1. 不服申立制度 |
(1)不服申立 |
不服申立ての趣旨として、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって、簡易迅速な手続きによる国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。(行政不服審査法第1条)
なお、国税に関する処分の不服申立ての手続きは国税通則法に規定されている。 |
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(2)異議申立 |
納税者が国税に関する処分に不服がある場合は、原則としてその処分をした税務署長に対する異議申立てを行う。(通則法75条1項)
裁判所での争いは、不服申立てを経たあとでないと提起することができない不服申立前置主義が取られている。(通則法115条1項) |
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(3)審査請求 |
審理をする国税不服審判所は、執行系統からは切離された審査専門の機関であるが、国税庁の内部機関であり、同じ財務事務官であることから人事交流も多い。
独立機関としての裁判所と異なり、自ずと限界がある。 |
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(4)異議決定を回避する行為と不服申立 |
本件では、当初の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分等について、申立人は異議審理庁に異議申し立てをした。
さらに「意見陳述書」を提出し、係争中であるにもかかわらず、異議審理庁が異議決定することなく当初処分をいったん取消し、再度処分を行ってきた。
当初重加算税の対象となっていた一部を過少申告加算税に変更している。これは異議審理の段階で申立人が、「調査の過程で申立人の代表者に渡した架空仕入48万496円は、単なる2重計上の計算ミスである旨のメモ書きがある。」と指摘した結果によるものである。
いわば実質上審議をし、その結果を異議決定で行わず、申立人の主張を受け入れ、原処分の取消しで対応したもので、異議決定権を放棄したことになる。
通則法26条では再更正はできるとなっているが、不服申立制度が、納税者の権利救済と考えた場合、納税者の権利が著しく損なわれることになる。
二度にわたる更正処分は、当局側がしっかりとした税務調査に基づく検討を加えないままに行政処分を行ったと考えられ、それ自体違法行為と言える。 |
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(5)判例からの検討 |
通則法24条から通則法30条の規定に基づき最高裁の判例もほとんどが税務当局を容認した判例となっており、納税者に厳しい判決が下されている。
しかし、昭和42年9月19日の最高裁判決において少数意見として田中二郎裁判官の次の少数意見が納税者側の意見を汲み取っていると思われる。
『多数意見の認めるように、被告行政庁の側で、自由に第2次、第3次の更正処分を行なうことができ、しかも原告側でこれに応じて、訴の追加的併合(又は訴の変更)をしない以上、その主張がすべて排斥されざるを得ないことになれば、原告側の煩は堪えがたく、殊に、訴訟法に精通しない原告側は、被告行政庁側の措置にふり廻わされることになって、救済制度として重要な役割を果すべき取消訴訟の目的は達せられないことになることをおそれざるを得ない。』と述べている。 |
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2. 青色申告取消処分をめぐって |
(1)本件事案の特殊性・・・係争中に取消処分を繰り返す |
(2)青色取消の本件における効果 |
欠損金繰越の特典の消滅 |
5年間の更正のうち、最初の2年間は増額、後の3年間は減額の処分となっている(差引ではわずか255万円の増差)。減額の結果、2事業年度分について、法人申告所得がマイナスになり、その合計額707万円について損失の繰越ができない。 |
重加算税の賦課 |
「理由附記が不備である」として、青色取消処分が取消されてしまうと両規定とも、「隠蔽又は仮装」を要件としているので、「重加算税の賦課決定」にも影響が及ぶ可能性がある(法人税、消費税で758万円の重加算税額)。 |
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(3)青色取消理由附記の意義と程度 |
意義・・・ |
イ) 処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制する。
ロ) 処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える。 |
程度・・・ |
承認が取消されると、特典がその取消事由に係わる事業年度までさかのぼってすべて失われる。承認取消処分は一時的な不利益をもたらす青色申告更正処分と比べても、はるかに大きな不利益処分といえるので、その理由附記の程度については更正処分の場合(法130)以上の詳細 さが要求される。 |
事務運営指針 |
平成12年「法人の青色申告の承認の取消しについて」(事務運営指針)が個別通達として発遣された(平12・課法2-10)。
その趣旨は「法人の青色申告の承認の取消しは、法第127条第1項各号に掲げる事実及びその程度、記帳状況、改善可能性等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合について行うこととし、この場合の取扱い基準の整備等を図ったものである。」 |
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(4)本件の争点 |
係争中に取消処分を繰り返すことは異議申立権を奪うことになる |
課税庁が勝訴できると判断するまで取消処分を繰返すことは不服申立の趣旨に反する。 |
2つの取引事実だけで、帳簿全体の信憑性は否認できない |
「2回の記載誤りで帳簿全体の真実性が認められない」としながら、この取引以外は納税者の計算に基礎を置いて更正している矛盾。 |
審判所の判断 |
二つの争点に対し、審判所は論点をすり替え、バッサリ切り捨てた。
課税庁迎合→審判所の歴史に汚点 |