論文
特集 第49回京都全国研究集会・分科会報告
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> 現代税制と分配的正義 分科会発表後の討論
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現代税制と分配的正義 分科会発表後の討論
神戸会 田口 智弘
神戸会の分科会は、パワーポイントを使って約100分にわたって発表がおこなわれた。当日の参加者は発表者を含めて53名。その後の質疑応答・討論の模様は以下の通りである。
<質問> 正義の観点から税を考えるときに、わかり易く、対比という意味でハイエクとロールズを選んだと思いますが、ロールズは特殊な正義論だと思う。アメリカ的な正義というか、アメリカ人が考える正義という感じがする。われわれ日本人が考える正義とは、正義そのもの(正義の味方)のようなもので、参考文献中のマーフィー・ネーゲルの「税と正義」はそのような正義を取り上げていたと思うが、そのような正義をあえて取り上げなかった理由は何か?

また、税制の問題で格差の是正や公平の問題を取り上げるときに、分離課税が日本の税制をゆがめているが、発表では分離課税が世界の流れのなかでのやむをえないもののように取り上げている気がした。

<回答> ハイエクとロールズを取り上げて、従来の日本的な正義を取り上げなかった理由ですが、正義を自由と公平というふうに考えると、自由と公平はトレードオフの関係にあると思います。自由を追求すると公平(平等)が損なわれてしまい、公平(平等)を追求すると自由が損なわれてしまう。いままでの共産主義は公平(平等)を重視することで自由がなくなっていったところに問題があったと思う。そういう意味で、ハイエクとロールズはどちらも自由を重視しています。自由が確保されてそれから平等を求めるのがロールズで、その平等をあえて求めないのがハイエクである。ですから、従来の公平・正義論を取り上げなかった理由は、自由を考慮していないから取り上げなかったのです。二つ目の分離課税について、これを肯定的に取り上げているのではないかという質問ですが、発表では現状追認的なところがあるかもしれないが、決してそういうふうには考えていません。ただ、どうすれば二元的所得税ではないような税制をとれるのか、そこまで考えが及んでいない部分はある。タックスヘイブンの問題にせよ、金融取引の問題にせよ、世界的に規制をするしかないと思う。来年から、フランスなどヨーロッパで金融取引税が始ったり、タックスヘイブンについてはOECD が対策をとるようになってきている。やはり、こういう問題は1国での対策は無理なのではないかと思う。1国で考えるならば、発表で述べたような給付付き税額控除というような形になるのではないかと思う。
<質問> さきほどの発表の中で、分配的機能を持っていない税として消費税を取り上げていて、分配という観点から所得税を中心とすべきとしていたが、税制全般として国の財政や、高齢化社会における所得税の果たす役割、財政状況などを勘案すると、消費税の逆進性や分配機能の低さだけを持って消費税制を批判するのはいささか危険である。所得税を中心とする税制で今の財政状況から、また人口構造から日本の財政が持つのかなという疑問がある。

また、国際課税ということからいうと、グローバル化で所得が世界に逃避するというところで法人のタックスヘイブンとの兼ね合いから、私も国際課税をおこなって、グローバル企業だと認定した時点で国際課税を行い、国の地方交付税のように関係国に税を配分するようにしないとこのグローバル経済に対応する税制にはならないのではないか。しかし、そうなると国家とはなにか、国家の課税権はどうなるのかという大きな問題がでてくる。

いずれにせよ、今回の発表では分配的な観点からのみ消費税をみているので、その点を注意すべきだということは、意見として言っておきます。

<回答> 意見として、承りました。ただ、日本の場合は財政が破綻するから消費税を上げろという論点ばかりが採られていると思います。分配という観点から税制が考えられていなくて、財政破綻という論点ばかり論じられている。ぼくも別に消費税をなくせということは言ってなくて、日本の課税ベースの中で所得税の占める割合を高めるべきだということを言っているわけです。
<質問> 基本的なご質問なんですけれども、レジュメの3ページに税による再分配効果と公的移転による再分配効果の図を示していただいているんですが、これは、数式などどういった数値を使っているのかがわかれば教えていただきたい。

あと、日本の再分配機能が低下しているということですけれども、もし資料などで従来の日本の再分配機能は高かったのかがわかれば教えていただきたい。つまり、日本が直接税中心だったときに他の先進国に比して再分配機能が高かったのか、わかれば教えていただきたい。

(注)3ページの図とは、内閣府の「平成21年度年次経済財政報告」に掲載されたOECDによる再分配効果の国際比較を棒グラフにしたものである。この図によると、日本の再分配効果は公的移転によるもの(年金などの現金給付にほぼ等しい概念)がOECD21ヶ国中下から3番目、日本の下には、アメリカと韓国。税による再分配効果はOECD21ヶ国中最下位という結果になっている。

<回答> 1点目のこの図がどのような数値からできているのかということですが、神戸のプレ発表の時にも同様の質問があったんですけれども、これは、わかりません。ぼくもOECD に聞いてみたいぐらいですが、申し訳ないですが、結果としてこのような図になっているとしか言えません。

あと、従来の日本の再分配機能が高かったのかどうかということですが、これはやはりジニ係数の問題だと思うんですよね。日本のジニ係数がどんどん悪くなっているということは、昔は再分配機能がある程度あったのに、いまは再分配機能が働かなくなっている。そういうことだと思います。
<質問> 神戸会として、課税の公正・所得再分配機能をどう高めるかの結論が聞かれなかったように思う。結論として、どうすればよいんですか。

<回答> 結論としては、給付付き税額控除をやるべきだと思います。
<質問> それのみですか。それですべてが解決するわけですか。分離課税の問題がある中でいまのすべての再分配の問題が解決するわけですか。

<回答> ご質問は、給付付き税額控除をするだけではたして所得の再分配機能が高まるのかということですよね。給付付き税額控除とは、説明しましたように4つの類型があるわけですけれども、基本的には貧困対策ですよね。所得の低い人のために再分配をする制度だと認識しています。そういう意味で、所得が低い人に分配が回る、これは可能である。
<質問> いまの討論の関連ですが、報告だと、所得控除から給付付き税額控除へということだったと思うが、いまのやり取りだと税額控除だけでやるようにみうけられた。やはり、重要なのは、所得控除から税額控除への転換であると思うがいかかでしょう。

<回答> おっしゃる通りです。所得控除を減らすことによって、それを税額控除のための財源に回すということです。
<質問> さきほどの質問にもあったが、この報告そのものはいいですけれども、最終の結論のところで、日本の中では具体的にどういう税制を検討したらいいのかが報告を聞いて疑問に思ったところです。給付付き税額控除をすれば良いということですけどそれだけで良いのかなという疑問は残っています。

<回答> 他にどういう方法があるのか、何かあればぼくも教えてもらいたいと思います。具体的にいろいろ勉強したんですが、これといった策、所得控除から給付付き税額控除へという案以外の良い方法というのが見つけることができなかったというのが本当のところです。あと、分離課税や二元的所得税をどうするのかという問題については、国内だけでは対処不可能で世界的にやるしかないと思っています。

<意見> ちょっと違うと思うのは、アメリカやイギリスは配当所得に対して分離課税ではないということです。キャピタルゲイン、株の売買については分離課税ですが、配当所得は分離課税ではない。あと、日本の税の再分配機能の低さについては、これは分離課税が原因だということは間違いないと思う。勤労所得の再分配というのは微々たるもので、分離課税によって高額所得者に有利な税制になっている。大事なことなので、反論しておきます。
<質問> 日本の税制の再分配機能が乏しいということについて、分離課税の影響が大きいということですが、確かにそれもあるが、一番大きいのは日本の所得税の納税人口は8割ぐらい納税していないということです。結局、所得控除以下の非納税者の割合が増えている。その非納税者の中での格差が広がっている。住宅ローン控除なんて、寿命が尽きるくらい長くやっている。生涯(所得税が)ゼロだ。所得税なんか払ったことがない人がたくさんいる。引ききれないのを住民税からも引く。ゼロはゼロだから給付でもしないと、貧乏人の中で格差が広がってしまってどうしようもない。

だから、非納税者の人口がむちゃくちゃ多いから、所得税が形骸化しておりますから、消費税で広く薄くまんべんなくみんなが会費みたいに税金を払う時代に行かざるを得ないんじゃないですかという一足飛びの議論もあるが、そうではなくて、消費税をやむを得ず上げるんですという、消費税をたくさん取ってもそれを再分配で給付すれば逆進性は緩和されていくんで消費税をあながち悪い悪いと言わないで下さいという民主党や最近の消費税容認論の良心的消費税容認論とでも言うべきかどうか、そういう考え方が一つにはあると思う。だから、そういう消費税を容認する中でのセットとなった給付付き税額控除なり、所得控除から税額控除へという大きな流れの中にあるんで、報告者の一国経済のもとではもう給付付き税額控除しか再分配をする方法がないんだという結論には、私は不満がある。
(中略)

再分配機能が落ちている原因はどこにあると考えるか? 8割の非納税者に一つの原因があると思うが。

<回答> たしかに、日本の国民負担率というのは世界的に見ても相当低いです。だから、今おっしゃっていたように所得がないので税金を払っていない人がたくさんいる。その人たちに再分配するには給付付き税額控除にならざるを得ないんじゃないかと思います。
<質問> だから、それは高校教育の無償化とか子ども手当とかそれぞれの貧困の形態が事情によって違っているわけですから、それを税制が一手に給付付き税額控除とか所得保障機能のところでやってもダメで、医療の現物給付とか高等教育の無償化とか子供の手当とか貧困対策のところでやらなければ税額控除で現金給付だけやってみたってまさに焼け石に水であって、それはサッチャーが小さな政府をやろうとしたが逆に社会保障支出が増えたというのがレポートにもあったじゃないですか。そういうことをいっているわけで、焼け石に水だといっているのです。

<回答> たしかに、現金給付だけじゃなくて、現物給付も大事だと思います。けれども、それをやるために税制としてどういうふうにするわけですか。歳出側からは、現物給付は確かに重要だとは思いますが。
<質問> 再分配機能の税制の話で、この話は炉辺で一杯飲みながらするような話ですが、再分配機能の究極の税は、日本でも一度だけ戦後やっています財産税ですよね。いま、キプロスでもやっているように預金にたいして40%は没収すると。国家が財産税をする時の根拠ですが、理論的には過去の所得税が低すぎた、国家と個人の分配で個人に富が偏りすぎたので財産税で所得格差を是正するという理論も成り立たないことはないのではないか?するかしないかは別にして、所得の再分配は実現するだろう。

<回答> 要するに財産を取り上げるわけですから、通常時にそういうことをすると公正ではないと思います。戦後日本も資産税(財産税)をやりましたけれども、当時は国家も破綻していたわけで、庶民が大変な生活をしていたわけですよね。その時になぜ資産税(財産税)で財産を取り上げたかというと、やはり金持ちだけが普通の生活をしていていいのかという議論があったと思います。普通の人間が生活できないのに金持ちだけが生活できるというのもそれは公正ではない。ただし、通常時に財産を取り上げるというのは、私有財産をとりあげるわけですから、自由に対する介入になるのではないか。つまり、公正ではないと思います。
<質問> 私はもともと税による再分配機能というのは本当に必要なのかということに対して疑問を持っていました。今日この発表を聞いてそれの結論が自分の中でできるのかなと思っていましたがまったく結論はでなかったです。なぜ、税による再配分機能が必要なのか?個人的には税による再配分機能は要らないんじゃないかと思っているんです。なぜかというと、先程の話にもありましたが80%の人が税を払っていない、払っているのは2割だ。そのうちの高額所得者は零点数パーセントという話ですね。そこの高額所得者から高い税収を取ったとして、再配分機能が本当に機能するのかということについて非常に疑問を持っていまして、再分配機能を高めるということについて本当に必要なのか今日の発表を聞いても結論はでなかったです。これについてどう思われます?

<回答> なぜ、再分配が必要ではないのかは、ハイエク的な考えでそう思われるんですか?
<質問> 零点数パーセントの人間から高く(税を)徴収してもまったく実効性がないと思う。まったく、現状は変わらない。たしかに、矛盾は解消される部分はあるかもしれないが、再配分機能を高めたところで何も変わらないと思うんですが。たとえば、この世の中の零点数パーセントの人間からいまより高い税収を徴収して再配分機能が増すように思われますか?

<回答> 基本的に累進税制というのは再分配をするためのものであって、それ(累進性での徴収)をすれば再分配機能は上がるのではないでしょうか。
<質問> いまの質問との関連でね、税務統計ででてる高額所得者、給与所得者、不動産所得者の中で、高額所得者は人数的にはしれてるんですよ。そこの累進税率を上げたとしてもね、税収効果というのは上がらんわけです。再分配効果はもう一つ上がりません。だから、いまの日本の現状というのはね、低所得者が多いんですよ、片一方で分離課税されている金融所得、これをどう分解するのかに入っていかない限りはね、税収確保というという点で、税務当局ではないですが、税収が上がらない。だから、高額所得者のところに70%、80%の税率をかけるよりむしろ、分離課税の層をどうするのかが重要。所得の高い層がどこらへんにあるかを見極めて、それから分配ということになろう。そこらへんの議論がかみ合っていない。

<回答> その通りなんでしょうが、この発表でも言いましたが、累進税率を上げてもたいして影響はないだろうとは言いました。なぜかというと、資本逃避とかグローバル化の問題があるから。その中でいかにして再分配をするかというのがこの発表のテーマなわけです。そういう意味では、所得控除から給付付き税額控除へ、それで再配分を上げるというその一点でこの発表をしたわけです。
以下、さらに多くの方から質問・意見をいただいたが、残念ながら紙幅の関係で掲載することができません。ここに紙面をお借りしてお詫び申し上げます。また、掲載にあたって、しゃべり言葉を文章化したため短縮したり文意を整えたりしております。文意は変わらないように気を付けましたが、もし何らかの問題があれば、文責はすべて筆者にあります。さらに、質問者のお名前はすべて匿名にしております。

また、今回の発表に当たり、プロジェクトメンバーはもとより多くの方からお世話になりましたことを、この紙面をお借りして申し上げておきます。ありがとうございました。
(たぐち・ともひろ)

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