論文


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト(2005.7.8合併号)
会計参与制度を検証する 実録「今津事件」
滞納処分 NPO法人の税務・会計
所得税法第56条を斬る 民法と税法の接点
10年後の税理士業務 岐路に立つ社会福祉法人経営


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト
岐路に立つ社会福祉法人経営
〜福祉切捨ての時代に私たちに出来ること〜
税経新人会全国協議会社会福祉法人チーム
埼玉会 河崎陽子・松本重也・持田晶子
名古屋会 富田偉津男
神戸会 由岐透
九州会 山本友晴


(始めに)
今年の社会福祉法人は、埼玉会だけでなく全国の社会福祉法人に関わっている会員さんと一緒に、分科会を作ります。社会福祉をめぐる状況はこの一年で大きく変化しました。児童福祉の分野では、国からのお金の流れが大きく変わり、補助金が交付金に変わりその交付金もハード交付金・ソフト交付金と二本立てとなりました。またポイント制の導入、299号通知のより弾力的運用と業務を行う上でも、大きな「改正」がありました。

障害者をめぐる状況では、今国会で論議されている「障害者自立支援法」の問題があります。昨年に提案された「グランドデザイン」を具体化したものですが、障害者福祉の分野に、応益負担の思想を導入したもので国の財政難を原因としたものです。老人福祉の分野も、障害者と同様に、国の財政難を原因に介護保険法の改正が国会で問題になっています。

これらの状況の中、良心的な社会福祉法人は経営難に陥っています。毎年、減額される補助金、良心的に対応しようとすればするほど嵩む人件費、私たちの関与する社会福祉法人は、最大の危機を迎えています。

今年は、社会福祉法人をめぐる状況を分析しつつ、消費税の申告事例、経営を改善した施設の事例、社会福祉法人の経営計画の作成の仕方をどう考えるか、もちろん昨年行った経営分析も行います。今、新人会は良心的に福祉施設運営を行っている団体からも期待されています。「きょうされん」からも協力依頼が来ています。私たちが学習して、まわりの福祉団体からの期待に答えられる新人会へと、なっていく必要があります。

(目次)
福祉をめぐる状況
1 児童福祉をめぐる状況保育園をめぐる状況
2 障害者福祉をめぐる状況障害者自立支援法について
3 老人福祉をめぐる状況介護保険法「改正」
4 社会福祉法人関与の実務
以下、当日の資料集で報告
消費税申告事例原則課税の申告の仕方
課税庁の見解と私たちの見解
簡易課税の実務授産事業の業種区分
無認可保育園の消費税の非課税措置の内容
何故、授産施設は課税されるようになったか
決算書の説明の仕方理事会でどう説明するか
社会福祉法人の決算報告会の進め方
決算推移表の利用の仕方
行政通知の読み方299号通知の解読
経営分析の利用の仕方分析の観点
社会福祉法人の経営をどう考えるか経営計画の作成
こうして経営を改善した!施設の事例

福祉をめぐる状況
1児童福祉をめぐる状況
保育園をめぐる状況

1補助金が交付金へ変更
保育対策関係予算は三位一体改革により一部の補助金が一般財源化されたことにより、前年比42億円の減となりました。また、厚生労働省は次世代育成支援対策交付金(案)として従来の補助金から交付金へと変更する旨を発表しました。05年度予算から、国の補助金が交付金へと変更になりました。いままでの補助金は1事業ごとに予算がつくものでしたが、今後の交付金は、次世代育成支援対策交付金(ハード、ソフト)となり地方公共団体の法定負担がなくなる交付金となります。交付金は交付された額の範囲内で毎年度の事業計画に定め、いずれの事業に充てるかは自由とされており、地方自治体の裁量が大きい仕組みになっています。
2ポイント制の導入
交付金の中身としては、施設整備のための補助金はハード交付金に従来の延長保育等の18の事業の補助金がソフト交付金になりました。国は事業計画を評価(ポイント制で事業計画をポイント化)交付金の配分もポイントによって按分します。(資料集にポイント一覧掲載ただし1ポイントいくらかは未定)
3総合施設モデル事業の推進
幼稚園と保育園の機能を併せ持つ施設の新たな取り組みが4月から動き出しました。政府は、大都市を中心に保育園に入れない待機児童が2万4千人にも上る一方、幼稚園は定員割れも目立つことを理由に、両者の垣根をなくすことで施設を効率的に利用し、少子化対策にいかす狙いで幼保一体施設のモデル事業を推進している。しかし、財政措置の議論は手付かずのままで進んでいる様子です。また規制緩和による施設の質の低下を懸念する声も大きいようです。
4保育所運営費の弾力的運用
改正のポイントは
積立金の使途範囲の拡大―保育所施設・設備積立金の使途として、土地の取得に要する経費を認める。
前期末支払資金残高の使途範囲の拡大―新たに次の使途を認める。 
ア その保育所を設置する法人本部の運営に係る経費
イ その保育所の設置者が運営する社会福祉事業の運営に要する経費
ウ その保育所の設置者が運営する規模の小さい公益事業の運営に要する経費
(前期末支払資金残高の10%以内)当期末支払資金残高は年間運営費収入の30%以下とする。
の2点です。

2障害者福祉をめぐる状況
障害者自立支援法について

はじめに
介護保険制度が平成12年4月からはじまり、スタート時の要介護認定者は約218万人であったのが、現在約367万人。団塊の世代が高齢化していくと介護保険財政の破綻は目に見えていると言われている。一方税財源で運営されている障害者の支援費制度は平成15年4月から始まった。初年度からホームヘルプサービス、ガイドヘルプサービス等障害者が地域生活をするうえで必要なサービスの利用者が急増し、250億円以上が不足する事態になっている。この原因は厚労省が障害者のニーズを十分に把握しないで予算計上したためである。

社会保障審議会(厚労省の諮問機関)障害者部会は平成16年6月25日平成17年の介護保険制度の見直しで焦点となっている障害者向け支援費制度の統合について「現実的な選択肢」とする中間報告書案を公表した。(日経新聞6.25.04)厚労省は両制度を統合した場合、介護保険料を徴収する年齢を現行の40歳以上から「20歳以上」に広げたうえ、20歳から必要と認めたサービスが受けられるようにする方針を打ち出した。

これに対して身体障害者団体からは統合による負担増への警戒感が強く反対を表明している。知的障害者団体の全日本手をつなぐ育成会は「両制度とも自己決定を尊重する理念に基づいている。急増する障害者のサービス需要に対し、安定した財源を保障するためには統合は必然」と発表している。日本経団連は統合に反対の立場を示した。保険料は雇用主と社員が折半して負担するため、経済界にはこれ以上負担が増えることへの反発が根強い。

一方連合は5.20に発表した「介護保険制度の見直しに向けて」の中で「介護ニーズを社会全体で支え、あらゆる人の社会参加を保障するという、社会連帯に基づいた改革でなければならない」として統合に賛成している。(毎日新聞6.26.04)

このように障害者団体の中でも身体障害者団体と知的障害者団体の意見がわかれ、経済界、労働組合それぞれの立場から賛成、反対の意見が表明されている。

厚労省主導で統合の方向で議論されたが平成16年12月結論見送りの決定がされた。

これを見越したかのように平成16年10月12日に厚生労働省障害保健福祉部から「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」が発表され、今国会に「障害者自立支援法案」を上程した。可決される見通しである。
この法案の概要は次のとおりである。

I改革の基本的な視点
(1) 障害保健福祉政策の統合
年齢、障害種別、疾病を超えた一元的な整備を行い、地域福祉を実現する
「年齢、障害種別、疾病を超えた一元的な整備」⇒「障害者自立支援法」
(2) 自立支援システムへの転換
「保護等を中心とした仕組み」⇒「障害者のニーズと適正に応じた自立支援」
障害者による「自己実現・社会貢献」を図る
(3) 制度の持続可能性の確保
「給付の重点化・公平化」、「制度の効率化・透明化」等を図る抜本的な見直し
II基本的な方向
1 現行制度の課題の解決
(1) 市町を中心とするサービス提供体制の確立
(2) 効果的・効率的なサービス利用の促進
障害者相談支援体制の確立とケアマネジメント制度の導入
利用決定プロセスの透明化
・障害程度に係る各サービス共通の尺度とサービスモデルの明確化
(3) 公平な費用負担と配分確保
福祉サービスに係る応益負担の導入
地域生活と均衡のとれた入所施設の負担の見直し
2 新たな障害保健福祉施策体系を構築
(1) 障害保健福祉サービス体系の再編
総合的な自立支援システムの構築
障害者の施設、事業体系や設置者、事業者用件の見直し
権利擁護の推進とサービスの質の向上
新たなサービス体系に適合した報酬体系の導入
(2) ライフステージに応じたサービス提供
雇用施策と連携のとれたプログラムに基づく就労支援の実施
極めて重度の障害者に対するサービスの確保
障害児施設、事業のサービス体系の見直し
III障害者自立支援法案の問題点
身体、知的、精神3障害の一体化
障害者支援費制度では対象外だった精神障害を含め、身体、知的、精神3障害のサービスを一体化する
負担
所得に応じた応能負担から、サービスの利用量に応じた応益(定率)負担(原則1割)に変更。所得に応じた負担上限がある。施設利用者は食費、水道光熱費部屋代などを自己負担にする。利用者負担の負担義務者を「生計を一にする家族」にまで負わせる
利用手続き
相談支援事業者による面接調査やサービス利用計画作りを制度化。市町ごとに審査会を作り、サービス利用について専門家の意見を聞く
新サービス
重度の知的・精神障害者など危険回避が難しい人に対する「行動支援」サービス。重い身体障害者や強度の行動障害がある知的障害者らに複数のサービスを一体的に提供する「包括支援」サービス
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