1. はじめに |
1995年1月17日、午前5時46分に発生した阪神・淡路大震災は多くの犠牲者と甚大な損害をもたらした。そして、その災害復旧や生活支援の救援活動に多くのボランティアが参加し、その数は150万人以上とも言われている。
ボランティアに対する市民の意識が変革し、「ボランティア元年」という言葉が生まれた。これを機に1998年10月に特定非営利活動促進法(NPO法)が成立し、2000年には社会福祉事業法の改正があり、同時に介護保険制度が導入された。そして、日本税理士会連合会は2004年4月に公益的支援活動の一環としてNPO法人の支援策を発表した。そこに掲げられた方針は 税理士に対するNPO法人制度の周知、税理士会相談窓口の整備、税務・会計アドバイザー名簿の設置、である。私たちは「NPO法人の税務・会計」の研究を通じて会計処理や法人税・消費税申告の特殊性を明らかにし、NPO法人支援を考える第一歩としたい。 |
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2. NPOとNGO |
団体によっては「われわれはNPOであって、NGOではない」というところがある。「われわれはノン・プロフィット(NP)ではあるが、政府に反対するという印象があるノン・ガバメント(NG)ではない」ということが彼らの言い分だ。NGOという言葉が日本のマスコミに登場するようになったのは、1980年代初頭のインドシナ難民救済に立ち上がった人たちの行動が報道されるようになった頃からである。
NGO(Non Governmental Organization)の名称は、由来がたまたま国連の場において政府代表ではない、市民の代表という意味から「ノン・ガバメント」となっただけで、NGOが政府にたてつく市民団体の名称ではない。
NGOは、国際連合憲章第71条において「経済社会理事会は、その権限内にある事項に関係のある民間団体と協議するために、適当な取決めを行うことができる。この取決めは、国際団体との間に、また、適当な場合には、関係のある国際連合加盟国と協議した後に国内団体との間に行うことができる」としてその活動は、飢餓救済、環境汚染、地域の国際的な平和活動や人道活動などの分野で、国連または政府と連携して主として国際地域に貢献する団体である。その意味でNPO活動とあまり変わらず、NGOは広義のNPOに含まれるが、主として国際協力活動を行う団体といえる。
これに対して、NPO(Non Profit Organization)という言葉が一般的になったのは、NPO法(特定非営利活動促進法)の成立に向けて活発な運動が行われるようになった1994年ごろからである。
ちなみにNPOという用語は、主にアメリカで優遇税制の対象団体として使われることが多く、アメリカ以外では馴染がない。国際社会においてはNGOの方が通りがよく、また、NPO・NGOを総称する言葉としてCSO(Civil Society Organization)という言葉が使われることが多い。
わが国において、広義のNPOには、民法第34条法人(財団法人・社団法人)、社会福祉法人、医療法人、学校法人、宗教法人等の公益法人や、中間法人、生活協同組合、自治会や新人会のような共益団体も含まれる。共益という言葉はなじみが薄いが、不特定多数の利益や福祉の増進が公益であり、構成員に限定した相互扶助が共益である。最も狭義にはNPO法に基づいて認証を受けたいわゆるNPO法人のことを指すが、通常は法人格を持たない市民活動団体まで含めてNPOという。ただし、この場合、共益団体や既存の公益団体は含めない。
NPO法が施行されて7年を迎えようとしている今、NPO法人数は2万社を超え、新聞等で毎日、NPOの文字を見ない日はない(事業規模等については資料参照)。さらに、地方公共団体が条例によって設置している「公の施設」は、従来、直接管理または外郭団体等に委託して運営されていたが、平成15年9月から施行された指定管理者制度によってNPO法人やボランティア団体等の民間事業者が公の施設を管理することが可能となった(平成18年9月1日までに完全移行)。これにより、NPO法人の事業規模や法人数の増加が予想される。 |
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3. NPOとボランティア |
もうひとつの言葉の分類が難しいのは、阪神・淡路大震災などを機に一気に盛り上がったボランティア活動とNPO・NGO活動との関係である。この点については「専門家集団を核にした市民活動」と「それを専門に生活している人ではない人たちの市民社会における活動」という区分けが一般的である。同一の目的を持った市民によって形成されるシビルソサエティが広くボランティアを生みだし、ボランティアがNPO・NGOの活動を支えるという構図になる。
ボランティアとは「志願者」「自発的な」「進んでやる」という意味。そこから見返りを期待しないという「無償で」ということが連想される。ボランティアは金銭的な意味合いでは無償かもしれないが、自分の社会的なミッション(使命)を認識し、その実現のために行動しているという満足感や達成感、過程で得る人とのつながりや経験はその人の財産となるものである。ボランティアとして参加している場合には、参加者は自分の生活スタイルに合わなくなれば活動を中止することができる。その活動を継続させていこうというときに組織が誕生する。
したがってボランティアは個人の行動についての言葉で、NPOは組織の様態をいう言葉である。NPOでは個々人の思いが団体のミッションとなってスタートし、社会に継続的に安定したサービスを提供したり、提言することによって社会を変えていくことを目的に活動するため組織が安定しなければならない。そのためには、一般の企業と同様、事業計画・資金計画を策定し、長期的に組織の存続を図らなければならず、「仕事」として処理すべき事務的な作業も生じる。NPOを組織として運営し活動を広げていくためにはボランティアスタッフに加え、有給のスタッフが必要となる。そして、人件費や運営費を捻出するために事業・資金計画が必要となる。 |
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4. 特定非営利活動促進法の趣旨 |
特定非営利活動促進法(以下法という)は、特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により、ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的として、1998年3月に制定され、同年12月1日に施行された。
法人格を取得することにより、契約などの法律行為の主体となり、法人名義で資産の保有等の財産管理ができることになるが、一方、法人としての社会的責任や法律上の義務を負うことになる。さらに、情報公開を通じて市民の信頼を得て、市民によって育てられるべきであることがこの法の大きな特徴である。
なお、特定非営利活動の一層の発展を図るため、特定非営利活動の種類の追加、設立の認証の申請手続きの簡素化、暴力団を排除するための措置の強化などの改正法が、2003年5月1日に施行された。 |
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5. 法人設立の要件
【活動目的に関すること】 |
(1)特定非営利活動を行うことを主たる目的 とすること(法第2条第2項)
特定非営利活動とは、次の17項目に該当する活動であって、かつ、不特定かつ多数の利益の増進に寄与することを目的とする活動である。
不特定かつ多数の利益とは、社会全体の利益を意味し、特定の個人や団体の利益を目的とするものでないことはもとより、構成員相互の利益(共益)を目的とする活動ではないことをいう。いわゆる「公益」という法律用語と同義のものである。 |
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(2)営利を目的としないこと(法第2条第2項第1号)
活動により得た収益を構成員に分配することはできない。次年度の活動のために繰り越すことになる。また、財産を構成員に還元することはできず、法人を解散する際の残余財産の帰属先は、国、地方公共団体又は定款で定める特定非営利活動法人・公益法人などに限定されている。なお、法人は、特定非営利活動に係る事業に支障がない限り、特定非営利活動以外の事業(以下「その他の事業」という)を行うことができる。その他の事業で収益を生じた場合は、その収益を特定非営利活動事業のために使用しなければならない。また、その他の事業に関する会計を特定非営利活動に係る会計から区分しなければならない。 |
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(3)宗教活動を主たる目的としないこと(法第2条第2項第2号イ)
「宗教活動」とは、宗教の教義を広め、儀式行事を行い、又は信者を教化育成することをいう。 |
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(4)政治上の主義の推進・支持・反対を目的としないこと(法第2条第2項第2号ロ)
「政治上の主義」とは、政治によって実現しようとする基本的、恒常的、一般的な原理や原則のことをいう。 |
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(5)特定の公職の候補者、公職者又は政党の薦・支持・反対をしないこと(法第2条第2項第2号ハ)
「特定の公職」とは、衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の議会の議員及び首長の職をいう。 |
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6. 設立の手続 |
法人を設立するためには、法に定められた書類を添付した申請書を、所轄庁に提出し、設立の認証を受けることが必要である。提出された書類の一部は、受理した日から2ヶ月間、公衆の縦覧されることとなる。(法第10条第1項、第2項)
所轄庁は、申請書の受理後4ヶ月以内に認証又は不認証の決定を行う。設立の認証後、登記をすることによって、法人として成立することになる。(法第12条第2項) |
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設立認証申請に必要な書類(*印は、縦覧書類) |
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設立認証申請書 |
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定款* |
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役員名簿(役員の氏名及び住所又は居所並びに各役員について報酬の有無を記載した名簿)* |
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役員の就任承諾書及び誓約書のコピー |
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役員の住所又は居所を証する書面 |
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社員のうち10人以上の者の氏名及び住所又は居所を記載した書面 |
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確認書(上記を確認したことを示す書面) |
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設立趣意書* |
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設立についての意思決定を証する議事録のコピー |
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設立当初の事業年度及び翌事業年度の事業計画書* |
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設立当初の事業年度及び翌事業年度の収支予算書* |
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■ 所轄庁とは(法第9条)
法人の所轄庁は、その団体の事務所の所在地による。兵庫県のみに事務所を設置する団体は、活動場所が兵庫県外や海外であっても、兵庫県知事に設立認証申請を行うことになる。2つ以上の都道府県に事務所を設置する団体については、内閣総理大臣が所轄庁となる。なお、事務所とは、法人の事業活動の中心である一定の場所をいい、一般的には、責任者が所在し継続的に業務が行われる場所をいう。法では、主たる事務所において、事業報告書等を備え置き、閲覧に供することを義務づけている。 |
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7. 認定NPO法人制度 |
「認定NPO法人」とは、NPO法人のうち一定の要件を満たすものとして国税庁長官の認定を受けたものをいうが、この認定NPO法人については、税制上の優遇措置が講じられている。
平成13年度税制改正で創設された制度であるが、以後その認定要件が緩和されると共に、平成15年度税制改正では収益事業の課税所得から20%の控除を可能とする「みなし寄付金制度」が認められた。
<平成15年度税制改正による認定要件の緩和措置> |
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総収入金額等のうちに占める受入寄付金総額の割合の要件(「バプリックサポートテスト」という) |
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総額の割合3分の1→5分の1(平成15年4月1日〜平成18年3月31日の間) |
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一者当たり基準限度超過額として計算に含めない金額2%→5% |
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同一者から少額寄付金で計算に含めない金額3000円→1000円 |
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国・地方公共団体及びわが国が加盟している国際機関からの委託事業費並びにわが国が加盟している国際機関からの補助金の額を総収入金額に含めない。 |
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特定非営利活動が複数の市町村で行われていること等の活動等の範囲に関する要件を削除する。 |
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海外への送金又は金銭の持ち出しについて、国税庁への事前の届出が必要な範囲は200万円を超える場合とされ、200万円以下の海外送金等については、事業年度終了後報告する。 |