1996 年に成立した橋本内閣の六大改革(行政改革、経済構造改革、金融システム改革、社会保障構造改革、財政構造改革、教育改革)以来、社会保障削減、大衆増税、国家主義という方向で政府与党が動いていることは間違いありません。その一方で財政赤字の拡大、格差拡大、少子高齢化の進行に対して政府与党としても何らかの対策をうたなければならないとの危機感があり、また、選挙対策もあって、とくに第一次安倍政権崩壊後は妊産婦保護、介護離職防止、正規雇用拡大、中小企業の賃金上昇をめざす政策がそれなりにとられていることも事実です。また、正義感に燃える若い労働基準監督官が実際に厚生労働行政を下から動かす力になってきていると思います。
とくに坂口力厚生労働大臣の頃から、福祉を一方的に切り捨てるのではなく、社会保障や労働者保護の切り捨てに際しては、改悪と改正をセットにして(大きな改悪と小さな改正がセットにされている場合が多いのですが)実行するようになってきています。『生涯ハケン』をすすめると悪名高き2015 年の労働者派遣法改悪ですら、悪質な派遣事業者の排除、派遣労働者の教育訓練の義務化など、部分的には重要な改善面も含まれています。税経新報では、大きな流れとしての福祉切り捨ての流れを批判すると同時に、実務家として勤労国民に有利なさまざまな具体的な改善点をいち早く会員に知らせることも大切であると考えます。
例えば2016 年の社会福祉法改正についても、社会福祉法人攻撃であるという面と、理事長の私物化を防ぐという面と、両面があります。私のように社会福祉法人のブラックな面を見てきた者としてはどうしても後者の視点が強くなり、社会福祉法人に理事監事としてかかわってきた先生としては前者の視点が強く出た記事になりますが(そもそも税経新人会会員に理事や監事を依頼するような社会福祉法人はホワイトだと思うのですが)、どちらも真理だと思うのです。
とくに年収1000 万円以下の事業者では、税金の負担よりも社会保険料の負担の方が多い場合が多く、社会的弱者に寄り添うためにはわれわれは税金の専門家であると同時に国民健康保険も含めた社会保険についてもある程度の知識が必要だと考えています。社会保険、中小企業支援など関連分野の記事ももっと必要ではないかと思います。記帳屋ではなく中小企業を総合的に支援するというのが我々の目指す士業の姿ではないかと思います。
私の開業登録にあたって、名古屋会会員から会計ソフト選定、複合機の選定、名刺の作成、開業前に準備することなど心のこもった助言をいただき、大変助かりました。一般の税理士同士だとライバル同士になりなかなか率直な情報交換は難しいと思いますが、税経新報では事務所経営の情報交換などもあれば有難いと思います。
税の実務について詳しく書かれている雑誌や書物はたくさんあります。また、政府や与党をきちんと批判している雑誌や書物もあります。税経新報の存在意義は、税理士は税務当局の下請けではなく勤労国民のための専門家であるという堅持をもって専門家の視点で税務を考える雑誌であるという点にあるのではないでしょうか。
一般事業会社の経理をしていたとき、取得時期によって減価償却方法を判定し、電卓をたたいて中古資産の耐用年数を計算していました。今まで人間がしていたことを会計ソフトができるようになると、ますます法律家としての矜持を持った私たちの存在意義が大きくなるのではないでしょうか?
『法の目的は正義であり、実現する手段は闘争である(イエーリング、権利のための闘争)』と言います。その闘争を支えるのが我々であり、その最大の武器は六法全書であるとすれば、その武器の使い方を教えるのが税経新報だと思うのです。
戸谷隆夫理事長から『雑誌は税経新報と税務通信だけで十分』と言われてからずっと両誌を見ていますが、4 年前の入会時は名古屋会の議論を聞くだけで何も口をはさめなかった私が、最近では議論に加わることができるようになりましたが、一番勉強になるのは記事を書くことです。思い切って実際に記事を書いてみてそう思いました。そして記事を書く一番いい方法は、『今年税経新報に×本記事を書きます』と名古屋会で宣言することです。書かざるを得なくなりますから。 |