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消費税の増税に反対する意見書
2012年5月24日
税経新人会全国協議会
野田内閣は、消費税の税率を現行の5%から2014年4月に8%に、2015年10月から10%へ引き上げるための法案を閣議決定し、国会に上程した。
昨年3月11日の未曾有の東日本大震災の復興も進んでいない中でこのような税率の引き上げには大きな問題がある。

1 消費税の持つ制度上の不公平

第一に、消費税のもつ逆進性である。消費税が物や役務の消費に対し課税されるということは、低所得者も高所得者も同じように負担することになり、収入に対して消費税を負担する割合は低所得者ほど高く、高所得者ほど低くなる。これは、とりもなおさず消費税の増税が低所得者の生活を益々圧迫するという意味である。法律案要綱では、「給付付き税額控除等の低所得者に配慮した再分配に関する総合的な施策を導入する」としているが、その内容はあきらかにされていないし、そのようなことで本質的に消費税のもつ逆進性は解消されない。

第二に、消費税の転嫁の問題である。日本商工会議所など中小企業4団体の調査によれば、売上高5,000万円以下の事業者の半数超が価格転嫁できないと回答している。これは、昨今の値下げ競争や中小零細企業の得意先に対する弱い立場から生じていると考えられる。このことは得意先や消費者から貰えない消費税相当額は零細な事業者が自腹を切って消費税を納税していることを意味している。今でもそのような状態なのに、これが8%、10%に税率が上れば消費税によって倒産や廃業を余儀なくされる事業者が多数発生することは十分予想される。法律案要綱では、「消費税の円滑かつ適正な転嫁に資するため(中略)の指針を作成し、その周知徹底をはかり」とか、「取引上の優越的な地位を利用して(中略)不公正な取引の取締り及び監視の強化」などと書かれているが、財界の言いなりになっている今の政府にそのようなことができるのだろうか、はなはだ疑問である。

第三に、輸出戻し税の問題である。本会会員の湖東京至税理士の試算によれば、2008年にトヨタ、キャノンなど大手輸出企業10社で1兆1,450億円の消費税の還付を受けているという。これは、08年度の消費税収の12%にあたる。多くの中小零細事業者が先に述べたように身銭を切って消費税を納税している中、日本のトップをなす多数の巨大企業が消費税を1円も払わないどころか還付を受けているのである。そして、消費税率が10%となればその還付額は当然倍になる。だからこそ、財界は消費税増税に積極的なのである。このような、制度上の問題のある消費税は増税どころか廃止すべきものであると言わざるを得ない。

2 消費税の増税は国民の望む景気の回復に逆行する

現在の経済状況の中で、消費税の増税は、さらに景気を悪化する要因となる。それは、1997年4月に消費税の税率が3%から5%にアップしたときのことを思い起こせば明らかである。1995年、1996年には対前年比2%台後半で推移した実質経済成長率が97年には0.01%となり、98年には△ 1.4%となっている。これは、当時の橋本首相による財政「構造改革」の結果であり、その中心となったのが消費税の増税である。さらに言うなら、当時は94年頃から景気が回復し上昇局面となっていたところに消費税の増税等があり景気に水を掛けられたようなものであった。翻って、現在を見てみると、2011年の経済成長率は、4 12月の年換算額で対前年比0.4%のマイナスであり、また、家計消費支出を見ても1 12月で対前年比3.9%のマイナスである。97年の時と比較しても今は景気が悪いと言っていいが、そのような中で消費税の税率を3%上げることは経済に計り知れない打撃を与えると言っても過言でない。

税収は、その国の経済的状況により多くなったり少なくなったりする。だから、景気を浮揚させ、人々がお金をたくさん使うようになると税収は増える。現に、わが国でもバブルの絶頂期の平成元年には60.1兆円の税収があった。これが、2010年には41.5兆円の税収である。つまり、わが国の企業・国民には、正しい景気対策による好景気を作り出せば60兆円以上の税収をあげる潜在力があるのである。先に述べた1997年の消費税率のアップの時を見ても明らかである。1994年から徐々に税収があがり、97年には53.9兆円であった税収が98年には49.4兆円、99年には47.2兆円と税収は落ち込んだ。それでもその当時は今より税収は高かったのである。財務省の予算では、2012年度の税収は、さらに落ち込み42.3兆円である。このような状況の中でさらなる国民負担を強いる税制改革など狂気の沙汰としか思えない。

3 消費税の増税は震災復興の妨げになる

消費税は、物や役務を消費するすべての個人、法人が負担する。そのため、被災地などで苦しい生活や営業を余儀なくされている人々にもこれまで以上の負担を強いることになる。そして、そのことは、懸命に復興に取り組む被災地の復興財源を圧迫し、速やかな復興事業にブレーキをかけることになる。

4 「社会保障制度の改革」の中で進む社会保障の切り捨て

社会保障・税一体改革と聞いて、多くの人々は、消費税は増税になるがその分社会保障が厚くなると勘違いしている。しかし、実際の政府案を見てみるとまったくその逆である。

・70 74歳の医療費窓口負担を1割から2割へ引上げ
・後期高齢者医療制度の温存
・年金の支給開始年齢の引き上げ
・介護保険の公費削減等々国民の負担をさらに増やす方向性が明らかである。

以上、見てきたように「社会保障・税一体改革」は、国民にとっては「一体改悪」に他ならない。

5 私たちは、税財政のあり方について次のように考える

第一に 真に公平な税制度は、応能負担原則に基づく直接税中心の税体系である

一人一人の国民は、その社会的立場、能力、門地その他の面で千差万別である。経済的に富める者もいれば、貧しい者もいる。もし、これらのすべてに一律に課税した場合、富める者はますます豊かになり、貧しい者はますます貧しくなる。そこで、出てきた考え方が「応能負担原則」である。すべての人がその経済的能力に応じて税を負担するという考え方である。この原則による租税制度は、所得税等の直接税にしかできない。なぜなら、経済的能力は、所得という形で表現されるからである。消費税のようにすべての人の消費に対して課税すれば富める者にも貧しい者にも一律に課税されてしまう。たとえば、被災地域が困難な状況に置かれているからといって、その地域だけ消費税を免除するというようなことは徴税技術的に不可能である。これに対し、直接税だとある一定の地域に対し税を減免することは可能である。このように、その置かれている状況により個人や地域の能力に応じた税の負担を調整できる応能負担原則に基づく直接税中心の税体系が真に公平な租税制度といえる。同時に、そのことにより所得の再配分が実現することになる。

第二に 税は国民の生活基盤安定のために使われるのが基本である

2012年3月26日に産経新聞社とFNNが行なった世論調査では、消費税関連法案の今国会成立について「させるべきではない」が59.1%で「させるべき」の38.2%に対し20%以上上回った。これは、消費税の増税に対する根強い反発と同時に「その前にやるべきことがあるだろう」という声の反映であると考えられる。東京外郭環状道路や八ツ場ダム、胆沢ダムなどの無駄な公共事業や原発関連予算、米軍への思いやり予算、高額な戦闘機の購入、豪華な公務員住宅の建設、政党助成金など予算の浪費をあげれば枚挙にいとまがない。その一方で社会保障などの生活関連給付の引き下げと負担の増加は進んでいる。税の無駄遣いをやめれば国民の生活基盤安定を基本とした予算は十分可能である。そのように政策転換をしなければ、将来の日本は衰退国家となってしまう。

私たち税経新人会は、憲法に基づいた豊かな社会づくりを基本として活動している立場から、消費税の増税は先に述べたような深刻な問題点があり、とても容認することはできない。13.5兆円に上る消費税の大増税に断固反対する。

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