(2004.7.8合併号)
社会福祉法人の実務
税制問題の検証
民法と税法の接点
消費税施行15年、改めて制度と実務の問題点を考える
証券税制における中小企業の立場


特集第40回常陸野全国研・分科会テキスト「税制問題の検証」
東京会藁信博渡邉英男谷井隆晃
大野公義牧野仁士長田秀明
lll.消費税の将来
消費税の次の局面は明らかに税率引き上げ問題であり、これを国民が許容するかどうかの問題である。政府税調は将来の消費税率の二桁引き上げはやむなしと明確な姿勢を打ち出し、自・公与党税調は2007年という期限を明示して、消費税を含む税制の「抜本的改革」を示した。

消費税率の引き上げによってより一層問題になるのが、逆進的な税負担が発生するということである。消費税には、輸出免税、個別消費税に対する二重課税等さまざまな問題を抱えているが、最大の問題点は逆進性である。仮に消費税率を引き上げると、所得水準に関係なく全国民の税負担を増大させる。所得税を納税する必要のない課税最低限以下の所得層も、新たな増税になる。この逆進的な所得再配分には、社会的公平の観点から批判がででくることは避けられない。政府税調も消費税がもつこの逆進性は認識している。では、逆進性を緩和させる方法はあるのだろうか。
(1) 食料品など生活必需品の非課税・ゼロ税率・軽減税率
食料品の非課税は、非課税売上に対応する課税仕入れについて仕入税額控除ができないため、控除できない消費税相当額がコストの一部として価格に織り込まれるため、消費税率分だけ価格が低下するとは限らない。また、食料品のように転々流通するものを非課税にすると、税の累積が生じることを通じて経済活動にゆがみが生じる。

ゼロ税率は、
消費一般に広く公平に負担を求めるという税制改革の流れに反する
恒常的に還付事業者が増え事業者間の不公平感が生じる
還付申告や事後調査に関する事務負担やコストの発生
といった問題がある。

軽減税率は、
事業者は、税率の異なるごとに区分記帳が必要になり、事務負担増加が避けられない

軽減税率対象事業者は、預り税額が恒常的に大きくなり、還付を受けるためには納税義務免除事業者でも還付申告しなければいけない

複数税率の下では、基本的には税額が記載された請求書等(インボイス)の保存が仕入税額控除の要件とすることが必要であり、簡易課税制度についても検討を要する
などの問題がある。

(2) 低所得層への福祉サービスの充実・社会給付支給額の消費税分引き上げ
課税最低限以下の層の消費税負担を回避する方法としては効果的だが、社会給付を受けない低所得者層もいるので効果は限定的である。
(3) 最低生活水準の維持に必要な消費税分の所得税額からの控除・還付
理論的にはすぐれている。生活保護基準額の消費税分を所得税額から控除、又は還付し、かつ、所得が一定額以上の者に対しては控除額を徐々に減らす方法が一番合理的であろう。この方法が現実的かどうかは別にして、カナダでは実際にある種の税還付を認めている。これは所得税の納付額とは関係なく、低所得者に限定して食料品など生活必需品に課される税負担に等しい小切手が支給される一種のタックス・リファンドの制度である。ただこれは生活保護費のような政府無償給付であり、真の意味での税還付にはならない。
(4) 所得税の累進税率・資産課税の一層の強化
政府税調によれば、消費税の所得に対する逆進性の問題については、消費税という一税目だけでなく、税制全体、さらには社会保障制度等の歳出面も含めた財政全体で判断していくことが必要と述べてはいるが、現在は税率のフラット化により重きがおかれているのが現状である。そこで、所得税や資産税の累進性をより強化して税制全体での公平な負担が必要であり、資産再分配を通じて社会的公平の確保が重要である。具体的には、高所得者層により多く発生する利子配当や株式キャピタルゲインといった資産所得を総合課税に改め、また相続税・贈与税の課税ベースを拡大し累進税率を強化し、それらのメリットを最大限に生かすべきであろう。

以上逆進性の緩和方法として述べてきたが、これらのどの方法も消費税のもつ逆進性の根本的な解決には至らない。つまり、消費税のもつ逆進性はいかなる方法でも完全に取り除くことはできないのである。

消費税については、この他にも消費税を福祉目的税あるいは年金目的税とするべきであるか、また消費税率が二桁に引き上げられたとして、現状のように単一税率でよいのか、複数税率が導入された場合は現行の帳簿方式を改め、インボイス(仕送り状)を採用する必要があるのかなど、さまざまな議論がされている。

また、消費税自身にも逆進性をはじめさまざまな問題が指摘されている。先進諸国最悪となった財政赤字や来るべき少子・高齢社会の下で年金・医療・介護など膨大な財政需要に対応するために、これから日本経済の立ち直りを待って、消費課税のあり方について今一度考えてみる時期に来ているのではないだろうか。
▲上に戻る


税経新人会全国協議会