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新人会記事

国税庁の事務アウトソーシングの中止を求める意見書
2008(平成20)年4 月19日  
税経新人会全国協議会  常任理事会  

国税庁は、2007(平成19)年4 月6 日、日本税理士会連合会(以下「日税連」という)に対して「今後のアウトソーシングについての考え方」(以下、「考え方」)を提示した。税理士以外でも受託可能なアウトソーシング事業として4 つの事業を掲げ、一般競争入札により今後調達するというものである。4つの事業とは、1記帳指導、2確申期における電話相談の集中化、3相談会場における税務相談(いわゆる「無料相談」)、4年金受給者への説明会である。

その後、2の電話相談と3の税務相談は、国税庁と日税連の協議により、一般競争入札によらず公募方式によることで決着したとのことであるが、どのような団体が落札したとしてもアウトソーシング事業を最終的に税理士が受託する構図は変わっていない。

税理士が国税庁のアウトソーシングの受け皿となることは、税務行政の下請けであり、納税者の代理人として納税者の権利を擁護する立場に立つ税理士制度を変質・崩壊させる虞があるなど多くの問題を孕んでいる。

私たちは以下の理由により国税庁のアウトソーシングの中止を求めるものである。

1  納税者のための税理士制度が変質・崩壊する

4つのアウトソーシング事業は、1963(昭和38)年10月の三者協定(国税庁、青色申告会、日税連)の締結に始まり、1980(昭和55)年税理士法改正により税理士会会則に「委嘱者の経済的理由により無償又は著しく低い報酬で行う税理士業務に関する規定」が絶対的義務規定として法定化されたことを根拠に税務援助事業と称して行われてきた。さらに2005(平成17)年4 月日税連は会則変更により税務援助を拡大し「税務指導事業」を加え、「税務支援事業」と名称変更してきた事業に重なるものである。私たち税経新人会は三者協定、税務援助、税務支援についてそのつど、税理士が税務行政の下請機関化する虞があることを指摘し反対の意見を表明してきた。

しかし、今回国税庁は「考え方」でアウトソーシングすることを明確にしており、これは税務職員が行う本来業務の外部委託にほかならず、今までの税務支援事業とは質的に異なり税務行政の下請になることは明白である。

多くの税理士が関係する「無料相談」の実態は税理士会支部を単位として推進され各税理士に業務は割り当てられるが、税務当局との関係では税理士個人との少額随意契約による形をとっており、税務行政の下請けではないかという批判が行われてきた。また、国民、納税者の目には税務職員と一体となって行う相談会場の中で税務職員と同一視されてきたことも否定できない。すでに2000(平成19)年度より開始した電話相談事業についても、運用面で税理士と名乗るケースと名乗らないケースがあるが、いずれにしても税務署に電話をしたつもりの納税者にとっては税務職員からの回答と受け止めることとなる。

国税庁がその任務の一つに税理士業務の適正な運営の確保を掲げているとしても、それは税務行政の補助機関としてではなく、適正な申告納税制度の実現のため、税理士の使命を踏まえたものでなければならない。税理士制度が納税者の代理人として納税者の権利を擁護する立場にたつならば、税務行政の下請けになることは自己否定に他ならない。事務のアウトソーシングは、これまでに営々と築いてきた税理士と国民との信頼関係を破壊し、税理士制度を変質させ、崩壊させる危険性を孕んでいる。

2  課税最低限の引上げと応能負担原則に基づく税制の確立を求める

このアウトソーシングの背景には、この間応能負担原則に反する「広く薄く課税する」庶民大増税の税制改悪により増大した納税者対策であることを忘れてはならない。

2005(平成17)年度より公的年金控除が引き下げられるとともに老年者控除が廃止され高齢者の確定申告者数が急増した。また、消費税の免税点が3,000万円から1,000万円に引き下げられることにより、個人事業者120万人、法人40万社の納税義務者が増加した。

国税庁は、その対策として2003(平成15)年に従来の「調査・指導・相談・広報」の業務執行体制から調査・徴収中心の体制に大きく転換し、事務の合理化・効率化を積極的に進め、内部事務の一元化に着手し、指導・相談業務はアウトソーシングする方針をとってきている。

大きな政府から小さな政府を標榜する新自由主義の政策に対して、課税ベースを広げ税率をフラット化させる税制改悪は、税務行政事務の増大を招くという内部矛盾を引き起こしている。この事務の一部を税理士が下請けとなり支えることは、ひいては現行行政に加担する結果となり、到底受け入れることはできない。

事務量の増加への対応策をアウトソーシングに求めるのではなく、そもそもの原因である税制を抜本的に見直し、課税最低限の引き上げを行い憲法の要請する応能負担原則にもとづく税制への大改革が必要不可欠である。

3  税理士法違反のアウトソーシングは容認できない

国税庁の見解は、「税理士業務の委嘱を受ける者、税理士業務を行う者は、あくまでも税理士であり、税理士法52 条(税理士業務の制限)には抵触しない」「国のアウトソーシング事業を受注した民間企業の指示のもとに税理士が業務を行う場合であっても、当該指示が税理士業務に関する指示でなければ、税理士法1 条に抵触するものではない」と回答している。しかし、これは国税庁の強弁である。

国税庁のアウトソーシング事業のもとでは、税理士は税理士法1 条の「独立した公正な立場」で税理士業務を行うことはできない。税理士は業務を発注した課税庁の立場に立って、発注された内容の範囲内で業務を遂行しなければならない。発注者の課税庁と見解が異なった場合、税理士が自主的な対応は許されないのである。したがって、国税庁と納税者の間で、「独立した公正な立場」は取れないのである。

また、アウトソーシング事業では、税理士は税理士法2 条の税理士業務は行えない。なぜなら、アウトソーシング事業において税理士が従事する業務は税理士法2 条の税理士として行う税理士業務ではなく、税務職員が行う業務の代行である。従来、税務職員が行ってきた税理士業務に該当する業務は行政サービスとして、あるいは行政指導の助言として容認されてきたものある(財務省組織規則444条22項、453条1項、税理士法基本通達2 - 1)。それは税務職員が自ら行うから事実上容認されてきたものであり、税務職員の代行を外部に委嘱することは、たとえ委嘱を受ける者が税理士であっても許されない。

4  当面、経済的困難者や小規模事業者に対する権利侵害を救済する新たな機関の
創設を提案する

前述のように、1980(昭和55)年税理士法改正により、税務援助が法律にもとづき税理士会を通じて行われてきた。この法が求める税務援助の対象者は、「経済的理由を有すること」を絶対的要件とする小規模零細納税者とされているが、確定申告期における大半は任意来所者(還付申告等)であり、弾力的な運用がされてきたのが実態である。

従来行ってきた税務支援事業を税理士会独自で行おうとすると、莫大な資金を必要とするが、経済的困難者である小規模事業者等の納税者に限定すれば税理士会で負担可能と考えられる。

税理士制度が国民のためのものとして定着するためには税理士会及び税理士自身がそのための不断の努力を続けなければならない。申告納税制度の下で納税者は税理士のサービスを受けるかどうかの選択権をもつことになるが、経済的理由でその選択権が狭められることは避けなければならない。ましてや税理士のサービスを受けられなかったために納税者としての権利が侵害されることを見逃すことはできない。

どのような小規模納税者対策が可能かの議論を進めつつ、当面は不当に権利侵害された納税者の権利救済に積極的に対応すべきである。
以上  

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