論文
特集 秋のシンポジウム報告
> 2013年秋のシンポジウム(東ブロック)に参加して
> 2013年秋のシンポジウムに参加して(東ブロック)
> 税経新人会・秋のシンポジウム(東ブロック)の感想
> 「マイナンバー制度が税理士業務や税制・税務行政に与える影響」
秋のシンポジウム(東ブロック)に参加して

> 2013年秋のシンポジウム(西ブロック)に参加して

2013年秋のシンポジウムに参加して(東ブロック)
東京会 萱沼 友彦
2013年11月9日、中央大学駿河台記念館にて『マイナンバー制度が税理士業務や税制・税務行政に与える影響』と題し、秋のシンポジウムが開催された。

個人番号は2015年10月ごろに全国民に番号が通知され、2016年1月以降個人番号カードの交付が開始される予定となっている。当初は行政機関にその使用が限定されるとのことだが、2018年以降は民間も含め広く活用していくとのことである。

当初は行政機関に使用が限定されるといっても、行政機関に個人番号を報告するのは個人番号関係事務実施者、すなわち一般企業や税理士である。今後事業主は給料の支払いに際して、従業員に対し個人番号の提供を要求しなければならないことが想定される。個人番号の取扱いについて、提供された個人番号が本当に本人のものなのかを確認しなければならない責任、漏えい防止等の適切な措置を講ずる責任が生じるとのことである。しかし個人商店等の小規模事業体に、この責任を周知徹底させることができるのかと考えるとおそらく不可能だと思う。

チェーン店などでは、会員カードの作成の際に身分証明書の提示が必須となっている。私は運転免許証を提示しているが、免許証の番号はかなりの確率で控えられる。個人番号の民間利用が開始されれば、個人番号カードの提示が必須となり、番号が控えられるであろうことは想像に難くない。免許証番号であればたいしたことはない。しかし収入や家族構成、財産状況、病歴などすべての個人情報を網羅する番号であれば、従業員が売買等の目的で番号を持ち出す可能性は否定できず、実際には個人番号の流出は避けられないだろうと思った。

また、個人番号を有していない人に支払った給料は、課税庁側で受取人の本人確認ができず、経費性の否認につながる恐れもあること。事情があり個人番号を取得できない人は、いわゆるブラックとして扱われ、就職や住居の確保はままならず、実社会から抹殺されてしまう危険性があること。これらの事情から、本人申請により番号カードを交付するとしてはいるが、実質は強制交付となんらかわりはないこと。

ICチップへの記録・個人情報の閲覧ともに割と簡単にできてしまい、国家や大企業によって国民は監視・誘導される社会へとなってしまう懸念があること。
などなど、詳細を聞くほどに将来の不安が増大した。

税制への影響としては、消費税のインボイス方式への移行が現実味を帯びてきているとのこと。インボイス方式となれば、消費税は現行の「価格の一部」や「預り金的性格」ではなく、完全なる「預り金」と課税庁に定義される。その場合、基準期間の廃止、事業者免税点や簡易課税制度の廃止、複数税率の導入、滞納処分の厳格化などかなり厳しいものとなることが予想されるとのこと。

仮にインボイス方式となっても、「消費税込1万円」での取引を余儀なくされる中小企業は少なくないだろう。この場合、取引実態は「預り金」ではなく「価格の一部」となんら変わりはない。中小企業は税負担の増加から倒産・廃業を余儀なくされ、一般会社員についても企業数の減少により就職・再就職が困難となる。結果、我々庶民の生活は一層苦しくなるのではないかと個人的には思う。

権利を主張することがはばかられる昨今においては、国家やマスコミによる世論誘導により、記入済申告書も導入されてしまうのではないかと思ったりもした。

非常に危険な制度であるにもかかわらず、国民への周知は、制度の危険性よりも行政手続きの利便性に偏っていると感じる。個人情報の流出防止やマイポータルの民間活用の歯止めなど、いかにして国民的議論にしていくかが一番の課題であると思う。私自身ができる一歩として、まずは身近にいる人たちに今回学んだことを伝えていきたい。

(かやぬま・ともひこ)

▲上に戻る