税理士法第1条に、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と税理士の使命を定めている。税理士制度は納税者のための制度である。
この税理士制度を変質させる重大な事態が起こっている。消費税の免税点の引下げや年金生活者などへの所得税等の庶民増税により、爆発的に増えた納税者対策として、国税庁は業務執行体制を従来の「調査・指導・相談・広報」から「調査・徴収」中心に大転換する機構改革をおこなった。その結果、内部事務は一元化され、税務職員が行ってきた指導・相談業務はアウトソーシング(外部委託)されるようになった。
国税庁は昨年4月、日本税理士会連合会(以下、日税連)に対し記帳指導、年金相談、確定申告無料相談、確申期電話相談の4つの事業を、一般競争入札でアウトソーシングすることを提示し、を一般競争入札でを公募方式で日税連の了解を取りつけ、アウトソーシングを押し進めている。これらの事業には税理士の独占業務である税理士業務が含まれ、税理士が担当しなければならないことになっている。税理士は課税当局の下請の下請として、この税理士業務に当たらなければならない。既におこなわれている確申期の電話相談では、税理士が税務職員に成りすまして国民・納税者の電話相談に対応しているケースもある。
税理士業務のアウトソーシングは税理士法に違反する。なぜなら、税理士は税理士法第1条の「独立した公正な立場」で国民・納税者のための税理士業務が行えないことになり、また、税理士法第52条の「税理士または税理士法人でない者は、(中略)税理士業務を行ってはならない。」との規定から、国税庁といえども税理士業務をアウトソーシングすることができないからである。税理士法違反のアウトソーシングを容認すれば、税理士制度は課税当局のための制度に変質させられ、税理士は国民・納税者の権利を擁護することができなくなる。税理士業務のアウトソーシングは断じて容認できるものではない。
一方、このアウトソーシングを容認した日税連は、アウトソーシングを税務支援に位置づけ、全税理士に従事を義務づけることを決めた。日税連は「無償独占を守るため」「強制入会制度を守るため」には、税理士会・税理士が率先してやらなければならないとして、この税理士法違反のアウトソーシングに税理士を強制的に動員しようとしている。課税当局の下請け機関になるような税理士制度では、たとえ無償独占や強制入会制度が守られても、国民・納税者と築いてきた信頼関係を損ね、国民・納税者の権利を擁護するための税理士制度は命を失うのも同然である。
私たちは国税庁に税理士制度を変質させるアウトソーシングの中止を強く求めるとともに、政府にアウトソーシングの起因となっている庶民増税をやめ、応能負担原則にもとづく税制の抜本改革を求める。また日税連はアウトソーシングへの従事の義務化をするのではなく、アウトソーシングの容認を撤回し、国税庁にその中止を強く求めることを要求する。 |