論文

特集第43回神戸全国研究集会「憲法と消費税」II > 研究集会の質問・意見
>「地方自治」と個人住民税問題
「憲法と消費税」の発表を終えて  
首都圏(神奈川会・埼玉会・東京会合同)チーム

1. 発表を終えて  (井上  春幸)

2007年早春、全国理事会を終えた兄から一本の電話が・・・「今年の全国研、分科会ないのは知っているよね?『憲法と消費税』という統一テーマによる研究発表と全体討論会という形でやるんだって。神戸会は既に研究発表チームが始動しているらしく、もう一つ東京会というかもう少し幅広く首都圏というか、こっちで出すことになったよ」

ふーん、そうなんだ、お疲れ様と思いつつ、
「で、それが何か??」
「ということで、メンバーになってね」

えーそうくるんだ。断る理由を探そうとしても、埼玉で報告したとか忙しいとか大して理由にならないことしか思い浮かばない。まあしょうがないかと思いつつ、「うん、わかったよ。で、他のメンバーはどうなっているの?」と聞いてみると、「まだ誰もいないよ。俺とお前の二人だけ。これからメンバー探さないとだけど、とりあえず早急に一度打ち合わせの日程だけは組まないといけないかなとは思っているんだよね」と何とも微妙な返答が。「そうだね、3月中が理想だけど、厳しそうだから4月の前半でやろうか」程度のあいまいな会話をしつつ、とりあえず2名確保で首都圏チームの卵が出来ました。

しかし、卵があっても誰も暖めることもせず、当人たちは自身で殻を破り這い出そうということもしないままなので、徒に時は過ぎていくままに・・・。

4月の後半ともなってくると、さすがにのん気な兄弟でも『もういい加減何かやらないとまずくないか??』と気付き、若手中心にという要請に応えるためにも照準を東京会の研究部会に定め、正式な依頼をしたのがもう外はさわやかな五月晴れの時期となっていました。依頼と言っても、研究部会が終了した後の雑談状態の中で事務連絡的に「研究部のメンバーが今年の全国研の発表メンバーの一員となりましたので、よろしくお願いします」と一方的なものでしたが。研究部会の日程に全国研の初打ち合わせの日程を組み合わせて、少しでも時間的無駄を減らそうとしながら、やっと5月の下旬に首都圏チーム初顔合わせとなりました。ここで、当日まで研究部会とだけしか連絡していなかった研究部員の保泉さんを計画的不意打ち状態のまま発表チームに入れて、最終的なメンバーが決定したのでした。

初顔合わせといえば、通常、自己紹介し合って雑談しながらまあこんな感じで行きましょうか・・・と進むイメージですが、なにせ時既に5月下旬。冒頭の今回の趣旨報告で、「何はともあれ、新報の原稿締め切りが7月15日です。さてどうしましょう?」という衝撃の発言を耳にしたのです。
それから9月2日当日を迎えるまでの激動の日々は、きっと皆さん想像して頂ける事と思います。

当日の午前中第1部の報告を無事に終了し、お昼は神戸チームの皆様と談笑しながら食事をとるなど、少しリラックスしてきたかと思った午後に最後のサプライズが起きました。今回は初めての試みとして、事前質問のみの質疑応答で、神戸会との討論もない、ということでしたので、質問への回答原稿を手にしつつ第2部の本番に臨みました。しかし、第2部が始まって司会進行の清家さんが第1部のまとめを報告した直後「それでは、この神戸会チームの意見について首都圏チームはどのように考えますか?」と急にフリが。おいおいどうしちゃったんだよ・・・とあたふたする姿がきっと客席からは見えていたんでしょうね。

その程度の準備期間だからこの程度の報告になってしまうんだよ、とか、そんな準備期間でここまで出来たなんてすごいね、とか様々なご意見がおありかと思いますが、優しく大きな愛に包まれた鋭い痛みは喜んでお受けしますので、是非多くのご意見を頂けたらと思っております。私は個人的な理由で、途中大きく戦線離脱してしまったのですが、2年連続の全国研報告チームに参加して、終わってみれば、やはり知識面でも、実務だけでなく理論もきちんと考えていく必要があるということを認識したメンタル面でも、人とのつながりを深められたという面でも、多くのことを得ることが出来たと思います。そして、今回の報告が改めて会員の皆様の『憲法と消費税』を考えるきっかけ、一助となったのであれば、本当に幸せなことだと発表チーム一同思っています。

2. 事前質問とそれに対する回答(一部)

(1) Q. 国の課税権は憲法25条を実現するため、25条を侵害する消費税は違憲では?
  A. 国の課税権(徴税権)は、税金の取り方は応能負担原則で、使い道は福祉のためということが実行されています。即ち、憲法の要請が実行されていることが前提となり認められています。

憲法25条は、国民の生存権を保障すると共に、それを支える国の責任を定めており、国が税法において人々の健康で文化的な最低限度の生活を脅かす程の低い課税最低限を規定することを禁じています(「最低生活費非課税」規定)。

最低生活費は、地域・年齢等によって異なりますが、神戸会チームの報告にあった「朝日訴訟」によると、健康で文化的な最低限度の生活の具体的判断は諸々の事情を踏まえて厚生労働大臣が決定するとされています。しかし、ここでいう健康で文化的な最低限度の生活とは、欧米先進国並みの文化的な生活水準を差すのではないかと思います。

現在は、基礎控除・扶養控除等の人的控除により生活費非課税がなされていると考えられます。基礎控除の金額が38万円と少額なことや、所得税と住民税とで金額が異なることなど問題点はここではおいておきますが、この生活費非課税を無視した上、食料品等生活必需品にまで課税する現在の消費税は生存権を侵しており、その限りで違憲であると言えます。
(2) Q. 消費税滞納問題をどのように考えますか?
  A. 消費税は商品の売値に上乗せして取引先や顧客に転嫁することを予定した税金であり、消費税法上の納税者は、消費税を実際に負担させられる消費者ではなく、課税商品を販売する業者です。

しかし、中小零細企業の場合は、親会社との力関係により消費税分の値引等を強制させられる場合が多々ある一方、販売価格には転嫁できない場合があります。この場合消費税分は身銭を切ることになり、間接税である消費税が『直接税化』していると考えられます。

国税の税別滞納状況を見てみると、消費税の滞納額が、H17年度では全体の45%を占めています。預り金である源泉税が12%であることを考えると、税務当局が『預り金的性格を有する』とする消費税は価格に転嫁できていないことを証明していると考えられます。

また近年の改悪では、免税点制度や簡易課税制度が大幅に引き下げられ、税理士に依頼することが出来ないような零細な納税者や原則課税の適用業者が大幅に増えています。

このように転嫁が十分に出来ないような業者の増加が滞納の増加につながっているのであり、現在の消費税の体系では滞納問題が解決することはないと思われます。
(3) Q. 消費税は政令委任が多すぎる。最悪は消費税Q&A課税している。憲法84条違反ではないのか?
  A. 憲法84条(租税法律主義)では、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律の定める条件によることを必要とする」と規定しています。これは、「国民の経済生活に法的安定性と予測可能性とを与える」(『租税法』第10版 金子宏 弘文堂 2005年) 機能があるものとされ、租税法律主義の内容の一部に『課税要件法定主義』があります。

※課税要件法定主義...課税要件のすべてと租税の賦課・徴収の手続きは法律によって規定されなければならない。

課税要件法定主義で問題になるのは、法律と行政立法(政令・省令等)との関係です。その趣旨からして課税要件を政令・省令に委任することが許されるのは「具体的・個別的委任に限られ、一般的・白紙的委任は許されない」(同上)とされています。

ここで問題になるのが『具体的・個別的』と『一般的・白紙的』の区別ですが、『具体的・個別的』というためには、「委任の目的・内容・程度が委任する法律自体の中で明確にされていなければならない」(大阪高裁S43.6.28、大阪地裁H11.2.26)と判例で示されています。

そこで消費税における課税要件法定主義を考えてみると、消費税がこれだけ複雑怪奇な制度であるにもかかわらず、ほとんどが政令・省令に委ねられています。

例えば消費税法第37条では簡易課税のみなし仕入率は60%と規定され、他の割合は政令57条に委任されています。明らかに「委任の目的・内容・程度が委任する法律自体の中で明確にされている」とは言えません。さらに税務職員のバイブルである通達に様々な規定を託し、そのうえシロホンと呼ばれる『消費税Q&A』に全ての解釈を任せているという有様です。

これらの『課税要件法定主義』に反する様々な規定は明らかに憲法84条違反だと言えます。

これは、法律制定の時点で実務家の意見が全く反映されていないことが最大の原因だと考えられます。実務を知らない人々のみで密室で付け焼刃的に決定した法律が、施行の段階でほころびが出るのは当然です。あらゆる可能性を考えないまま『とりあえず法律を通してしまえ』という立法がまかり通ってはいけないと思います。その為にも今こそ日税連、各税理士会、そして新人会が声を上げるべきではないでしょうか。

第43回神戸全国研究集会  東京会・埼玉会・神奈川会合同チーム
青野友信、井上春幸、井上礎幸、井上優里、岡野哲也、菅隆徳、鳥居敦子、保泉雄丈

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