論文

特集  第46回千葉全国研究集会
分科会テキスト
> 大嶋訴訟判決から始める判例研究(東京会)
> 会計事務所の悩み解決(東京会)
> 日本の法人税率は本当に高いのか?(大阪会)
> 税の歴史とその時々の国家の成り立ち(神戸会)
> 最強の税務調査対策(関信会)
> 給付付き税額控除と納税者番号制度を考える(埼玉会)
> 税理士法、いま何を問うべきか(千葉会)
> 公開事例研究 - 納税者の権利と課税権力のはざ間に立って
(中国会)

給付つき税額控除と納税者番号制度を考える
埼玉信越税経新人会


第1章給付つき税額控除と新自由主義(フリードマンの負の所得税)
第2章給付つき税額控除とベーシックインカム
第3章諸外国の実施例
第4章民主党の税制改革と給付つき税額控除
第5章納税者番号制度(共通番号制度)について
第6章諸外国の納税者番号制度
第7章歳入庁構想について(実施面での検討)

第1章 フリードマンの負の所得税と新自由主義

1. フリードマンの負の所得税

ミルトン・フリードマンは、1962年に「資本主義と自由」において「負の所得税」の導入を提案している。「負の所得税」制度とは、法人税を廃止したうえで、税制を単一の税率をもつ所得税一つだけとし、ある免税点を設けて、免税点以上の所得者からは単一の税率で税を取り、免税点以下の所得者には、その所得が免税点よりもどれだけ低いかということを基準にして一定の率をかけて給付する。同時に社会保障を廃止する。

人が1年間生きていくために必要な金額を300万円。600万円を基準所得とし、税率を50%とする。所得がゼロの人は、600万円×50%= 300万円受取ることになる。

税率を50%にしたのは、勤労意欲が失われるのを防ぐためである。もし、老人がアルバイトで100万円の所得がある場合は、(600万円ー100万円)× 50%= 250万円

国から受け取る金額は250万円でアルバイトで稼いだ所得が100万円で合計350万円になる。全く働かなければ300万円であったが、アルバイトをすることにより総所得が多くなる。
2. 新自由主義

(1)ケインズ主義経済学から新自由主義経済学への転換

「小さな政府」と「市場原理」を重視する政策を新自由主義と呼ぶ。ハイエクとフリードマンの経済学を背景としている。
第二次大戦後の先進資本主義国は、上にはケインズ経済政策の完全雇用、下には社会保障、間には労働者の団体交渉とストライキ権を認めるということで各種のコストが急激に増大していた。そこに1973年のオイル・ショックよって深刻な財政危機が発生した。
新自由主義経済学は、この経済危機・経済困難に対応して生まれた経済学であった。

(2)新自由主義が、なぜ80年代以降主要先進資本主義国の経済政策を指導する経済学になったのか。

(3)新自由主義のロジック

第2章 給付つき税額控除とベーシックインカム

1、はじめに

2、歴史的にみると
  • 18世紀末T スペインス・T ペインの所論に端緒を見る
  • 1795年イギリスのスピーナムズランド制が実行に移された最初の試み
  • D ミルナーの国家ボーナス構想・CH ダグラスの社会クレジット提案・J ミードの社会分配論・J ミード社会配当論
  • 1960年フリードマンの負の所得税提案
  • 1980年代にベーシックインカム(BI)という名前でヨーロッパを中心に議論がされる。
  • BIEN(ヨーロッパネットワーク)が1986年にベルギーで結成
  • 実際に「税額控除」や「給付」が政策として登場している(米・英・蘭・加、等)
3、ベーシックインカムの基本的な考え方と給付つき税額控除との違い
  • 直訳すると「基礎的所得」、「すべての個人への無条件な所得の保障」(小沢修司氏)
  • 「すべての個人が無条件に生活に必要な所得への権利を持つ」(キング牧師・山森亮)
  • 「労働と所得を切り離す」という考え方によって「労働が自由になる」と主張する。
  • 労働価値学説とは一線を画す。
4、制度・財源論について

5、なぜ、支持があるのか
  • 制度のあいまいさが原因のひとつ・・どうにでも解釈できる。
  • 左からーリーマンショック後の雇用不安・生活不安を解決する手段として支持する者
  • 右からー「無条件支給」で行政経費が掛からないと小さな政府と重なる者
  • 法人税を財源とする主張がない。
6、問題点

第3章 諸外国の実施例

給付付き税額控除とは
「給付付き税額控除」とは社会保障給付と税額控除が一体化した仕組みであり、「一定以上の勤労所得のある世帯に対して、勤労を条件に税額控除を与え、所得が低く控除しきれない場合や課税最低限以下の者に対しては還付(社会保障給付)を行う。税額控除額は所得の増加とともに増加し、一定の所得で頭打ちとなり、その後逓減、最終的には消失する」という制度である。(注 より)
1. 制度の類型

給付付き税額控除は、森信茂樹氏(注 より)によると下記の4つに大別される。

勤労税額控除
  • 目的…低所得者の勤労意欲の促進
  • 制度設計…勤労所得のある世帯に対して、勤労を条件に税額控除を与え所得が低く控除しきれない場合には給付する。
  • 導入国…アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、スウェーデン、カナダ、ニュージーランド、韓国など
児童税額控除
  • 目的・・・母子家庭の貧困対策や子育て家庭への経済支援
  • 制度設計・・・子供の数と連動して税額控除を増加させる。
  • 導入国・・・アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ニュージーランド、カナダなど
社会保険料負担軽減税額控除
  • 目的・・・低所得者層の社会保険税負担の軽減
  • 制度設計…逓減段階を持たないため労働所得があるすべての者が控除可能であるが、還付・給付は伴わない。
  • 導入国・・・オランダ
消費税逆進性対策税額控除
  • 目的・・・消費税がもつとされる逆進的な性質の緩和
  • 制度設計…家族の人員構成や所得により、基礎的生活費の消費税率分を所得税額から控除し、控除しきれない分については還付する。
  • 導入国…カナダ、シンガポール
2. 諸外国の実施例

諸外国の実施例としてそれぞれ類型の異なる4カ国の概要を挙げる。

『アメリカ』
1970年代以降に、中低所得者の社会保障税の負担の軽減や、子育て支援を目的として、勤労所得税額控除・児童税額控除が導入された。
勤労税額控除(EITC)は、勤労所得が一定額以下・社会保障番号(本人だけでなく配偶者や子の分も必要)を有する・投資所得が3100ドル以下などの要件をすべて満たしている者に与えられる。
児童税額控除(CTC)は17歳未満等の要件を満たす子の人数により与えられ、本人には上下に所得制限がある。
制度の活用方法は、確定申告時に所得税額から控除され、控除しきれない部分は給付される。
制度の複雑さや申請件数の膨大さによる過誤支給や不正支給が問題となっており、内国歳入庁の推計では勤労所得税額控除の支給額の23〜 28%は過誤・不正受給であるとされている。

『イギリス』
1999年に導入された勤労世帯税額控除を効率化し、2003年度より就労税額控除(WTC)と児童税額控除(CTC)に分離改組された。
就労税額控除は、例えば単身者の場合は25歳以上かつ最低で週30時間以上の就労などと、就労時間の要件が設定されている。
児童税額控除は16歳未満の児童を有する家族に、児童数に応じて与えられる。
制度の活用方法は、家族の構成などからWTC とCTC の該当するものを合算した最大控除額から所得に応じて控除額が減額され、算出された税額控除額は所得税との相殺ではなく、全額が給付される。

『オランダ』
2001年に、課税ベースの拡大と税率のフラット化により生ずる逆進性の緩和という理由で、所得控除から税額控除へと税制改革が行われた。
被用者税額控除は、個人の所得に応じて逓増し、アメリカやイギリスのように所得に応じて逓減することはなく、労働所得がある限り控除が可能である。
児童税額控除は、2008年に児童手当となったが、12歳未満の児童を扶養する勤労所得者や自営業者に与えられる。
オランダでは所得税とともに約31%と高率な社会保障税が一括徴収されるため、所得税からだけでなく社会保障税からも控除されるが、給付は行われない。

『カナダ』
1988年に所得控除の逆進的効果に対する批判から、所得控除から税額控除に変更され、児童税額控除はその後、児童手当に移行している。
カナダでは、消費税率の引き上げによる逆進性の緩和策として、消費税控除制度(GSTクレジット)が導入されている。概要は、家計調査から計算した基礎的生活費の消費税率分を所得税額から控除し、控除しきれない分については給付する制度である。GST クレジットの額は家族の人員構成と所得によって決まり、原則としては19歳以上の者が申請できる。
(参考文献)
「諸外国の給付付き税額控除の概要(執筆者:鎌倉治子)」
  『調査と情報-ISSUEBRIEF-』678号2010.4.22
 森信茂樹「給付付き税額控除」中央経済社 2008年

第4章 民主党の税制改革と給付つき税額控除

(1)最近の「給付付き税額控除」検討の経過
2009年10月 鳩山首相の税制調査会への諮問
「格差是正や消費税の逆進性対策の観点から、給付付き税額控除のあり方について検討すること」
2009年12月 平成22年税制改正大綱
「個人所得課税」見直しの課題として、給付付き税額控除の導入をうたっている。消費税について給付付き税額控除の仕組みの中で、逆進性対策を行うことを検討するとしている。また、導入する場合には番号制度を前提に、関連する社会保障制度の見直しと併せて検討を進めますとしている。

(2)平成22年度税制改正大綱の要旨・「所得控除から税額控除へ」の問題点とごまかし
「大綱」で述べられている点について、その問題点を見ていきます。

所得控除が高所得者に有利な制度」と言いますが、所得控除は超過累進課税制度の一部であり、制度の一部だけを取り出して、有利・不利の判断はできません。所得控除を適用した超過累進課税制度は、高所得者には高い負担が、低所得者には低い負担が実施されています。(応能負担)

所得控除のうち人的控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除)は、憲法25条で規定する最低生活費非課税の原則を保障するために設けられているものであり、これを廃止または税額控除へ振り替えることは許されません。むしろ人的控除は生活扶助基準まで引き上げられなければなりません。

「手当は相対的に支援の必要な人に実質的に有利な支援を行うことができます」と言うが、配偶者控除や扶養控除を適用している人と、支援の必要な人が必ずしも一致しません。所得控除と税額控除又は手当がリンクしていません。従ってその場合は、配偶者控除や扶養控除を適用していた人は増税になります。手当ての財源が庶民増税になります。子ども手当の導入にあたり、扶養控除の廃止は2000万人の扶養親族に影響しました。このうち1500万人は子ども手当の対象となる年齢層だが、残りの500万人は手当なしで、一方的な増税になると問題になりました。

「大綱」では、所得再分配機能を高めていく観点から、配偶者控除の廃止や給与所得控除の圧縮が述べられており、これが給付つき税額控除の財源とされる恐れがあります。

給付つき税額控除は「給付とほぼ同じ効果を有する税額控除を基本とすることから手当と同様に相対的に低所得者に有利な制度」と言いますが、通常、給付つき税額控除の対象者は、ワーキングプアーなど貧困層に限られ、所得控除の適用を受けている庶民層の大部分は、配偶者控除、扶養控除の廃止、給与所得控除の圧縮のみの増税となります。

*給付つき税額控除の始まりであるアメリカでは、勤労所得14,730$(147万円)まで4,204$(42万円)の税額控除、それ以上の所得の約30,000$(300万円)まで逓減して税額控除がある。下の図を参照してください。出典は平成19年度経済財政白書。
(図
100806a.gif
消費税の逆進性対策としての給付つき税額控除は、対象者は所得控除を適用している人、誰でもではなく、一定の貧困層の人に限られます。この場合の財源は消費税率のアップになります。

元静岡大学教授の湖東京至税理士の試算によれば、所得200万円以下2000万人、申告不要(世帯主)500万人、合計2500万人を対象とした場合、消費支出を年平均120万円(月に10万円)とすると、消費税相当額は、税率10%で12万円となります。これを2500万人に支給すると、3兆円になります。つまり10%の消費税の場合、3兆円、消費税にして1%強の税率アップが必要になります。(「福祉とぜいきん2010」第22号より)

*カナダのGST 控除では、世帯収入277万円までが約6.5万円の給付。世帯収入約407万円までは逓減して給付となっています。下の図を参照してください。
100806b.gif
以上明らかのように、「給付つき税額控除」の導入は、所得再分配機能の回復と言いながら、所得税の最高税率の引き上げはなく、証券優遇税制も延長されたままで、所得税増税、消費税増税への道を開くものと言えよう。

第5章 納税者番号制度(共通番号制度)について

< 最近の動き >

< 共通番号制度とは >

(1)意義
税務面における番号制度として財務省は次のようにまとめている
納税者に悉皆的に番号を付与し
各種取引に際して、納税者が取引の相手方に番号を「告知」すること
取引の相手方が税務当局に提出する資料情報(法定調書)及び納税者が税務当局に提出する納税申告書に番号を「記載」することを義務付ける仕組みである。
これにより、税務当局が、納税申告書の情報と、取引の相手方から提出される資料情報を、その番号をキーとして集中的に名寄せ・突合できるようになり、納税者の所得情報をより的確に把握することが可能となる。

(2)目的
古川元国家戦略室長(現内閣官房副長官)の検討会の挨拶より
  • 国民の目線で、権利として社会保障をきちんと受けられるような番号のあり方について検討している。
  • 手助けが必要な人に対する社会保障を充実させ、社会保障制度を効率化すると同時に、所得税などの税が公平に正しく納められるようにするためには、社会保障と税制を通じた一体的な番号制度を導入する事が必要。
平成22年税制改正大綱より・・省略・・

(3)平成22年6月29日中間取りまとめ・・
省略・・

(4)スケジュール
  • 2010年 政府内で共通番号制度の導入に結論
  • 2011年 関連法案を国会に提出、成立
  • 2012年 システム整備など政府や地方自治体の準備作業
  • 2013年 国民に共通番号を配布
  • 2014年 運用開始

< 共通番号制度の課題 >

(1)負担の公平性確保について - 略 -
(2)共通番号の歴史とプライバシー保護について
共通番号の必要性を政府は今まで繰り返し訴えてきた。共通番号という言い方を以前はしておらず納税者番号という言い方で税務当局の利便性、所得税の公正性を中心に議論をしてきた。

郵便貯金など当時マル優と称された非課税貯蓄における仮名口座などの防止のために小額貯蓄利用カード(グリーンカード)制度が昭和55年3月末に可決・成立した。しかし、国民の猛反発にあい実施前の昭和60年3月には廃案となりました。

その後も昭和63年3月に「納税者番号等小委員会」を設置し、番号制度の必要性を訴えてきました。しかし、その中での議論はあくまでも税務における番号なので税務行政の効率化や不公平税制の是正を導入の目的としていました。しかし、ここにきて社会保障も含めた共通番号という事で国民の利便性や社会保障の充実を目的の全面に押し出してきました。そして今回の中間報告を見るとあたかも共通番号を導入しないと社会保障が出来ないと言わんばかりの脅しのようにもとれる報告ではないでしょうか。

国民にはやはり個人情報の流出やプライバシー侵害に対する不安が大きいのではないでしょうか。住基ネットでさえ情報流出の危険性を考え参加していない自治体があります。住基ネットの情報に比べ共通番号で得られる情報は莫大なものになります。政府は第三者機関の設置・ICカード導入・目的外利用の罰則強化・情報の分散管理といった対策を打ち出していますがこれで十分なのでしょうか。いくらこの様な対策を出しても不安は拭い去れません。

全ての情報を国に管理されるという事は、やり方次第では政府はあらゆる情報を入手することも可能となり、やり方次第ではそれを使って国民を監視したり、操作することも可能となるのではないでしょうか。悪い事をしてないから、しないから別にいいのではないかという意見もありますが、する・しないの問題ではなく政府が国民全ての情報を手に入れ管理していく社会になる事の危険性を感じます。

第6章 諸外国の納税者番号制度

納税者番号制とは
1 納税者番号制の3類型

納税者番号制の導入されている国では、国民に番号を付番し各省庁のデーターベースに連携させている。そのシステムは次の3類型となる。
フラットシステム(国有型)
セパレートシステム(分離型)
セクトラルシステム(ひも付き型)

2 付番制度からの類型
住民登録番号
社会保障番号
限定型(税務ベース)
身分保障)

3 納税者番号制度を導入している国の状況
民主党政権は、税、社会保障の共通番号としてはスウェーデン型を導入する心積もりと聞く。お隣の韓国とスウェーデンの状況を検討してみたい。

韓国の場合
お隣の国韓国の納税者番号制は、3類型からはフラットシステムである。韓国の特徴としては隣国の北朝鮮との関係から、徴兵制が引かれ実質的には、戦時体制下にあるため国民背番号制が導入されている点である。1968年より生涯不変の固有の住民登録番号制度を導入し、同時に住民登録番号証の交付を開始している。出生時に13桁の住民登録番号を基礎として付番し、住民登録番号証は対象を17歳以上と限定している。

適用範囲は税務のみならず、社会保障・住民登録・選挙・兵役・諸統計・教育等と広範囲に及んでいる。IMFショック以降、ほぼ全ての商取引時に番号の提示が必要となりその情報の全てが国税庁に申告されている。また、銀行の口座開設、ビデオのレンタル、ゲームサイトの申し込み、携帯電話の契約と民間利用も比較的緩やかでその利用は多岐にわたっている。そのため、何度も情報漏洩事故が起きており、それに対応する形で法規制が強化されている。

また、現金取引の場合は番号の提示を要件としているため、この番号がないと生活が出来ないところまで浸透しているとの報告もある。

スウェーデンの場合
スウェーデンもフラットシステムの番号制である。韓国と同様に出生時に個人番号とIDカードを発行されるが番号の発行主体は国税庁で手続きは最寄の税務署が管轄する。カードは電子証明機能を持つ身分証明書として機能している。また、適用範囲も韓国と同様に税務のみならず、社会保障・住民登録・選挙・兵役・諸統計・教育等と広範囲に及んでいる。国税庁の体制としては税、社会保険料を一括して徴収する体制を確立し、住民登録データーベースと所得税情報が蓄積される課税情報データーベースを保有している。そのため、確定申告書類は、個人番号を利用して収集した情報が予め記載されて送付される。国民は内容を確認し、誤りが無ければ署名して返送するのみで確定申告は完了する。民間利用も国税庁のSPARを通じて名簿(住所・姓名情報)の提供を行っている。転居時の住所変更手続きもWEB上で一度行うだけで民間機関(銀行・宅配業者等)も含め、必要な機関全ての住所情報が変更される。

このような制度を特に申請しなくても官民双方から必要な情報が必要なタイミングで届く合理的で便利なシステムと思う国民も少なくないかもしれない。しかし、この制度は納税者番号制とは異なる国民背番号制である。民主党が導入を検討しているものは国民背番号制となる可能性が高い。韓国・スウェーデンと日本の国情は異なっている。韓国は実質的に戦時下であり、スウェーデンは国民が国税庁に対する信頼が厚い。

しかし、日本は戦時下でもなければ、国税庁に対する国民の信頼は厚くない。その国により行政番号のあり方は異なっているはずである。そこまで管理されたくない、大事な自分の個人情報を国家管理して欲しくないと思う国民は多いであろう。どのような個人情報の保護をする法律が必要か、法律があっても運用次第で個人情報を保護できないから、最初から共通番号制は反対するか。国民もこの制度を知り国民的な論議をする必要がある。今、声を上げなければ残された時間は少ない。

参考
志賀 櫻「共通番号制」
社会保障からみた番号制度への期待
(株)野村総合研究所 安田純子

第7章 歳入庁構想について(実施面での検討)

民主党の構想として、二つの給付つき税額控除と、実施の前提として納税者番号制度の導入、歳入庁の設置を掲げている。

所得税に連動する給付つき税額控除
・給付対象単位 → 世帯単位
・給付額の算定基準 → 世帯(主)の年間所得

消費税に連動する給付つき税額控除
・給付対象単位 → 世帯単位
・給付額の算定基準 → 年間標準生活費と世帯の年間所得の差額
民主党が描くこのような給付つき税額控除について、実施面から問題点を探ります。

1 世帯構成・世帯所得の把握問題

給付にあたっては、世帯構成と世帯所得がベースになるであろう。
国税庁は納税者の世帯構成も世帯所得も把握していない。
地方自治体はほぼ全世帯の構成を把握している。ただし、国税庁と同様その世帯の稼得収入は把握できない。
生活保護世帯とその所得状況は把握しているであろうが、申請主義のもとでは欠落が避けられない。
源泉徴収義務者は、支払い給与に限定され、構成員も受給者の申請によるため、対応作業に確実性がない。
年金機構は、未加入があるなかで、全世帯に対応できる状況にない。

2 給付の手順・要件

1で見たように、給付ベースの情報は把握されていないので、所得税型・消費税型とも給付つき税額控除を受けるためには、世帯構成と世帯所得を記述した申請方式にならざるを得ない。
また、受給者の毎年の世帯構成と所得報告を要件とせざるを得ない。

3 申請方式と対応機関

給付対象者の年収線引き水準をいくらに設定するのかによるが、税務申告不要者が新たな申請者・対象者として出現することになる。納付税額内の精算なら年調時や申告時の精算で済み事務量の増加はないかもしれないが、必然的に現金給付が発生する制度であり、事務量の増加は避けられない。

2008年調査で、給与所得者の所得階層は年収200万円以下で1,060万人、300万円以下なら1,820万人となっている。全体では、年収200万円以下の人数は2,000万人といわれている。
どこがその機関となりうるのか。
世帯構成を曲がりなりにも把握し、住民に身近な地方自治体を申請窓口・給付機関とすることは、現行子供手当や過去のバラマキ業務を見ても可能か。

国税庁でも対応できるであろうが、新たな申告・申請者の出現と還付事務は現行税務行政を確実に圧迫する。行政水準を維持しようとするなら、年金機構や地方自治体を取り込む歳入庁として相当数の人員を置かざるを得ない。行政経費の削減は期待できそうもない
(現在、国税庁6万人、地方税関係職員7万人、年金機構1万人で単純合計は14万人)。

イギリスでは導入時、会社にこの業務を振っており、日本でも年調制度があるため受け入れ要素はあるが、事務量負担や確実性に問題が残る。
不正受給等に対する対策(調査や支給停止)は自治体か、国税庁か。調査体系が現行のままなら両方でやることになり、支給停止等の措置は支給分担窓口が担わざるを得ない。いずれにせよ、事務量の増加は避けられない。
年金機構単独では、この制度の実施担当部署になりえない。

4 納税者番号制度の問題

申請方式にならざるを得ないので、納税者番号がなくとも給付つき税額控除を実施できる。
不正受給の防止策として、正確な世帯構成と世帯所得を把握しようというのなら、国民背番号制度を導入せざるをえない。
きわめて濃密な情報を把握することなしには、給付対象者と給付額を正確にはじきだし、また不正受給を阻止できない。

5 まとめ

結論として、実施するとすれば担当部署は地方自治体がふさわしい。ただし、大幅な増員、行政経費の手当てが必要であろう。また、国税との連携をより密とせざるをえず、行政水準の維持には大きな負担が生じる。年金機構との関連は基本的に不要だが、税と社会保障の一体制度という別次元の制度が設計された場合は絡みがでる。
番号制度の導入も歳入庁の設置も不要である。両者とも支配側にとっては国民管理の有効かつ強力なシステムである。実施の前提として打ち出してくる納税者番号制度導入、歳入庁設置にのせられてはいけない。

▲上に戻る