論文


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト(2005.7.8合併号)
会計参与制度を検証する 実録「今津事件」
滞納処分 NPO法人の税務・会計
所得税法第56条を斬る 民法と税法の接点
10年後の税理士業務 岐路に立つ社会福祉法人経営


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト
民法と税法の接点
神奈川税経新人会
神奈川税経新人会では5年ほど前から、慶應義塾大学法科専門大学院教授松尾弘先生をお迎えして、年10回の連続研究会を開催してきた。

連続研究会のPart1、Part2では松尾先生の著書『民法の体系』をテキストとして、体系的に講義をしていただき、Part3では、ゼミ形式をとり、実務と関係の深いテーマについて、毎回担当者を決めて発表し、松尾先生に補足していただく形をとり、理解を深めた。

Part3が終了し、Part4の開催にむけて打合せをするなかで、これまでの研究を形にしていこう、という話が出された。具体的には全国研究集会において発表することと、『民法と税法の接点』という本を出版しよう、ということになった。

それを受けて、まずテーマの選定と担当者の割振りが行われ、1回に2名が発表をする形式で概ね月に1回程度の研究会が行われた。

昨年8月の第40回常陸野全国研究集会では、既に発表が行われたもののうち、2テーマ「税務職員の行為と信義則違反」「事実婚の解消に伴う財産分与」を発表した。
幸い大勢の会員の方にご出席をいただき、今後の研究の参考になる貴重なご意見も多数いただいた。

全国研究集会後もPart4は引き続き開催され、研究会Part4が終了した現在、各発表者が原稿を執筆し、現在、出版にむけて校正中である。この夏の研究集会の頃には、おそらく完成しているであろう。
昨年の研究集会後、取り扱ったテーマは以下のとおりである。

・遺留分減殺請求行使による権利の取得
・相続税申告後における遺産分割の成立
・課税主体について
・自然人(胎児等)に対する課税
・公益法人課税について
・遺言に関する判例研究
・譲渡担保権の設定と滞納処分における財産権の帰属
・税法に見るみなし役員について
・信託財産に関する課税
・連帯債務・保証債務と課税
・営業権の譲渡への課税
・男女雇用差別の救済法理

それぞれの詳しい内容については出版される本を見ていただければ幸いである。
本年の研究集会では『民法と税法の接点Part2』として、「時効について」「相続税申告後における遺産分割の成立」の2つのテーマを発表したいと思う。

I. 時効について

1. 時効についての一般的考察
(1)意義
時効とは、一定の期間の経過を要件にして、権利の取得や消滅を生じさせることである。
(2)取得時効
(a) 所有権
(i) パターン1
開始時に善意無過失
10年間所有の意思
平穏かつ公然に
他人の物を占有
(ii) パターン2
占有開始時に悪意又は善意有過失
20年間所有の意思
平穏かつ公然に
他人の物を占有
(b) 所有権以外の財産権
取得する意思を持って
平穏かつ公然に
所有権と同様に10年又は20年その権利を行使
(4)消滅時効
(a) 所有権
所有権は、消滅時効を直接の原因として消滅することはない。
(b) 債権
(i) 給料、運送、飲食に関する債権・・・1年
(ii) 商品代金、授業料に関する債権・・・2年
(iii) 医師の治療、建築工事に関する債権・・・3年
(iv) 商品代金を除く商事債権、家賃債権・・・5年
(v) 上記以外の債権(個人間債権)・・・10年
(c) 所有権及び債権以外の財産権
20年間権利行使しなければ、時効により消滅する。
(d) 判決で確定した権利
一律に10年
(e) 消滅時効の起算点
(i) 期限の定めのある債権
確定又は不確定期限到来時
(ii) 期限の定めのない債権
債権発生時
ex. 金銭消費貸借の場合
(i) 約定弁済期の到来毎に順次消滅時効が進行する(判例)
(ii) 期限の利益を喪失した時点(学説)
(4)時効の効果等
(a) 遡及効
効完成は、その起算日に遡って効力を生ずる。
(b) 援用
時効は、時効により利益を受ける者が時効成立を主張することにより完成する。
(c) 利益の放棄
時効完成前に放棄の旨の特約がある場合、その特約は無効である。
(5)時効の中断
(a) 請求(裁判上の請求)
支払い督促
和解の呼出・任意出頭
破産手続参加
催告
(注) 催告だけでは不十分であり、催告後6ヶ月以内に「裁判所の関与する手続き」または「差押・仮差押・仮処分」の手続きをしなかった場合には、時効中断の効力を生じない。
(b) 差押・仮差押・仮処分
取消された場合は時効中断の効力を生じない。
(c) 承認
権利の存在を認める旨を表示すること。
(6)中断後の時効の進行
中断事由の終了したときから(新たに)進行をはじめる。
具体的には、裁判・催告による場合には、判決が確定したとき、差押による場合には、差押の手続が終了したとき、承認による場合には、承認の行為があったときからそれぞれ新たに進行をはじめる。
2. 時効についての実務事例検討
(1)国税についての時効期間
(a) 賦課権
賦課権とは、更正もしくは決定または賦課決定することができる権利をいい、原則として3年である。賦課権の場合、時効とはいわず正確には、除斥期間という。
(b) 徴収権
既に確定した租税債務の履行として納付された税額を収納し、またはその履行を請求し、その収納をはかることができる権利をいい、時効期間(除斥期間)は5年である。
(c) 除斥期間の研究
除斥期間には、3年とする場合、5年とする場合、7年とする場合がある。
(d) 脱税があった場合の消滅時効(除斥期間)
5年の消滅時効の進行を停止する(最大、法定申告期限から2年)。
(2)取締役の報酬請求権の時効
取締役の報酬債権は、何債権か、という問題について、下記の通り諸説がある。
(i) 民法174条1号「月またはこれより短き時期をもって定めたる雇人の給料」は1年の消滅時効にかかる。
(ii) 労働基準法115条による賃金請求権の消滅時効期間は2年
(iii) 商法254条3項及び有限会社法32条による商事債権として5年
しかし取締役は「雇人」にあたらず、使用人たる会社は営業のために取締役を選任するのであるから、取締役の報酬債権は商事債権に該当するものと考えられ、判例の立場としては5年とされている。
(3)取得時効によって財産権を取得した場合
従前における課税の考え方は以下のとおりである。
(i) 事業用資産の取得・・・事業所得
(ii)上記以外・・・一時所得

上記の根拠は、事実状態が権利に転化したと考え、純資産の増加をもたらすため所得が発生したと考える。

判例は、時効援用時説の立場をとっており、その場合、勝訴後、無申告加算税等が課税されるものと推測される。但し、課税権の除斥期間との関係や勝訴確定までは申告・納付は現実的に不可能である事を考慮すると判例の考え方が妥当とはいえない。

しかし時効完成日説の立場を取れば、移転登記請求を命ずる判決主文の登記原因日付はあくまでも「時効の起算日」となることとの整合性が保てない。

現実的には、援用は取得時効の効果を確定的にするだけのこととなり、取得時効の効果がいつ発生するかは別問題と考えられている。
(4)主たる納税義務が時効により消滅したときに、第二次納税義務も消滅するか
判例の立場は、第一次納税義務と第二次納税義務は別個独立の債務としている。
学説の立場のうち、本来の納税義務の消滅により第二次納税義務も消滅(附従性)し、本来の納税義務に係る時効の中断効果は、第二次納税義務には及ばないとする説と、本来の納税義務と第二次納税義務は運命をともにすると考える二つの説が存在する。
(参考)
第二次納税義務の時効中断の効力は、主たる納税義務者の納税義務に及ばないが、主たる納税者の納税義務の時効中断の効力は、第二次納税義務に及ぶものとする。(国税徴収法基本通達第32条関係28)
(5)相続回復請求権の時効消滅
(a) 相続回復請求権(民884)
事実を知ったときから5年間これを行使しなければ、時効により消滅する。
なお、相続開始のときから20年を経過したときも同様である。
(b) 共同相続人間に民884の適用はあるか?
最高裁判決は、一般占有と同じと考えながら、民法884条が適用されるのは特殊な場合に限られるとしている。 
(6)遺産分割請求権の時効消滅
(a) 遺産分割請求権
(i) 形成権説
分割請求権を共有権に伴う権利と考え、共有権は所有権の特殊な態様であるから、分割請求権は消滅時効にかからない。
*形成権とは、一方的な意思表示で発生させる権利(相手の同意は必要なし)
(ii) 請求権説
分割請求権は所有権に基づく請求権の一種と考え、それ自体時効により消滅することはないが、共同相続人間において、相続回復請求権の消滅時効を援用しうる。
(7)遺留分減殺請求権の時効消滅の起算点
(a) 遺留分減殺請求権
遺留分権利者が相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間これを行使しなければ、時効により消滅する。
しかし判例上は、単に相続または贈与のあったことを知っただけでは足りず、それが、「減殺すべきものなることを」を知ったときと解している。言い換えれば、これは侵害の認識を問題として取り上げたことになる。
また、遺言の効力を争っている場合や遺産の範囲の認識の程度により、「知ったとき」に微妙な違いが出てくる。
(b) 贈与無効の主張との関係
贈与無効の主張だけでは時効の進行は阻止できない。減殺請求権を行使しないことにつき、相当の理由があったことを立証する必要がある。
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