論文
特集 第50回 東京浅草全国研究集会・分科会報告
> 第6分科会報告 「日本の財政を斬る!だまされるな日本の財政」
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>「法人税制はどうあるべきか、改めて考える」分科会発表を終えて
> 国際的租税回避行為とこれからの対応方法の検討 分科会の発表を終えて

国際的租税回避行為とこれからの対応方法の検討 分科会の発表を終えて
神戸会  篠田 欣一
分科会の発表を終えて

分科会の発表が無事(?)終わりました。あれから10日ほど過ぎ、終了直後のホッとした気持ちよりは上手くいかなかった点を反省している気持ちが強くなっていたところ、日本経済新聞の9月17日の一面に目が止まりました。

"国際企業、税逃れ歯止め OECD 指針 グループ取引 報告義務"
一面には以下のように書かれています。
『日米欧などの34か国で作る経済協力開発機構(OECD)は16日、多国籍企業の課税逃れを防ぐ国際ルールをまとめた。企業グループ内の国境を越えた取引について、税務当局へ年1回報告することを義務付ける。税率の低い国に利益を移す節税策を防ぐ狙いだ。対象となる企業の線引きが今後の焦点となる。

20、21日にオーストラリアで開く20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で報告する。企業グループ内の取引価格(移転価格)を操作し、税率の低い国に利益を集める節税策を防ぐ移転価格税制を強化する。具体的には、原材料や知的財産をいくらで売買し、価格をどう決めたかの報告を義務付ける。親会社や子会社が所在する国でそれぞれ税務申告する際に報告書を提出させる。2016年以降の実施を目指す。OECD 加盟国のほか、中国などG20に参加する国々も加わる見通しだ。

報告書によって、グループ内の国際取引は税務当局に筒抜けになる。過度な節税を図ろうとする多国籍企業に対して、一定の抑止効果は期待できそうだ。対象は複数の国で事業を展開する企業だが、規模などの条件は今後決める。

日本では資本金1億円以下の中小企業は対象から外す方向だ。経団連は「課税逃れに無縁の大半の企業に過度な負担を求めるべきではない」と訴えている。米国や欧州、アジアに子会社がある大手食品メーカーは「税率を意識した事業展開をしていないので、単純に事務作業負担が増えるのは懸念材料だ」と話す。今後、対象企業をさらに減らすよう求める声が強まりそうだ。

課税逃れはここ数年、米国に本社を置く多国籍企業を中心に問題となってきた。米スターバックスは英子会社での利益をスイスなどに移し、課税を逃れたことが12年に英国で問題化した。対策では、親会社にはグループ企業が各国で支払う税額や保有する知的財産、グループ内の金融取引の情報などの提出も義務付ける。多国籍企業がどのように節税しているか全体像を把握する』。
これから始まるまだまだ先の長い大きな課題であると思います。しかし、今回の分科会のレジュメ本文の最後に記載したBEPS 行動計画の報告がタイミングよく発表されたので、分科会の続きということで参考として載せさせていただきました。概ね予想していた内容のものと思います。ただ、やはり移転価格税制についてはOECD 移転価格ガイドラインと国連移転価格マニュアルの2つの基準を1つにすることが最優先課題だと思います。ただ、この記事に目が止まるようになったのは、今回のプロジェクトを行った成果の1つだと思っています。

テーマの選定

神戸会では、50回という大きな節目の東京浅草全国研究集会のテーマをどうすべきか?大いに悩みました。というのも「納税者が主人公の税制・税務行政を目指してこれからの50年」というサブタイトルが与えられたからです。プロジェクトメンバーからは気にしないでもいいという意見も出ましたが、無視するわけにもいかず、特に神戸会では前々回に財政、前回に現代税制を取り上げていたので、ついつい前回・前々回のテーマとかぶってしまいそうになりました。そうした中、実務とはあまり関係なさそうな国際税務を見ていこうかという方向になって来ました。移転価格についてなら興味があるということで強力なオブザーバーもついて頂きました。そこでプロジェクトでは、国際税務の基本的なことから手をつけていきました。おりしも税制調査会で国際課税ディスカッショングループが推し進められていました。そこでは、国際的租税回避行為について研究しているではありませんか!そこでプロジェクトでは国際的租税回避行為に焦点を当ててみていくことになりました。

質疑応答

当日の質疑応答は、以下の通りです。中には、会場にお越しの方からも回答を頂いたものもありました。

<質問>

先ほど法人税の税率が同じようになれば、移転価格税制等が将来使わなければいい制度になるかもしれないと希望的観測を言われていました。しかし、私はこの国際税務の基本的な考え方に各国の、要するに“ 国家とは何か” というもっとベーシックな話があると思うのです。

国家の最大の国家たる所以である課税権が各国によって異なります。もちろん、OECD などいう機関による国際協調という考え方もあるのですが。国家というものの本来の有様の一番の権利が課税権にあって、その国家とは何かということになりますと、その国々の民族であり、それから地理的条件であり、それからもちろんそれも含めた国土の状態であるとか、気候であるとか、それから食料のその実りの状態であるとか、そんなことによると思うのです。

世界の各国家にはいろんな諸条件による事情がある訳で、それに対して国家の有様が違ってきて当たり前だと思うのです。そんな国家観をベースに考えますと、税をどこの国も同じ税率にするというこの方向性が正しいのでしょうか?という疑問を持つのです。例えば非常に気候が良く食料の自給自足ができて国民も2 3千万人ぐらい居る国と、タックスヘイヴンであるバハマ諸島あたりに小さく浮かんでいる人口がそれほど多くない国とは有様が違ってきて当然です。南洋の諸島にポツンと浮かぶ孤島で生きていくためには、法人税・税というものは必要ありません。こんな国ですから当然共生の費用なんていう国家予算は要らないと思います。

そんな事情で一番何が問題点であるかといいますと、この国がこういう制度でいることは何も問題ないのです。ただ、世界をまたにしてグローバルな企業展開をする先進国の企業がこの国のこういう制度を利用するところがいけないのです。各国において特色のある課税なり、いろんな形の国体があって当然ですが。どこかが経済的目的でそういう自分たちと全然条件が違う国の違う条件の制度を利用して、何か自分にメリットがあるような形に取り込む。これが基本的に問題点だと私は思います。

ですから、これを解決するために例えば税率が国際的に横並びの方向に行くことによって国際的な課税の不均衡が無くなるのではないかというのは、本末転倒ではないかと思うのです。本来は多様性のある国家をまず認めないといけない。だから法人税率の低減の競争だって、本来法人税率は違って当然だと思うのです。なんらかの別の方法で是正するそういう機構が必要じゃないかと思っています。

<回答>

おっしゃることは十分理解しているつもりですが、やはり空洞化を止めることが必要でありまして、その点で税率が下がっていくのではないかというのが1つあります。また、それとグローバル化の進行に伴い、国際税務というものが理論的でなくなっていると思います。各国々には税の考え方があるのでしょうが、今おっしゃったとおり違う事情で出来ている。国々では理論的ではあるが、それを繋げる国家間において理論的でない部分が多いと思います。

それを利用してタックスプランニングが大企業において行われる。最後に書いてあるOECD の行動12にもあるようにタックスプランニングの報告義務を提案しています。各国においては理論的になっているのですが、その横のバランス(今の場合ですと法人税率になるかと思いますが)がある程度、国々が譲り合って少しずつ変化していくことも必要でないかと思っています。各国の事情は分かりますが、大きな目で見るとやはり、調整しなければいけない部分が少しずつ少しずつ出てきているのではないかと。そうしないとこれからの税務として国際税務が成り立っていかないのではないかと感じています。
<質問>

話の中では直接触れては無かったのですが、2010年にタックスヘイヴン対策税制の改正というのがありました。2010年の改正のポイントは、課税する場合の税率の基準を切り下げる(25%以下から20%以下)という内容でした。その改正する理由としては、アジアの国々(具体的には中国・韓国・ベトナム・タイなど)の税率が25%とか22%という税率で、これらの国々に進出すると課税されてしまうというのが引き下げの理由として取り上げられました。ただ、タックスヘイヴン対策税制というのは、実体のある企業は課税されないというものですし、課税されるのはペーパーカンパニーですから別に改正しなくていいと思ったのですが。(むしろ20%から25%の間のペーパーカンパニー課税できないという問題点に対しては)

政府は、適用除外の申告をする際に実務負担が大きいということを理由の1つに挙げており、それが国際競争力を阻害するとのことでした。また、もう1つの理由として、アジアに進出している国についてはペーパーカンパニーというものはほとんどありません、というものでした。ところが調べたところ、中国とかに進出した企業にどれだけタックスヘイヴン税制が適用されたかという統計があるのですが、非常に数が増えているのです。ただ、申告の実務負担が大きい点については、よく分からなかったものですから教えて頂ければと思います。

<回答>

実際のタックスヘイヴンについては実務負担を経験したことはないのですが、タックスヘイヴン税制については、大手を含めアドバイスしております。何が大変かと申しますとまずは税率。25%、20%と言いますが、これは表面税率ではなく、実際の税額÷課税所得になります。しかし、課税所得も国によって異なり、譲渡益がキャピタルゲインであれば免税になったりすることもありますし、免税になる理由だっていろいろあります。また、それによっても入れる、入れないもある。また、税額についても税額控除を入れる、入れないがあったりします。その規定が明らかになってない場合もあり、そこが大変です。

また、この適用除外の中でもいろいろ基準があり、そこが非常に不明確な部分になっていると思います。それを実際調査とかで指摘されると証明というか議論するのは大変です。明らかにペーパーカンパニーである以外のケースでは見解が分かれることも多いと思います。適用除外が適用されるか否かという点では、実務負担とは違う次元の話のような気がします。
<質問>

国際的租税回避として調べられたと思うのですが、中小・零細を顧問先とする税理士にとって国際的租税回避行為として大企業と同じことを出来ないこともない。それは海外に進出し、空洞化にもつながります。一方、空洞化を阻止すべく法人税率の低減も進められるかもしれません。顧問先のためにタックスプランニングを利用して、納税者の権利として税金を下げてあげようと思われたのか?いやいやこんなことをやっていたら、世の中どんどん税金が安くなるし、破綻する国も出てくるかもしれないし、そういう点では大企業のタックスプランニングを塞ぐ方向に動くべきと思われたか?あるいは、全く違う考えを持たれたか聞かせて下さい。

<回答>

大企業と中小企業との格差を埋めたいという考えがありますので、当然中小企業にもタックスプランニングの指導をすべきじゃないかという気持ちがあります。しかしながら、中小企業の基盤は日本にあると思っています。したがって将来の日本を考えますと、基本的にはタックスプランニングを塞ぐ方向で動くことで大企業と中小企業のバランスを取るべきかと考えます。
<質問>

先日のテレビで、海外で子会社が利益を出していて、その資金は海外での再投資として使われていると放映されていました。果たして、その資金は日本国内に還流すべきなのでしょうか?それとも海外での再投資という形で使われるべきなのでしょうか?そのあたりの意見がございましたら、お願いします。

<回答>

結局、日本にお金が返ってこないのは日本の経済が成熟してしまって、投資先がないからです。日本の金利が低いということは、日本の経済に収益性がないということです。これは、もうしょうがないことですし、如何ともしがたいことです。希望的観測としては、戻して欲しいですが、企業は戻すことはしないでしょう、と考えます。
最後に

発表でも言いましたが、これからも勉強して国際税務については、何かあれば神戸会に相談すればいいと言って頂けるようになればと思っています。今回の発表にあたり、ここまで何とかできたのはプロジェクトのメンバーのおかげです。1年間本当にありがとうございました。また、十分すぎるほどサポートして頂きましたオブザーバー、そしてメンバーというより影のオブザーバーのような代表幹事には、ただただ感謝しております。プロジェクトリーダーは終わりましたが、これからも充実したプロジェクト活動を目指して頑張りたいと思います。

(しのだ・きんいち)

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