(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト
民法と税法の接点
神奈川税経新人会

I . 税理士と代理権
(1)代理制度
代理とは、代理人が本人のために意思表示をし又は意思表示を受領することによって、その法律効果が直接本人に帰属する制度である。近年、社会取引関係が複雑化していく中で、代理制度の重要性が顕著になってきている。

代理制度の機能は次の2つに大別できる。
第一は、個人の能力の拡張である。現代社会の複雑化により自己の知識・経験を超える高度な行為をし、又は同時に多数の取引をする必要性が強くなってきている。その中で、専門的能力の高い第三者に自己の代わりに事務処理をさせ、その結果を享受するという制度が要請されるのである。

第二は、個人の能力の補充である。これは、本人に十分な意思能力がない場合や、行為能力が制限されている場合に、親権者や後見人がその者に代わって行為をする必要性から要請されるものである。

代理は、その代理権の発生原因によって任意代理と法定代理に区別される。前者は、本人の意思により代理人となるもので、代理権の範囲は本人の意思に基づいて決まるものであり、後者は本人の意思とは無関係に法律の規定により代理人となるもので、その範囲も法律の規定により定められる。 
(2)税理士と代理制度
(ア)委嘱契約
税理士又は税理士法人は納税者との委嘱契約に基づく任意代理人である。よって、その代理権の範囲は委嘱契約によって定められることになる。税理士としては、後々のトラブル防止のためにも、契約書等によりその範囲を明確にしておくのが望ましいと思われる。

委嘱契約とは民法で定められている法律行為の委託である委任契約と法律行為でない事務の委託である準委任契約の複合契約である。準委任は委任の規定が全面的に適用されるので、委嘱契約も委任の規定に従うことになる。よって、税理士は委嘱の本旨に従って善良なる管理者としての注意義務をもって受任した事務を遂行しなければならない。これに反した場合は、民事責任を負うことになる。このことは、例えその委嘱契約が無償のものであったとしても、その責めを免れるものではないので注意が必要である。
(イ)税務代理
税務代理とは、「税務官公署に対して租税に関する法令等に基づく申告等の代理、代行及び申告等や税務官公署の調査処分等に関してする主張、陳述の代理、代行」(税理士法第2条1項1号)と定められていて、その範囲に事実行為である代行をも含む点で、民法上の代理より広い概念として規定されている。このことは現行の税理士業務が、法律行為以外の事実の陳述・解明等を含むことから昭和55年の税理士法改正により、明確化されたものである。

税理士は、前述の委嘱契約の中に税務代理が含まれている場合には、納税者の任意代理人となる。よって納税者の為に相手方である税務官公署に対して申告等を行った効果が、直接本人に帰属するのである。又、税務調査の場面においても、納税者を代理して税理士が行った主張陳述の効果は、当然に本人に帰属するのである。

すなわち、法的にみても税務調査における税理士の主張等は本人のそれと全く同一視されるべきものであり、税務官公署もそのように取り扱わなければならない。そこで、税理士は税務代理をする場合には納税者から授与されている代理権限の範囲を明確にするために、相手方である税務官公署に対して「税務代理権限証書」を提出すべきものと定められている。

この書面は税務代理の対象となる税目(法人税・消費税・源泉所得税等)を明らかにして、提出すべきものとされている。この書面の提出のない場合は、税務官公署は当該税理士の税務代理行為を拒否することができると思われる。しかし、税理士は税務代理をする際にこの書面を提出すれば良いので、仮に税務調査の対象となった申告の際に提出されていない場合でも税務調査の際に提出すれば、税務代理の効果には影響はない。

「調査の通知」(税理士法34条)、「事前通知前の意見聴取」(税理士法35条1項)、「不服申立に係る調査における意見聴取」(税理士法35条3項)の適用を受けるためには、この書面の提出が要件とされていることには注意しなければならない。

なお、補助税理士は納税者から直接税務代理権を受けることができないため、「税務代理権限証書」を提出することはできない。
(ウ)代理権の消滅
税務代理は、その基になった委嘱契約の終了により消滅するのは勿論であるが、本人である納税者の死亡によっても終了する。この点は、

「訴訟代理権」(民訴58条)「登記申請代理権」(不登26条3項)が委任者の死亡により消滅しないと規定されている点で、他士業の代理権と異なるところである。なお、「商行為の委任に因る代理権」(商506条)の不消滅の規定は納税者の委任行為が商行為である場合にのみ適用される。

II . 税法における信義誠実の原則
(1)信義誠実の原則とは
民法1条2項により、「権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実にこれを為すことを要す。」と規定されており、一般に社会生活上一定の状況の下において相手方のもつであろう正当な期待に沿うように一方の行為者が行動することを意味する。

法律的には、法律や契約条項に規定されている権利義務関係を、具体的な事情に応じて創造または調整する機能を果たしている。つまり、ある者の過去の言動に反する主張を許すと、その言動を信頼した相手方の利益を害するような場合に、その者の当該主張を許さないとするものである。

信義則を具体化した概念として
  • 付随的義務
  • 保護義務
  • 安全配慮義務
  • 事情変更の原則
  • 背信的悪意者排除論
  • 信頼関係破壊の法理
がある。
(2)信義則に関する主要判例
(ア)信義則上の義務
i. 使用者の責任と被用者の責任との関係における信義則
民法715条使用者の責任
使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り、又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散について使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる。(最高裁S63.7.1)
ii. 安全配慮義務違反
民法415条債務不履行による損害賠償の要件
安全配慮義務(被用者の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務)は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであり、国と公務員との間でも別異に解すべきものではない。
(最高裁S50.2.25 自衛隊員が、基地内において、別の自衛隊員の運転する自動車にひかれて即死したので、右隊員の両親が国に損害賠償を求めた例)
(イ)信義則上の権利
i. 事情変更の原則
事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が、当事者にとって予見することができず、かつ当事者の責めに帰することができない事由によって生じたものであることが必要であり、かつ、右の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合でも、契約締結当時の契約当事者について判断すべきである。(最高裁S63.7.1)
(ウ)信義則の判断要素
i. 無権代理人の追認拒絶
禁治産者の後見人が、その就職前に禁治産者の無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かは、

右契約締結に至る交渉の経緯、無権代理行為以前に無権代理人と相手方との間でなされた法律行為の内容と性質
追認によって禁治産者が被る不利益と追認の拒絶によって相手方が被る不利益
右契約の履行について、後見人の就職までの間の交渉経緯
無権代理人と後見人の人的関係及び後見人が右契約に関与した行為の程度

本人の意思能力について相手方が認識し又は認識し得た事実

など、諸般の事情を勘案して決定すべきである。(最高裁H6.9.13)
(3) 租税法における信義則
(ア)青色申告の承認と信義則
税務署から青色申告用紙の送付がなされ、毎年受理されていた。信義則を適用して青色申告を承認し、納税者の保護を図るべきかが争点。最高裁として、租税法における信義則の法理の適用に関して初めての一般的な見解である。要件として、
税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと
納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこと
のちに右表示に反する課税処分が行われたこと
そのために納税者が経済的不利益を受けることになったこと

納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないこと

があげられている。(最高裁S60.10.30)
(イ)税務相談に対する信義則
税務相談に対して国税調査官が電話でした回答(本件更正処分でなされたような課税がなされることはないという税務指導の内容)に反してなされた更正処分は、信義則に反するのか。

信義則の適用につき慎重であるべき租税法律関係の特質を考慮すれば、さまざまな状況下で行われる税務職員の見解の表示のすべてが信頼の対象となる公的見解の表示となるものでないことはいうまでもなく、納税者はもともと自己の責任と判断のもとに行動すべきものであることからすれば、信頼の対象となる公的見解の表示であるというためには、少なくとも税務署長そのほかの責任ある立場にある者の正式の見解の表示であることが必要であるというべきであるから、原告主張の回答は、その回答者、回答の方法及び内容等に照らし、信頼の対象となるべき公的見解の表示であると認めることは到底できないものである。(名古屋地裁 H2.5.18)
(ウ)信義則の適用が認められた判決
課税庁が法解釈の誤りにより、各種学校である納税者に対して、その教育用資産が非課税である旨を文書で通知をし、これを信頼した納税者が非課税法人となるための組織変更をしないでいたところ、約8年後に過去5年間に遡る固定資産税の賦課処分を受けた。裁判所は、

租税法規が著しく複雑かつ専門化した現代において、国民が善良な市民として混乱なく社会経済生活を営むためには、租税法規の解釈適用等に関する通達等の事実上の行政作用を信頼し、これを前提として経済的活動をとらざるを得ず、事実上の行政作用を信頼して行動したことにつきなんら責められるべき点のない、誠実、善良な市民が行政庁の信頼を裏切る行為によって、まったく犠牲に供されてもよいとする理由はない。

個々の場合に、租税の減免が法律上の根拠に基づいてのみ行われるべきであるとする原則を形式的に貫くことよりも、事実上の行政作用を信頼したことにつきなんら責められるべき点のない誠実、善良な市民の信頼利益を保護することが、公益上、いっそう強く要請される場合のあることは否定できない。

と判決した。(S40.5.26東京地裁)
(エ)是認通知と信義則
申告是認通知は、税務官庁及び納税者の便宜による事実上の行為であり、それまでの調査に基づいて納税者の申告に対する課税庁の一応の態度を表明したものであって、後にこれに反する行政処分がなされても、それを違法ということはできない。(S42.5.30大阪地裁)
(オ)解説書の信頼性と信義則
課税庁の担当職員がその官職を明示して執筆した著作物中において、個人から法人への無利息貸付に課税されることはない旨の記述を見てこれを信頼した。問題の文献は、税務官庁の担当者の手になるものであり、かつ、個人から法人への無利息貸付は一般に課税対象とはならない旨の記述がみられるのではあるが、いずれも通常想定される一般的な税務事例に則した解説書の性質を有する私的な著作物というほかなく、右にいう公的見解の表示と同視することはできないし、右いずれの記述をみても、当該無利息貸付が経済的にみて、不自然、不合理と認められるような場合を含めて常に同族会社の否認規定の適用がないと述べているものとは解されない。(東京高裁H11.5.31平和事件)
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