論文

(2004.9月号)
常陸野(ひたちの)霞ヶ浦のほとりで
特別決議憲法に基づく国民の諸権利を擁護しよう
要綱案第二次案に見る新会社法制のルール


「要綱案第二次案に見る新会社法制のルール」
神戸会国岡
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(5)株主総会と取締役会の権限
株主総会

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取締役会を設置しない株式会社は、法令及び定款に違反しない限り、会社に関するあらゆる事項について決議できます(昭和25年改正前の規定と同じ)。

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取締役会を設置する株式会社は、株主総会の権限を縮小し、会社の運営に関する事項を取締役会に移譲します。現行商法230条の10では「商法で定めた事項または定款で定めた事項に限って決議する」となっています。商法で定めた事項とは、つぎのとおりです。
会社の根本にかかわる変更→定款変更、合併、営業譲渡、解散など。
会社の機関の選任・解任に関する権限→代表取締役、取締役、監査役、会計参与
株主の利害に特に影響を与える事項→決算承認、利益配当、新株の第三者に対する有利発行、自己株式の取得など。利益処分案(又は損失処理案)は、剰余金分配等(役員賞与含む)の総会手続に吸収され、議案として特に規定しないことになります。
3 総会の招集地に関する制限が、廃止されます。
取締役会

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会社の業務執行に関する意思決定権限と代表取締役などによる業務執行の監督権限を有します(260条1項)。
2 取締役会が自らこれを決定すべき重要な業務執行は、次のとおりです。
重要な財産の処分及び譲受け、
多額の借財
支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止(260条2項)
内部統制システムの構築の基本方針(今回大会社に新設)

この他にも、例えば、株主総会招集の決定(232条)、代表取締役の選任(261条)、新株の発行(280条の2)、計算書類の承認(281条)、株式分割(218条)、準備金の資本組入れ(293条の3)、取締役の競業取引・自己取引の承認(264条、265条)などは、取締役会自らが決すべきものとされています。
3 取締役は、3月に1回以上、業務の執行の状況を取締役会に報告することが必要です(260条4項)。
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(6)取締役等の責任

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会社に対する責任と第三者に対する責任があります。第三者に対する責任は、悪意(知っていた)又は重過失ある(単なる不注意ではない)ときの責任(266条の3)です。この責任は、原告側に被告の悪意又は重過失の存在、損害額の発生、因果関係の立証責任があります。以下は、会社に対する責任です。

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無過失責任から過失責任へ
266条1項の1〜4号の責任が過失責任化されます。これは、02年改正商法で、委員会等設置会社制度が創設され、そこでは取締役及び執行役の責任は過失責任とされましたが、監査役設置会社では現行法のままとされ、不均衡が生じていたからです。
5号の法令定款違反は、もともと過失責任ですから変更はありません。
266条2項の「みなし賛成決議」は、新会社法では設けられません。

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立証責任の考え方
原告(会社ないし株主側)は、
(i) 会社との委任契約で取締役に就任していること、
(ii) 債務の不完全な履行であること、
(iii) 前記(ii)に基づく損害を立証すればよく、
被告取締役側は、
(iv) 帰責事由(故意・過失)がないこと、
(v) 違法性がないこと、あるいは不可抗力を抗弁として主張すること
ができます。
例えば、違法な剰余金分配が争点であれば、被告は、すべきことはすべてしたこと、違法な配当と認識しなかったことを主張立証することになります。具体的には、粉飾の事実は担当外の取締役には知り得なかったこと、会計監査人の監査結果が適法意見であったから粉飾がないと信頼した、などを主張立証することになります。

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責任の限度額
責任の限度額は、報酬等の6年分が限度です。取締役を複数設置した場合に、代表すべき取締役を設けたときには、代表は6年分、その他の取締役は4年分が限度になります。
定款で、ある取締役が業務を執行しない旨を定めた場合で、社外取締役の要件に該当するときは、2年分が限度になります。
利益相反取引は、株主総会の承認(決議は普通決議)が必要です。ただし、自己のために株式会社と直接に利益相反取引をした取締役は無過失責任となります。

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社外取締役である旨の登記事項の削除
社外取締役である旨の登記事項は削除され、株主総会参考書類及び営業報告書の記載事項に掲載されるだけです。ただし、監査役会設置会社及び委員会等設置会社は、社外取締役である旨の登記が残ります。

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会計参与の責任について
取締役等と共同して計算書類を作成する任務ですから、業務執行行為をします。
社外非常勤ですが、社外取締役並みか否かは、未確定です(責任が2or4年分)。
7 株主代表訴訟の扱い
(i) 次の場合には、株主代表訴訟が提起できません。
当該訴えにつき、当該株主が自己もしくは他人の不正な利益を図り、又は会社に損害を加える目的を有する場合
当該訴訟の追行により、会社の正当な利益が著しく害されること、会社に過大な費用の負担が生じること、その他これに準ずる事情が生じることが、相当な確実さをもって予測される場合
(ii) 不提訴理由の通知
株主等から提訴請求を受けた場合、提訴期間中に訴えを提起しなかったときは、遅滞なく、当該株主又は取締役に対し書面(不提訴理由書)をもって通知しなければなりません。監査役等からの提訴請求の場合も同様とされます。
(iii) 原告適格の喪失の見直し
係属中の株主代表訴訟の原告が、株式交換・株式移転により株主の地位を喪失する場合であっても、株式交換等により完全親会社となる会社の株主となるときは、原告適格を喪失しないことになります。
合併の消滅会社につき係属中の株主代表訴訟の原告が、当該合併により存続会社の株主となるときは、原告適格を喪失しないことになります。
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(7)取締役の任期

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委員会等設置会社の取締役の任期は、一律1年となります。

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委員会等設置会社以外の取締役の任期は、原則2年。監査役は4年になります。
ただし、譲渡制限会社では、定款で任期を最長10年まで伸長できます。
ただ、取締役の解任決議も普通決議要件になりますが、途中解任の場合、残任期間の報酬を損害賠償金として認められる判例がありますので、任期は会社が判断することになります。会社法部会での審議では、4年か5年が妥当という意見でした。
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(8)その他取締役について

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取締役の資格として、株式譲渡制限会社では、定款で株主に限定できます(例外)。

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資格の欠格事由から「破産宣告を受け、復権していない者」が除外されます。

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会社関係法令違反の資格制限規定に、証券取引法と倒産法制に定める罪が追加されます。

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共同代表制、共同支配人等は、廃止されます。

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社外取締役の旨の登記は、廃止されます(委員会等設置会社では残ります)。
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(9)監査役に関して(基本構造の変化はなし)

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退任又は定款員数を欠く場合に備えて、補欠監査役の選任規定が明確になります。

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監査役の権限が、業務監査権限も付け加えられます。ただし、取締役会を設置しない譲渡制限会社は、設置を義務付けられません。また、大会社以外の譲渡制限会社では、定款で監査役の権限を会計監査権限に限定することもできます。

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取締役会を設置する株式会社は、監査役、会計参与、三委員会等のいずれかを選択設置しなければなりません。会計参与を選択すれば、監査役設置が省略できます。

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業務監査権限を有する監査役が設置されていない株式会社は、株主の権限が強化されています。
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