論文


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト(2005.7.8合併号)
会計参与制度を検証する 実録「今津事件」
滞納処分 NPO法人の税務・会計
所得税法第56条を斬る 民法と税法の接点
10年後の税理士業務 岐路に立つ社会福祉法人経営


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト
会計参与制度を検証する
−税理士が会計専門家として生きていくために−
東京税経新人会

1. はじめに

会社法案は、6月29日の参議院本会議において可決・成立した。
会社法は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることとなっているので、来年中には「会計参与制度」を含む新しい会社法制が施行されることとなった。

会計参与制度は、中小企業の計算書類の適正性を担保するために、会計の専門家が会社の計算書類の作成・開示に関与することを認める制度であるが、税理士が会計の専門家としての職能を果たしていくためには多くの課題がある。

また、会計参与制度導入は、我が業界がかつて経験したことのない大きな制度改革であることから、その要綱案が示されて以来、様々な視点から問題点が指摘されてきた。

本稿では、会計参与制度の意義を確認するとともに、税理士制度との関係からみた問題点を検証し、さらに会社法施行にともなう課題について提言を行いたい。

2. 税理士には会計専門家たることが要求されている

(1)税理士は実質的に会計の専門家であった
昭和25年にシャウプ勧告を受けて導入された青色申告制度は、申告納税制度の成熟に寄与してきたことに加え、個人事業者や中小企業の記帳水準の向上にも役立ってきたが、この制度の普及に関して税理士の果たした役割は多大であった。

このように、税理士は申告納税制度の維持発展に貢献してきただけでなく、我が国の企業会計、とりわけ個人事業者及び中小企業における会計の定着普及に大いに貢献してきた。
この意味で、税理士は、実質的に会計の専門家として社会的認知を受けてきたといえる。

そのような実態のほか、以下に述べるとおり、税理士法及び法人税法は、税理士が法的にも会計専門家たることを要求しているのである。
(2)税理士法2条2項の規定
税理士法2条 は、昭和55年の法改正において税理士会の要望を受けて、税理士の業務の実態を法に反映させ、かつ税理士を会計の専門家として認知しその社会的信用を保持する効果を期待して創設された。

同項は、税理士の独占業務である「税理士業務」(税理士法2条)に付随して行う財務に関する事務を税理士の名称を用いて行うことを内容としており、税理士のみが行うことが可能となる名称独占業務を定めたものである。

したがって、この業務は何人も自由に行い得るいわゆる一般の会計業務とは異なり、専門家たる税理士が税務に関連して行う高度な専門性を持った会計業務であるといえる。

この業務を税理士が専門知見を持って遂行することは、「税理士の使命」(税理士法1条)に適うことになるのであり、税理士は税理士法により会計の専門家であると位置づけられていると考えるべきである。

税理士法
第1条(税理士の使命)
税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
第2条(税理士の業務)
第1項(略)
2税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。
(以下略)

(3)法人税法の確定決算主義
法人税法74条が確定した決算に基づいた申告書の提出を求めていることから、我が国の法人税法は確定決算主義を採用していると説明される。

また、確定した決算の前提となる収益及び費用等の額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるものとされている(法人税法22条)。

したがって、納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士は、法人税の納税義務履行を援助するために、会計の専門家でなければならないこととなる。

法人税法
第22条(各事業年度の所得の金額の計算)とする。
第1項〜第3項(略)
4第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
(以下略)
第74条(確定申告)
内国法人(清算中の内国法人である普通法人及び清算中の協同組合等を除く。)は、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。
(以下略)


3. 会計参与制度導入の背景

前述の通り、税理士には、今般の会社法創設に拘わらず、従前より会計の専門家たることが期待されていた。しかしながら、我が国の会計の現状は必ずしも良好とはいえず、とりわけ中小企業における商法遵守マインドは極めて低いといわなければならない。このことは、中小企業の会計に深く関わってきた税理士の意識についても同様のことがいえるのである。

株式会社などの物的会社は、有限責任というメリットを享受するための代償として、会計情報を開示しなければならないとされているが、多くの中小企業は計算書類の開示について極めて消極的である。そのため、計算書類の適正性が問題とされるのは税務調査に限られるというのが一般的であり、その結果、利益の過大計上や資産の過大表示(負債の過小表示)を許容してしまう風潮ができてしまったのではないか。

しかし近来、中小企業を取り巻く取引環境は徐々に変わってきており、中小企業にも直接金融の途が開かれつつあるほか、金融機関の側から、担保や保証に過度に依存してきた融資のあり方を見直し、企業内容とりわけ会計情報を積極的に開示する企業を評価しようとする姿勢がみられるようになった。

これらの動きに呼応して、企業の側にも、適正な会計情報を開示しようという意識が醸成されつつある。
会計参与制度は、このような時代の要請に応えて導入されることになったとみるべきであろう。

日税連が、公認会計士業界との協議を経たうえで、職域防衛のための制度導入を目指して行った一連の運動が功を奏したことも事実であるが、会計参与制度導入の趣旨は我が国の中小企業の会計水準の向上を図ることにあるということを見誤ってはならない。

会計参与制度は、我が国における中小企業の取引環境、とりわけ中小企業金融のあり方を根底から変革させる可能性を持っているといえる。

このような状況の中で「会計参与制度」が導入されることを機に、税理士は、会計の専門家としてどのように対応すべきかが問われている。
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