(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト「民法と税法の接点」
神奈川税経新人会

IV. 雇用と請負
(1)問題の所在
民法の請負概念と法人税法の請負概念に違いがあるかは、NPO法人の事業が収益事業に該当するか否かの問題につながる。また、ボランティア活動の新しい形態である有償ボランティアについて、ボランティア活動を行う介護ヘルパ−が受け取る収入は、単なる謝礼か、雇用に基づいて受け取るものか、請負あるいは委任契約に基づいて受け取るものかにより、税法上の取扱いが異なる。雇用に該当すると、給与所得として源泉徴収が生じ、かつ、消費税の仕入税額控除ができなくなる。

ボランティア活動の新しい形態である有償ボランティアとNPO法人の関係について、民法と税法の接点を明確化する必要がある。

課税庁と納税者の見解が分かれ、裁判にまでなった事件として、NPO法人流山ユ−・アイネット事件:千葉地裁平成14年(行ウ)第32号法人税更正処分取消請求事件(棄却)・平成16年4月2日判決があるので、この判決をもとに検討を行う。なお、この判決では納税者が敗訴し、現在高裁に控訴されている。
(2)NPO法人の福祉サ−ビス活動は収益事業に該当するか。
(ア)裁判上の争点
原告は、法人税法施行令5条1項10号に定める「請負」の概念は、民法から借用されたものであり、民法632条所定の請負の概念と同一であるから
一定の仕事の完成の約束の存在、及び、

対価としての報酬の支払の約束の存在、を要件とするものと解されると主張したのに対して、被告は、法人税法施行令5条1項10号所定の「請負業」とは、民法632条所定の請負にとどまらず、一定の役務を提供することにより対価を得る事業を広く含むものと解するのが相当である

と主張している。判決では、

法人税法施行令5条1項10号の文言からすれば、同号にいう「請負業」は、民法632条所定の請負を反復継続して業として行うものに限定されず、委任(民法643条)あるいは準委任(同法656条)を反復継続して業として行うものをも含むことが、文理上明らかというべきであるとし、

公益法人等が委任あるいは準委任を業として営む営利法人等との間に競合関係が生じることからすれば、法人税法7条及び2条13号の趣旨にも適うもので

法人税法施行令5条1項10号の「請負」は、民法632条にいう請負と同義ではなく、同法643条の委任及び同法656条の準委任をも含む広義のものである

といっている。すなわち判決では、民法上の請負と法人税法上の請負に違いがあるとしている。
(イ)判決の問題点
判決では、法人税法施行令にいう「請負」を民法より広く解しているが、租税法律主義の趣旨に反するのではないか。

租税法律主義では、課税要件の厳格解釈が求められるが、法人税法施行令5条1項10号のカッコ書きである「事務処理の委託を受ける業を含む」についての解釈を拡大している。

ふれあいや助け合いは、"一定時間におおむね提供できる不特定のサ−ビスをしてほしい"という趣旨の依頼に応じて、その時間内で可能な範囲で行われる、不特定かつ非定型的な活動であり、特定の仕事を完成させるという性質のものではない。ふれあいや助け合いまでこれに当たると解すると、租税法律主義から生じる具体的法理の一つである“類推・拡大解釈の禁止”に抵触するのではないか。
(3)有償ボランティアは雇用か請負か
(ア)裁判上の争点
原告の主張は以下の通りである。
善意のサ−ビス提供に対する謝礼の趣旨で贈与されるものである。

客観的にも、その地域における最低賃金にも満たない額であって、労働の市場価値としては極めて低額であるから、報酬とはいえない。

原告(NPO法人)は、会員間のふれあい活動(サ−ビス提供)を推進するために、会員登録された者との合意に基づき、サ−ビスの利用を希望する会員の依頼に応じて、その意思を確認の上、両者を紹介する等の連絡・調整を行っている。

サ−ビス提供に係る契約関係は、利用する会員と提供する会員との間で生じるのであって、原告は、サ−ビス提供契約の当事者ではない。

原告が、サ−ビス提供を受ける者(注文者)からサ−ビス提供を請け負う契約の当事者でないことは、以下の事実からも裏付けられる。
ア) サ−ビス提供をする者も受ける者も共に原告の会員であり、外部の者は、原告に対し、サ−ビス提供者の紹介を依頼できない。
イ) 会員はサ−ビスを利用できると共に、提供もできる自由な立場にあり、原告は、サ−ビス提供に応じるために支配できる従業員を雇用しているのではない。
ウ) 会員は、原告から連絡を受けたサ−ビス提供をするか否かにつき、全く自由に決定できる。
エ) サ−ビス内容は、会員間で臨機応変に決められるのであり、原告が指揮命令するのではない。
オ) 原告は、サ−ビスを利用した会員が提供した会員に支払う額と原告に支払う額を区分して、予め定め、明示している。
カ) サ−ビス提供に関する勤務場所や勤務時間等について、原告は提供する会員に対し、何らの拘束もしていない。
キ) サ−ビスを提供する会員は、その判断でサ−ビス提供の補助者を依頼できる。
ク) サ−ビス提供に器具が必要な時は、原告ではなく、提供する会員又は利用する会員が自ら準備している。
それに対して被告の主張は以下の通りである。

本件事業においては、サ−ビス利用の依頼から提供者の選定・派遣、対価としてのふれあい切符の金額及び支払い先、苦情の対応に至るまで、全て、原告の定めた運営細則に従って、原告の管理の下に実行されており、原告は、まさに本件事業の主体である。

会員のみにサ−ビス提供を行うことは営利事業であってもあり得ることであって、原告なくしてはサ−ビスの利用・提供ができないことは、むしろ原告の事業主体性を示すものである。
判決は以下の通りである。

本件事業を管理・運営・遂行し、会員にサ−ビスを提供している主体は、原告である。

原告は、協力会員をサ−ビス提供の履行補助者として、自ら会員に対しサ−ビス提供を行っているものと認めるのが相当である。

請負契約、委任契約あるいは準委任契約に基づき役務の提供義務を負う者が、その義務の履行に際し、履行補助者として、自らとは雇用関係にないボランティア等を使用し、役務提供の日時、場所等を指示してこれを行わしめることは、これらの契約の性質に反することではない。

サ−ビスの提供に協力する会員は、ボランティアという立場に鑑み、原告からサ−ビス内容の変更等について広範で包括的な権限を与えられているとはいえ、原則として、原告の指示に従い、その管理の下にサ−ビス提供に協力しているものと認められるのであって、協力会員が原告の指示を受けずに、全く独立の立場で、独自にサ−ビス提供を行っているとは認められない。
(イ)判決の問題点

有償ボランティアを民法上の下請けととらえてよいのか。
民法の請負は、当事者の一方がその仕事の完成を約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約(民法632条)で、有償・双務・諾成契約である。

請負人の義務として、仕事完成義務があり、原則として下請可能で、下請人の地位は、履行補助者と解される。また、完成物引渡義務、所有権移転義務(製造物供給契約の場合)がある。

有償ボランティアは、請負の主体とはなっても下請という概念ではなく、ましてや雇用関係でもない。判決は、ボランティア活動の特質である精神性、自発性、自律性を理解して事実関係をみていないのではないか。

原告が行う連絡やその後の手続面での支援行為を、すべて指示行為、管理行為として捉えているが、会員と原告は雇用関係になく、またサ−ビスの提供に関して指揮監督し、または管理する関係にもないのであるから、サ−ビス提供の当事者は提供会員であり、原告はサ−ビス提供の連絡・調整を行うものではないか。
(参考判例等)
イ) 消費税法基本通達1−1−1「個人事業者と給与所得者の区分」
ロ) 平成16年3月10日裁決:(源泉徴収義務/授産施設の工賃)社会福祉法人がその授産施設に通所する身体障害者に支払った工賃に対して所得税の源泉徴収を行うべきであるとした納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分の一部が取り消された事例
ハ) 仙台高裁平成11年10月27日判決:仙台高裁平成11年(行コ)第7号所得税更正処分取消請求控訴事件/任意組合(りんご生産組合)からの報酬(逆転敗訴)  納税者が給与所得と主張し、課税庁が事業所得と主張して争った事例で、高裁で課税庁の主張どおり事業所得として認定された事件である。
ニ) 課税庁資料:給与所得と事業所得との区分
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