の無料化、バッチの無料交付
 被災税理士の顧問先が被災地外の税理士に業務委嘱した場合のお願い
 近畿会は、阪神淡路大震災対策特別委員会を設置
 税理士会が被災者向け相談会「税金よろず相談」延べ1,559名、「被災納税者広域申告相談」2,488名、その他支部での申告相談を断続的に実施、官民一体の協力体制で実施したものも多かった
 税理士は、休日返上したが、税務署は全面開庁しなかったのは不満が残った
 被災地外の支部、及び本会での義援金の募集
 全国を含めて、約3億2千万円
 被災地への応援税理士の募集
 震災税務の研修会実施2月3日、8日、18日

<< 被災者支援の難しさ >>
" 被災を共有する " という困難な理念との戦い被災者の喪失感、絶望感、孤独感、被害者感情は想像を絶する深刻な状況にある
" 物心両面 " という言葉があるが、物(お金、食糧、支援技術)など、だけでは救援できない。物に心が合わされないと受け入れられない。もちろん心だけでは現実的に救われない。被災者が被災者を支援する図式からの脱却は、どうすればよいか。

今後の課題
救援活動は、現地に乗り込んで、現地事務所を設けて、地元と一緒に活動することが必要である
「阪神・淡路まちづくり支援機構」の創設(日本で初めて)への参加
支援機構の全国展開の運動に入る
一段落して、震災関連の冊子編纂
危機管理規則の創設 本会・支部に前文規定を置く。【近畿会、近畿会神戸支部の前文 参考資料】
恒常的な災害積立金会計の制度づくり
危機管理規則によるその後の各地の震災への支援活動
新潟県中越地震 新潟県中越沖地震、豊岡水害、佐用町水害、その他
5.震災税務

大阪国税局の損失時価の簡易計算は評価されている。【国税局の計算書 参考資料】
マンションの一部損壊の取扱いでブレが生じ問題化した。【新聞報道 参考資料】
還付申告の還付保留が問題化した。
雑損控除と震災減免法との選択適用の複雑性

【比較表 参考資料】
地方税法317条の3の取扱いでの市町村長の不知とバラつき【地方税法条文 参考資料】
災害関連支出の期間経過後の支出
「災害がやんだ日」は未公表、いつか、どうなるのか
「災害が始まった日」(3月11日)公表の意味、災害がやんだ日から1年以内・・・・過ぎればどうなるのか
雑損控除を適用した住宅、その後の譲渡所得の取得費の問題
【近畿会作成Q&A 参考資料】
阪神大震災ではQ&Aを出したが、東日本大震災ではまだ出ていないのでは?
生活に通常必要な資産の判断のトラブル
震災税務に絡む見解の相違による更正処分については、当局は消極的であった。
6.阪神・淡路の経験を踏まえた提言
近畿会「震災・その轍」での提言
a. 雑損控除の簡便計算をさらに画一化して法制化、通達化する
b. 繰戻し還付制度は特定の震災損失のみ認めたが、被災後の事業の悪化が顕著なので震災損失の範囲の拡大、ないし繰戻し還付の全面適用が必要である。
c. 期限延長は、関与税理士の被災による延長を法制化すべきである。
d. 期限延長は、被災地周辺の税理士の支援が必要なので、周辺地域を含めた期限延長が必要である。
e. 課税庁は、さらに詳細なパンフレットを作成し、震災税務をわかりやすく広報し、被災地での無用な混乱の回避と被災者心理に配慮すべきである。
f. 雑損控除と災害減免法(又は条例)との選択と組み合わせについて、より簡便な制度にするべきである。
g. 申告期限の延長手続きについては、遠隔地の自治体で若干混乱があったので、自治省で統一的な取扱いを早い時期に徹底するべきである。
h. 兵庫県での震災の共済制度の創設とその遡及適用による救済も考えられているが、早期に創設すべきである。
i. 税理士会の災害見舞金制度、緊急融資制度を将来に向かって、全国レベルで確立すべきである。
j. 災害時の緊急立法要請は、専門家諸団体と合同して、網羅的な要請にすべきである。
k. 税理士会は、災害時には、災害対策本部を被災地内に置き、事務局員を出向させるなどの方法で、支部機能を補完し、現場情報の早期適格な収集と災害への早期対応を行なうことが望まれる。クライシス・マネージメントの確立をすべきである。
近畿会神戸支部「激震 神戸・あれから2年」での提言
a. 純損失繰越控除期間は3年間では不十分で、最低でも5年間とすべきである。
b. 雑損失の繰越控除期間は3年間では不十分で、最低でも5年間とすべきである。同居の親族で所得のある人から控除できるようにすべきである。
c. 一部損壊(罹災証明書)判定のマンションの簡易計算で、一部のマンションに簡易計算の適用を認めなかったが、すべてのマンションに見つめるべきである。
d. 災害のやんだ日(平成7年1月17日)から1年以内の支出した災害関連支出しか雑損控除の対象にしないのではなく支出期間を延長すべきである。
e. 土地の損失のついては具体的な取扱いが規定されていないが、傾斜地、造成地の損壊もあり、税制面での明確化がされるべきである。
f. 地震保険を社会保険と同様に強制加入として、その全額を所得控除の対象にすべきである。
g. 住宅の再建について、消費税率を旧税率のまま据え置くべきである。
h. 住宅の再建について、代替取得住宅については、固定資産税の軽減期間をもっと延長すべきである。
i. 不動産取得税については、申請のあるなしにかかわらず、また期間も限定せずに軽減を認めるべきである。
j. 被災者向け優良賃貸住宅の割増償却については、取得期間(平成10年3月31日)をもっと延長すべきである。
k. 居住用財産の譲渡については、災害があった日から3年以内となっているがもっと延長するべきである。
l. 地震で損害を受けた家屋の取得費については、雑損控除の適用により損失額を時価で控除しているとき、どのように計算するのか明確にすべきである。
m. 被災企業の繰越欠損金の控除期間を5年ではなく、さらに延長するべきである。
n. 被災家屋の再建時の、消費税、固定資産税、不動産取得税について、軽減を認めるべきである。
o. 税制面だけではなく、その他の関連項目について、株式会社の役員の変更登記について何らの措置もされていない等がある。
7.今回の東日本大震災への参考事項

 家屋の損壊は被災地に於いては、一見何の損壊もないと見えても、半年後、1年後に被災箇所が露見するので、全家屋が最低一部損壊の扱いとするべきである。

 今回の家屋の損害の時価評価の簡易計算は、かなり問題があると考える。住み続けている間の維持管理費用、資本的支出が、時価の形成に絡んでいるが、考慮されていないとともに、この簡易計算は取得費の原価計算となっているので、時価評価とは言えないのではないか。別途時価の計算を検討すべきではないか。

 雑損控除を適用した家屋(住宅、ないし業務的規模の不動産所得の起因となった家屋)をその後に譲渡したときの、その取得費の計算は明示されていないので、これについて租税法上の解釈を明確にすべきである。雑損控除の計算書の長期保存の必要性がある。

 雑損控除と災害減免法の選択適用は、単に国税の範囲だけではなく、国税と住民税に亘って、その選択が認められるという複雑な構造になっているので、この取扱いに習熟する必要がある。特に今回は平成22年分への遡及的適用は、更正の請求となっているので、さらに複雑な事案が予想される。

 特に地方税法317条の3の適用については、被災自治体が不知であるケースが多く思わぬ不利益が生じるので、あらかじめ自治体の取扱いを問いただしておく必要がある。【参考資料】

 期限延長した震災税務については、出来るだけ早期に修理するように心がけるべきで、間違っても2年一度に処理しようとはしないことが肝要である。すべての関与先について2年分の同時処理は困難である。

 震災後、被災地は特殊な心情で、ある種の緊張状態を持続して被災に対応している。被災者も、支援者も、震災以後約1年後ないしは数年後に精神的・肉体的な震災疲れが必ず表面化する。健康面への十分な配慮が必要である。

 税理士会は、震災税務の支援活動に際しては、必ず現地に常設の災害対策本部を設置し事務局体制を構築して、長期にわたる被災者支援体制を組むべきである。さらに、専門家集団によるまちづくり支援機構の設立に積極的に取り組み、被災者支援・救援の効果的、万全な体制の構築に努力すべきである。

 義援金の募集については、今回の被災の巨大さを踏まえて、初動の募集だけに終わらず、1年後あたりで、もう一度さらなる募金活動を行なうべきである。
8.その他

オーム真理教・地下鉄サリン事件(3月20日)でマスコミから消えた阪神・淡路大震災被災者の状況
被災直後は " 野戦病院 " 薬品足らず、医師・看護師足らず、設備足らず
義援金
死亡・行方不明者・・・・一人10万円
家屋全半壊(焼)・・・・一世帯 10万円
県・市の援護金・見舞金(神戸市、その他格差あり)
死亡・行方不明者・・・・一人10万円
家屋全壊(焼)・・・・一世帯14万円

半壊(焼)・・・・・一世帯7万円
住宅応急修理助成、援護資金の貸付。申込期間が短く10日から5週間程度で打ち切り。貸付条件が厳しかった。(注)雲仙普賢岳の島原市1,000万円、北海道奥尻町1,100万円

関西経営者協会会長の三好俊夫・松下電工会長は、3兆円の国費による私的財産の完全補償を訴える。「国や自治体は産業基盤やビルのことしか考えていない」「見かけだけのハコがいくらできあがっても、市民一人一人の 生活が復興しないと意味がない。」、「自国の国民が困っているのに何もしてくれないというのなら、そんな政府はない方がいい。世界にばらまいておいて、国民のためには出さないというのなら日本政府は本当に無策、無能といいたい」(平成7年4月4日、日本経済新聞)

内橋克人氏は、私有財産の復活は個人の責任とする政府の原則論を厳しく批判し、多くの国で、災害に限らず個人資産の形成を国が直接助けるという勇断がなされてきたと指摘している。(平成7年3月5日、毎日新聞)

< 人格破壊をきたす避難所生活 >
避難所の多くは、小中学校の体育館であった。体育館の多くは2階以上にあり、高齢者・障害者にとって、エレベーターのない生活は危険であり困難を極めた。また、便器も不足していた。高齢者・障害者・体調を崩した病人に一般教室の使用を禁じたのに、卒業式・入学式になると一般教室への移動を迫ったが、そこで行なわれる学校行事にどれほどの教育的な意味があったのであろうか。避難所の雑魚寝の解消、テント生活の漏水解消の要望を無視、避難所での居座り防止が背景にあったといわれる。

< 被災地での高齢者の死亡者数の増加 >
障害者の姿が消えた
障害者の最後の居場所=小規模共同作業所は被災地に集中していた

< 神戸市、直後に区画整理事業を実施 >
平成7年2月15日、神戸市の臨時市議会は神戸市震災復興緊急整備条例を可決・・・・既存不適格で住宅再建不可能となる・・・・共同建替えに税制の壁

< 仮設住宅の設営地 >
仮設に入ることはくじ引きで運が良いことであった。しかし、庇がなく、入口は地面から45センチ、ユニット風呂の入口は、30センチ、住環境は極めて低劣である。仮設の集中管理と行政効率を優先させたので、郊外のはずれにある野球場か公園が多かった。日暮れになるとフェンスに囲まれそれは、まるで捕虜収容所を連想させる。

< 震災ボランティア、ボランティア団体の誕生 >
多くは地元ボランティア、外来ボランティアは延べ103万5千人
NGO、NPO、宗教団体の活躍 ボランティアの性格・・・・いわれなくてもやる、いわれてもしない
被害者を救援対象とし、ひたすら応援、支援、救援活動に徹し、結局、被災者の自律、自立、自主を阻害し、依存、甘えを助長したボランティア活動もあった。
あまりにも自己犠牲的な行動に走りすぎ、肉体的にも、精神的にも燃えつき、健康を崩した例もあった。(神戸発 阪神淡路大震災以後 酒井道雄著)
(参考)
23.3.12日税連、財務大臣・国税庁長官に申告期限の延長の要望書提出
23.3.15青森、岩手、宮城、福島、茨城の5県に国税の申告納付期限の延長措置
23.3.29日税連、自民党震災対策会議、民主党税制改正P . T等へ税制改正要望書を提出
23.4.20「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」、「東日本大震災関連種費用I(災害損失特別勘定など)に関する法人税の取扱いに係る質疑応答事例」公表
23.4.27震災特例法[略称)、同法省令等の公布、施行
23.4.28国税庁、震災特例法等の法令解釈通達、指示、情報等を公表(パンフレットも作成)
23.6.3国税庁告示。青森県、茨城県の延長期限は7月29日

(さとう・つねやす)

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