(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト
消費税法施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
非課税と免税規定を中心に
大阪税経新人会
はじめに
消費税法が1989年4月に施行され、今年で15年を迎えます。全研大阪チームでは、この節目の年にあたって、消費税法の制度的実務的問題点に焦点をあて、特に非課税と免税の規定を考える事としました。

消費税はその施行の当初から、「少子高齢化社会」論や、「福祉目的」税論を背景として出発しています。そして、去る3月の国会では、消費税の免税点の引き下げと簡易課税制度の見直しが実行されました。将来的には、日本経団連の奥田ビジョン等公然と消費税増税を唱える論調が、報道されています。そのいずれもが、その大義に「福祉」や「高齢化」を掲げる点が共通しています。

今回の発表では、この「福祉」「高齢化」との関連において、特に非課税制度が内包する問題点をさぐり、更に転嫁できない消費税の実態を改悪消費税との関連において検討することとします。

第1章消費税の実務的問題点

第1節海外取引の実務上の事例と問題点
第2節中国・増値税法の輸出免税について
1. 増値税の概要
2. 増値税の課税対象取引
3. 税率
4. 税額計算
5. 輸出免税
第3節社会福祉法人(保育園)をめぐる消費税
第4節消費税と介護保険―福祉用具貸与を中心にー
1. はじめに
2. 福祉用具貸与サービス
介護保険の福祉用具レンタルは12種類〈資料
3. 介護保険関係の非課税の範囲
〈資料 〉法別表第一第7号イ
〈資料 〉法別表第一第10号
〈資料 〉消基通6−7−1
4. 消費税の取り扱いに混乱する介護の現場
〈資料 〉平成12年8月9日厚生省老人保健福祉局事務連絡
〈資料 〉○○リース(株)2003年12月分請求書
〈資料 〉○○リース(株)2004年1月分請求書
〈資料 〉国保連請求一覧表
5. サービスの低下に直結する消費税率のアップ
福祉用具の貸与の役割
避けられない介護サービスの低下_____________
第5節消費税改正(悪)についてのアンケート結果
第6節免税点引下等による増税額実例集計結果

第2章消費税制度の問題点
第1節消費税の歴史と現在
1. 消費税収入の現在
租税収入の22.6%を占める消費税
財務省の公表資料(15年度国庫歳入歳出状況)によると消費税は2003年度現在、所得税についで主要国税収入に占める構成比で29.2%となっています。租税収入全体でも約42兆円の租税収入に対して9兆4900億円で22.59%の割合。これは、法人税収入9兆1100億円を凌いで所得税に次ぐ租税収入の「柱」となっています。
景気変動に「強い」消費税収入
下の表は、消費税導入時点の1990年決算と2003年度の当初予算の比較で、消費税の現在の姿を概観するものです。  この表から、国税三税収入全体の著しい減少とともに、所得税、法人税の顕著な減少、消費税収入の堅実な増加の姿が概観できると思います。90年当時消費税収入は国税三税全体に占める割が11.5%であったものが、景気の変動とその後の法人税、所得税の改悪により大きくその役割を増加させた事実が読みとれます。
1990年度決算 2003年度予算
所得税 26兆0000億 13兆8100億 △12兆1900億
法人税 18兆4000億 9兆1140億 △ 9兆2860億
小計 44兆4000億 22兆9240億 △21兆4760億
消費税 5兆8000億 9兆4890億 3兆6890億
合計 50兆2000億 32兆4130億 △17兆7870億
90年当時消費税3%
2. 消費税導入前夜から今日への歴史
それでは、このような基幹税となった消費税について、その導入前夜から今日に至る歴史を振り返ってみます。(以下略)
第2節消費税の問題点
消費税は、その税の性格から様々な制度的問題点を抱えています。その主要な問題点である税の逆進性と転嫁について検討します。

1. 消費税の逆進性
収入階級別に見る消費税の逆進性
表1は、年間収入階級別に見た消費税の負担率(消費税÷収入)を表したものです。言うまでもなく、消費税は、収入に逆比例する逆進性を有しています。特に年収200万円未満の若年、老年等の世帯には、4%を超える負担(年間約8万円)であるのに対して、1500万円を超える階級では、1.26%の負担(年間約18万9000円)であり、割合にして3.24倍の負担率となっています。なお、この場合の所得は給与所得者の収入総額、事業者は必要経費控除後の所得金額となっています。
消費税率別消費税負担率
表2は、更に消費税の税率を横軸に取り、その年収に対する負担率を縦軸とし、年収200万未満と1500万超の場合の負担率を比較したものです。

この表の試算から明確となるのは、将来消費税が増税されると消費税の逆進性はより顕著となる事です。確かに、消費税率の増税率に比例して負担率も上昇するため、消費税16%の場合の負担率の割合を比較すると約3.24倍と現行の税率の場合と変化はありません。

しかし、その負担率が大幅に増大することにより、低所得者の日常生活費を大きく侵食する事態になります。憲法の生存権に照らして大きな問題となります。

ちなみに、厚生労働省の「国民生活基礎調査」2002年版、「特定世帯の所得の状況」によると『特定世帯について、所得金額階級別に世帯数の分布をみると、「高齢者世帯」では「100〜150万円未満」が、「母子世帯」では「150〜200万円未満」が最も多くなっている。

また、特定世帯の1世帯当たり平均所得金額をみると、「高齢者世帯」は319万5千円、「母子世帯」は252万8千円となっている。』との結果が出ています。一般世帯の平均所得金額602万円との比較では、極めて厳しい生活状況にある世帯の多さがうかがえます。
総務省の「家計調査年報」2002年度版では、年収別にその年収に比較した消費支出の割合を算出しています。これによると、最低年収の階層ではその95%が消費支出に充てられている一方、最高年収の階層では38%となっています。

政府税制調査会の「少子高齢社会における税制のあり方(平成15年6月17日)」では、「これに関連し、所得に対する逆進性の問題については、消費税という一税目のみを取り上げて議論すべきものではなく、税制全体、さらには社会保障制度等の歳出面を含めた財政全体で判断していくことが必要である。」と述べています。しかし、後で検討するように、日本の社会保障給付率は先進国の中でも最低ランクである上、今回の年金制度改悪はその給付率を更に下げるものです。こうした「全体」構造の中で、消費税はこれらの低所得者世帯にも一律「公平」に課税されることになります。
2. 消費税の転嫁の実態
消費税は、転嫁を前提として事業者が納税義務者となる間接税です。その転嫁が円滑に行われない場合には、消費税は「付加価値」を課税標準とする事実上の直接税と変化します。

では、その転嫁が果たしてどの程度実行されているかについては、国税庁はもとよりまともな統計は存在しないようです。本体の税抜き価額を値下げして、消費税分を完全に事業者負担している場合には100%転嫁不能となりますが、十分に転嫁できていない場合や消費税分のいくらかを値引きしている場合、或いは税込金額合計の値引きをした場合など一口に転嫁と言ってもその実態を的確に把握することが困難であるからでしょう。この転嫁が「予定」されているだけであって法的に何らの保証がない特に中小零細企業にとって、消費税は「預かり金」という国税当局の広報は、実態を全く反映しない詭弁としか聞こえないでしょう。

中小企業における消費税実態調査(中小企業庁)にみる転嫁の実態
中小企業庁が平成14年に実施した転嫁状況についてまとめたものが表3です。
これによると、売上階級が2億円以上の中企業では約80%以上が完全に転嫁できていると回答しているのに対して、今回新たに課税事業者となる売上1千万円から3千万円の小企業では約40%から50%程度しか完全に転嫁できないと答えているのが実態です。また約30%の事業者が、ほとんど転嫁できないと回答しています。
中小企業にとっては、第2事業税
消費税の課税標準は、あくまで「国内における課税資産の譲渡等」であり、納税義務者は「事業者」となっています。消費税という言葉からあたかも「消費」を課税客体として課税されるかのような錯覚に陥りますが、消費税法の条文のどこを探しても、かつての納税義務者は消費者であり事業者は特別徴収義務者であるとの構成はありません。実態から言うと「市場が許せば転嫁が可能な第2の事業税」という表現がより的確でしょう。「消費税」という名称は、ヨーロッパ等の正確な名称VAT=付加価値税と呼称するのが本来であり、消費者に無用の錯誤を招く名称であると思われます。
総額表示方式の問題点
以上のような消費税の問題点を考える上で、消費税の総額表示は、その付加価値税としての性格から考えると「順当な改正」であるとも考えられます。消費税は、あくまで事業者に課せられる付加価値税ですから、「預かり金」としてその内訳を表示する義務は法的にはないからです。

ただ、消費税導入の当初「外税」方式を推奨していたのは、当局が転嫁の円滑化を図り、便乗値上げ等を防止する目的からの政治的意図的な政策であったと考えられます。この総額表示により、消費税の増税への一里塚が築かれたと評する意見もあります。
輸出免税規定の是非と転嫁の関連について
現行消費税法では、輸出については、ゼロ%税率という手法により、輸出企業に対して消費税の還付を行っています。この消費税の輸出還付は、GATT - 般協定第3条2項「いずれかの締約国の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、同種の国内産品に直接又は間接に課せられるいかなる種類の内国税、その他の内国課徴金も直接であると間接であるとを問わず課せられることはない」という規定に基づき制度化されたものとされています。

特に大企業は、輸出により多額の消費税の還付を受けその恩恵を享受しています。この還付の基となる仕入に係る消費税は、前段階において事業者が既に国に納付してきたものです。問題は、これらの前段階の事業者が、転嫁を充分に行えず自ら付加価値の中から納税したものであるとするならば、輸出企業が受けている消費税還付は実態としては「輸出助成補助金」に他ならないという事です。大企業の還付消費税は表4のとおり膨大な金額となっています。
表4
企業名 年間還付額
トヨタ自動車 1,551億円
本田技研工業 864億円
日産自動車 693億円
ソニー 791億円
松下電器産業 669億円
キャノン 479億円
日立製作所 293億円
東芝 375億円
富士通 280億円
三菱重工 239億円
10社合計 6,234億円
出所:全国商工新聞2002年9月23日
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