論文

特集  第47回 加賀全国研究集会 分科会テキスト
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知ることから始めよう!
電源三法って何だ!電源開発促進税って何だ!総括原価方式って何だ!
原発は本当に地域振興に役に立っているのか?
関信会 秋元 照夫

2011年3月11日に発生した東日本大震災と津波による福島第一原子力発電所の事故を目の当たりにするまで、我が国のエネルギー政策について全く無関心でした。そのエネルギー政策の根幹を為してきた電源三法交付金や電源開発促進税などについても全くの不知でした。

また、1999年9月30日茨城県東海村のJCO社のウラン加工施設内で臨界事故が起き、2名の尊い命が落とされた時でさえも原子力事故の恐怖を真剣に考えてきませんでした。もちろん、ノーモア広島・長崎などの核兵器廃絶については強い関心は持っていました。しかし、そのことと原子力発電や「もんじゅ」などの度重なる原発事故隠しについて、リンクせず真剣に考えてきませんでした。これらの事故隠しも " 大山鳴動してねずみ一匹 " のたぐいで、結局のところ旧態依然の原子力行政が行われていました。

大震災を契機とする国民的課題は、やはり、原子力発電からの脱却であると考えます。
関信会の地域には、世界最大規模の柏崎・刈羽原子力発電所があります。また、栃木県の電力の85%、群馬県の電力も79%は福島県、新潟県に頼っています。

電力と税理士業の関係は直接的にはありません。しかし、税の専門家と称しながら実際に携わっている税は、国税4法、住民税、償却資産税ぐらいでないでしょうか。
電気料金に含まれている電源開発促進税なんて全然知りませんでした。

その問題に対して関信会は、今後のエネルギー選択を行うための基礎的知識として、電源三法って何だ!その中の電源開発促進税って何だ!という税理士の視点から真正面に取り組み、電源三法交付金は、本当に電源立地の地域振興に役立っているのか?を検討します。

また、電気事業法によって守られている一般電気事業者10社(北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、四国、中国、九州、沖縄)の料金算定の生資料を経済産業省に情報公開請求中であります。この資料が全部開示されれば全10社の「総括原価」が判明します。総括原価には、役員給与などの通常経費のほかに使用済核燃料再処理費、廃棄物処理費、原子力発電施設解体費さらに法人税や事業報酬までもが含まれているのです。東京電力の損害賠償金についてもこの原価に含めてしまう可能性が出てきます。そうすると、東京電力は電気料金を通して電気利用者に負担させることが可能となってしまうのです。

総括原価方式を理解することにより、その危険性を検討したいと思います。
また、原発のない沖縄電力と東京電力など原発のある電力会社のコストを比較し、さらに公表されている各社の財務諸表と総括原価の乖離度も調査したいと考えています。
そのうえで、この電源開発促進税のあり方をどうするか。再生可能エネルギー普及の財源にするか。それとも廃止すべきか。

全国研究集会までの限られた時間でどの程度実証的なデータをもとにした調査が出来るかは正直申し上げて自信はありませんが、この問題については粘り強く取り組んで参りたいと思っております。

(あきもと・てるお)

原子力発電所設置をサポートするための電源三法交付金
関信会 土屋 信行

(1)電源三法とは

 電源開発促進税法、 電源開発促進対策特別会計法、 発電用施設周辺地域整備法 の3つをいいます。

により電力会社から税金を徴収し、 によって特別会計に繰り入れ、 にもとづいて立地する市町村等に配分するのです。
電源三法交付金はいわば、原子力発電所の立地する市町村等への迷惑料です。

 電源開発促進税
電力会社に対し、販売電気1,000kwhあたり375円が課されます。
税収は3,292億円(2009年度)になります。当然ながら、この分は電気料金に上乗せされていますので、実質的には消費者が負担していることになります(電気代の約2%になります)。

 電源開発促進対策特別会計法
の税収は「エネルギー対策特別会計電源開発促進勘定」という特別会計に組み入れられます。
2009年度決算のエネルギー対策特別会計電源開発促進勘定は、次のようになっています。
(財務省HPより抜粋、単位:百万円)

歳入合計 391,253(前年度繰越含む)
歳出合計 343,512
(歳出の内訳)
 電源立地対策費
 電源利用対策費
 独立行政法人運営費
 その他
144,798
43,867
142,757
12,087

 発電用施設周辺地域整備法

この法律にもとづいて分配がされます。
上記の「エネルギー対策特別会計電源開発促進勘定」の歳出のうち、「電源立地対策費」は電源立地の促進という本来の目的にそって支出されるものです。
しかし、「独立行政法人運営費」は独立行政法人日本原子力研究開発機構に支出され、同機構は高速増殖炉、再処理、高レベル放射性廃棄物最終処分のための技術開発をおこなっています。本来の目的とかけ離れたところに歳出の4割が投入されているという問題点があります。

原発立地市町村は135万kw の原子力発電所(新潟県・柏崎刈羽原発6号機、7号機クラス)を誘致した場合、45年間(運転開始まで10年、稼動35年)で約1,384億円の交付金が支給され、特に運転開始までの10年間には481億円の交付金が支給されます。(経済産業省資源エネルギー庁「電源立地制度の概要」)
45年間で1,384億円ですと単純計算して年に30億円余です。
原発立地市町村ではその他に、固定資産税、核燃料税、法人住民税の税収が見込まれます。

(2)電源三法のなりたち

電源三法は1974年、田中角栄内閣、中曽根通産大臣、福田大蔵大臣の時に成立しました。
1956年に茨城県東海村に日本原子力研究所、原子燃料公社の立地が決定、時の政府は原発の立地をを進めるため何らかの地域対策の必要性を感じていましたが、広島・長崎に原爆が投下されてまだ間もないこともあり、国民の反発もあってなかなか法律化できませんでした。
そんな中で石油ショック(1973年)が起こり、エネルギー問題が政治課題として急浮上したのを機に、翌年一気に成立させました。

(3)電源三法交付金の変遷

電源三法交付金はもともと迷惑料という位置づけなので、固定資産税が入るまでのつなぎ的性格として当初は運転開始までの交付となっていました。
使途は道路、学校、スポーツ文化施設といった公共施設の建設に限定されていましたので、豪華施設が次々と建設されました。(その後、その維持費が市町村財政に重くのしかかりました)

電源三法の成立した1974年には高度経済成長がピリオドを打ち、電力需要の伸び率はスローダウンしました。さらに79年にスリーマイル島、86年にチェルノブイリで惨事が起こると原発立地への風当たりが強くなり、原発建設が計画通りに進まなくなったため予算が余るようになりました。
予算が余れば減税をすればいいのですが、実際にはさきほど述べた「独立行政法人運営費」のように目的外に使用したり、立地地域の要求にこたえて交付期間を延ばす、使途を広げるということをするようになりました。

「原子力発電施設等周辺地域交付金」というのがありますが、これは原発のある市町村に住んでいる全世帯に工事着工時点から運転終了まで交付されるものです。出力により金額がかわりますが、福島原発の場合1戸あたり月700円、年間8,400円が交付されています。

(4)市町村財政にあたえる影響

日本経済新聞2011年7月3日付によれば、宮城県女川町、青森県東通村、六ヶ所村は原発関連収入(電源立地交付金と固定資産税)の歳入に占める割合が6割を超えています。
そして「交付金は発電所の完成後に大きく減り、固定資産税は資産の償却に合わせて年々減っていくため」「交付金などに依存して身の丈を超えた歳出を続け、ハコモノ施設の維持管理費に苦しむ自治体は多い」としています。
分科会では、原発立地市町村と立地していない近隣の人口同規模の市町村の財政を比較することにより、市町村財政にあたえる影響も考えていきたいと思っています。

(参考)「電源三法は廃止すべきである」清水修二(岩波書店「世界」7月号)

(土屋 信行)

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