2. 時効についての実務事例検討 |
(1)国税についての時効期間 |
(a) |
賦課権
賦課権とは、更正もしくは決定または賦課決定することができる権利をいい、原則として3年である。賦課権の場合、時効とはいわず正確には、除斥期間という。 |
(b) |
徴収権
既に確定した租税債務の履行として納付された税額を収納し、またはその履行を請求し、その収納をはかることができる権利をいい、時効期間(除斥期間)は5年である。 |
(c) |
除斥期間の研究
除斥期間には、3年とする場合、5年とする場合、7年とする場合がある。 |
(d) |
脱税があった場合の消滅時効(除斥期間)
5年の消滅時効の進行を停止する(最大、法定申告期限から2年)。 |
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(2)取締役の報酬請求権の時効 |
取締役の報酬債権は、何債権か、という問題について、下記の通り諸説がある。 |
(i) |
民法174条1号「月またはこれより短き時期をもって定めたる雇人の給料」は1年の消滅時効にかかる。 |
(ii) |
労働基準法115条による賃金請求権の消滅時効期間は2年 |
(iii) |
商法254条3項及び有限会社法32条による商事債権として5年
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しかし取締役は「雇人」にあたらず、使用人たる会社は営業のために取締役を選任するのであるから、取締役の報酬債権は商事債権に該当するものと考えられ、判例の立場としては5年とされている。 |
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(3)取得時効によって財産権を取得した場合 |
従前における課税の考え方は以下のとおりである。
(i) 事業用資産の取得・・・事業所得
(ii)上記以外・・・一時所得

上記の根拠は、事実状態が権利に転化したと考え、純資産の増加をもたらすため所得が発生したと考える。

判例は、時効援用時説の立場をとっており、その場合、勝訴後、無申告加算税等が課税されるものと推測される。但し、課税権の除斥期間との関係や勝訴確定までは申告・納付は現実的に不可能である事を考慮すると判例の考え方が妥当とはいえない。

しかし時効完成日説の立場を取れば、移転登記請求を命ずる判決主文の登記原因日付はあくまでも「時効の起算日」となることとの整合性が保てない。

現実的には、援用は取得時効の効果を確定的にするだけのこととなり、取得時効の効果がいつ発生するかは別問題と考えられている。 |
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(4)主たる納税義務が時効により消滅したときに、第二次納税義務も消滅するか |
判例の立場は、第一次納税義務と第二次納税義務は別個独立の債務としている。
学説の立場のうち、本来の納税義務の消滅により第二次納税義務も消滅(附従性)し、本来の納税義務に係る時効の中断効果は、第二次納税義務には及ばないとする説と、本来の納税義務と第二次納税義務は運命をともにすると考える二つの説が存在する。
(参考)
第二次納税義務の時効中断の効力は、主たる納税義務者の納税義務に及ばないが、主たる納税者の納税義務の時効中断の効力は、第二次納税義務に及ぶものとする。(国税徴収法基本通達第32条関係28) |
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(5)相続回復請求権の時効消滅 |
(a) |
相続回復請求権(民884)
事実を知ったときから5年間これを行使しなければ、時効により消滅する。
なお、相続開始のときから20年を経過したときも同様である。 |
(b) |
共同相続人間に民884の適用はあるか?
最高裁判決は、一般占有と同じと考えながら、民法884条が適用されるのは特殊な場合に限られるとしている。 |
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