論文
特集 第50回 東京浅草全国研究集会・分科会報告
> 第6分科会報告 「日本の財政を斬る!だまされるな日本の財政」
> 埼玉分科会 「ちょと待った!その重課」に参加して
>「法人税制はどうあるべきか、改めて考える」分科会発表を終えて
> 国際的租税回避行為とこれからの対応方法の検討 分科会の発表を終えて

「法人税制はどうあるべきか、改めて考える」分科会発表を終えて
大阪会分科会発表チーム

今回の大阪会は「法人税制はどうあるべきか、改めて考える!!」を発表テーマにし、5 人が発表を行いました。以下に発表者の感想と、当日参加者の意見・感想を報告します。
I.はじめに
V. 終わりに
報告担当 井下 達夫
税経新人会に昨年入会させていただき、第50 回を迎える東京浅草全国研究集会では分科会発表チームとして参加させていただきました。分科会発表チームと聞いてもあまりピンときませんでしたが、打合せを重ねて行く中で流れもようやく理解でき、先輩方のご指導、ご活躍のもと無事に発表できたのではないかと思います。何よりもチームのメンバーと打合せ時などで楽しく交流がもて、実務も含めいろいろな話や様々な考え方を教えていただくことができました。又、発表テーマに関して法学者である北野弘久氏の著書などをはじめ沢山資料を提供していただき大変勉強になり、刺激になりました。今回の分科会発表チームでの活動は、とても楽しく有意義な時間が過ごせたと思います。ありがとうございました。

発表テーマについては「法人税制はどうあるべきか、改めて考える!!」と、大きなテーマでした。今まではあまり法人税制はどうあるべきかを意識して仕事をしていませんでしたが、同時期に進行していく政府税制調査会の議論を確認していく中で問題点が明らかになってきたと思います。

現政府が進めようとしている「応能負担の原則」を考えない、法人税率引下げを隠れ蓑にした、中小零細企業への税負担の強化の動きには注意をはらう必要があります。担税力の弱い中小零細企業に対する軽減税率の見直し、外形標準課税の導入や欠損金の繰越控除の縮減などは、消費税のさらなる増税とあわせて過剰な資金負担を中小零細企業に強いるものであり、担税力の面から見ても公平な税制度を目指しているとは言い難いのでは、と思います。

分科会終了後の懇親会では第50 回ということもあり、大勢の参加者で大変にぎやかな懇親会でした。ご準備いただいた東京会をはじめとする会員の皆様、お世話になりました。

次回は高松で第51 回が開催されます。是非また参加させていただこうと思います。

(いのした・たつお)
II. 国際的な法人税率引下げ競争
報告担当 松本 修
私たちは国際的な法人税率引き下げ競争の問題について、憲法や法人実在説を絡めた議論を展開した。私の担当は国際情勢で、「大阪のスーパーが値下げ競争すると喜ぶのは大阪人だが、損益分岐点を過ぎるとスーパーの共倒れになってしまう。今の法人税率の国際値下げ競争は同じようなもの」と話してから私の発表は始まった。ポイントはグローバル化された多国籍企業のタックスヘイブンプラニングと、それを捕捉できないでいる国際税制の未熟さにある。OECD 租税委員会がBEPCプロジェクトを発足させ国際的ルール作りに励んでいるが、政治的な後押しと世論を高める運動が必要と感じた。

さて、分科会で発表するものにとって4 時間は長いのでは?と思っていたが、やってみると意外と短く感じられた。その4 分の3 は担当者の発表時間で、私の分担はほとんど読むだけの省エネ発表。ところが山崎先生と林先生は豊富な資料を使い、顔中に汗をいっぱいにじませながらの熱弁で、一時間以上も熱い発表が続いた。発表を終えた後、山崎先生の資料集めから執筆・発表までの御苦労を考えると、思わずねぎらいの言葉を彼女にかけた。「もし100 万円のリベート( 発表の謝礼)がもらえたら半分の50 万円はあなたが貰う権利がある」。山崎先生は素直に喜んでくれた。

一方、私たち発表チームの責任者である林先生には敬意を表して「慰労の打ち上げ会をしますが、何料理にしましょうか?」と尋ねると、「焼肉がいい」と即答されたので、( 山崎先生にあげた残りの)50 万円は遠慮してもらって、高級焼肉代に使っていただくことにしましょうか!?

発表会後の懇親会はチンドン屋さんで和やかに始まったが、なかでも50 年ぶりに唄った「三波春夫の東京五輪音頭」は懐かしく楽しかった。前回の東京五輪から50 年の時が流れ、新人会の歴史もそれに合わせて50 年の大きな節目を迎え運動が広がってきている。49 回参加した人の話や50 回の人、土台を作り上げた方のビデオレターなどが強く印象に残っている。今回のテーマである「民主的な税制、税務行政をめざす」は、私たちの役目を再確認させた。来年は四国・高松開催。大阪税経新人会では道後温泉に立ち寄ろうなどと、すでに1 年先の四国全国研に向け楽しく盛り上がっている。来年も参加したい。

(まつもと・おさむ)
III. 政府財界の主張について
1.政府税調法人課税ディスカッショングループ
報告担当 山崎 桂
政府税制調査会の考え方、方向性について発表させていただきました。
折しも、安倍総理大臣のダボス会議での発言を受け、法人税率の引下げ・改革の議論を行うために、税制調査会内に法人課税ディスカッショングループが立ち上げられたので、そこでの議論をまとめる形となりました。

会議議事録等を読んで感じたことは、日本及び日本経済の成長が強調され、どのような国にしたいのか、国民全体が豊かになるために税制がどうあるべきか、ということは問題にされていないということでした。

成長や新陳代謝という言葉には望ましい肯定的なイメージがありますが、議論されている内容は、一部の黒字企業・大企業の負担を軽くして成長を促し、赤字企業・中小企業には現状より重い税金をかけ、その負担に耐えられない企業は市場から退出させるという意味で使われているように見受けられました。

赤字企業・中小企業の負担を増やすことは、その企業が抱える雇用を不安定にし、より格差が拡がった社会ができるように感じます。

今回の発表に際して、政府税調の資料などを初めて目にしました。日常業務には直接関係のないことですが、いま税制がどのような方向に向いているのかの情報を取得し、それはどういう影響があるのか考えることの大切さを学ぶことができました。

(やまざき・かつら)
III. 政府財界の主張について
2.経団連「法人税の改革について」に関する意見書
報告担当 山本 匡人
経団連の主張の発表を担当しました。準備の過程ではあまり役割を果たせず、十分に資料等を準備していなかったため、短い時間での発表になってしまったのは反省点です。
経団連の主張を見ていると、自分たちの負担を減らすことしか考えておらず、企業としての社会的役割を果たそうというのが少しも感じられませんでした。グローバル化の競争の中で仕方ないとするのではなく、経済とは何か、企業の役割とは何かを見つめて、社会はどうあるべきか、を常に意識しないと、どんどんひきずられます。

特に公益法人の改革のところで、社会福祉法人が名指しで指摘され、課税の方向に検討しています。社会福祉法人への課税の見直しは、企業とのイコールフッティングだけで議論され、社会福祉の市場化の流れに沿っています。本来、社会福祉法人は、憲法で定める国民の人権や生存権を保障する事業分野を担うために認められた公益法人であり、その事業を課税にすることで、多くの小規模法人の経営が危うくなり、引いては地域住民の生存権の保障を奪いかねない、と考えます。

世界的に広がる貧富の格差に対して、税が所得の再分配機能としての役割を果たさないといけないと思います。それにたずさわる税の専門家として、もっと勉強をし主張できるようにしないといけないと感じました。その拠り所として、日本国憲法の理念に基づく税制の在り方をぶれずに保持しておくことが大事であり、それを今回確認できたことは良かったです。また、会場の松谷会員から報告があったトマ・ピケティ氏の書籍は日本語訳が発刊されたら、ぜひ一読しようと思います。

(やまもと・まさと)
IV. 憲法と法人税制
報告担当 林 明
年明けより内心、「傲岸不遜なテーマに挑んでしまい、しまったな」と思いつつ、書籍をあさり無い知恵をしぼり、何とかかんとか担当部分についてまとまりかけたのは8 月になってからでした。

今回とりあげた法人擬制説について、何をいまさらという感はありました。分科会参加者のかたからも、不毛の議論ではないかという意見がありました。しかし法人税の一部ではあるが、グローバル企業の法人税負担の低さの主要な要因として受取配当金(外国法人からのものも含め)の益金不算入、比例税率の問題があるとし、その理論的背景として依然として法人擬制説が生きているとするならば、やはりこの問題は避けて通れないと思いました。また若い会員にはこんな議論があることを知ってほしいという思いも重なり、テーマを変えることなく発表にこぎ付けたというところです。政府税調の議論などを読むと、グローバル企業の利益増大最優先政策のもと、応能負担と所得の再分配という税の基本思想がどこかへ行ってしまい、それどころか利益のある企業に法人税を課すのは「悪」だと言わんばかりの論調が見え隠れします。対して国民生活の立場からのささやかな反撃の一手になればと願うばかりです。

(はやし・あきら)
当日の参加者からの意見、感想について
① 会社は、歴史でみるとコロンブスが船団を組んで航海し金銀を得ることからスタートした。航海の資金を集める。出資者の持分の範囲での責任。有限責任である。株主の面だけでみると擬制説ではなく実在説だと思う。

② 麻生大臣の就任あいさつで消費税増税を公約にした。中小企業に外形標準課税を検討しているが、第2 の消費税に思える。

③ 国際的な法人税の値下げ競争の中で、1国の政府では対応できなくなっている。多国籍企業の利潤に対する際限のない追求により、税の値下げ競争がますます高まっている。アメリカでは、企業が安い税率のところに本店を移している。国際的に強調して対応をするべき。株主の一定の持株割合から累進税率をもつということが可能か研究してはどうか。

④ EU の動きは注目すべきである。フランスは金融取引税を導入した。多国籍企業の課税情報が集まるようになる。ドイツにおいて研究段階であるが、EU 内で共通課税標準にすることを研究する動きがある。実際には各国の主権にかかわる問題で難しいだろうが。

⑤ サブプライム問題の後に、ウォール街でのデモがあった。イギリスでは、ヴォーダフォンの税金逃れに対するデモが起きた。多国籍企業の税金逃れに対する大衆運動が高まっている。

⑥ 税経新人会全国協議会では、25 年前に税制改正の提言をまとめた。法人税の擬制説、実在性の議論をするよりも、新人会としてすぐに提言を出すべきではないか。新人会の単位会では消費税しか出していないのではないか。法人税等の個々の提言を出してほしい。

⑦ トマ・ピケティ氏の主張に世界中の関心が集まっている。富の格差の拡大により、中間層が没落している。税制について、グローバルな規模での税制改革が必要と主張する。

⑧ 新人会らしい資料であった。日本国憲法に基づいて考えることがやはり大事である。

⑨ 自民党の憲法改正の動きについて。憲法第22 条は、公共の福祉に反しない限り、居住、移転の自由、職業選択の自由、外国移住、国籍離脱の自由を有する、と規定する。うち、公共の福祉に反する限り、という部分を抜く動きがある。

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