(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト
「消費税法施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える。非課税と免税規定を中心に」
大阪税経新人会
第3節食料品非課税をめぐる論点と消費税
現在、ヨーロッパ等生活必需品である食料品に対して軽減税率を採用している国は多数にのぼります。また軽減税率の大小だけでなく、イギリスなどゼロ税率を採用して事実上輸出免税規定と同様の完全「非課税」を実施している国が存在することです。

平成12年7月の政府税調答申では、
「また、仮に、食料品のように転々流通するものを非課税にすると、例えば、レストランなどが食料品(非課税)を仕入れて外食サービス(課税)を提供する場合には、その食料品の製造・流通などの段階で生じた機械設備、燃料、輸送サービスなどの仕入れコスト(仕入税額控除できない消費税相当額を含む。)の上に、外食サービスの提供の段階で重複して消費税が課税されるため、かえって外食サービスの価格が上昇しかねません。このように、転々流通するものを非課税にすることについては、税の累積が生じることを通じて経済活動に歪みをもたらすおそれがあります。

(注)このため、現在、政策的に設けられている非課税取引の範囲は、医療、福祉、教育など、最終消費者に提供されるサービスであり、税の累積が生じにくい分野に限定されています。
今後とも、消費一般に対して広く公平に負担を求めることができる消費税の特長を維持することが必要であり、非課税範囲の拡大を行うことは適当でないと考えます。」
と述べ、食料品非課税に反対の意見を述べています。

更に、ゼロ税率については、
「ごく一部の国においては、食料品などの売上げを非課税にするとともに、それに対応する仕入れについての税額控除も認めることにより、消費税負担が一切生じないようにする仕組みが採られています。こうした仕組みは、税率をゼロとして課税を行った場合と同様の効果が生ずるため、「ゼロ税率」と呼ばれています。

しかし、ゼロ税率の設定は、消費税の負担をまったく負わない分野を作り出すことにほかならず、消費一般に広く公平に負担を求めるというこれまでの税制改革の流れに真っ向から反することになります。また、課税ベースが大幅に侵食されることから、一定の税収を確保するためには、ゼロ税率による減収分だけ標準税率の引上げが必要になります。さらに、恒常的に還付を受ける事業者が増え、事業者間の不公平感が生じかねないとともに、還付申告や事後調査に関連する事務負担やコストが発生するという問題もあります。

したがって、ゼロ税率の採用は認めがたいものと考えます。

なお、食料品などに対してゼロ税率を採用している主要国としてイギリスの例が挙げられることがありますが、欧州理事会指令においてはゼロ税率を否定する考え方が採られており、イギリスに対しては是正が求められてきています。」として、ゼロ税率の採用に批判的意見を述べています。

しかし、既述のように消費税は、その本来の性格から見て顕著な逆進性を持つ上、市場で転嫁できなければ「損税」として多くの中小企業の犠牲の上に納税される欠陥税制です。 これらの逆進性や損税としての性格を多少でも緩和するために最も有効な手段は、少なくとも国民生活に直結する食料費などの基礎物品についてゼロ税率を採用すべきであると考えられます。

なお、1989年12月当時の海部内閣は、参議院で野党が多数派を占める政治情勢の下、自民党税制改正大綱において「全食料品に対する小売段階非課税及び特別低税率(1.5%)の設定」を掲げ、1990年3月同趣旨の消費税見直し法案を提出した経緯があります。しかし、食料品小売業者売り上げは非課税となる一方、その仕入税額に含まれる1.5%相当の消費税負担が大きな問題になるなど、結局廃案となりました。

この経緯から見ても、食料品など複雑な流通経路を経由する物品などは、まさに非課税でなくゼロ税率であることが課税システムから考えても妥当であるといえるのではないでしょうか。
第4節消費税と福祉
消費税は、その導入当初から「福祉」を錦の御旗としてその財源不足を補うための位置づけを常にされてきました。消費税導入15年を経て、果たして消費税は福祉のために使われたのかどうか、また将来の高齢化社会のために消費税が不可欠であるのかどうかが問題となっています。
1.消費税は、何に使われたか
表5は、消費税の15年間の税収合計です。これによると2003年度までの累計で約138兆円となっています。他方社会保障関係費は導入当初に比較すると55兆円の増加に止まります。また、この間の法人税、法人住民税、法人事業税の税収減は約131兆円となっています。この数値からは、消費税は必ずしも社会保障や福祉財源使途に使用されたとは言えず、法人税等の減税、減収の補完として費消されてきたとも言えます。

与党は04年度税制改正大綱において、基礎年金の国庫負担金を1/3から1/2に引き上げる財源として、年金課税、所得税の定率減税の廃止、更に「07年度を目途に、年金、医療、介護の社会保障給付全般に要する費用の見通し等を踏まえつつ、消費税を含む抜本的税制改革を実現する」としています。

重要なことは、国の歳入歳出レベルで消費税がどのような役割を果たしたかと言うことよりも、そもそも第2章で検討したような低所得者への逆進性や中小零細企業の損税としての性格を持つ消費税を「福祉」財源とする事が妥当であるかどうかの問題であるといえるのではないでしょうか。
2.少子高齢化社会論と消費税
国の広報では、来るべき少子高齢化社会での消費税の役割が過大に宣伝されています。果して、少子高齢化社会にとって消費税は必須のものなのかどうか。少子高齢化社会の実態を見る必要があると考えます。
非労働力人口の増加と高齢化社会
総務省統計局では、毎年「労働力調査」を実施しています。表6は「長期時系列データー」を10年単位で概括しています。これを見れば、次のことが明らかとなります。
労働力人口は1998年の6793万人をピークに減少していること

非労働力人口は増加の一途をたどり15歳以上の人口の39%、4285万人に達していること。昭和28年当時はその割合は、約30%であったこと。現在約10人に4人が非労働力人口となっていること。

とりわけ、女性の非労働力人口は、女性の労働力人口2732万人を上回る2916万人となっていること。

65歳以上の労働力人口は489万人に達し、平成1年339万人以降顕著な伸び率となっていること。しかし、逆に労働力人口比率では、明らかに低下し(昭和43年33.5%→平成15年20.2%)ていること。

労働力人口のうち完全失業者が350万人となり失業率は5.3%に達していること。
この統計から、進行する少子高齢化社会における労働力を完全に予測することは困難です。しかし、明確なことは、日本社会で少子高齢化と同時に進行しているのは、むしろ非労働力人口や完全失業者の顕著な増加であり、反面高齢者の労働力人口の増加であるということです。

非労働力人口の増加の背景には、高齢者の増加もその一因となるでしょうが、更に統計上失業者に含まれない潜在的就職希望者の増加や働く意欲を喪失した人口の増加であると考えられます。

高齢者の有業率の増加を国際的に比較した総務省データーを以下に掲載します。
上記のように、国際的にも日本の労働力人口比率は高く、この傾向は今後も続くものと推測されます。

消費税の増税を考える前に、このような膨大な非労働力人口を労働力として活用できる社会や税制を造ることこそが大切であると考えます。「女性も65歳まで働くのが当たり前」とされる北欧社会はその貴重な事例ではないでしょうか。
純負担率をめぐる問題点
高齢化社会論では、負担の増大という財政側からの議論ばかりが横行しています。しかし、家計や国民経済からみてはたして租税と社会保障の負担率から社会保障給付率を控除した純負担率がどのようになるかが実は大きな問題であると考えます。少し資料が古いですがこれに関して安田総研が国際比較したものが参考になります。
税、社会保障負担率 社会保障給付率 差引「純負担率」
A B AーB
日本 29.2 11.4 17.8
ドイツ 39.0 24.0 15.0
フランス 43.7 26.4 17.3
スェーデン 51.0 37.8 13.2
イギリス 35.1 20.6 14.5
アメリカ 26.7 14.5 12.2
1992年対GDP比較安田総研「国民負担率概念に関する議論の整理と今後の展開」より抜粋
高齢化社会において表面的国民負担率が高率(51%)なスウェーデンよりも日本の方が純負担は高い(17.8%対13.2%)との結果が出ています。これは、社会保障給付率に大きな差(11.4%対37.8%)があるからです。さらに貯蓄率を加味し、所得から純負担率と貯蓄率を控除した最終消費率(所得−純負担率−貯蓄率)は、意外にもスェーデンの方が日本よりも高いとの試算もあります。福祉を中心とした安心のシステムと教育に惜しみなく社会的資本を投入し、結果的に国民経済が発展するという先進的な事例です。もうひとつ、この試算からもアメリカにおいてさえ社会保障給付率が日本よりも高い事実が判明します。

今回の年金改悪のように社会保障は低下させながら他方で国民負担を増大させる政府の政策は、ますます最終消費負担率を低下させ国民の生活と福祉、ひいては経済を悪化させることになるのがこの表からも明らかです。世界でも有数の国民所得がありながら、大多数の国民は不安と高負担にあえぐ、そうした社会像に導くのが消費税増税の目的なのでしょうか。

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