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特集  第45回佐渡全国研究集会  分科会テキスト
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酒造りと酒税法
(分科会第一部酒税法ガイダンス)
関信会  永原  征夫  


はじめに

世に酒の種類は多いが、ここではやはり日本人の酒という意味で、日本酒と呼ばれる「清酒」の現状をについて酒税法をもとに観察してみた。
この報告は、いわゆる「研究発表」ではないということと、分科会第一部における問題提起であることをお断りしておきたい。
清酒は全国1700余の製造場で、年間約70万kl製造される、わが国の愛好家に最も親しまれている酒である。
税法で規定される日本の酒

まず「清酒とは何か」ということから入りたい。
酒類にはこの法律により酒税を課する。(酒税法第1条)
この法律において「酒類」とは、アルコール分1度以上の飲料をいう(同2条 )

酒類は発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類、混成酒類の4種類に分類する( 同条 )清酒は醸造酒に分類されるが、醸造酒には清酒のほかに品目でみると、ワイン、ビール、老酒、紹興酒のほかハニーワインと呼ばれるミード、タンザニアの筍から造るウランジ、りんごから造るフランスのシードル、リュウゼツランからできるメキシコ地方のプルケなどがある。
清酒とは何か

この分科会の目的から最も重要なのは「清酒」とは何かである。
清酒に関する用語の定義を述べる。

アルコール分とは、
温度15度の時において原容量百分中に含有するエチルアルコールの容量をいう(第3条一)

清酒とは、
米、米こうじ、水を原料として発酵させて、こしたもの(第3条七イ)
米、米こうじ、水および清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む)の重量の百分の五十を超えないものに限る。)(同ロ)
清酒に清酒かすを加えて、こしたもの(同ハ)
上記の政令で定める物品とは、
アルコール、しょうちゅう、ぶどう糖その他財務省令で定める糖類、有機酸、アミノ酸塩、清酒(施行令2条)
ぶどう糖以外の糖類ででんぷん質物を分解したもの(施行規則1条の2)

その他酒類の製造免許(同7条)については後に述べるが、酒母等の製造免許(同8条)、酒類の販売業免許(同9条)、酒類酒母の処分禁止(同44条)、密造酒の所持の禁止(同45条)などの規定がある

このようにわが国においては、酒類に関することはすべて酒税法という税法で規定されており、「酒造法」は存在しないのである。
戦後から抜け出せない?酒造界

本来清酒は米と米麹と水のみで造られる(純米酒)ものであったのに、いつかアルコールで薄め味を調えるために、ぶどう糖や化学調味料まで添加するようになったのである。

戦後のわが国には「三増酒」(三倍増醸酒)と呼ばれる「清酒」がはびこった。
米と米麹で作ったもろみに、薄めた醸造用アルコールを入れ、糖類・酸味料・グルタミンソーダなどを添加して味を調えたもので、当初の約3倍に増えることからこう呼ばれた。
終戦直後は原料となる米がきわめて不足していたため、少ない原料から大量の「清酒」を造る技法が歓迎されたのである。

ところが、国内のコメの生産が十分になっても、長い間メーカーはこの低廉原価の製法を捨てなかった。
90年代からこの製法は少なくなったが、現在もアルコール添加酒(アル添酒)はあたりまえに造られているのである。

その前に清酒のタイプの分類をしておきたい。
タイプの分け方にはいくつかあるが、ここでは普通酒、本醸造酒、純米酒とそれぞれの吟醸酒に分けてみよう。

※ 合成清酒(合成酒)とよばれるものは醸造酒ではない。
各タイプの特徴・味わいは分科会第二部において、合成酒も含めて体験していただきたい。
酒の質には関心ない国税庁

白米1トンから純米酒2,100Lができるといわれるが、アル添酒の一例として本醸造酒の場合、その製法として白米1トンにつき約115Lのアルコール添加が許されている。(酒類業組合法)
アルコールの添加により度数が高くなった製品に、加水することによって本来の17度にすると、2,800Lの本醸造酒ができるのである。
味を調えるためにさまざまな添加物が加えられるのは、先に述べたとおりである。

添加用アルコールは、醸造用アルコールと表示されるが、さとうきびの搾りカスを主原料として造られたものである。
上記は本醸造の場合であって、普通酒は更に多量のアルコール添加が認められている。
ある統計によれば、清酒に添加される醸造用アルコールは年間8万klといわれる。
少なくともワインにはこのような製法はない。
清酒といえば「純米酒」と思っている多くの愛好者が、知らない間に清酒はこのような「まがいもの」になっていたのである。
その原因の一つは、どのような酒であっても、消費者たる国民がどのように思っても、税収が確保できればお構いなしという国税庁の態度にあると考える。

※酒類業組合法は正確には「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」といい、酒類の容器等のラベル表示について規定している

また表示については、日本酒造組合中央会の申し合わせ事項がある。
アル添を法律で禁止せよという議論がある。一方アルコールを添加することによって味は淡麗になるといわれ、淡麗酒を好む人の容認論もあることもまた事実である。

問題はメーカーの要望に応える形で、際限もなく本来の清酒から程遠いものになっていく酒造りと行政の現状をどうするのかということである。
アルコール添加以外に淡麗酒を造る方法はないのか。
このことについては分科会第二部嶋悌司元新潟県醸造試験場長、平島健尾畑酒造社長の発言に期待したい。
製造免許制度

次に当たり前のように思われているが、清酒を製造するには免許が必要になる。
酒類を製造しようとする者は、製造場の所在地を管轄する税務署長の免許を受けなければならない。(第7条)

清酒・ビールは年間60kl以上製造できることが要件の一つとなっており、税金を払うからといっても、自家用酒の製造は認められないのである。

税収確保のためなら消費者国民の嗜好や要求、あえていうなら幸福追求権まで法律で剥奪してよいのかという点を問題視するのである。

自家用製造を認めたら、わが国の酒造業界は崩壊するのか、酒税行政は混乱を招くのか、第二部三木義一立命館大学大学院教授の報告に期待したい。
外国の酒造法は

酒造りを「酒造法」で規定する国はあるのかという課題が残った。
16世紀のバイエルン公国のビール純粋令は「ビールは大麦、ホップと水のみで造る」と規定されていたが、ドイツのビール業界においてはこの基準が遵守されており、精神はドイツのビール酒税法に引き継がれている。

EU各国のワイン法は、この原料を使ってこの製法で醸造されたワインにはこのような表示をするというように、表示の基準をさだめ品質の保証をするもののようである。
この点についても第二部での諸先生方の発言に期待したい。
税金面から酒をみる

食料品である酒になぜ課税するのかという問題であるが、今回の報告の目的には直接関係ないので、課税者側の一般的な考え方を記述しておく。

理由1    酒は嗜好品であって生活必需品ではない  購入の背後に担税力が期待できる
2 飲みすぎると健康を害する  必要以上の消費は好ましくない
3 酒類は全体としてかなりの消費量があるので一定の税収が見込める

以上の三点のようである。

次に国際的にみて酒は課税対象なのかという点をみてみよう。
酒を課税対象とする国は多いが、
アメリカをはじめイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペインといったEU諸国から韓国、ロシア、タイ、インド、フィリッピン、メキシコ、キューバ、ブラジル。

中国も消費税(わが国の旧物品税)の名で酒に課税。
課税しない国・地域は探すのはむずかしい。
グルジア、ニュージーランド、ドバイ、香港、マカオくらい。

ちなみにわが国の酒税の収入は、
20年度酒税収入決算額1兆5,320億円で、収総額53兆5,540億円の2.9%である。
酒の税率

酒の税率(同23条)もみておきたい。
酒税法は酒類を原料、製造方法、アルコール分、エキス分によって10種類11品目に分類し、それぞれに異なる税率を課している。
また酒類・品目によっては、特定原料の使用量や酒類の性情による税率区分を設けている。(ビール、発泡酒、ビール風味の酒など)
資料参照
酒税の国際比較も関心を持たれるところである。
それぞれの国の歴史的経緯や飲酒習慣などを無視して、一概に論ずるのはいかがなものかとは思うが、機械的に比較すれば ビールはメッチャ高い ウィスキー・ブランデーは高くない ワインは高いがもっと高い国もある、ということになりそうである。
酒造界に消費者の声はとどくのか

酒は国民生活に大きな影響を持つ食品であり、食の安全からいえば農水省あるいは厚労省が管轄するのが自然である。
食料品である酒の製造をなぜ国税庁が管轄するのか。これまでの問題もこの辺に原因があるように思えてならない。
詳細は第二部桑原龍太会員の報告に期待したい。
食品衛生法、景品表示法が、近く発足する消費者庁に移管されるという。
消費者庁の発足が近い今、真に国民のための酒造行政を構築するべく声を上げる時ではないかと、清酒愛好家を含めた世の消費者に訴えたいのである。


【資料】
●酒類の税率


発泡性酒類  22万円/kl
ビール  220,000円
麦芽の重量が全原料の25〜50%のもの  178,125円
同じく  25%未満のもの  134,250円
醸造酒類  14万円/kl
この規定にかかわらず  清酒は  120,000円
果実酒は  80,000円
蒸留酒類  20万円/kl  アルコール度数20度から1度上がるごとに1万円プラス  25度焼酎は250,000円
混成酒類  22万円/kl
●酒税の歴史

酒類が課税対象となったのは室町時代(1336〜1573年)といわれている
営業免許税的性格をもった制度として、酒税が設けられたのは1371年である(3代義満の北朝応安4年)
明治時代になって消費税的性格をもつものとなった
1873年(明治6年)地租改正条例で多くの雑税が整理された中で「酒類税」として残ったという
製造免許は1895(明治28)年  販売免許 は1938(昭和13)年に制度化された
1953(昭和28)年に現行酒税法が確立
1962(昭和37)年酒税にも申告納税制度vが導入される
●「取り締まり」対象

飲酒運転規制  日本は国際的に見て厳しい?罰則適用基準は
0.10mg以上  ノルウェー スウェーデン
0.15  〃    日本
0.25  〃    ドイツ、オーストラリア、ポルトガル
0.40  〃    アメリカ、イタリア、スイス、カナダ、ニュージーランド
0.50  〃    オーストリア
(いずれも呼気1L中のアルコール濃度)
●世界の禁酒国

宗教的戒律で禁酒する民族は多いが、
イラン、バングラデシュ、イラク、スリランカ、エジプト、モロッコ、ドバイ
法律で絶対的に禁止している国は少ない
クウェート、サウジアラビア、リビア(持ち込み、製造、売買を禁止)、パキスタン(許可があれば可)、アラブ首長国連邦(内務省の許可必要)
●未成年者の飲酒禁止

何歳から飲めるのか
21歳 エジプト  アメリカ  マレーシア  チリ
20歳 日本
19歳 カナダ  韓国
18歳 イギリス、ドイツなど
いずれもビールは16歳から可  インド、ブラジルなど多数
16歳 イタリア、ベルギー、ポルトガル
15歳 オーストリア

第2分科会  シャウプ税制からみた現代税制の諸問題
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