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特集  第45回佐渡全国研究集会  分科会テキスト
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シャウプ税制からみた現代税制の諸問題
東京税経新人会  
目 次
I はじめに
II 個人所得税制 - 公平の追求とその限界 -
III 配当所得と利子所得の金融税制
IV 法人税制の諸問題 - 勧告と会社法からのアプローチ -
V 現在の地方税制の動き - 歪められたシャウプ勧告の理念 -
VI税務行政
I  はじめに 平石共子  

シャウプ勧告は、占領下において連合国最高司令官(マッカーサー元帥)の要請に基づきカール・s・シャウプ博士を団長とする7名の税制使節団により提出された「日本税制報告書」の通称である。最初に出された勧告の序文は1949(昭和24)年8月27日付で、その1年後1950(昭和25)年9月に「第二次日本税制報告書」が提出された。日本政府は勧告を受けとめ1950(昭和25)年度税制改正はほぼシャウプ勧告に沿った税制改革を実現した。それは所得税、富裕税などの直接税中心の税制であった。その後、1953(昭和28)年以降シャウプ税制は次第に崩壊していくこととなるが、その骨格は今日でも残っておりシャウプ勧告を戦後日本税制の原点と位置付けることに異論はないだろう。勧告から60年が経過した今、シャウプ勧告が目指した租税制度に照らし、その功罪も含めて現代税制における諸問題について批判的検討を試みる。

勧告の特徴である 公平な租税制度の確立、 税務行政の民主化・合理化、 地方自治の尊重の観点から、 の公平な租税制度に関しては、個人所得税制全般と金融税制、法人税制に区分し、地方税制、税務行政を5名でそれぞれ分担した。

II  個人所得税制 - 公平の追求とその限界 - 平石共子  

1.目的

シャウプ勧告は、国民の自覚的な納税義務の実現の観点から直接税を評価し、さらに間接税では適正に所得や富の格差および家族負担の差異を考慮できない、すなわち応能負担の原則に適合しないとして直接税中心の税制を選んだ。特に所得税を財政制度の根幹とする試みは継続されなければならないという結論を出した。その際に租税の公平について重要視し、第一に公平であることが納税者に認められるものであることが重要で、「租税の公平とは、一面法に則して税務行政が行われることであり、他面税法が公平に制定されるということである」と述べている。そこで、後者のシャウプ税制が目指した個人所得税制を明らかにし、勧告の中で公平を確保するために検討された事項に焦点をあて、現代所得税制のもつ矛盾を批判的に検討する。
2.シャウプ勧告までの所得税制の状況

(1)戦時下の所得税中心の増税体制の確立
1940(昭和15)年改正が大きな転換点としてあげられる。戦時体制の強化に伴って不労所得及び高額所得者には極端な重課を、源泉徴収制度により低所得者からも確実に徴収を行う仕組みが敷かれた。戦時下での所得税中心の増税体制が確立したのである。

(2)戦後税制の出発となる司令部による大改革
戦後税制の出発点は、戦後初めての本格的な改正であった1947(昭和22)年改正と考える。分類所得税と総合所得税の二本建課税を一本化、納税方法は賦課課税から申告納税へ、税率は14段階の超過累進税率等、司令部主導でアメリカ型所得税への転換が進められた。シャウプ勧告の前哨戦ともいえる改革が始まっていたのである。
3.シャウプ勧告の所得税制の考え方

(1)重税と脱税の悪循環の解決のための減税
勧告前に所得税中心の体制はすでに形の上では出来上がっていた。しかし、勧告は高税率と高度の脱税は悪循環を生じていると指摘する。この悪循環を断ち切るためには税率の引き下げと控除の引き上げが第一歩であると述べている。

(2)納税者に対する見方 - 性善説 -
納税者は法を尊重し、税務当局は法を確実に執行するという状況の下で、租税負担を公平に配分するという近代的租税方式に転化しきるためには、個人所得税の軽減は必要不可欠と説明する。公平な税制が制定され、税務行政が法律に即した執行をすれば、納税者は誠実に法を尊重し納税義務を実現すると考えたのである。

(3)納税者が納得できる税制
基礎控除や扶養控除を引き上げるか、税率を引き下げるかはその時々で判断するべきだが、まず控除を引き上げることを優先するという判断をくだす。税務行政を実行しやすくするには、申告者数の減少が必要で、納付税額も納税者が合理的だと認める額まで引き下げられなければならないと述べている。
4.シャウプ勧告の概要

勧告の結論は、個人所得税を基幹税とする直接税中心の税体系だった。税収が大きく伸びているのは戦後のすさまじいインフレによるが、個人所得税が租税収入に占める割合はすでに重要な位置にあったことは事実である。しかし、実態は所得税に広範な脱税があり、また納税者に対して差押や競売を振りかざして独断的な更正決定をすることで税を徴収することは間接税よりも悪いと指摘する。国民を市民的自覚に立たしめ、必要な税収を公平に分配するような所得税が日本で円滑に動く、弾力性のある財政機構になるのは5年あるいは10年後のことであろうといっている。そのための施策として、勧告は以下のような提案を行った。

(1)基礎控除、扶養控除の引上げ
(2)所得税の税率の引下げ
(3)勤労控除
(4)世帯単位の取り扱い
(5)高額所得の課税
5.シャウプ税制の限界

勧告が目指したのは直接税中心の特に所得税を基幹税とする租税制度であった。勧告自身、相互に関連した制度であるから一部分のみ取り入れた場合の結果の責任は持てないといっている。実際3年後の1953(昭和28)年からシャウプ税制は次第に崩壊していった。しかし、もしシャウプ税制が維持されたとしても、法人擬制説を理論的支柱とし独立した課税客体である法人に対する所得税は比例税率により軽課する仕組みだったということである。

シャウプ税制の対象は勤労所得、商工事業者、農業者に集中し、富裕層や大資本には応能負担原則に基づく課税は排除されるという限界をもっていた。これは60年経った今も基本的な構造的は変わっていない。
6.現代所得税制の検討課題

現在の個人所得税制は総合課税を原則としながら、10種類の所得のうち分離課税とされるものがあまりにも多い。

(1)累進税率の構造
5%〜40%の6段階の構造を再構築する必要がある。富裕層に集中する資産所得は総合課税から外れていることを考えると、総合課税となる課税ベースの拡大も合わせて実施しなければ大きな効果は得られない。

(2)給与所得者に対する源泉徴収制度の問題
給与所得者が源泉徴収制度と年末調整制度により、自覚的な納税者とはなっていない。シャウプ勧告では給与明細書で理解されると述べているが、納税意識は希薄である。年末調整で課税関係が完結する現行制度は納税者の選択により確定申告できる制度を構築すべきである。

(3)勤労控除に関するシャウプ勧告における指摘
勤労控除は現在の給与所得控除に一致するが、勧告は農業所得、営業所得にも認めるべきと指摘し、不公平を排除すべきといっている。これは個人事業者が法人成りする動機のひとつになっていることは否定できない。自己労働に対する労働力生産コストとしての事業主控除を認めるべきである。

(4)所得税法56条の矛盾
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業者が生計を一にする配偶者、親族に対する給料、家賃、借入金の利子を支払った場合、必要経費に算入できないというこの規定は、家父長制が存在しない今、正当な対価を必要経費として認めるべきである。

(5)基礎控除、扶養控除等の引き上げ、老年者控除の復活
国税庁や税制調査会が用いる課税最低限は、配偶者、扶養家族2人の給与所得者で計算され、あたかもわが国において課税最低限は高いと主張する。超過累進構造との兼ね合いになるが、基礎控除を始めとする人的控除額の見直し、税額控除への変更が検討されるべきである。憲法25条の生活費非課税の原則からも要請される。
7.まとめ

現代所得税は所得の再分配機能を低下させていることは、政府税政調査会や与党税政調査会も認めるところである。特に消費税導入と引き換えに所得税率のフラット化が進められ、さらに高額所得者、資産家である富裕層を優遇する措置がとられたことで、所得格差を助長する税制になっている。今一度、超過累進総合課税制度の再構築が緊急の課題とされる。納税者数を減少させることで、税務行政の民主的な運営に合致し、憲法25条の要請に応えうる税制の構築が可能である。シャウプ勧告より、納税者間における不公平の問題は解決されずにいるし、時代によって納税者を対立させる道具にもなってきた。公平の追求は追及し続けることが重要であり、不公平が拡大している現代所得税制を早急に転換させなければならない。
参考文献
日本税制報告書
第二次日本税制報告書
戦後税制史(佐藤進、宮島洋共著  税務経理協会  1990年)
税制研究No.54シャウプ勧告60年記念
特集号(税制経営研究所 2008年)
日本税制の総点検(北野弘久、谷山治雄編著  勁草書房)

III  配当所得と利子所得の金融税制 渕上信一  

1.はじめに

シャウプ勧告は所得税を中心とした直接税を中心に考えており、所得税・富裕税・相続税の体系を全体として採用することを前提とし、その最終の課税手段がキャピタルゲインの全額課税であった。しかし利子・配当・株式譲渡所得の歴史的変遷をみるとシャウプの考えた総合累進課税制度は1950(昭和25)年の改革のみであり、キャピタルゲインの全額課税は採用されず、利子・配当所得も勧告されたものとは離れた税制になっている。ここではシャウプ勧告と現代の措置法を中心とした富裕者及び高額所得者の優遇金融税制について研究していく。
2.シャウプ勧告が求めていた内容とその反応

(1)高額所得の課税について
シャウプ勧告の主な狙いは富裕者の優遇税制を防ぐ仕組みに置かれている。勧告第5章ではその合法的に多額の所得税を免れる方法を幾つか挙げている。「キャピタルゲインの50%を課税所得から除いていること」と「利子所得に対して比例税率が適用されていること」を挙げている。そしてこの勧告によって上記の免れる方法は塞がれるとしながらも、「適当な法律を定めればいいというだけの問題でなく、この法律が効果的に実施されることが必要で、そうしないと何の役にも立たない」また「役に立たなかった場合、ただ脱税を増し納税士気をますます悪化させるだけ」としている。その為、キャピタルゲイン全額課税や利子配当所得の総合累進課税は法の執行である税務行政の措置をも含めた勧告になっている。

(2)富裕者に対する課税
富裕者に対して適正な課税を行うために、シャウプ勧告では富裕者に対する新税として、付加価値税と富裕税を盛り込んだ。富裕税は、純資産額500万円超の資産家を対象に、0.5%から3%までの低い累進税率で課される国税として勧告された税である。富裕税は脱税の原因となる50%を超える高率な所得税に代わるものであって、これに付加させるものではないとしている。

(3)シャウプ勧告が崩壊した理由と日本側の姿勢と実情
シャウプ勧告が崩壊していった流れ
骨抜き第2次勧告及びシャウプ税制の修正に対する回想
3.シャウプ勧告後の金融税制の推移

(1)利子所得・・・利子所得は、時代によって原則、総合課税・源泉分離課税・非課税の3種類の方法が時代を変えて適用されてきたが、例外も多く存在していたことに注意しなければならない。厳密に総合課税が行われたのは包括的所得を指向し、シャウプ勧告にそって改正が行われた1950(昭和25)年の1年のみであり、それ以外は源泉分離選択制、比例税率による分離課税、非課税制度により富裕者層の税負担が軽減されてきた。

(2)配当所得…配当課税は、1947(昭和22)年より総合課税が原則であるが、1965(昭和40)年以降は配当課税を利子課税と同様に源泉分離課税にすべきだとする証券業界との妥協策として源泉分離選択課税と少額配当の確定申告不要制度が導入されている。

(3)株式譲渡所得・・・株式譲渡所得は戦前から非課税であったが、1947(昭和22)年に1/2総合課税が導入され、1950(昭和25)年にシャウプ勧告により株式譲渡の全額総合課税が導入された。しかし、徴税技術上の問題、資本市場の育成の観点、税収が少ない等の理由から、実施後1952(昭和27)年4月に1/2総合課税に1953(昭和28)年には原則非課税とわずか3年で廃止され、代わりに有価証券取引税が導入された。その後1989(平成元)年に申告分離課税を原則としつつ、源泉分離課税の選択を認める制度が採用され、多くの納税者は、源泉分離課税を選択した。2003(平成15)年1月には申告分離課税に一本化されつつも現在は申告分離課税と申告不要の選択制になっている。
4.高額所得者の優遇政策の一部

確定申告を要しない配当所得課税(措法8の5)
措法8の5とは所有株主割合が5%未満の配当については、「源泉徴収のみ(所7%住3% )」または「確定申告して配当控除の適用」の選択ができる制度である。5%未満の例としてT(株)の社長は配当所得457百万、最低でも給与は48百万以上(株主報告書の平均値で試算)であると思われるが、措法適用の場合の税負担は収入に対する所得税額の割合が9.2% (適用を受けない場合は34.5%)で、源泉分離課税による優遇税額は127百万になる。5%超のS(株)の例は配当所得22百万、給与23百万以上(有価証券報告書の平均値で試算)であると思われるが、同じく収入割合が15.1%(同28.7%)になり適用を受けられない優遇税額は6百万になる。同じ所得でありながら所有割合の違いで課税方法が異なるのは課税の公平感を欠き、巨額の配当所得者を著しく優遇しているため廃止する必要がある。

上場株式等の配当所得の源泉徴収税率の特例(措法9の3)
措法9の3は上場株式の配当所得の源泉徴収税率に対する10%軽減は2009(平成21)年度税制改正で2011(平成23)年12月末まで延長された。この特例を受けた配当所得は2007(平成19)年度では7.8兆円あるが、この特例による軽減税額は7,800億円(住民税考慮後)になる。上場の有無によって税率が異なるのは同じく課税の公平を欠くため、延長を廃止し、総合課税する必要がある。
5.まとめ

シャウプ勧告は利子・配当所得、株式譲渡益を含めた総合累進課税が目的であった。しかし一定の効果があったのは勧告の導入直後のみで、時代を変えて「資本蓄積の促進」「執行上の困難」「投資家ニーズ」等を理由に、巨大資本家の税負担を長期間にわたり優遇してきた。そして現代金融税制においても新自由主義の「貯蓄から投資」をテーマの基、優遇税制の恩恵が一部の高額所得者や大企業に集中している。その集中を助長させた政策が上記を含む措法の政策であると考える。このような措法を廃止し、源泉徴収税率を20%にしつつも総合累進課税を導入することによって、現代税制の最大の問題点である所得格差を是正する必要があると考える。

IV  法人税制の諸問題 - 勧告と会社法からのアプローチ - 岩渕佐知子  

1.趣旨

ここではシャウプ勧告が目指した法人税制の功罪と、その後の変遷を確認する。併せて商法(会社法)が法人税法に多大な影響を与えてきた経緯に鑑み、特にここ数年の会社法改定が法人税制に与えた影響を検証する。これらを通じて現代日本企業、とくに中小企業のあるべき法人税制を探る手がかりとしたい。
2.シャウプ勧告が目指した法人税制、その功罪とその後のあゆみ

納税者に理解される公平な税制
勧告はその序文において「いかなる租税制度も・・納税者によって公平なものであると認められるものでなければならない。」と記した。また「直接税と間接税の比率は・・各個人の異なった支払い能力の程度に合理的に適応しているかどうかを表す。」とし、直接税中心かつ租税特別措置をなるべく排除した課税ベースの公平の実現を目指した。

この姿勢は現代においても受け入れられるべきものであり、シャウプ勧告のいわば「功」の側面であったと考える。

しかしその考えに反し1952(昭和27)年の講和条約締結と連合軍による占領期間が終了すると租税特別措置は次々と導入された。一方で景気減退、度重なる法人税率引き下げ、租税特別措置による課税ベースの縮小等で法人税収は減少し、一方で平成元年の消費税導入等、間接税へのシフトの流れを明らかにしており、勧告が目指した「公平な税制」が両面から崩壊していることがわかる。特別措置をなるべく排除した課税ベースの公平の実現を目指した。

法人擬制説
勧告はそもそも国税については所得税を中心に捉えていたと考えられる。同時に「法人は単に株主の集合体に過ぎない」とするいわゆる法人擬制説が採られ、この理論により、「法人税は株主配当に係る所得税の前取り」と位置づけられ、所得の多寡や企業の規模に関係なく一律35%の単一税率が導入された。

少なくとも日本社会のもとでは昔も今も、法人は経済的、社会的に独立した存在であり、課税単位であったことは自明である。この前提に立った時、導き出される税のあり方は、垂直的公平、すなわち応能負担原則によるべきものであり、単一税率ではあり得ない。このことは勧告の功罪を検証する上で「罪」の側面と位置づけられるのではないか。

しかし、その後幾度かの税率の変更等がなされたものの、一貫して単一税率の考え方がとられ続けている。結果大企業など「もてる者」がますます富み、中小、個人など「もたざる者」との格差を拡大させる結果を招いている。課税の公平の見地からも、是正されなければならない問題である。
3.会社法が法人税制に与えた影響

確定決算主義と商法、会社法改定
わが国の法人税制においては歴史的に、株主総会において承認された企業利益を前提に課税所得を計算するいわゆる「確定決算主義基準」が採られている。

その商法が、この数年の間に劇的に変わった。新自由主義の流れのもと日本経済はいわゆるアメリカ型の市場制経済体制への移行を明確にしてきており、この間の商法、会社法改定は、その流れに対応するためのものであった。組織再編行為の弾力化、剰余金分配手続きの自由化、役員賞与の費用化、最低資本金制度の廃止などが代表的な事項であり、大小さまざまある法人形態は原則として株式会社に一本化された。

法人税制に与えた影響とあるべき姿
ア、最低資本金制度が廃止され法人設立が容易になると「個人事業主との均衡」を理由に「特殊支配同族会社の役員給与損金不算入」制度を、既存の法人にまで導入してしまった。立法主旨、適用範囲など多くの矛盾と問題を抱えた規定であり、ただちに廃止されるべきである。

イ、旧商法269条第2項において、一定の条件のもといわゆる役員賞与を費用認識するように改定された。

本改定を受けて法人税法においても事前確定届出給与、利益連動給与が、損金算入とされる「限定列挙」の役員給与に組み込まれた。しかし本改定によって従来原則損金算入であった役員報酬が明確な理由もないまま原則不算入と位置づけられたのは経済的実態、法認識ともに誤りである。また、利益連動給与が日本の企業の9割以上を占める同族会社に対して認められておらず、定期同額給与規定による報酬の硬直化とあいまって、様々な弊害を生じさせている。これらの規定についても、是正されるべきであると考える。
4.シャウプ勧告、会社法に共通の問題意識(結びにかえて)
勧告でいうところの「法人擬制説」と「会社法」はいずれも「会社は株主のものである」という前提に立ち、かつアメリカの影響を強く受けている。研究を進めるうちこの認識は日本企業の実態にかならずしも即しておらず、そのことが上記の問題を考える上で必要な視点ではないかと考えるようになった。

よってここであらためて、各種外因によって歪んでしまった法人税制について、シャウプ勧告が目指した公平の原理をふまえ、日本企業の実態に即した制度へと是正していく必要があることを確認する。

V  現在の地方税制の動き - 歪められたシャウプ勧告の理念 - 保泉雄丈  

1.はじめに

小泉政権が提唱した「三位一体の改革」により行われた所得税の一部住民税への移譲から始まり、地方法人特別税の成立など、最近地方税について立て続けに大規模な改正が続いている。また最近の知事会では地方消費税の引き上げに伴う地方財政での安定した収入を確保することに期待がよせられ様々な発言が飛び出している。これらの動きはいったいどういった意味を持つのであろうか。

税制はその国特有のものであり、その国の歴史が生み出すものである。ここ最近の地方税の改正の動きが、地方税制において重要な意味を持つシャウプ勧告と比べてどういったものになっているのか、日本の地方自治のあり方、地方自治における税制のあり方についても検討を加えながら見ていく。
2.シャウプ勧告

シャウプ勧告は、地方税の歴史上重要な役割を果たした勧告である。それは単なる地方税について税目や税率、負担のあり方等の税制上の事項を提言したものではなく、地方自治のありかたそのものについて行われた勧告である。

(1)シャウプ勧告にいたるまでの地方税及び地方自治の歴史的変遷
地方税の議論は歴史上おおむね次の3つの観点から行われてきている。

応益負担原則
地方の税源確保と国、都道府県、市町村の税源のバランス
地域間格差の解消。

(2)シャウプ勧告が目指した地方自治
中央集権的な支配から脱却し、都道府県よりむしろ市区町村を中心とした地方自治制度の確立。地方の自治と責任を強化するため財政面から支援することを目標。

(3)シャウプ勧告の地方税制
地方税は400億円増額し、その増加額はすべて市町村に与える。
配布税を廃止し新たに一般平衡交付金を作る。

(4)シャウプ勧告後の地方税制
シャウプ勧告後の地方税制は、勧告が目指した市区町村中心の地方自治制度から都道府県中心の自治制度に乖離をしていっている。
3.三位一体の改革

小泉政権下で提唱された「三位一体の改革」は「地方にできることは地方」にという理念のもと、国の関与を縮小し地方の権限責任を拡大し、地方分権を一層推進することを目指し行われた改革である。しかし、これにより交付税が大幅に削減される一方で、国庫補助負担金の削減額に比べ税源移譲が小幅になったため、国の財政再建が優先され地方分権の視点に欠けるものとなっており、まさに交付税等がもたらす中央集権的な統治体制の弊害を体現したものとなっている。
4.地方法人特別税

2008(平成20)年10月1日以後開始事業年度から適用開始となった制度に、地方法人特別税というものがある。この制度はトータルの企業の負担が変わらないためあまり問題視されていないが、実はたくさんの矛盾と問題を抱えている。
(1)地方税の歴史において逆進的な制度
(2)地方交付税との矛盾
(3)事業税の超過税率との矛盾
(4)地方消費税との関係
5.地方消費税

応益負担原則に相応しくない制度として地方消費税がある。しかし最近の知事会の報告等を見ていると地方の税収入の安定した確保のためだけに、地方消費税の増税論が取りざたされている。

(1)地方消費税の仕組み

(2)地方消費税と応益負担原則
消費型付加価値税である消費税については、消費税の性格が最終段階の取引への課税ということから、多段階の取引への課税という消費税の外形は化身にすぎないという理解にたってなされている。

地方消費税は最終消費者に対してのみ課税されるため、行政サービスという受益を受けているにも係わらず前段階の業者については何らの課税がされないことになる。

(3)地方消費税と地方自治
地方消費税は一旦、国が徴収したあと清算という形で各都道府県に配分される。都道府県に課税権はあるが、地方税法において地方消費税に関する税率等の裁量権はないのである。そのため実質的には昔の付加税と変わらなくなっている。

(4)付加価値税である外形標準課税と地方消費税
シャウプ勧告で主張された付加価値税としての外形標準課税と、付加価値税としての地方消費税では最終の負担を最終消費者に求めているが、法人擬制説に立たないのならば応益負担の原則に反する。
6.応益負担原則と応能負担原則

応益負担の原則は、行政サービスにより受ける受益に対して相応しい負担をすべきだとする原則である。しかしいくら受益を受けているからといって担税力のない人に納税負担を強いることはできない。応益負担原則は、消費税が消費に対して課税すると言っているのと同様に、行政サービスにより受ける受益に対して課税するという課税標準をしめしているにすぎないのである。負担原則としては納税者の負担能力を考慮した応能負担原則が優先されることになる。
7.最後に

シャウプ勧告は純粋に市町村を行政単位とする地方自治の確立を目指し、地方税制はそのあるべき地方自治を確立するための財政的裏づけとして捉えられていたのである。しかし近年の地方税の改正をみると安定した税収入の確保を名目に、地方自治を捨て中央集権的なシャウプ勧告以前の隷属的な地方税制に逆戻りをしていると映る。シャウプ勧告の歪められた理念はこれからどこに向かうのであろうか。

VI  税務行政 清野智江  

1.戦後の税務行政

1947(昭和22)年に申告納税制度が導入され、従来の賦課課税方式(前年度の所得に課税)が廃止された。1948(昭和23)年には、税収不足から目標額を割り当てて徴収するという徴税強化が図られた。こうした背景のなかシャウプ使節団は、1949(昭和24)年5月に来日した。

シャウプ勧告では、戦後の税務行政の実態を勧告附録D で適正な税務行政に対する障害として次のように分析している。
(1) 個人所得税は少数の富裕層のみに賦課されていたが範囲が拡大され、大多数の市民に突然影響してきた。
(2) 農地改革で誕生した小自作農が納税者となった。
(3) 小額賃金取得者と小規模事業者も、新しい納税者となった。
(4) 所得税・法人税の執行に必要な正確な経理と帳簿が欠けていた。脱税のための二重帳簿の存在があった。
(5) 税務行政において重要な役割を演ずる計理士と弁護士が役に立っていない。
(6) 政府の税務事務は、無組織、非効率な状態にあった。税務官吏は若年、無経験、薄給であった。
(7) 戦後の猛烈なインフレが物価と賃金を完全に不安定なものにし、政府の経済統制は闇市場を招来し、脱税の横行を招いた。
2.シャウプ勧告における税務行政の改善

シャウプ勧告では、税務行政の改善について以下のような項目をあげている。
(1)目標額制度の廃止・・・・・・目標額制度とは、所得税収入の目標を各税務署の管轄する地域ごとに作成するものである。各地域の目標の合計額が中央官庁で作られた全国的目標額に合致するように、国税庁、国税局、税務署の協議のもとで行われていた。

(2)前年実績を基礎とする予定申告・・・・・・所得税納税者に、前年の最終決定所得額の同額の予定申告を義務付け、そのような申告が行われた場合は、予定申告に対する仮更正はしないことを保証するよう勧告が行われた。

(3)源泉徴収・・・・・・給与又は賃金の支払において、明確に総収入が幾らであり、各控除はなんのためで、どの位の額であるかを明記すべきことを要請し、もし従わなかったら雇用主を厳罰に処すべきことを勧告。

(4)所得税申告書様式の簡易化・・・・・・少額納税者の申告書用紙は、計算の種類を少なくし、分かりやすい用語を使用するなど様式の簡易化を勧告。

(5)高額所得者の所得金額公示制度・・・・・・納税者の協力を得るためには申告書は秘密にした方がよいとして、閲覧させるのを廃止し、高額所得者の氏名、所得金額は一般に知らせることが望ましいと勧告、公示制度が設けられた。

(6)青色申告制度の導入・・・・・・日本の税務行政の悪循環(過少申告→見込みによる更正決定→不服申立てと税金滞納→徴収強行)を断ち切るため、その中心に「青色申告制度」を置くべきとの勧告が行われた。

(7)同業組合を利用した徴税慣行の廃止
申告納税を定着させるために、税務当局が同業組合を利用して徴税する慣行の廃止が強調されている。

(8)協議団の発足
権利救済制度としては、不服前置制度を異議申立てと審査請求の二本建てとし、審査請求の場合は協議団の協議によるとした。

(9)納税者の代理
納税者の代理人である「税務代理士」は税の専門家というよりもむしろ上手な取引者になっている。税務代理士は、税法や経理をもっと知っていることを要求されるべきであるとした。
3.現状の税務行政と問題点

(1)青色申告制度
青色申告制度は、前述のようにシャウプ勧告によって創設された。この制度は、正しい記帳による申告を普及させる役割を与えられ、選択は納税者の任意なので、インセンティブとしての特典が用意された。青色申告制度は、記帳慣行が備わった暁には記帳義務へ移行するという過渡的性格を持っていた。

現在では、過渡的制度である青色申告制度は既に役割を終えたのではないかとの指摘がある。それは青色申告の特典が課税の公平を害していると考えるからである。

その解決策として青色申告の記帳を一般的な記帳義務として、青色申告の特典はすべての納税者に認めたらどうかとの意見がある。それについて考えてみる。

(2)源泉徴収の租税関係
源泉徴収の租税法律関係は課税庁と雇用主(源泉徴収義務者)との間においてのみ生じる。雇用主と給与所得の納税者との間の関係は税法上も民事法律関係である。法的には、給与所得者は納税者としての権利を奪われ、事実上、租税法律関係から排除されている。

(3)適正手続
租税に関する手続法規は、国税通則法、国税徴収法、国税犯則取締法等がある。この規定が納税者の権利を保障しているとはいえない。なぜなら、税務調査に関する手続き規定は国税通則法にはなく、実体法の所得税法等に簡単に書いてあるだけだからである。このため、裁判において、課税庁の裁量を広く認める傾向にある。
4.あるべき税務行政と税理士の役割 - 納税者の身になって -

税務行政は、一番適正手続きの要請がされるものであるといえる。今後、行政手続法が整備されないようなら、国民世論で納税者権利憲章法の成立を促す運動が必要だと考える。そのためには、世論を動かすことが重要になる。

また、税理士が納税者の代理人として、税の専門家として、きちんと適正な税務行政についての発言をしていかなければならない。それは、日常的な小さな問題からきちんと対処していくことであり、納税者の身になって現場でたたかっていくことからはじめられる。
 
第3分科会  普遍主義的福祉国家をめざして
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