論文
特集 第49回京都全国研究集会・分科会報告
> 医療をめぐる事例研究
> 税理士法の歴史と今後の課題
> 国税徴収法の「自力執行権(差押等)」をどうみるか公権力の乱用を許さないために
> 現代税制と分配的正義 分科会発表後の討論
> 新しい国税通則法の下での税務調査

新しい国税通則法の下での税務調査
副理事長 松田 周平
1.はじめに

当日の参加者は部屋一杯の79名でした。まずもって参加戴いた皆さん、当日発言戴き分科会成功にご協力いただきありがとうございます。御礼申し上げます。今後の私たちの税務調査での一助になればと思います。それでは報告いたします。

冒頭清家理事長から、国税通則法が改訂された背景及びそれに対する全国協議会の対応、パンフレット「新国税通則法の税務調査」(以下『パンフ』と略す)を発行した経緯等について報告があり、今後の税務調査に於いて活用してもらえればとの話がありました。
2.税理士関与の下での税務調査
基本的には新報8月号とパンフに沿って発表しました。時間はおよそ40分でした。ここでは新報掲載後に寄せられた事例を中心に補足について紹介します。

現在事前通知は一般に、納税者・税理士と日程調整を行った後に、改めて事前通知が行われています。一方的に日時が通知される訳ではないので、当初心配されていた日程変更について、特に問題とされた事例はありませんでした。ただ一度通知された日時を変更するには、納税者から合理的な理由を付してと法律は言っているので、合理的な理由の範囲はどの程度なのか注意する必要はあります。

以下追加の事例です。

事前通知の税目に於いて、「消費税及び地方消費税」とすべきところを「消費税」と略して通知を受けたケースで、これについては後ほど討論で若干意見ありました。

事前通知が行われないまま税務調査の当日を迎え、調査官が揃ったところで冒頭その事を正した事例がありました。

コピー・留置きの問題では、新報に「正当な理由がなければ質問検査権の侵害になるのでは・・・」と調査官に言われた事例です。税理士は提示・提出はその通りだが、コピー・留置きは違う。何も悪い事をした訳でなく、令状なしなのに本人の了解なしに持ち帰ることは出来ないと反論。後日も含めその問題についてのやりとりはありませんでした。

現物給与になるか否かの問題では、平行線のまま時間が過ぎ最後は落とし所もあり修正する意向を示しました。ただし今後課税されないためのアドバイスを署員に求めたところ、全員に周知させること、高額でなければ大丈夫との返答でした。ところがその翌日署員から今回の調査は全て是認になりましたとの連絡がありました。税理士の感想としては、修正事項=更正事項になったため曖昧さが無くなりより厳格になったのではないかとのことです。

医師への調査では、学校医の所得区分が問題となりました。当初は別の税理士が関与しており、調査官のそれは事業所得との指摘に対し何も反論せず更正になり結果消費税も課税事業者になりました。その後税理士が変わり、学校医としての勤務の実態、源泉徴収票も給与所得で発行されている事等を指摘し、納税者支援調整官にも連絡しました。結果処分は全て取り消しになりました。
3.税理士関与のない納税者への対応

税理士関与のある納税者とない納税者への対応は大きく違います。一つは従来から行われている所謂『呼び出し』の文書ですが、署によって形式・文面の違いはありますが、これが大規模に行われているようです。『行政指導』の体裁を整えていますが、印章の持参まで求めており、来署依頼に応じなかった場合は調査に移行すると謳っているケースもありました。行政指導の一般原則には、相手方(納税者)の任意の協力によってのみ実現されるもの、行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取り扱いをしてはならないと書いてあります。明らかに違反しています。

通則法では実地の調査については事前通知するが、通達で調査に該当しない行為を規定していて、そこを区分しています。そしてその行為により修正申告書や期限後申告書を提出した場合は、調査を予知して提出したものに該当しないとして加算税は賦課しないようです。実地の調査によると事前事後の手続きが煩雑なため、今後もこのような調査に該当しないとされる『呼び出し』が増えることが予想されます。

この報告も約40分で予定通り14時30分過ぎには報告が終わりました。休憩時間が他の分科会より遅くなると、自動販売機の飲み物が冷たくなくなる又は飲み物自体がなくなる恐れがありましたので、少し早目の休憩に入りました。
4.討論の時間

この分科会は特定の結論を出す目的で開いた訳でなく、全国各地の仲間の調査事例を交流し、納税者の権利を擁護する立場から、各会員の今後行われる調査に於いての助けになればと開きましたので、是非発言をと討論の初めにお願いしました。14時50分頃でした。発言の要旨は以下の通りで、順不同です。

上記報告の事前通知なしで調査を迎えた税理士に詳細を話してもらいました。日程調整後税理士が事前通知をされるのですかと聞いたところ、それは改めて通知しますと言われたまま日程通りの当日を迎えました。調査場所で冒頭税理士がところで事前通知はまだですよねと尋ねたところ、手続きミスを認めこのままは出来ませんねとその日は帰りました。その後は期限が決まらない延長状態にあります。こちらとしては日程調整をし、時間を空けていたのに、せめて謝罪してほしいと言いましたがそれはありません。今後どのように進めたらよいか、どなたかアドバイス欲しいとのことでした。

これに対し素早く手が挙がり、納税者支援調整官に相談したら良いとの意見がありました。今のままでは納税者と調査官との話で終わり進まない。第三者とは言えないが調整官は納税者の意見を聞き、調査官にも報告する。公にした方が良いのではとの理由です。

この前にやはり調整官に相談した事例が報告されていました。それは納税者の寝室まで入って調査した事例で、抗議をしていたがらちが明かなかった。再調査したいと言ってきていたので、調整官に相談したところ調査官は謝罪し調査は中止になったそうです。

事前通知は税務署長しか出来ないのかの問題です。調査官に対しこの件を指摘したところ、運用上で出来るとの意見を述べたので、法律の上にあるのは憲法だけで、運用上が法律の上にくるのはおかしいと反論し、署長から連絡がない限り調査を受けないと納税者と意思統一していますとのことです。これに対し、そもそも電話では言った・言わないの世界で証拠がない、文書で出すしかなく法律を変えるべきとの意見がありました。一方国家の税収が減っている中で調査に回る人の立場からすると、明らかな間違いは正さなければならない。あまり細かいところを指摘するのはどうかと思うとの意見もありました。

現在不動産所得を有する納税者に対する『呼び出し』『お尋ね』文書が広範囲に出されています。銀行から借り入れをして不動産を購入した場合、税理士関与がない場合だと、返済を差し引かれた金額を収入金額に上げたり、元金の返済を必要経費にしたり、又は修繕費にならないものをそうしたりと確かに正すべきことは正さなければいけない。そのことと、手続き上の問題は切り離して考えるべきです。「調査」という言葉の入った『お尋ね』は初めてで新人会として追及してほしい、意見表明するべきだとの意見がありました。

行政側の実態からすると研修が追い付いていないのではないかと思う。無予告調査は準備も大変なのでしたくないのが本音では。推認事項と呼ばれる例えば光熱費とか交際費で決定的な証拠はないけれど多すぎるので減らさなければならない場合、はっきりした証拠がないと駄目なので今後は『聞き取り書』的な物で補充する必要があるので強化してくるという発言もありました。『お尋ね』文書は少しずつ小出しに変えてきて反応を見ているのではないか、地域によっては法人についても『お尋ね』文書が届いており網打ち的な手法も行われているとのことです。税務職員も通則法の改正で大変になっている。市役所もそうだがノイローゼが増えてくるのではないか心配する声もありました。

税理士が関与していない事例ですが、農業所得のある人のところに5人で無予告調査に入った。現金商売のある人で、この一週間の売り上げを教えて欲しいとのこと、後日事前通知を要しない場合の理由を聞いたところ、現金商売があるからと言っていたが明らかに間違いである。通則法に規定されている事前通知を要しない場合の「・・・おそれ」とは税務署の主観ではなく客観的具体的にどういうことかを追及したそうです。

その他留置きの問題では、仮に渡すにしても「コピー厳禁」の印を押して渡している人もいます。
5.さいごに

最後に報告者4人が準備と今日の討論を聞いての感想を述べて終わりました。ひっきりなしに手が挙がり、討論にまる2時間取りましたがそれでも足らなかったというのが感想です。特別な結論を出すことを目的にしませんでしたので、どちらかというと前の発言を否定するかの意見もありましたが、自由に意見が出されて良かったと思います。この税務調査の問題は今後も日常的に私たちが経験することなので、今後も全国の会員がそれぞれの経験を報告し合い、納税者の権利擁護のために交流出来ればと思います。ぜひ新報にも投稿お願い致します。
(まつだ・しゅうへい:東京会)

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