(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト「民法と税法の接点」
神奈川税経新人会

V. マンション管理組合住宅管理組合の駐車場収入の課税関係について
(1)はじめに
(ア)問題の所在
比較的大規模な分譲マンションなどで、住宅管理組合が駐車場を管理し、これを借りているマンションの住民から駐車場賃料を受け取っているところが多い。 団地内に十分なスペースがないとき、近隣の土地を借り受け、団地の駐車場として運用しているところもある。

こんな場合に、法人税・消費税の課税がおきるかどうかが問題になる。税経新報でも3年12月号の「お尋ねします」でこの問題を取り上げているので、詳しくはこの記事を読んでいただくとよい。そこに読者の回答も載っているが、回答者Aは条件付の不課税論、回答者Bは課税論で、意見が分かれている。質問者はこれらの回答と異なり、内部駐車場は不課税、外部駐車場は課税と考えているようで、三者三様の考えが示されている。
(2)国税当局の見解
この問題の国税庁側の見解としては、法人税質疑応答事例の235番がある。この回答では、

駐車場の敷地は区分所有者が所有し、管理組合の駐車場業はその区分所有者を対象としている。

収入は区分所有者に分配されず、管理組合の事業費または修繕積立金の一部として、充当されている。
駐車料金は付近の駐車場と比較し低額である。

の3条件が充足されれば課税されないとしている。形式的には条件付不課税論の形をとっているが、実質は外部駐車場課税論だとも言える。

消費税については、やはり質疑応答集の中に、「組合員である区分所有者に対する貸付の対価ならば、不課税」としており、法人税の場合のような条件は特に付されていない。
(3)マンション管理組合と課税問題
マンション管理組合等に対する課税強化の問題はNPO法人等の非営利法人に対する課税問題も絡み、時の問題となっている。又消費税の非課税事業者の範囲が基準期間の課税売上高1000万円以下に引き下げられたこととも絡み、今後各地で問題化することも予想され、この問題の民法上からの検討を行う必要もあると考えられる。
(4)民法と建物区分所有法
マンションなどの区分所有建物については、旧民法でも208条に特別な規定を置いていたが、昭和30年代以降のマンションブームの到来とともに、多発したトラブルを解決するため、特別法として昭和37年に「建物の区分所有等に関する法律」が制定され、その後昭和58年と平成14年に改正されている。駐車場の課税問題もこの法律の関連条文の検討が不可欠である。
(ア)建物の区分所有
区分所有という概念は民法上特殊な概念である。なぜなら民法では「一物一権主義」を原則としているからだ。マンションのように一つの建物でありながら一戸毎に所有権を認めるためには、例外規定を置くことが必要で、「区分所有権」の概念は「区分所有法」により民法の所有権概念の例外として規定されている。マンションには住民の専有部分のほかに共用部分があるのが普通で、区分所有権の目的となっているのは、専有部分だけである。共有部分はマンション居住者の共有となる。またマンションの敷地については、各区分所有者が持つのは所有権に限られず、地上権、賃借権などを持つ場合もあるが、これを「敷地利用権」という。
(イ)住宅管理組合
快適な住環境の維持のためには建物の管理が欠かせない。区分所有建物の場合誰が管理するかが問題となる。区分所有法では住民全体で団体を構成し建物・敷地・付属施設の管理を行うこととしている。これを管理組合という。管理組合は複数の区分所有者がいれば成立する人格のない社団で、設立総会などは必要ない。しかし集会で決議し事務所の所在地で登記をすれば法人となることができる。これを管理組合法人という。法人となれば法人税法上は公益法人の規定が準用される。但し寄付金の損金算入の規定と法人税の税率については、普通法人と同様に扱われ、優遇措置が受けられない。
(ウ)敷地利用権と規約敷地
区分所有法では建物とその敷地を一体化し、これを別々に処分できるという民法の原則を排除している。したがって建物の区分所有権を譲渡すれば、当然に敷地利用権も移転する。この一体化原則の適用のためには、敷地利用権の対象となる、建物の敷地の範囲を限定する必要がある。建物の所在する敷地(底地)は当然含まれるが、この他に区分所有者が規約で敷地として定めた土地も敷地として認めている。(規約敷地)規約敷地としては庭や通路のほか広場、駐車場、テニスコート、付属建物の敷地、などが対象となる。
(エ)駐車場と敷地専用使用権
敷地利用権を特定の区分所有者にだけが使用できる権利を専用使用権という。マンションの駐車場を借りるのも、この専用使用権の一種で「駐車場専用使用権」という。

マンションの分譲時に分譲業者が駐車場を設け、特定の区分所有者に専用使用権を有償で分譲することがあり、紛争になりやすい。この場合、分譲業者は敷地利用権のほかに専用使用権を売却することになり、二重の利益を得るので、公序良俗に反しないかの争いもあったが、最高裁判所は直ちに公序良俗違反とはいえないとの結論を出している。このような紛争の未然防止のため、標準管理組合規約では、駐車場については管理組合と区分所有者との期間を定めた賃貸契約方式が規定され、抽選で利用者を決定する方式が推奨されている。現在はこの方式を採用している例が多い。
(オ)マンション管理規約
マンションの建物、敷地、付属施設などの管理または使用に関する事項は法律のほか、管理組合の規約で定めることになっている。前述の規約敷地についても、ここで規定される。住宅宅地審議会では「標準管理規約」とそのコメントによりマンション管理規約作成について指導しているが、そこでは駐車場の利用料金について、「駐車場が全戸分ない場合には、駐車場使用料を近傍の同種の駐車料金と均衡を失しないよう設定すること」が推奨されている。
(5)結論
以上建物区分所有法の概念で前提車場の課税関係を考えると、駐車場が規約敷地となっている限り法人税も消費税も課税関係は発生しないのではないかと考えられ、国税庁の法人税質疑応答事例の見解には、若干の疑問が残る。

VI.事実婚の解消と財産分与
(1)婚姻と内縁関係(事実婚)
婚姻状態と内縁関係(事実婚)については次のような違いがある。

日本では婚姻は法律婚主義が採用されている。すなわち婚姻は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによって、その効力を生ずることとされている。

これに対して内縁関係(事実婚)とは、婚姻の届け出を欠くために、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して実質的に夫婦としての生活を営むものについては婚姻に準ずる関係と考えられる、という最高裁判決がある。(最判S33.4.11民集12巻5号789頁)これを準婚理論という。

また配偶者のある場合であっても、他の異性との関係が内縁と認められる場合がある。

「法律婚よりも婚姻外の男女関係にこそ夫婦としての実が見られるときは重婚的であれ内縁関係に他ならない」(東京高裁54.4.24)という判例がある。同種の判例をまとめると重婚的内縁関係成立の要件としては、法律婚が形骸化していること、内縁の夫と妻が事実上の夫婦共同生活の本拠をもち、しかもその共同生活が相当期間長期にわたって継続しており、周囲からも夫婦として認められていること、法律上の夫婦が離婚状態になっていることに本人に何ら責任がないことなどがあげられている。
(2)婚姻関係者間の財産移転
婚姻関係者間で財産移転が行われたときは次のような課税関係が生じてくる。
まず、配偶者間で贈与が行われた場合、贈与税の配偶者控除の適用が考えられる。これは婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産またはその取得資金の贈与がなされた場合は、一定の要件を満たすことを条件として、2,000万円の配偶者控除を受けることができるという制度である。この場合の婚姻期間はあくまでも法律婚の考え方に沿い、婚姻の届出があった日から贈与の日までの期間により計算する(1年未満は切り捨て)こととなっている。この場合、贈与税は大幅に軽減されるが不動産取得税は課税される。

次に、離婚に際して財産分与が行われた場合の課税についてである。離婚に際して支払われる金銭など(離婚給付)については、財産分与(民法768条)、精神的苦痛に対する慰謝料(民法710条)、和解金など、養育費などが考えられる。

このうち、財産分与については、婚姻期間中に築いた財産の清算的な要素、慰謝料的な要素、扶養的財産要素が含まれると考えられる。そのため以下にみるように財産分与により、財産を取得した者については課税関係は生じない。

相続税法では婚姻の取り消し又は離婚による財産の分与によって取得した財産については、贈与により取得した財産とはならないと定めている。(ただしその分与にかかる財産の額が過当である場合、離婚を手段として贈与税若しくは相続税のほ脱を図ると認められる場合は贈与により取得した財産となる場合がある。)

また所得税法では心身に加えられた損害につき支払いを受ける慰謝料と他の損害賠償金は非課税との規定がある。ただし、不動産の財産分与を受けた場合、不動産取得税は課税される。

次に、分与者への課税関係を見てみると、財産分与の権利義務は離婚の成立により発生し、分与の完了により消滅する。この財産分与義務の消滅自体が経済的利益であり、財産分与は有償譲渡であるという判例がある。(最S57.5.27)

そして所得税基本通達では財産分与による資産の移転は財産分与義務の消滅とういう経済的利益を対価とする譲渡であると規定されている。これにより、金銭によって財産分与した場合は譲渡所得に関する課税問題は生じないが、不動産の財産分与をした場合には、不動産の分与は資産の譲渡に該当し譲渡所得課税の対象となる。居住用不動産を譲渡する場合3000万円の特別控除を受けることができるが、配偶者に対する譲渡には適用されないので注意が必要である。ただし、財産分与後速やかに離婚した場合には適用される。

財産分与以外の離婚給付のうち養育料については扶養義務者相互間において生活費又は教育費にあてるためにした贈与のうち通常必要と認められる財産については課税されない。ただし、一括贈与については上記の条件を満たさないため贈与税が課税される場合がある。

最後に、婚姻関係がどちらかの死亡により解消された場合、配偶者は相続人となるので相続税の枠組みのなかで課税関係が行われる。配偶者については、配偶者控除など、軽減措置が認められている。
(3)内縁関係者間(事実婚)の財産移転
次に、事実婚における、財産移転の際の課税関係を考えてみる。

内縁関係者への贈与については、婚姻関係者間に認められる、贈与税の配偶者控除の適用を受けることはできない。

婚姻関係者間の離婚に際する財産分与と、内縁関係の解消にあたっての贈与(生前)とを比較してみると、取得側については財産分与の請求の類推適用が認められており、この場合は課税関係も同様である。類推適用が認められるには実質的に財産分与の性質を有している必要がある。

先に見た、財産分与の性質を満たしていないとして、贈与と認定された事例も多い。

分与側も、離婚の財産分与の場合と同様に、金銭の贈与に関しては課税されないが、不動産の贈与の場合、譲渡所得課税がなされる。

内縁関係解消は離婚の場合と違い、解消された時点が明確でないので、居住用財産を分与し、3000万円の特別控除を受ける場合には、財産分与契約に内縁関係解消によるものであることを明記し、確定日付をとるなど内縁関係解消の日を確定するなどの配慮が必要であると考えられる。

問題は事実婚がどちらかの死亡により解消された場合である。被相続人の配偶者は常に相続人になるが、配偶者は婚姻の届出をしたものに限られるため、内縁の配偶者は相続権を有しない。配偶者の相続税の軽減措置の適用を受けることもできない。

被相続人に相続人がいない場合には、特別縁故者への相続財産の分与の規定、借地借家法の相続人の賃借権の援用などによる居住権の保護など一定の配慮がなされている。

内縁配偶者は相続権を持たないため、相続の枠組みの中で、財産移転を行うことはできない。そこで死亡による解消の場合に死亡解消と同視すべきで離婚と同視することはできず、財産分与準用の根拠はないこと。相続人がいない場合には内縁関係者に一定の保護を認めているが、その保護は法定相続人の相続権に抵触しない限度にとどめられていること。遺贈等、内縁関係者に財産を移転する手段があるにもかかわらず、これをとっていないことなどを理由にあげ、死亡解消の場合の財産分与を否定している。

事実婚解消の場合の財産の移転については上記のほかに、共有法理を用いた判例がある。これは内縁の夫名義の不動産の共有持分を認めた例(大阪高判S57.11.30判タ489号65頁)であり、法律婚であれ内縁であれ妻が家事に専従しその労働をもって夫婦共同生活に寄与している場合とは異なり、夫婦が共同して家業を経営し、その収益から夫婦の共同生活の経済的基礎を構成する財産として不動産を購入した場合にはその不動産は登記名義が夫であっても、これを夫の特有財産とする旨の特段の合意がない以上、夫婦の共有財産として夫婦に帰属するとしている。財産の移転はあくまでも、本来の持分の返還に過ぎず、課税関係は生じない。

また、内縁の妻の労務等の提供により相続財産が維持されまたは増加している場合には、死亡した夫に受益があるものとして相続財産から除外すべきであるという、不当利得説により、内縁の妻への財産の移転を認める考え方もある。

ここまで、法律婚と事実婚の場合の財産の移転についてみてきた。実質として同じでも法律婚と事実婚では、扱われ方にかなりの差がある。あえて法律婚を選択しない生き方が見られるようになった現在、その整備も必要なのではないだろうか。
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