1. 国税徴収法の地位 |
(1)法制定の経過 |
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現行国税徴収法は1959年(昭和34年)に制定され、翌年1月1日から施行された。この法律は、明治30年制定の国税徴収法を全文改正し、現代の社会政治情勢に適応させようと3年間の租税徴収制度調査会の答申に基づき制定された。 |
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その後1962年(昭和37年)4月1日から施行された国税通則法の制定によって、国税徴収法のうち租税通則に関する規定はあげて通則法に移行したため、徴収法は従来の中間的国税通則法としての性格から滞納処分手続きを中心とする法律に改正された。 |
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(2)国税徴収法の目的・特徴と地位 |
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国税徴収法の目的は第1条に端的に規定されているように「国民の納税義務の適正な実現を通じて国税収入を確保する」ことにある。そしてその特徴は次の3点に要約される(これが国税徴収法の問題点でもある)。 |
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自力執行権 |
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国税(租税)優先の原則 |
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幅広い裁量(職権)行政 |
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また国税徴収法は国税の徴収について適用される法律のみならず、その滞納処分の規定は地方税及び多数の公課の徴収についても適用され、公法上の徴収金の徴収の基本法ともいういうべき性質を有する。 |
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地方税・・・「国税徴収法に規定する滞納処分の例により滞納処分をする」 |
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公課(各種社会保険の保険料、負担金、納付金、付加金など) |
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・・・「国税徴収の例による」あるいは
・・・「国税滞納処分の例による」 |
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2. 徴収行政の実態 |
国・地方を通じて徴収行政の実態は「荒廃する職場」「苦悩を深める職員」「変質する仕事の内容」と言える。
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(1)基本的な問題点は、過大な所掌(分担)件数
国税では1人当たり200〜300(400〜600)件、地方では1人当たり1200件以上にも上る。 |
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・このため困難事案は後回しにする(ほとんど放置)。
・納税緩和措置は、事務の繁雑さや延滞税の免除の手数を嫌い、原則行わない。
・片や、安易な「滞納処分の停止」と「納税義務の消滅」(総滞納を圧縮させる)。 |
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(2)精通者(プロパー)不在の素人集団
・国税では他部門交流人事のため部門の半数は交流者で後継者が育たない(半数が経験3年未満)。
・地方では徴収事務の在籍が平均3〜4年。長くても5年程度。 |
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法律の不知による違法すれすれの強徴処分が横行
・潰れても構わん。売掛金の差押えは解除するな。
・「無益な差押え」であろうと関係ない、早く差し押さえた方が勝ち。
・預金に払い込まれた給与は、「給料の差押禁止額」には該当しない。 |
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(3)実績主義・数値目標の一人歩き(尻叩き) |
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差押え第一主義、ノルマの押しつけ(個人間や部門間での競争を煽る)。
「徴収の仕事は昔集金人、最近御用聞き、今は郵便配達人だ。昔はちゃんと金を取ってきた。今は金も取ってこられず、話をちゃんとせず、滞納していることの通知しかできず相手の言いなりに分納を認めているだけか」(名古屋国税局の研修会での挨拶)
「われわれの仕事はいくら入金してなんぼの世界。いくら課税しても収納にならなければ意味がない」(関信国税局統括官会議)
「必要以上に相手の事情は聞かないでいい。それよりも結論を(早く)出すように」(札幌国税局の統括官指示) |
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地方では「1件につき○○○円」の差押手当の支給例も。 |
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I. 概要 |
国税徴収法の特色は、「国税債権の確保」、「私法秩序の尊重」、「納税者の保護」となっている。租税と私債権の優先劣後の基礎となる考え方は、「国税債権の確保」のため、国税の優先権を原則とし、「私法秩序の尊重」のため、別段の定めを設けて、国税の優先権に制限を与えているのである。 |
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1. 国税の優先と別段の定め |
(1)国税優先の原則 |
国税は、納税者の財産について、別段の定めがある場合を除き、すべての公課その他の債権に優先して徴収する。(徴8)
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(2)別段の定め |
強制換価手続きの費用等の優先
次の費用等は、国税に優先して徴収する。 |
ア. |
強制換価手続きが行われた場合、その手続きに係る費用(徴9) |
イ. |
国税の滞納処分に係る費用(徴10) |
ウ. |
強制換価された物品に消費税等(「課税資 産の譲渡等に係る消費税」を除く。酒税、揮 発油税等の間接税)が課せられる場合の消 費税等(徴11) |
国税と被担保債権との調整
次の債権は国税に優先して徴収する。 |
ア. |
法定納期限等以前に設定された質権・抵当権(徴15・16) |
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法定納期限等 原則は、国税に関する法律の規定により国税を納付すべき期限(法定納期限)であるが、他に定められた規定を含め「法定納期限等」としている。 |
イ. |
譲受前に設定された質権又は抵当権(徴17) |
※ |
国税に優先する質権・抵当権により担保される債権の額は、差押又は交付要求の通知を受けた時における債権金額を限度とする。(徴18) |
ウ. |
不動産保存の先取特権等(徴19)(成立時期にかかわらず、常に国税に優先する。) |
エ. |
法定納期限等以前にある不動産賃貸の先取特権等(徴20) |
オ. |
留置権(徴21) |
カ. |
法定納期限等以前にされた仮登記により担保される債権 |
(1)質問および検査 |
徴収職員は滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、一定の者に質問し、またはその者の財産に関する帳簿もしくは書類を検査することができる(法141条)のであるが、「必要があるとき」及び「その必要と認められる範囲内」とはどんなことであろうか。
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調査の客観的必要性 |
調査の「必要性」は徴収職員の主観的な自由裁量によるものではなく、客観的必要性即ち「通常一般人であれば、何人でもこれについては調査する必要があると考えるのが通常である」という要件が要請される。また上記の質問検査権には客観的必要性と滞納者の私的利益とを比較衡量し、手段、限度とも相当でなければならない、という制約が存在する。滞納者の財産を客観的に明らかにするという範囲を超えた質問には滞納者は応答する受忍義務はない。質問検査権の行使が社会通念上相当な限度を超える場合には、質問検査権は違法となる。
この質問、検査は強制力を持たない任意調査である。ただし正当な理由なく不答弁等があった場合には、罰則が適用されることがある(法188条)。質問検査は国家権力と国民との関係の問題であり、このような間接強制があるので、上記「調査の客観的必要性」と「制約」は、より厳格に守られなければならない。 |
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(2)捜索 |
徴収職員は滞納処分のため必要があるときは、滞納者の物又は住居その他の場所につき捜索することができる(法142条)のであるが、「必要があるとき」及び「捜索することができる」とはどのようなことであろうか。
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・質問検査と捜索の関係 |
徴収職員は質問により財産の状況等が明らかになったときは、その財産の任意提供を求め、その質問に応じないため財産の状況等が明らかでないときに限って、強制調査としての捜索を行うべきものである。即ち「必要があるとき」とは、以上のような任意調査での財産調査不能なときと考えられる。 |
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(3)捜索と令状 |
滞納処分による捜索の場合には「令状は必要とされていません。」(庫本康編「平成16年度版やさしい国税徴収法」財団法人大蔵財務協会)という見解がある。また令状なしの捜索が住居の不可侵を規定した憲法35条に反しないとする見解(吉国二郎ほか編「平成14年改定国税徴収法精解」)がある。
憲法35条は令状なく住居、書類及び所持品について、捜索を受けることのない権利を保障している。この規定について、最高裁は昭和47年の川崎民商事件判決において、刑事責任追及の手続きのみならず、行政手続きについても適用されると明確にしている。
捜索は人権に対する影響が大である。「人権の尊重」を定めた憲法13条、「法定手続の保障」を定めた憲法31条などの適正手続が、この捜索にも厳格に適用されなければならない。
適正手続と行政手続との関係について、最高裁は平成4年の成田新法事件の判決で、憲法31条の法定手続の保障が行政手続にも及ぶことを明確にしている。
従って令状なしに強行される強制調査としての捜索は憲法違反の疑いが強い。
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・自力執行権について |
行政の円滑な実現のためには税務署の「自力執行権」が必要である、裁判所の決定を待ったのでは、租税行政は渋滞するという見解がある。反市民的な分子が行政の実現を阻害することはありうるのであるが、自力執行力は、こういう少数の反市民的な分子の横暴を抑える例外措置としてみればたりる。
自力執行力は国民の権利を直接に侵害するものであるから、それは、よほどの場合でなければ許されない。法の支配に反するものであることを、はっきり認めたうえで、その発動を必要悪として最小限にとどめなければならない。ところがこれは行政権の特権である、強制執行できるのは当然だという見解があるが、原則と例外との逆立ちというべきである。要するにこの考え方の違いは、法というものを旧憲法的にとらえるか、現憲法的にとらえるかの違いであるといえよう。 |
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(4)捜索ができる場合 |
捜索はすでに述べたように憲法35条の令状主義によって行われなければならず、かつ、憲法13条及び31条の適正手続が遵守されなければならない。強制調査としての捜索は人権侵害の危険が大きい。財産調査はできる限り任意調査である質問検査による財産調査を原則として、捜索は例外として考えるべきである。
その上で「滞納処分のため必要があるとき」とは、下記に限定される。 |