(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト
税制問題の検証
東京会藁信博渡邉英男谷井隆晃
大野公義牧野仁士長田秀明
 
I. 歴史
1. 税制調査会について
2. 税調答申の「基本的考え方」の推移
(1) 昭和43年7月 長期税制のあり方についての答申及びその審議の内容と経過の説明
(2) 昭和55年11月 財政体質を改善するために税制上取るべき方策についての答申
(3) 昭和58年11月 今後の税制のあり方についての答申
(4) 昭和61年10月 税制の抜本的見直しについての答申
(5) 平成5年11月 今後の税制のあり方についての答申
−「公正で活力ある高齢化社会」を目指して−
(6) 平成14年6月 あるべき税制の構築に向けた基本方針
3. 検証
(1) 国家財政の規模
(2) 国民所得に対する租税負担率
(3) 格差
ジニ係数とは
ジニ係数の目安
ジニ係数の大きさ意味合い
   
II. 法人税
1. はじめに
1998年以後、法人税は「課税ベース適正化」の観点から次々に税率の引き下げが行われた。一方で1997年より消費税は3%から5%へと上がり、所得税の最高税率は50%から37%へと引下げられ、「広く薄い」税制へと変化した。少子・高齢化社会を支える税制が議論され、国家財政について歳出額のうち約半分しか税収で賄えていない現在において、増税の必要性が全く議論されないのは法人税くらいである。現在、政府税調において再び法人税率の引き下げが検討されているようである。「国際競争力の維持」や「経済社会の活力のため」といった名目で基幹税である地位を退きつつある法人税であるが、果たして法人税は重すぎる税なのか。
2. 法人税の課税ベースの問題
税調によると「平成10年度以降、課税ベースを拡大しつつ、税率を国際水準並みに引下げるとともに、連結納税制度の導入等の大きな改革等を行ってきた」(平成14年度あるべき税制)という。その発端となったのは、それ以前において「法人税の表面税率(調整後)は49.98%と他国と比べ高いとなっていたため、それを引下げることにより企業活力や国際競争力に配意する」(平成10年度税制改正答申)ことであった。

しかし、平成10年度改正のみで課税ベースの適正化が完全に行われたわけではない。政府税調内においても次のような意見がある。

『わが国においても、同様の観点から、平成10年度税制改正において、法人税の課税ベースの大幅な見直しと法人税の基本税率の引下げが併せ行われた。しかしながら、平成11年度税制改正においては、景気情勢に配慮し、課税ベースの見直しが行われないまま税率の引下げが行われ、現在でもこの一方的な減税措置が継続している。

課税ベースの一層の適正化への取組みは、わが国法人税における重要な課題であり、特に連結納税制度といった新しい制度の創設に当たっては、法人税制全体の見直しが不可欠である。こうした観点から、引当金や法人間配当に関する取扱いなど平成10年度税制改正において残された課税ベースの見直しを進めていく必要がある』(平成14年度税制改正答申)

そもそも法人税の課税ベースとは、課税所得(課税標準)のことであって、会計上の利益に益金・損金の調整をされて求められる。現在においてもわが国の法人税法には諸外国と比べて法人企業の課税ベースを縮小(侵食)させる「受取配当の益金不算入」というわが国の法人税法上の基本的仕組みを始めとして、諸外国では税法上損金容認されない法人税法上の「各種引当金(平成10・14年度・で廃止・縮小)」や租税特別措置法上の主として大企業が専ら利用する「各種準備金」、「特別税額控除」、「特別償却等」の政策的減税措置が驚くほどある。

平成14年度税制改正答申の以降、法人税の課税ベース拡大について税調は具体的に言及していない。もっぱら法人税率の引き下げに着目している。

課税ベースを正さないまま「企業活動に対し歪みの少ない中立的な税制の構築」を目指しても意味がないことは明白である。以下、課税ベースを縮小させている項目について述べていく。

 
(1) 受取配当金の益金不算入

政府税調の意見の歴史
1950年度税制改正要綱
1952年度税制改正要綱
1956年12月臨時税制調査会答申
1960年12月税調答申
1964年長期答申
1977年税調答申
1980年11月財政体質改善答申
法人企業の実態
(2) 引当金
(3) 準備金
(4) 特別控除・特別償却
3. 選挙権のない法人
法人税は大企業に有利で不公平だという批判がある一方で、法人に課税すること自体に対する批判もある。『シャウプ勧告』「第6章 法人」の冒頭の書き出しは次のようになっている。

「法人は、歳入増加の財源を求める立法者にとって、常に逃れがたい魅力を有するものである。法人は非個人的な存在であり、たいていの場合、他の種類の納税者ほど強い政治的な主張を唱えうる能力はないのである。株主は比較的少数であり、彼らは租税の影響を直接には感じることはないのである。したがって日本のみならず多くの他の国においても、法人に対しては、ほとんど経済的な正統性又は理論らしきものもなく、単に、政治的にみて主流であり、税務行政上も容易である上に多くの税収入を上げるという理由から重い課税が行われている。」

そもそも、法人税の正体が不明であり、誰が負担しているのかわからない。理論的には株主、従業員あるいは消費者に転嫁されてしまうが、実際には誰もそれを判断できない。従って誰もが無責任となり安易な増税対象として法人が選ばれる、ということである。それに、法人には選挙権がない。そのため政治家も法人に対する課税には賛成しがちであり、その例として湾岸戦争時の法人臨時特別税や東京都の銀行税などが上げられる。

だが、本当に選挙権のない法人はか弱い課税対象で、増税の犠牲になっているのであろうか。では会社法改正に対応して素早く法人税制が改正されたり、連結納税制度などが導入されたのはなぜなのか。立法を左右する各種委員会に企業の代表者等がなぜ多く入っているのか。法人に選挙権がないという議論は、企業の政治献金問題を無視した議論であろう。日本では、リクルート事件以後、政治家本人と政治家の資金管理団体への企業献金は禁止されたが、政党に対する企業献金については今なお継続されている。現実には個人名義でも企業が負担している例も多く、政治献金の大部分は企業・団体献金である。これでは、自然人である国民にのみ参政権を認めた憲法に反するのではないか、という疑問さえある。
4. 交際費の課税問題
政府税調の答申においても常に課税強化が主張されている。例えば法人課税小委員会報告では次のように表現している。「現行制度は、交際費を経費として容認した場合に濫費の支出を助長することになり、また交際費の支出は公正な取引を阻害する可能性がある点を考慮して措置されているものである。また企業による巨額の消費支出に支えられた価格体系により個人が生活の豊かさを実感できないのではないかといった問題も指摘されている」
ここにあるように、濫費の抑制や公正な取引慣行の確立を目的とするというのが、伝統的な指摘である。しかし、これらは表向きのもので、本音はむしろ次の記述であろう。

「経営者が私的な交際費を法人の経費として控除したり定額控除額を利用するための会社分割が行われているといった問題の指摘もある」

しかし、私的経費は役員給与の問題として解決しなければならない。税調委員のなかでは定額控除額を利用するために会社分割するということを指摘した人もいるとのことだが、現実的には考えにくい。交際費の課税は赤字法人対策になると主張する人もいる。

また、交際費が濫費・冗費であるという質的な性格も疑わしい。交際費が冗費であるならば税法上の規制により減少したはずであるが、実際には税法上の規制にもかかわらず増え続け、1992年には6.2兆円にもなり、バブルの崩壊後減少し続けているとはいえ、2001年には3.9兆円に達している。ということは交際費というのは必ずしも冗費ではなく、企業活動上必要な支出としての性格を有していることを示しているのかもしれない。

なぜなら税法上「交際費」とされる費用は、中小企業にとって販売促進費や広告宣伝費と限りなく近いからである。例えば、広告宣伝費や通常不特定多数の者に対して支出するものであるが、取引先が限定されている中小企業にとっては、特定の取引先に宣伝のために支出すること自体が宣伝費でもあるからである。その結果、税法上損金に認められない部分があっても中小企業としては支出せざるを得ない。

海外との比較をするとアメリカは事業を営む為に通常かつ必要な交際費は50%を費用に、ドイツは80%が費用と出来る。しかし、質的な区分となりその計算の前に狩猟・乗馬・ゴルフ・釣りなどの区分がありこれらは損金に算入できないが、損金に算入できる部分についての日本のような量的な制限はない。課税ベース適正化を言うのであれば、交際費のうち通常必要と認められるものについては限度額を廃止すべきである。
次ページへ
▲上に戻る


税経新人会全国協議会