論文
【特集 税経新人会を強く大きく(税経新報編)】
> 税経新報に期待すること
> 税経新人会、そして「税経新報」との出会い
税経新報の今日的役割
機関誌部長 清野 智江
I はじめに

税経新報の編集長を昨年、清水裕貴会員から引き継ぎました。7 年ほど編集部員として在籍していたことで編集長の打診をされ余り深く考えずに引き受けてしまいました。
今回税経新報の今日的役割の原稿を書くにあたり、いい機会と捉え税経新報の歴史から現在の果たすべき役割を考えていこうと思います。

II 税経新報の創刊

税経新報の創刊号は1958(昭和33)年8月12 日付で発刊されています。創刊号に中廣春雄会員が「創刊にあたって」と題する巻頭言を寄せています。主要な部分は次のようなことです。税経新人会は規約第1条「国民大衆の権利を擁護する立場から現在の税法・税務行政及び会計学・会計実務に関する研究を行い、会員相互の親睦を図る」ことを目的としている。したがって研究面に重点が注がれている。その趣旨にそって編集されなければならないことは当然だが国民大衆の権利を擁護する立場ということの本質的な意味を考えれば、税経の諸問題を単に研究と実務の枠にとじこめてしまってはいけない。理論と実践との統一的把握を心がけてすすまなければならない。税経新報は研究結果の実践的な成果と欠陥を学びとることができるように編集されなければならない。」
税経新報の編集は基本的にこのような要望のもとにすすめられてきたものでした。

III 反対運動と新報

税経新報は次のような反対運動において大きな役割を果たしてきました。

(1)国税通則法反対運動
1961(昭和36)年、税制調査会が「国税通則法制度に関する答申」を発表。その答申に対する検討・批判の論陣など税経新報に系統的に研究論文を掲載しました。

(2)税理士法改正反対運動
1964(昭和39)年、「改正」法案が国会に提出されたが、翌1965(昭和40)年審議未了で廃案となった。「改正」の問題点は試験制度の提案においてでした。
九州税経新人会の牛島昭三会員は、税理士法「改正」のための特別会費拠出を拒否し、南九州税理士会から選挙権・被選挙権を奪われました。牛島会員は、この措置の取り消しを求めて裁判を闘い、1996 年に最高裁で違憲判決を勝ち取りました。

(3)商法改正反対運動
すべての株式会社への会計監査の強制は、税理士業界をあげて反対運動に取り組みました。その結果、強制監査の対象を大幅に縮小させました。

(4)消費税反対運動
消費税導入を逆進性の強いこと、中小事業者は転嫁できずに身銭を切らざるを得ないなどの問題点を指摘し、反対の立場から研究論文を多数掲載しました。

(5)税務行政の民主化
中小事業者への税務署の不法不当な調査を許さず、納税者の権利を擁護する立場から憲法を基本にした調査対応理論を研究してきました。その成果が「税務調査対応10か条」になりました。

IV 近年

税経新報は、2017年1月号で651号になります。半世紀を超え継続していることになります。税経新報は税理士を職業としている人自身が自ら編集している唯一の機関誌です。
これまでたくさんの会員、会内外の学者、他の士業の方々に支えられ、税理士業界のなかで、憲法に基づく国民・納税者の権利を税制、税務行政面で取り上げる唯一の理論的雑誌として発刊を続けてきました。前述のように重要な局面で大切な役割を果たしてきました。近年でも、消費税廃止、増税反対の理論研究と活動の紹介、国税通則法の改訂、個人番号制での問題点、憲法問題などの情報を発信してきました。
編集作業からいえば、ひと月は長いようでアッという間で発刊したかと思うとすぐ次号が待っている状態です。また思うように原稿が集まらないこともあり編集部員が自ら執筆することもあります。

V 税経新報のへの期待

税経新報発行の提案者の阿部國博会員が編集が困難に突き当たるたびに読み返し、後の人々に伝えておきたいと思った一文があります。税経新報第21号(昭和37 年3月)に当時法政大学教授であった神田忠雄先生から寄せられた「税経新報について」です。私もその文章を読んだとき、この期待にこたえられているのだろうかと身が引き締まる思いがしました。その要約は次のようなことです。

「(中略)だが何れにしろ「新報」は単なる税問題の雑誌に止まりえないはずである。良心的に税務に携わっている限り、まわりの諸矛盾は単なる税務の専門技術だけに関心を止めておくことは許さないはずだから。そして、一度まわりの諸矛盾に目を注ぐ時、「中小企業とは?」「独占体の蓄積収奪・支配の実態は?」そして、「この独占の力を削ぎ、矛盾の解決に近づく道は?」という一連の諸問題に逢着せざるを得ないことは全く自然である。・・・いずれも他に類をみることはできないレベルの論稿であったと私は自分に納得させているのである。主として中小零細企業に四六時中接触し、現代資本主義の矛盾のいわば焦点にじかに身を置く人々において初めて本当につかめる問題だからである。・・・この点で「新報」はすでに輝かしい貢献をしているのであるが、それはまだほんの始まりにすぎないのだと私は思う。今後次々に提示されるのであろう現実の多様な側面とそれへの接近の新しい視角とは、必ずや現代史を最も有効にリードする武器の宝庫を富ます大切な財産なのだと私は考えている。」

創刊から半世紀が過ぎ、諸先輩方の熱意と努力で「新報」が大切な財産となっていることは間違いありません。私達はこれを継続し後の人々に繋いでいく必要があります。

VI 税経新報の役割

現在、すぐ頭に浮かぶだけでも憲法、消費税、個人番号制、税理士制度、TPP など問題が山積みです。税経新報は今後も税理士業界はじめ、関係業界に及ぼす理論及び実践面でのリーダーシップを期待されています。また全国の会員を結びつけるものでもあります。税経新報の果たす役割はとても大きい。今後も民主的な税制、税務行政、会計制度の在り方を目指す諸論文や、納税者の権利を擁護するために日々苦労している会員の経験報告、実務問題の報告、判例研究など、会員や多くの読者に理論的な指針と励ましを与えるという課題があり役割も続きます。

VII さいごに

税経新報は会員、読者の皆さんの執筆により成り立っています。原稿がなければ継続できません。是非、税務、会計に関する論文や論説、税務調査事例、判例評釈、憲法、各会の諸活動の取り組みなどをご投稿ください。多くの皆さんからの投稿を心よりお願いします。
また税経新報の購読を周りの方々におすすめ頂ければと思います。税経新報は税理士が編集する税理士のための納税者サイドにたった専門誌です。業務に大いに参考になるものが多数掲載されております。友人・知人の方にご購読のおすすめをお願いします。

(せいの・ともえ:東京会)

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