論文


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト(2005.7.8合併号)
会計参与制度を検証する 実録「今津事件」
滞納処分 NPO法人の税務・会計
所得税法第56条を斬る 民法と税法の接点
10年後の税理士業務 岐路に立つ社会福祉法人経営


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト
岐路に立つ社会福祉法人経営
〜福祉切捨ての時代に私たちに出来ること〜
税経新人会全国協議会社会福祉法人チーム
埼玉会 河崎陽子・松本重也・持田晶子
名古屋会 富田偉津男
神戸会 由岐透
九州会 山本友晴

経営改善が成功した事例
名古屋会富田偉津男

1はじめに
名古屋市の中心に平成元年、26年間の障害者や親の運動によりオープンした社会福祉法人M福祉会がある。この法人の特長は、重複障害者の「身体障害者授産施設」及び、授産事業になじまない重症心身障害者が通所する「デイ・サービス施設」の2施設から成り立っていることである。従来は、自力通所、自力移動、食事・排便が可能で作業能力があるものでないと、措置が認められなかった重度障害者を授産施設に措置を認めさせ、あわせて超重度障害者の日中活動の場を併設させたもので、当時のわが国では極めて先進的な施設であった。
2当初授産事業の失敗と累積赤字の増加
重度重複障害者のための授産事業は未開な分野であり、当初は「水耕栽培」を事業としたが、重度障害者の手におえるものでなく、指導員による木工作業製品の磨きや、パチンコ部品の前加工など、理解ある中小企業の方々の協力で作業を継続した。しかし、「授産」「デイ・サービス」とも予想以上に通所者の障害が重く、法による定員配置では職員が腰痛で次々に倒れる事態になり、自力で人員の配置を増加したため、人件費を中心に大幅な赤字が発生することとなった。ちなみに平成6年以降の経営成績は次のとおりであった。
3転機となった措置から契約への移行
平成12年ごろから、措置から契約への移行が課題とされ始め、実質的な幹部会である「事業研究委員会」が結成された。メンバーは理事長、理事3名、施設長、古参職員の6名で、今後の収入の減少額の見積り、新規事業の開拓,人件費の見直し等を検討し月1回のペースで開催することとした。

13年度は新規事業として「地域支援センター」の委託を受け、一定の増収となった。また臨時・パート職員の人件費の見直しを行い、特に過大と認められた賞与等の一部カットを実施した。その他、制度の変更を利用し知的障害者2名を入所させ混合(身体・知的障害)利用を行った。こうした努力により12年度赤字が一挙に130万円まで減少した。

授産(セルプ) デイ・サービス 合計 累積赤字
平成6年 △560 △40 △600 △600
平成7年 △620 △70 △690 △1,290
平成8年 △700 △120 △820 △2,110
平成9年 △300 △10 △310 △2,420
平成10年 △510 0 △510 △2,930
平成11年 △230 30 △200 △3,130
平成12年 △400 △200 △600 △3,730
平成13年 280 △410 △130 △3,860
平成14年 267 △3,593
平成15年 181 △3,412
平成16年 2,201 1,281 1,482 △1,930

4新事業の更なる開拓と給与体系の見直し
14年度から措置から利用契約に完全に移行し、収入源をカバーするために思い切った拡大経営に踏み切った。すなわち従来二階で「授産」「デイ」の2施設を行っていたが、競馬振興会などからの補助金を得て3階の大改造を行い、2階はデイ・サービス及び「通所療護施設」としての認可を得て、支援費の増収を図るとともに、地域の利用者のニーズに応える。3階は「授産」専用施設として定員増加の認可も得て、知的障害者の人員をさらに3名増加し、この面でも増収を図った。
5念願の「重症児通園」開始
日本の障害者に係る法律は、「身体障害」「知的障害」の縦割り行政となっており、そのため重度の身体障害と重度の知的障害を併せ持つ障害者は制度の谷間でアウトロウになっていた。これらの在宅障害者のための唯一の制度である「重症児通園」制度は、デイ・サービス施設などでは認可されていなかったが、約8年間の運動によりやっと認められるようになり、名古屋市内では一番重度障害者を受け止めている「M福祉会」にはじめて認可された。これにより看護婦の定員化など定員の増加もあり収入も増加した。また、地元の中学卒である知的障害者も3名ほど「授産」に受入れができ収入面での積極的な取り組みが稔ってきた。
6地域の支援体制が施設存続の決め手
平成元年施設開設から平成13年度まで実に3千八百五拾萬円にのぼる累積赤字が積みあがるような施設を支えて頂いたのは、地域の支援である。この間の寄付金合計は6千690万円にのぼる。後援会は施設建設借入金の毎年の返済額を確実に集めて返済に充て、理解ある企業からは好況時には1企業で年間300万円の寄付金が何件か寄せられたことが大きな支えとなった。また、全国税労働組合東海地連の組合員多数が後援会に入会し建設資金借り入れ返済まで約10年間、会費を継続して納入していただいた。

ここ数年は地域商店街の支援を得て、月に何回かの金山駅での製品販売、市立東山動物園での売店えの商品納入、自販機の収入からの寄付、さらには地元学区の中学からは全校生徒のアルミ缶の収集運動など地域とともに歩む施設として経営再建ができた。
7職員の意識改革
福祉の「商品化」に対応し、職員に措置から契約えの意義と、コスト意識の向上を図った。職員からも積極的な反応があり、コスト削減につながる提案が沢山寄せられた。終業時間後の打合せも「立った」ままで打合せを行うことによる残業時間の削減、新給与体系への移行への協力など、職員との意思疎通が大きな役割を果たした。

新会計基準への移行と会計実務については、障害者運動に理解のある税理士事務所に依頼し、それによって浮いた人員を現場にまわし、二重の効果を上げている。

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