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税経新報-論文

(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト
証券税制における中小企業の立場
神戸税経新人会

一、はじめに
最近の企業を取り巻く法制、税制の変化は激しく、その改廃のスピードに追いつくことができない多数の税理士が、理解困難な状況のなかで右往左往しているのが実情であるといえるのではないだろうか。

私たちが日常接する文献では、企業再編税制、金庫株の解禁、ストックオプション等々、一見華やかな言葉が踊っているが、そのほとんどは大企業向けのものばかりで、税理士が日常的に接触している中小企業は、法改正の流れから取り残されたままのように思える。

最近の法改正の流れを商法、法人税法、所得税法を中心に整理し、中小企業の置かれている現状を報告したい。

二、商法の株式制度改正におけるその背景と意義
大企業に有利な、あるいは大企業を中心とした体系を作り上げている税法を研究するには避けて通れない法律「商法」が存在している。

現在の商法は明治32年に制定され、約半世紀ごとに大きな改正が行われている。昭和25年の改正では大陸法を母体としてきた商法にアメリカ法の考え方が導入され、平成14年には抜本的な改正が戦後最大規模でなされた。

そこで戦後の主な商法改正の歴史を概観し、平成の商法改正に取り組むことにより、現在の証券税制を研究する基礎とすることとした。( 「戦後の商法改正について」参照)

そのなかでの株式制度の改正のポイントは、次の通りである。

1 自己株式の取得規制が原則禁止から原則許容へと転換し、
2 額面株式が廃止され、株式の出資単位を自由に定めることができるようになった。
3 会社は多様な種類の株式を発行することができるようになり、
4 新株予約権(オプション)を発行することができるようになった。
また、平成16年改正では、
5 株券不発行制度の導入が行われた。

一連の改正の契機は、平成12年9月の法制審議会商法部会の決定にあり、21世紀の企業社会に向けて商法を抜本改正する目的として
1 企業の資金調達手段の改善、
2 高度情報化社会とIT革命への対応、
3 企業統治の実効性の確保、委員会設置型+代表執行役/監査役+取締役会型の選択制、

4
企業活動の国際化への対応の視点に立って、以後新制度下の法制審議会における会社法臨時部会が作業を進めてきた成果が、一連の各改正である。

これらの改正は、株式制度・株主総会・取締役会・取締役・監査役・計算書類・情報開示・大会社の特例等々に関連し、きわめて多岐にわたるものである。

さらに、平成17年から18年に向けて、「会社法制の現代化に関する要綱試案」という大改正の検討がなされている。商法の中から会社に関する規定を抜き出し、有限会社法等と併せて「会社法(仮称)」を編纂し、ひらがな口語化も予定されている。また、物的会社と人的会社の整理統合において、譲渡制限会社のうち、現在の有限会社と同じく取締役会を置かないことを選択した株式会社については、有限会社と同じに扱うという方向に進みそうな点等々、今後の会社法制の動向には、注視が必要である。
【1】今後も続く商法の大改正
I 平成13年6月改正(平成13年10月1日施行の平成13年法律79号)
株式関係 1. 自己株式に関する改正
2. 株式の単位に関する規制の見直し
3. 法定準備金制度の改正
II 平成13年11月改正(平成14年4月1日施行の平成13年法律128号)
株式関係 1. 譲渡制限会社が発行する株式総数の制限の廃止
2. 種類株式制度
3. 新株予約権
4. 新株予約権付社債
その他 1. 会社運営の電子化
III 平成13年12月改正(平成14年5月1日施行の平成13年法律149号)
株式関係 1. 取締役等の責任軽減要件の緩和
2. 株主代表訴訟制度の見直し
3. 監査役の機能強化
IV 平成14年5月改正(平成15年4月1日施行の平成14年法律44号)
株式関係 1. 種類株主の取締役等の選解任権
2. 株券失効制度の創設
3. 所在不明株主の株式売却制度の創設
4. 端株等の買増制度
機関関係 1. 株主総会制度の見直し
2. 委員会等設置会社制度の導入
3. 重要財産委員会制度の導入
4. 取締役の報酬規制の合理化
5. みなし大会社制度の導入
計算関係 1. 計算関係規定の省令委任
(商法施行規則の制定・平成14年法務省令22号)
2. 連結計算書類制度の導入
その他 1. 現物出資等の目的財産の価格証明制度の導入
2. 資本減少手続き等の合理化
3. 外国会社規制の合理化
V 平成15年7月改正(平成15年9月25日施行の平成15年法律132号)
株式関係 1. 定款授権に基づく取締役会決議による自己株式取得の許容
2. 中間配当限度額の計算方法の見直し
VI 平成16年の改正
株式関係 1. 株券不発行制度の導入
その他 1. 電子広告制度の導入
VII 今後の改正
平成17年から18年にかけて、「会社法制の現代化に関する要綱試案」が検討されている。そのうちの注目される10項目。
1. 会社法の独立と現代語化
2. 物的会社と人的会社の整理統合
3. 最低資本金制度の見直し
4. 設立方法の一本化
5. 総会召集地の自由化
6. 取締役欠格事由の見直し
7. 取締役会の書面決議の許容
8. 取締役の過失責任化
9. 財源規制の統一化
10. 新しい会社類型の創設
【2】商法改正と中小企業への影響
I 金庫株の活用(商法210条)(商法210条の2)
1. 将来のM&Aや株式交換に利用
金庫株の目的の1つは「機動的な組織再編成」である。
M&Aで代用自己株式として利用する場 合は、税務上、株式を帳簿価格で交付するので安く買って高く交付しても譲渡益課税はない。含み損があっても税務上損を実現することなく株式の移転が可能となる。
2. 新株予約権の行使に伴う自己株式の交付
役員・従業員のインセンティブとして、価値の増加が将来期待できる自己株式を安い権利行使価格で取得できる。
3. 株式の整理・持ち合いの解消
役員・従業員・取引先・親族に分散している株式を自己株式として買取り、集中させたい株主に処分する。
親子会社間や他社との共同事業で株式を 持合している企業が互いに金庫株として譲渡し合い、持合関係をスムーズに解消させる。
4. 納税資金として利用
実質的に会社による相続税の支払が可能となった。
ただし、法人の買取価格によっては売主(個人)にみなし配当課税が生じる。
5. 時価の問題
金庫株として発行法人が株主から取得し、又、処分する場合には時価の決定が困難となるので要注意である。
II 法定準備金制度の緩和と活用(商法288条)(商法289条)
1. 配当可能利益の確保
株主総会の決議と債権者保護手続等の手続きを踏むことにより法定準備金が配当可能利益となる。
2. 自己株式の取得財源の確保
剰余金が僅少な会社にとって、過去に積立てた法定準備金があれば、自己株式取得財源として活用できる。
3. 譲渡制限会社における自己株式取得財源の確保
経営安定の為に、好ましくない者が株主となることを防止するために、現在の株主や経営者に資力がない時、会社が買取る財源として活用できる。
  相続が発生した時も同様である。
4. 支配権の確保
持株割合を上げるために、経営者以外の第三者から法定準備金を取崩して自己株式を購入、その後消却することができるようになった。
III 新株予約権(商法280条の2)(商法280条の20)(商法280条の21)
種類株式の活用(商法222条)
1. ベンチャー企業による活用
i) 新株予約権
資金が乏しいベンチャー企業が役務の対価の支払いに新株予約権を与え、優秀な人材の確保の手段とすることができる。
ii) 種類株式
創業者は普通株式を、外部投資家は議決権付優先株を取得する。
外部投資家は投資先が株式公開を果たせなかった時、会社を清算し、残余財産の分配を受けることができる。
公開できた時は、議決権付優先株は全て普通株式に転換させられ、投資の目的を果たすことができる。
2. 株式公開を予定しない企業の活用
相続により株式が一族間で分散したとき、経営に参画しない同族株主は無議決権株主に転換してもらい、経営権の集中を図ることができる。
IV 新株発行制限の緩和(商法166条ただし書)(商法280条の5の2)(商法347条ただし書)
株式の譲渡に取締役会の承認を要する株式会社については「会社の発行する株式数」が自由に定められることとなったため、一度に大量の新株の発行ができることとなった。 譲渡制限会社が新株を発行する場合は次の2つのいずれかである。
1. 株主に新株引受権を与える場合
2. 特別決議により株主以外の者に発行する場合

V
会社関係書類の電子化(商法33条の2)(商法63条3)(商法166条3)(商法232条)(商法239条の2)(商法239条の3)(商法283条5
会社関係書類の電子化が盛り込まれ、
1. 商業帳簿と定款の電磁的記録の作成
2. 株主総会の招集通知の電磁的方法による通知
3. 総会に出席しない株主の電磁的方法による議決権行使
4. 計算書類の5年間の電磁的方法による公告
が認められた。
VI 監査役制度の強化(商法260条の3)(商法273条)(商法275条の3の2)
監査役制度の強化が図られた。
1. 監査役は取締役会に出席しなければならず、必要ある時は意見を述べなければならない。
2. 監査役の任期は就任後4年以内の最終決算期に関する定時総会の終結の時となった。
3. 辞任した監査役は、その後最初に招集される株主総会に出席し、その旨及び理由を述べることができる。
【3】まとめ
今回の一連の商法改正は、株式制度を含め、大規模公開会社に照準をあてたものとなっており、小規模閉鎖会社は、置き去りにされた感がある。

将来株式の公開を目指すベンチャー企業向けの改正は含まれていることからも、証券市場に上場できる大規模公開会社に目が向けられているとしかいえない。

中小企業であっても株式会社と名乗る以上、公開会社の持つ資本収集・拡大のための本質的なシステムや、情報開示の必要性を有しているのであるから、法改正の側からその選択が迫られてきている。

今回の改正の方向性が、たとえ、中小企業を置き去りにしたものであっても、どこかに中小企業が、生き残れる道は、ないものかと検証すべきである。

しかし、他方、多様な株式制度を駆使し、中小企業であっても、公開会社として資本拡大に取り組もうとする意欲的な企業には、新たな局面が開けるかもしれないという期待もある。
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