(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト「証券税制における中小企業の立場」
神戸税経新人会

三、法人税法における企業再編税制の問題点
中小企業経営者の願望は、種々の観点から見ると、誕生させた企業を成長させ、利益を出し、株主、従業員、地域社会に貢献したいと思い、企業経営をしている。しかし一方では、成長させ大きくなった企業を、如何に後継者に譲るか、また事業を他人に譲っていくのかを考えている。平成12年の商法改正とともに税法改正で手当てされた企業再編税制はスムーズに中小企業が利用できる税制か否かを検証する。
1.後継者問題(事業承継)
株式交換、合併、分割、現物出資、事後設立は、この経営者の願望を満たすことができるのだろうか。
(1)後継者がいないケース
1 株の売却
税制上は、なんら企業再編税制とは関係なく別の項で説明する有価証券の譲渡の課税と同じである。平成16年から非上場株の譲渡に対する課税は20%(15+5)である。
2 合併
合併の場合は、被合併会社の事業と従業員を合併会社が引継ぎ、経営者の持ち株は合併会社の株に変わる。適格合併の場合はみなし配当課税は発生しない。非適格合併の場合はみなし配当課税を受けることになる。
3 株式交換
上場会社と非上場株との適格交換をすることで、中小企業は子会社として存続し、経営上大きな変化を受けることがない。経営者は非上場株が換金性のある上場株に変わることで大きなメリットがある。
(2)後継者が1人のケース
後継者が一人の場合は、適格分割ではなく、一般法人を設立(後継者が株主)し高収益部門を移したほうがよい。後継者がいないケース
(3)後継者が複数のケース
後継者が二人又はそれ以上の場合は、会社の各営業部門を新設分割することで、後継者間の争いを未然に防ぐことができる。

新設分割の分割型の適格要件は、1 株式のみの交付をする、2 按分型分割である、3 当該会社間の完全支配関係又は同一者による完全支配関係(法令4の2148 )、の三点である。

問題なのは按分型でしか適格にならないため、分割承継法人(新設法人)の株主の持ち株比率は分割法人の持ち株比率と同じであり、分割承継法人株主間の株の異動を譲渡、贈与等で行っていかなければならない。
(4)オーナーが2人のケース(A、B)
オーナーが兄弟二人の場合は、税制適格分割の方法ではいつまでも兄弟の持ち株比率は変わらないため、兄弟の分離独立という問題点の解決にはならない。思い切って課税になるけれども、非按分型の新設分割を利用せざるを得ない。

Bを株主として法人を設立し、A法人の資産・負債の一部をB法人に譲渡する。この設立の仕方のことを、企業再編税制では「税制非適格である非按分型分割でBを株主とする分割承継法人を作る。」という。その後A法人のB所有株を金庫株にすることで、A法人はAが100%出資する法人になり、B法人はBが100%出資する法人になる。
2.中小企業における問題点
(1)株の等価交換の新設を要望


A法人の次男所有株とB法人の長男所有株をどのように整理するのか、という問題が残る。現在の企業再編成税制では税制適格にする限り解決できない持分が存在する。わずか10%程度だからお互いが譲渡すれば良いとする考え方もあるが、高額取得した株を今後換金する機会は皆無である。

税制としては、相続税で充分課税しているのであるから、10%ずつの持分を税制適格で等価交換できる税制改正を提言すべきである。
(2)中小企業で使えない営業権
欠損企業(債務超過)が企業再編税制を使う場合に営業権はどう評価すべきか?
I合併の場合
1 適格合併の場合
自然発生借地権や営業権を評価して資産として受け入れることはできない。
2 非適格合併の場合
被合併法人が自然発生借地権や営業権等で現実に価値のあるものを有する場合は、その公正な評価額によって移転資産を構成することになる。
II株式交換の場合
完全親会社(※1)となる会社において、のれんの計上を検討する局面として、1 株式交換比率を決定する場合と、2 完全子会社(※2)株式を受け入れる場合の2つがある。完全子会社株式の受入価額の決定の場合には、以下の理由により認められないと考えられている。
商法施行規則第33条において、株式交換の場合にはのれんの計上を認めていない。
株式交換においては、資本充実・債権者 保護の観点から認めるべきでない。
のれんの計上においては将来収益の予想 が不確実であり、濫用的計上のおそれがあ る。
III分割の場合
吸収分割の場合には、承継する会社においてのれんの計上が認められている(商規33)が、新設分割の場合には、これを認める規定は存在しない。
(3)税制適格要件緩和の法改正の要望
中小法人の場合、株主にオーナーとは特殊関係のない少数株主もいることがある。株式交換では株式以外の交付金銭等の割合が対価の5%未満であれば、交付金銭等に対応する部分に限り、時価譲渡として課税があるが、それ以外の株式の交付部分は簿価の引継ぎにより課税の繰延ができる。同様に少数株主が分割により株式を取得しないで金銭等の交付を受けた場合などでも、以前の支配関係が継続していると認められる場合には、その交付を受けた部分についてのみ時価譲渡の課税を行うように税制適格要件を緩和して、この税制が中小法人も利用可能なものにするべきである。
3.税制適格再編成の要件(株式交換・株式移転は除く)
企業再編成には企業グループ内の再編成と共同事業を行うための組織再編成の2類型がある。課税の繰延が認められるのは、その前後でも事業に対する実質的な支配関係に変更がないと認められる下記の要件に合致する場合である。
前提要件として金銭等の交付がないこと、分割型分割の場合は按分型であることである。
次に2類型について述べれば下記の差異がある。
企業グループ内の組織再編成
1 持分割合が100%の関係にある法人間で行う組織再編成

2
持分割合が50%超100%未満の関係である法人間で行う組織再編成で次の要件に該当するもの
独立事業単位要件 移転事業にかかる資産・負債の引継ぎ、移転事業の従業者の概ね80%以上の引継ぎ
事業継続用件 移転後も事業の継続が見込まれていること
共同事業を行うための組織再編成
企業グループ内組織再編制の用件のほかに下記の3要件の追加がある。
1 事業関連性要件
2 規模要件(事業比率要件または経営参画要件)

3
継続保有要件(分割により交付された分割承継法人の株式を継続して保有することが見込まれていること)
(1)非適格再編成を選択するメリットがある場合
非按分型の人的分割は株主全員の同意があれば、商法上可能であるが、時価譲渡として譲渡損益の課税と株主に対してみなし配当課税等が生じるが、会社の経営権をめぐって生じる可能性のあるトラブルの回避や含み損の実現などを考えれば必要な場合もある。
(2)繰越欠損金の引継ぎ
適格合併と合併類似適格分割型分割では繰越欠損金の引継ぎが認められる。ただし、企業グループ内の繰越欠損金の引継ぎについては制限があり、グループ関係構築前に発生した繰越欠損金は引き継げない。これに対して、共同事業を行うための組織再編成では引継ぎが認められる。
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