論文

特集第43回神戸全国研究集会「憲法と消費税」II
  ー研究集会の意見ー
> 「憲法と消費税」の発表を終えて
>「地方自治」と個人住民税問題
消費税についての質問  
千葉会  伊藤  清

平成20年度税制改正に関する税理士会意見書

報告の内容と直接の関係はありませんが、今年各単位税理士会から日本税理士会連合会(以下「日税連」)に上げられた平成20年度税制改正に関する意見書(以下「意見書」)に関して、その中から二つばかり問題を提起したいと思います。

その一つは、意見書のなかで、東京税理士会をはじめすべての会が申し合わせたように消費税に関する改正要望の一つとしてあげているのは、消費税法30条7項において仕入れ税額控除の要件とされている「帳簿及び請求書等の保存」を、これは周知のように平成8年度の消費税法改正(税率3%から5%への引上げその他の「改正」)の際、それまで「帳簿又は請求書等の保存」であったその「又は」を「及び」に変更したものですが、これを改正前の「又は」に戻せというものです。

もともと大型消費税は、EC型付加価値税がお手本でした。従って、仕入れ税額控除のためにはEC各国で採用しているEC型インボイス方式を採用するつもりであったであろうことは、中曽根売上税法案が「税額票」の発行を考えていたことでも明らかです。しかしその「税額票」が、業者に余計な事務負担をかけることや非課税業者を取引から排除することになるなどの理由から、業者の大きな反撃を買い、この売上税導入を挫折させられた原因の大きな一つになったという苦い経験から、それに懲りた竹下消費税法では、心ならずもインボイス方式を引っ込め、「帳簿又は請求書等の保存」とする帳簿方式を採用したという経緯があります。

ですから税務当局とすれば、平成8年度に「又は」を「及び」に変更し、仕入れ税額控除のためには「請求書等」の保存が絶対に欠かせないものとしたのは、それまでの帳簿方式からできるだけEC型インボイス方式に近づけたいという強い執念が込められているように、私には思われます。

また、このインボイス方式に近づけるということは、今後さらに税率をアップする際に必要となるであろう複数税率のことが念頭にあるものと思います。ですから、この「及び」を「又は」に戻す要望を実現することは決して容易ではないと考えられるのですが、このことについて皆さんのご意見をお聞かせ下さい。
今ひとつは、意見書の中で特に注目されたのは、これは他会には全く見られない東京地方税理士会(以下「東京地方会」)独自のものですが、「課税売上高から課税仕入高を控除した金額を課税標準とすること」を強く要望していることでした。

現行消費税法は、その28条において課税売上高を課税標準と定めて消費税額を算定することとし、その上で、30条によってその消費税額から課税仕入れに係る税額の控除を行う構造となっています。しかも、その控除は無条件ではなく、同条7項による「帳簿及び請求書等の保存」という要件があるのです。というよりは、このインボイスならぬ「請求書等の保存」という30条7項の要件を確実に守らせる担保として28条の課税標準及びそれから控除されるに過ぎない30条の仕入れ税額控除という構造がつくられていると考えるべきなのでしょう。ですから東京地方会の要望する「課税売上高から課税仕入高を控除した金額を課税標準とすること」は、この現行の「及び請求書等の保存」というインボイス近似方式を基本的に覆し、現行消費税の課税要件構造そのものの変更を迫るものといえます。私はこの提案に大いに共感しますが、このことについて皆さんはどのように考えられるか、ご意見をお聞かせ下さい。

なお付言しますと、各税理士会から上げられてきた意見書をまとめ、財務省・国税庁等関係官署に提出される日税連の建議書からは、上記の東京地方会のような意見は片鱗もうかがうことはできません。

租税法律主義を無視した課税権力の法律解釈

さらにこの30条7項についていえば、「帳簿・請求書等の保存」の立派な事実があるにもかかわらず、これらの「保存」がないものとして、仕入税額控除を否認している事例が少なからず存在する問題があります。

この「帳簿・請求書等の保存」があるに拘わらず「保存」がないとする根拠を、課税当局は、「保存」とはこれらの帳簿等を税務職員に「提示」することだとする文理を無視した恣意的な解釈に基づいて、ここで詳述は避けますが、第三者の立会人がいるとか、関与税理士が税務職員の無予告調査その他不当な行為に抗議しているとかのトラブルから、税務職員は帳簿等を見ようとせず、極端な場合では、帳簿類を目の前にひろげられると顔を天井に向けてこれをあえて見ようとしないで、「提示」がなかったから「保存」がないとして仕入税額控除を否認する、このような常識では全く考えられないことが平然と行われているのです。

しかも、わが国の司法もこれに追従し、「事業者が...帳簿又は請求書等(改正後の場合は「帳簿及び請求書等」となる...引用者)を整理し、これらを所定の期間及び場所において、法62条に基づく税務職員による検査に当って適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存」(最高裁H16年12月16日判決)することとして、これが税務当局の金科玉条とされているのです。

このように、租税法律主義を無視した全く恣意的な法律解釈によって、税務職員の意に反する納税者に対する懲罰的な課税処分が行なわれ、これを司法が容認し、その結果国家権力の不当な課税によって、中小零細企業の財産権どころか生存権すらも奪っているという事実の存在です。これは、「消費税と憲法」を考える場合に避けて通れない重要な問題です。私は、この問題を、税務行政における現代版「治安維持法」にほかならないといっているのですが、これについて私たちはどのように考え対処すべきか、ご意見をお聞きしたいと思います。
(いとう・きよし  千葉会)
次ページへ
▲上に戻る