(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト「証券税制における中小企業の立場」
神戸税経新人会

四、所得税法における証券税制の問題点
平成15年度の税制改正において、「貯蓄から投資へ」の改革に資する金融・証券税制の軽減・簡素化の一環として、次のような改正が行われた。
1.確定申告を要しない配当所得
〔措置法第8条の5〕
居住者等が平成15年4月1日以後に内国法人から支払を受けるべき配当等で次に掲げる配当等については、その者の同年以後の各年分の所得税の計算上、これを除外して総所得金額を計算して、確定申告をすることができる。確定申告義務を有するかどうかの判定を行う場合も同様である。また、税務署長が決定を行う場合には、これらの配当を除外して行うこととされている。

1
内国法人から支払を受ける配当等(2 を除く。)で、その内国法人から1回に支払を受けるべき金額が5万円(10万円)以下であるもの
2 内国法人から支払を受ける上場株式等の配当等(一定のものを除く)
2.上場株式等の配当等に係る源泉徴収税率等の特例
〔措置法第9条の3〕

1
平成15年4月1日以後に居住者等が支払を受けるべき上場株式等の配当等(一定のものを除く。)については、所得税法等の規定による20%の源泉徴収税率に代えて、その税率を15%(他に個人住民税5%)とすることとされている。

2
また、この特例による源泉徴収税率については、平成16年1月1日から平成20年3月31日までに支払を受けるべきものに対しては、7%(他に個人住民税3%)の優遇税率を適用することとされている。
3.株式等に係る譲渡所得等の課税の特例
〔措置法第37条の10〕

1
株式等の譲渡による所得については、平成15年1月1日以後申告分離課税制度に一本化されたところである。
本条は、株式等の譲渡による所得に関する「申告分離課税」制度の特例について規定したものである。

2
すなわち、居住者等が、株式等の譲渡をした場合には、その株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(株式等に係る譲渡所得等という。)については、他の所得と区分して、株式等に係る譲渡所得等の金額に対して15%(他に個人住民税5%)の税率で課税することとされている。

3
申告分離課税制度の下で、上場株式等を譲渡した場合の株式等に係る譲渡所得等の課税の特例、平成13年9月30日以前に取得した上場株式等の取得費の特例、特例口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例等、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除、特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除等の特例、特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除及び譲渡所得等の課税の特例、株式交換又は株式移転に係る課税の特例及び特定上場株式等に係る譲渡所得の非課税といった特例措置が講じられている。

4
以上を通じてみると、所得税法本則どおり総合課税される有価証券の譲渡による所得としては、ゴルフ会員権の譲渡に類似する株式等の譲渡による所得があることとなる。
4.上場株式等を譲渡した場合の株式等に係る譲渡所得等の課税の特例
〔措置法第37条の11〕
この条は、上場株式等を譲渡した場合の株式等に係る譲渡所得等の金額に対する税額計算の特例から成り立っている。

上場株式等に係る優遇税率の特例は、投資家利便の向上に配慮し、簡素で分かりやすい税制を構築することを基本としつつ、「貯蓄から投資へ」といった現下の政策要請にも応える観点から、引き続き個人投資家の市場への参加と株式等の保有を促進することにより厚みのある株式市場の形成の促進に資することを目的として、居住者等が平成15年1月1日から平成19年12月31日までの5年間に行う上場株式等の譲渡による上場株式等に係る譲渡所得等の金額について、7%(他に個人住民税3%)に軽減するというものである。

なお、この「優遇税率の特例」の適用がある上場株式等の譲渡については、7%という低率の課税が行われることから、「公開株式に係る2分の1課税の特例」は適用しないこととされている。
5.上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
〔措置法第37条の12の2〕
この特例は、平成15年1月1日以後に上場株式等の譲渡をしたことにより生じた損失の金額のうち、その譲渡をした日の属する年分の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額を有するときは、一定の要件の下で、その損失の金額をその年の翌年以後3年以内の各年分の株式等に係る譲渡所得等の金額から繰越控除するというものである。
6.問題点
上記の改正の結果、上場株式等と上場株式等以外の株式等では税負担に相当な差異が生じることとなった。 参照ページで示す設例では税負担に2倍の格差が生じている。

これらの改正は次の二つの大きな問題点を抱えているのではないだろうか。

1
確定申告を要しない配当所得については、「一般大衆投資家である中堅所得者層に利益を与え、証券市場に資金を流入させる」趣旨のもとに設けられたものである。しかしながら、中堅所得者層が、上場会社から支払を受ける配当等が1銘柄年10万円を超える上場株式等を一般的には取得できるものではない。そうすると、この制度は、高額所得者層に利益を与えるために設けられた制度といわざるを得ない。

2
上場株式等に係る課税の特例及び上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除については、「貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方の切り替え」との基本理念から優遇措置が設けられている。しかしながら、この理念からすると上場株式等に限定する理由がない。

上記のことからして、課税の公平及び負担の公平を図るために、上場株式等と上場株式等以外の株式等とは、隔たりを設けず、上場株式等以外の株式等にもこれらの優遇措置を講ずるべきである。

五、おわりに
規制緩和の流れの中で会社法制・税制の面において大きな改正が相次いできたが、その本質は大企業にとって都合の良い規制緩和であることは明らかであるように思える。

規制緩和の美名の下に、弱肉強食の社会へ向かおうとしているのが、今日の日本の実相であるといっても過言ではないだろう。

課税の面においても同様の軌跡をたどっており、特に配当課税における上場株式と非上場株式との極端な課税の不公平は、直ちに是正されるべきものだろう。

大企業中心の制度改正の中にも、中小企業に適用される余地が若干はありそうだが、安易に取り組むと、とんでもない落とし穴が随所に見え隠れしているので、慎重に取り組む必要があると思われる。

中小企業とともにあり、中小企業の発展を願う立場の税理士として、最近の制度改正における問題点を探り、中小企業のあるべき制度の構築に向けて発言ができるよう今後も研鑽を積み重ねて行きたいと思う。
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