論文
特集 第50回 東京浅草全国研究集会・分科会報告
> 第6分科会報告 「日本の財政を斬る!だまされるな日本の財政」
> 埼玉分科会 「ちょと待った!その重課」に参加して
>「法人税制はどうあるべきか、改めて考える」分科会発表を終えて
> 国際的租税回避行為とこれからの対応方法の検討 分科会の発表を終えて

埼玉分科会「ちょっと待った!その重課」に参加して
埼玉会 阿部 真理子
埼玉の片田舎でA株式会社の社長・税務職員・税理士が税務調査の終盤をむかえ、税務職員が「重加の対象ですね…」と。そこに謎の男Xが「ちょっと待った!その重課!」と叫びながら現れた。その男は税務行政をただす「サイターマン」?・・・という寸劇から始まった分科会。

近頃の税務調査では「重加算税」はつきものという傾向があるような気がしていたので、さて「重加算税」とは何者かを理解するために埼玉会の研究発表を拝聴した。分科会の始まりは「そう!そう!」と同じ心境だ。

寸劇のあと、「重加算税」が加算税の一つであることから、加算税の沿革の発表があった。
明治から戦前までの「延滞金時代」は財産刑のみで、脱税犯の処罰はその罪悪性ではなく国家に財産上の損失を生じせしめないことが考え方の基本であった。戦時期にはその損害賠償的認識から罪悪性・倫理性への非難的認識に推移した。その考え方に基づき、昭和22 年からは額の高や申告理由にかかわらず、修正申告で増額した税額の25%(当初は50%であった) を「追徴税」として徴収されるようになり、さらに納付するまでは年7.3%の延滞金が課せられていた。当然滞納の防止や整理についての問題を含んでいた。

戦後はシャウプ勧告により、基本的考え方として「加算税」は「追徴税」と同様に適正な申告書を提出しなかったことに対する一種の行政罰ではあるが、情状に応じて段階的に区分し差異を設けることで合理化を図るために税制改正がなされ、各種加算税が導入され「加算税額時代」となった。その後昭和37 年の国税通則法制定により加算税を統合的に整備し、負担が軽減され現在に至っている。

次に「重加算税」の概要として、賦課要件である「納税者」・「隠ぺい」・「偽りその他不正の行為」についての発表があった。

判例から考察するに、「重加算税」とは悪質な脱税行為をした場合に賦課されるものではなく、脱税の意思の有無、故意か否かは問題にされず、税務調査に支障のある行為となる事実の隠ぺい・仮装が賦課の要件と考えられる。

しかし最近は、調査での否認事項について事実の隠ぺい・仮装がないにも拘らず、重加算税を賦課される納税者や税理士だけでなく、調査官までもがその賦課決定に対して疑問を持たない現状である。
この「重加算税」の指摘への対応方法として、
① 税務調査で把握された非違事項について、事実関係を検証し、隠ぺい・仮装の有無を明確にする。
② 隠ぺい・仮装と指摘された行為は事務運営指針のどこに該当するか検証する。
③ 現金が社外に流出している場合などは事実関係を検証する。
④ 申述書等の文書は調査官のストーリーに基づき作成されることが多いため本来は署名押印すべきでないが、やむを得ない場合には事実と異なる記載があれば訂正させ、熟読吟味して納得してから署名押印すべきであるとの説明があった。

その後、判例・裁決事例の中で重加算税の賦課決定処分が取り消された事案の考察に続き、会員から「過大仕入に対し重課との指摘に反論した文書」や別の事例で国税不服審判所に対する「意見書」の発表があった。

休憩をはさみ、「更正を予知しない修正申告の加算税の免除」について、「更正を予知」したものではないと判断された裁決や会員からの事例の発表があった。

最後に「あるべき加算税制度の検討」と題し、形式的批判・内容的批判の問題点を提起していた。形式的批判の一つとして、
① 「正当な理由があると認められるものがある場合」などと表現が不明確であること、
② 加算税の課税除外規定が本則でなく、例外的・ただし書的取扱いであることなどが挙げられていた。

また、内容的批判としては、
① 同一の事実に対して重加算税と刑事罰の両方が課されることは、二重処罰を禁止していた憲法39 条に違反しないか、
② 刑事訴追に対する国側の不徹底さを、安易に「加算税制度」という行政上の制裁に便乗するのではなく、刑事訴追の徹底こそ求められるのではないかと。

そして今後は課税要件を類型的に法定化し、納税者に具体的理由を明示し、弁明・聴聞の機会を与えるなど適正手続を求めるとして発表は終了した。

次に分科会の参加者からの質問や意見を求め、参加者の間で活発な意見交換がなされた。いくつか抜粋すると次のような内容であった。

① 関西電力の期限後申告についての無申告加算税事件があった後、調査があったことにより決定があるべきことを予知して提出されたものでない期限後申告書の提出について、一定の場合は無申告加算税を課さないことや、国外財産調書の提出が提出期限内にない場合に所得税の申告漏れが生じたときに課税される5%の過少申告加算税など近年の加算税・延滞税についての確認ができなかった。

② 「更正を予知」した修正申告について、事前通知制度になってから課税庁側の見解には変化がないか。調査の目的が所得の確認と言われた場合は具体的事項を言っていないので更正を予知したものとはならないか?・・・事前通知制度になっても、税務調査に対する従来の解釈に影響はない。

③ 課税庁側が調査の理由は言わないが証拠書類を出してきた状態では「更正を予知した」となるであろう。

④ 一般の税務調査と自発的な見直しを要請する行政指導の違いを詳しく知りたい。
・・・国税通則法に基づく税務調査と税務署からの「協力のお願い」に過ぎない行政指導では成り立ちが全く異なる。課税庁側では違う立場で取り扱っている。

⑤ 国税庁のホームページに掲載されている「法人税実地調査の状況」を見ると、例えば平成24 年度は不正発見割合が18.3%となっており、わりと少なく感じる。また、全国平均で見ると関東信越国税局は25.4%と名古屋、金沢についで多い。調査の際に「こちらは認めるからその代わりにこちらに重加算税をかけたい」というときがあるが、重加算税を取ることに必死ということで、この数字に関係しているのではないか。

⑥ 関東信越国税局は重課を求めるというのではなく不正件数を求めているのではないか?
・・・関東信越国税局は荒っぽいという感覚はある。適用要件をきちんと理解し調査に臨まなければならない。

⑦ 税務職員はいわゆる重課を取った調査は評価が高いと思っている。しかし実はそんなことはないが、一応命題にはなっているようだ。

⑧ ここ近年は個人でも重加算、7年遡及調査と言われているが、個人と法人では重加算税に違いがある。

⑨ 申告所得税、法人税、相続税及び贈与税、の重加算税の取扱いについての「事務運営指針」を良く読み比較すると違いが判る。
例えば申告所得税では、「隠ぺい又は仮装に該当する場合」の一つとして、帳簿書類の改ざん(途中省略)、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により「仮装を行っていること」とあるが、法人税では、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により「仮装の経理を行っていること」と、「経理」という文言が入る。
また、申告所得税では「事実関係を総合的に判断して、申告時における隠ぺい又は仮装が合理的に推認できること」とあるが、法人税では記載がない。
一番大きな違いとしては、申告所得税には「隠ぺい又は仮装の行為については、納税者本人が当該行為を行っている場合だけでなく、配偶者又はその他の親族が当該行為を行っている場合であっても納税者本人が行っているものとして取り扱う」と明記されているが、法人税にはない。相続税及び贈与税では「相続人(受遺者を含む。)又は相続人から遺産(債務及び葬式費用を含む。)の調査、申告等を任せられた者が書類について改ざん云々」と記載がある。

⑩ 参加者が現在実際に抱えている申告所得税に対する調査で、課税庁側では「当初から過少に申告することを意図しており、仮装隠ぺいに該当し、重加算税の対象となる」と言ってきている案件の紹介と質問。
内容としては、「確定申告を終えるともう必要がないと真面目に思いこみ、帳簿その他の書類をすべて破棄してしまう、漁業を営んでいる個人A氏」が調査を受けている。課税庁側は「隠ぺい」に該当するので、過少申告を同業者比率で推計課税し、重課といってきている。A氏は経理処理をB氏に頼んでおりA氏は実際のことがわからないので、調査官はB氏から調書を取っている。その調書の内容は不明。

・・・この事案について、参加者から様々な意見があり、例えば
① 課税庁側が同業者比率で推計したものでは重加算税はかけられない。
② 調書を取られた友人に頼んで調書の開示請求をしてもらい、おそらく課税庁側に有利なように書かれているであろうから、虚偽記載で訴えることも可能なのではないか、など。

この分科会では、発表のあとに「質問・意見交換の時間」を設けていたところがとても良い企画であったと思った。この時間は発表者が質問に答えるだけではなく、この分科会に参加されていた方々が実際に抱えている重加算税に関する事例、経験豊富な諸先輩からのアドバイスや考え方などをご紹介いただき、この場にいた発表者を含めた全員が一体となった有意義な時間であったと思う。

最後に発表者から、「まだまだ勉強不足なところがあり、また内容が浅い・薄いとのご指摘に反省し、これからまた勉強し直し、もし機会があれば再度挑戦してみたい」などの感想があった。

国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)昭和36 年7 月5 日によれば、「隠ぺい又は仮装が認められる場合に通常の加算税よりも重い税率で重加算税を課すことは、そのような行為を防止するとともに負担の公平を維持するためにも適当であると考えられるが、現行50%の税率は、高きに失して、かえって厳正な執行を困難にする面があるほか、実質的にみて刑罰的色彩があるとみられ、罰則との関係上二重刑罰の疑いを持つ向きもあるので、課税率を30%に引き下げるものとする。」とあった。

重加算税は「隠ぺい又は仮装」という行為を「防止」するためのものであり、課税庁側の成績や税務職員の個人的な評価に用いられるものではない。確かに「隠ぺい又は仮装」を行った者は別として、勧善懲悪や権力を笠に着て納税者の行為が恣意的に「隠ぺいや仮装」に仕立て上げられてしまうようなことがないよう、重課についての課税要件の類型的な法定化の必要性を再確認した。
寸劇 参加者の様子
寸劇(左)と参加者(右)の様子
( あべ・まりこ)

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