(1)会社の内部機関であることの是非 |
税理士は、制度創設以来一貫して外部専門家として位置づけられ、このことを前提としてあらゆる制度設計がなされてきた。今般の「会社法制の現代化」に対する我が業界の要望も、この点について変更を求めてはいなかった。
日税連の「小会社における計算書類の適正担保制度のスキーム」(平成15年11月20日)においても、「小会社の計算書類について外部の会計専門家による適正担保制度を導入することが必要である」ことを主張し、「監査役制度に代替あるいは補完する制度」の導入を求めていた。
これに対し、会計参与は、定款の定めにより設置する会社の機関であり、監査役の代替機関ではなく、取締役等と共同で計算書類の作成当事者になるというものである。
この点について日税連は、税理士が日常的に行っている実務の有り様が法制化されたものであるとの説明をしているが、従来、税理士は外部専門家として業務を行ってきた実態からみて、適切な説明とは言えないと思う。
むしろ、会計参与は、納税義務の適正な実現を図るという税理士法上の要請とは別次元である、我が国の会社会計水準の向上を図るという会社法上の要請から設けられたものであり、従来の税理士業務の一面を法制化したものではなく、会社法固有の要請に応えるために新たな内部機関として制度設計されたものであると考えるべきである。
したがって、税理士法及び会社法のいずれも、同一の税理士が同一の会社について税理士業務の受任と会計参与の就任を兼ねることを禁じていない。
税理士が、税理士業務の受任と会計参与の就任を兼務することの是非については、次に述べる専門家としての独立性が確保されるどうかによって議論が分かれるところであるが、税理士法の要請と会社法の要請に同時に応えていくことは基本的には可能であると考える。
ただし、対象会社によっては、これらの要請を同時にクリアすることが困難な場合もあり得るのであって、その場合は個別事案ごとに判断していくことになろう。 |
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(2)専門家としての独立性について |
ところで、会計参与が会社の内部機関であることをもって、税理士の使命規定の「独立した公正な立場」と整合しないのではないかとの意見がある。
いうまでもなく、税理士法の要請である「納税義務の適正な実現」を確保するためには、専門家としての独立性が確保されなければならず、税理士が課税庁及び納税者のいずれにも偏ることなく独立した公正な立場を貫かなければ租税法令に従った納税義務の適正な実現を図ることはできない。
ただし、同一税理士が同一会社の会計参与に就任したからといって、その税理士が租税法令を遵守できなくなるわけではないのであるから、税理士法の要請を損なうことにはならず法的には問題ないと考えるべきである。
一方、会社法の要請から、会計参与に対しても専門家としての独立性が求められるのである。
会計参与は会社からの精神的独立性を確保したうえで適正な計算書類の作成等を行わなければならず、会計規範の遵守をためらう取締役に対しては専門家の立場から説得して適正な会計行為を誘導しなければならない。
会計参与の資格を税理士及び公認会計士に限定しているのも、専門家としての独立性が計算書類の適正性を担保することを期待しているからである。
このことは、コーポレートガバナンスを確保するために設けられた社外取締役に対して、会社からの独立性を求めていることと同様の趣旨である。
したがって、税理士が税理士法の要請による独立性を確保することと、会計参与が会社法の要請による独立性を確保することは何ら矛盾することはないと考える。 |
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(3)会計参与の民事責任について |
税理士の業務(税理士法2条)は、委嘱者と税理士との委任(準委任を含む)契約に基づいて行われることから、税理士は、委任の本旨に従って善良なる管理者の注意義務をもって受任した事務を遂行しなければならないとされる。
したがって、税理士は、委嘱者に対して、委嘱された事務処理の懈怠によって発生する「債務不履行責任」(民法415条)、及び、故意又は過失により委嘱者の権利を侵害した場合に問われる「不法行為責任」(民法709条)に基づく損害賠償責任を負う。
一方、会計参与の民事責任は、前述した通り、(イ)任務懈怠により会社に損害を与えた場合に会社に対して負う損害賠償責任(会社法423条)、(ロ)職務遂行にあたって悪意又は重過失があったときの第三者に対する損害賠償責任(会社法429条)、(ハ)計算書類等に虚偽記載をしたときの第三者に対する損害賠償責任(注意義務違反がなかったことの立証責任は会計参与が負う)(会社法429条)の3区分に整理できる。
このように、会計参与の負うべき民事責任の相手方は、就任した会社に限定されることなく、会社の株主や債権者等の第三者にも及ぶのであり、税理士の業務から生じる民事責任の相手方が基本的には委嘱者に限定されるのに比べ、その責任の範囲は格段に広いのである。
また、税理士が会計参与に就任した場合には、租税法及び税理士法のみならず会社法についても厳格な法令遵守が求められる。
したがって、税理士業務の場合は、委嘱者に対する民事責任と税務官公署に対する税理士法上の責任を意識していれば良かったのであるが、会計参与の場合は、極めて広範囲な相手方に対する民事責任のほか会社法上の刑事責任等も考慮した上で職務を遂行しなければならないこととなる。
ただし、会計参与の責任は、会計参与の職務の範囲に限定されるのであり、会社の業務執行全般について負うものではない。すなわち、会計参与は計算書類の作成等にあたって法令違反や虚偽記載があった場合には責任を問われるが、職務遂行にあたって違法行為がなければ、仮に会社が倒産した場合であっても責任を問われることはないのである。 |