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第6分科会報告 「日本の財政を斬る!だまされるな日本の財政」 |
関信会 秋元 照夫 |
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今回は、「日本の財政を斬る!だまされるな日本の財政」という大きなテーマに取組んでみました。「社会保障財源のためと財政再建に消費税増税と法人税減税」という「ウソの構造」を国の財務書類を検証しながら、1,000兆に上る国債問題を考察してみました。『税経新報』のテキストのほか会場で配布した資料説明だけでは面白くないと思い、パワーポイントを使って補助説明を行いました。今になって思えばこの資料も入れておけば良かったと反省することが多いのですが、とにかく精一杯やりました。
参加者の感想や質疑応答は以下のとおりでした。 |
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1.参加者アンケートについて
分科会参加者数59人中アンケート回答者36人(回答率61%)
- とても勉強になった 30人(83%)
- 少し勉強になった 5人(14%)
- まあまあ 0人(0%)
- あまり勉強にならなかった(理解できなかった)1人(3%)
- 全く勉強にならなかった 0人(0%)
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2.質疑応答について
会場内での質問に対して、この誌面をお借りして整理したいと思います。
(1)会場内での質問など
- 今の財政状況では日本はEU に加盟申請しても入れてもらえない。
- 国債の管理上の違いはなにか?アメリカ国債は1,400兆円が限度。
- 日本は野放し。国債はどこまでいったらどう破たんするか?
- 国債は今後どうしていけばいいのか?見解が聞きたい。
- 国債をゼロにする必要はあるのか?
確かに日本の公的債務(総債務)は、GDP比200%を超えており、ジンバブエを除いて世界で最も高いのは事実でしょう。債務をグロスで見るのかネットで見るのかによって比率は違ってきます。仮にGDP 比が低くなったからといっても1,000兆円を上る債務は、いずれは返済しなければならないことには変わりはありません。
では先進諸国においては問題ないのかというと、そうではなく時間の問題で公的債務が激増しています。
1993年に発効したマーストリヒト条約等により、ユーロ圏諸国は、「財政赤字額GDP比3%以内」、「政府債務残高GDP 比60%以内」を遵守する必要がありますが、ジャック・アタリは著書「国家債務危機」の中で、「2010年のアメリカの公的債務は対GDP 比54%であり、イギリスの公的債務は対GDP 比で100%近く、ギリシャの公的債務は対GDP比135%、フランスの公的債務は対GDP 比83%であり、フランスはいずれヨーロッパ最大の債務国になる。EU 諸国は、市場から資金を調達しているが、すべてのEU 諸国が、市場からの攻撃の射程距離内に入っている。
今後は銀行のバランスシートや様々なファンドに潜む金融商品に、すべてが左右されるようになっている。低金利のおかげで、公的債務が何とか賄えている状態であるが、いずれ金利は反転する」と述べています。
つまり、国債は投資対象の金融商品となり、銀行などの投資家の餌食になっているのです。それを証明したのが、アルゼンチン国債です。
「2001年に債務不履行(デフォルト)に陥った後、自主的な再建努力を続けてきたアルゼンチンは、債務危機以前に米ニューヨークで発行した国債の支払いをめぐって投資会社と対立を続けてきました。
判決はアルゼンチンに、6月30日までに元本・利子合わせて13億3,000万ドル(約1,343億円)を投資会社に支払うことを命じています。
アルゼンチンは、債務不履行の宣言後、05年と10年には、価値を7割削減した新国債との交換を提起し、すでに92.4%の債権者がこれに応じています。支払いを命じられたのは、この債務再編に同意しない債権者から投資会社が額面の2割ともいわれる安値で買い集めたもので、国債全体の1.6%にすぎません。アルゼンチン側の発表では、ある投資会社は、購入価格の17倍の8億3,200万ドルを受け取り、ぼろ儲けをすることになる」と『しんぶん赤旗』は報じています(2014.6.30付け)。
日本の場合は、公的債務の国内保有率が92%に達しており、金融市場からの荒波に保護されてきました。その理由は、家計部門の金融資産1,645兆円(日銀公表2014年6月末)の貯蓄が利用されているからです。
日本の公的債務をめぐるリスクが生じるとしたら、金利上昇と貯蓄が底をつき市場から資金を調達しなければならなくなった時でしょう。
なぜ、世界各国ともこんなに財政赤字になってしまったのでしょうか。
2014年9月20日にオーストリアのケアンズで開かれた20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が採択した共同声明でも、タックスヘイブンを利用した多国籍大企業の税逃れに対処することを盛り込みました。
2013年6月に開かれたG8ロンドン・ロック・アーン・サミットでも確認されています。また2013年9月に開かれたG20サンクトペテルブルグ・サミットでは、「厳しい財政再建や社会的困難を迎えている状況において、多くの国では、全ての納税者が応分の税を支払うことを確保することはかつてないほどの優先課題となっている。租税回避、有害な慣行及び濫用的なタックス・プランニング対して取り組む必要がある」と首脳宣言に盛り込まれたように、多国籍大企業のタックスヘイブンによる税逃れと法人税減税を始めとする税率引下競争によって「税の空洞化」に拍車がかかったのも大きな要因です。
(2)年金運用で株への投資が増えるのは危うい国債に重点をおくべきではないか?
2012年度末の国の貸借対照表の負債の部に公的預り金114.6兆円とあります。それに対応する資産として、資産の部に運用預託金106.7兆円が計上されています。公的年金とは、国民年金と厚生年金を指し、その運用は年金積立金運用独立法人(GPIF)が行っています。
GPIF における長期的な運用は、短期的な市場の動向により資産構成割合(基本ポートフォリオ)を変更するよりも、基本となる資産構成割合を決めて、これを維持する方が効率的で良い結果をもたらすとしています。
このため、公的年金積立金運用では、各資産の期待収益率やリスクなどを考慮した慎重な検討を行った上で、基本となる資産構成割合を定めています。
具体的には、国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期資産5%です。
ところが安倍首相は、GPIF の改革を「極めて重視」していると述べ、資産構成の見直しを早期に進める考えを示し、所管する塩崎恭久厚生労働相について「根っからの改革論者。その大胆な実行力に大いに期待している」と報じています(2014.9.19ブルームバーグ)。
またGPIF の米沢康博運用委員長は、将来的な金利上昇で評価損を被る恐れのある国内債を減らし、日本株や外貨建て資産の増加で収益向上を図る資産構成の見直しをすでに検討中とも述べています。
またGPIF は、「国内株式の運用委託先を7年ぶりに見直し、アクティブ運用(積極的運用)では、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント、野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジーと野村アセットマネジメント。アクティブ運用の一部ファンドについては実績連動報酬を導入する」と報じています(2014.4.4ブルーグバーグ)。
1990年代のバブル崩壊後、1992年の宮沢内閣の時に始まって数年続いた公的年金資金による「株価PKO」の経緯を思いだすべきです。
当時はGPIF の前身にあたる年金福祉事業団が主体で、公的年金の積立金が株価対策に投入されましたが、その時の教訓は次のようにいわれています。
- ① 需給型の株価対策は、即効性はあっても効果は一時的である。
- ② 政府部門が民間企業の株式を保有することには深刻な弊害がある。
- ③ 金融ビジネス界は公的年金積立金を「大きなカモ」として狙っている。
- ④ 公的年金の積立金は縮小するほうが良い。
結局、割高な株式投資となったのです。
国民の虎の子の年金資金をアメリカ資本のゴールドマン・サックスに委ね、株式・債券市場をより不安定化させることは絶対にやめるべきです。
(3)日本の資産 売るものはないが担税力はある だから日本の国債を買いたい外国人は多い
別紙平成26年8月分の国債投資家別売買高を見てみましょう。
買付額総額140兆3,270億円です。内訳をみますと、超長期(20年、30年、40年)が16兆7,748億円(12%)、長期(10年)28兆4,946億円(20%)、中期(2年、5年)46兆7,990億円(33%)、短期(6か月、1年)48兆2,581億円(35%)となっています。
更に投資家別に見ますと、債権デーラーを除くと外国人が21兆4,550億円を買い、その74%に当る15兆9,126億円は短期国債を購入しています。
その他とあるのは、日銀や政府・地方公共団体及び政府関係機関(主に独立行政法人)等です。
表から判断すれば、利回り等の魅力、さらに積極的な財政再建を進めているとの理由で、超・長期債などが外国人(個人を意味しない)に積極的に買われているわけではなく、ポートフォリオの債権割合として比較的安全な日本国債を買っているに過ぎません。世界的に見て大量に購入できて流動性も高い「安全商品」があまりないという裏返しでもあるのです。 |
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3.総括として
国の財務書類を中心に「財政再建」「消費税」「国債」に焦点を当てただけで、その原因までは追究できませんでした。
消費税を仮に20%にしてもプライマリーバランスはゼロにならないことを指摘し、景気が回復して経済成長したとしても、所得弾力性の高い法人税や所得税を減税したままの低率構造にしていては、自然増収が発生することは期待できません。この点を見ても財政再建にかける政府の本気度が透けて見えます。
国債増加の原因について、他国と違う日本独自の課題として、1990年の日米構造協議上アメリカの要求によって作られた10年間で総額430兆円の公共投資計画、さらに200兆円上積みされた結果が、ムダな公共事業となって現れ、その原資として国債・地方債が発行され、銀行がそれを引受け、請負ったゼネコンが潤ったのです。それが今の財政危機の源になっていることを見逃してはなりません。
さらに、もう一つの原因は、1990年以降の雇用・賃金の構造変化により、社会保障給付が増大しているのに対し、社会保険料の伸びが1998年以降低下し、時にはマイナスとなり、国庫負担の増大を招いている点も重要な点です。
日本の財政は、ただちに破たんするということではありませんし、1,000兆円に上る国債を今すぐに返済しなければならないというものでもありません。人間の寿命には限りがありますので個人の借金は返済期限がありますが、国には寿命がありませんので将来全額返済し、国債発行残高をゼロにしなければならないということでもありません。
また、世代間の不公平として将来世代が多額の税金を支払わなければならず、将来世代に恩恵を与えるような財政支出を行えないという理屈があります。要は将来世代に恩恵がある内容のものかどうかがポイントであり、野放図に膨張して将来世代に「びた一文」も恩恵を施さないといった仮定に惑わされてはなりません。
そういう意味で、今までのような国債整理基金特別会計で管理するのではなく、健全に国債を管理するための制度を構築してどのように返済していくのか具体的に国民の前に明らかにしていくことが必要です。
政府は、『「三本の矢」により強い経済を実現し、経済再生が財政健全化を促し、財政健全化の進展が経済再生の一段の進展に寄与するという好循環を目指し、持続的成長と財政健全化の双方の実現に取り組む。そうした取組の下、国・地方のプライマリーバランスについて、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP 比の半減、2020年度までに黒字化、その後の債務残高の対GDP 比の安定的な引下げを目指す』としていますが、緊縮財政政策が目白押しの中で仮に政府の言う経済再生ができたとしても、国民には増税による耐乏生活を強いることに変わりはありません。
今までの政策の延長ではなく、景気を良くし国民所得が増え所得税・法人税等の税収増加によることこそが財政再建への道です。
そのためには税制だけの問題で解決できるものではなく、新自由主義路線で歪められた金融・財政(税制)・産業・労働(雇用・賃金・労働時間)・社会保障・教育などの在り方、政策や制度を根本的に見直さなければ対処できる道はないのでないでしょうか。 |
(あきもと・てるお) |
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