去る11月9日、税経新人会主催の東ブロック開催「マイナンバー制度」シンポジウムに参加させていただいた(参加者89人)。
マイナンバー制度が税理士業務や税制・税務行政等にどのような影響を与えるのか、辻村祥造氏と阿部徳幸氏より詳細な報告等がされ、この制度の問題点を理解することができた。
今年5月にマイナンバー法(通称)が成立・公布されたことをうけ、8月には内閣官房社会保障改革担当室より「社会保障・税番号制度について」と称した本制度の概要が公表され、その中で今後のロードマップとして、制度構築やシステム構築等が詳しく述べられている。今回のシンポジウムの資料として提供され、Web 閲覧も可能であることからぜひ、アクセスされることをお薦めする。
以下、参加しての印象に残った内容を中心に述べていきたい。
マイナンバー法でまず何より大きな問題は、その中身について、われわれ税理士を含む多くの国民の理解が得られていないということである。言葉だけ聞いたという国民も多いようだ。
もともとのこの制度の始まりは2001年の小泉内閣にまでさかのぼるが、社会保障改革と税制・行政効率化などがリンクされ、その後、国民向けには本制度のメリットのみが強調されてきた感がある。脱税・不正受給の防止や年金を中心とした社会保障制度の安定化、防災利用、そして行政の効率化などなど。
新人会が3年前に開催した同シンポジウムや名古屋全国研での東京会の研究報告により、メリット・デメリット問題や各国の現状など総合的に学習する機会をいただいたが、やはり情報漏えいというセキュリティ問題が頭から離れない。民間利用を禁止していない本法は、民間利用が拡大すればするほどその不安は増大するし、悪意に利用される危険性もはらんでいる。
住民票を有する全国民に12桁の番号が付番され、希望者に個人カードが交付されるという。全ての収入に関する情報から、年末調整や確定申告に必要な控除関係の情報が漏れなく登録される本システムは、個人番号さえ手に入れば情報が格納されているマイポータル(マイボックスのようなもの)に簡単にアクセスできてしまう。民間利用が一般生活にも拡大し、ちょっとした身分証明書代わりに個人カードがコピーされないとも限らない。せめて利用範囲を厳しく限定しているドイツやフランスなどのヨーロッパ並みに制度を見直してほしいものだ。因みに法人にも13桁が付番されるという。約3年後の施行(未定)が迫るなか、このシステムの最大の欠点が全国民に理解されなくてはならないとあらためて強く思った次第だ。 |
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次に辻村氏から詳しく話されたわれわれ税理士業務への問題がある。
いま述べたセキュリティ問題が税理士事務所には罰則付きで関係してくる。個人番号関係事務実施者である税理士事務所は特定個人情報の管理には格段の注意が必要になるという。税理士法にも連動してくる。
年末調整や確定申告の際、納税者だけでなく給与支払者である法人、あるいは扶養義務者等の税務申告に関連する個人の番号が必要となりその管理責任がでてくる。確認のための事務量が増えるのは明らかだが、その管理(廃棄を含む)のための新しい仕事が生じてしまうだろう。もっと現実に難しいのは、同じことが顧問先にも求められる点だ。
また、この情報システムをさらに有効活用するために電子申告が一層推進され、法定調書等の提出範囲も拡大されようとしている。別の情報によると「財産・債務の明細書」の法定調書化も検討されているようだ。あと個人番号をもたない従業員に支払った給与が経費や損金の否認に繋がる恐れがあるとの話が印象深い。 |
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最後に阿部氏より「税制」に与える影響、特に消費税に絞った問題提起をうけた(詳しくは新報10月号参照)。
マイナンバー制度の共通番号を、税率引き上げによる逆進性対策としての給付付き税額控除等の検討や簡易課税制度のみなし仕入れ率の見直しに関連させている。また免税事業者にも番号が付番されることから、インボイス制度に連動させることができ、明らかな「預り金」へと変容し、基準期間なるものも、免税事業者の概念もその存在意義が問われる。インボイス方式の付加価値税を採用している韓国を例に、共通番号により収集されたインボイスの合計税額より簡単に納税額が計算されることから、消費税導入時の事業者の事務負担を根拠にした制度は廃止・縮小の方向にいくのではないか。
各種の個人情報が集中管理され、データーが揃えば行政等により自動的に処理もできる社会。そうすれば、判断を必要としない税務申告は税理士など必要がないということか?申告納税制度にかかわる問題である。
施行後の庶民は全ての情報が把握され一網打尽の状態、片や資産家はタックスヘイブンへの資産移転による文字通りの天国状態ではないか?現行のマイナンバー制度は、すべての個人情報が国等に吸い取られてしまうなんてとても不安だ。制度導入は時代の流れと言われればそれに抗うなんて現実的でないのだろうが、導入と維持に大金を費やすマイナンバー制度、潤う企業と闇市場だけが喜ぶことのないよう願い、将来国民がどんな評価を下すか、注視したい。 |
(きた・まさゆき) |