論文

> 生活保護基準額以下の所得者に対する
国民健康保険税の課税と憲法25条
「労使トラブルの実態とその対策」(続)
社会保険労務士  庄司  英尚  

3  解雇トラブルの実態を知っておく

前回の4月号でその背景とサービス残業の問題についてふれたが、今回は解雇にまつわるトラブルの実態、解雇トラブルを回避するために知っておきたいことをまとめてみる。

解雇に関するトラブルといえば、企業側が不当解雇で訴えられることがここ数年増加している。その背景には、以前に比べて労働基準監督署、労働総合相談センター、労働組合、弁護士などへの相談がしやすくなったこともある。また労働者側の知識も豊富になり、労働者の権利意識も高まっていること、そして何よりも企業側の安易な解雇がこのような解雇トラブルを一層増加させているともいえるだろう。

解雇に関しては、労働契約法では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない」と定められており、合理的な理由のない解雇は、権利濫用として無効になってしまうので、余程のことがない限り、一方的に解雇することは避けるのが無難である。なぜなら実際に会社が労働者側と争うことになっても、実際にはその9割は、会社が負けてしまうともいわれているからだ。話し合いにより和解することもあるが、裁判に発展し、判決が不当解雇で解雇無効となればそれまでの未払いの賃金や慰謝料など多額の費用がかかることになることは、知っておきたい。

解雇予告手当の未払いのトラブルも最近増加している。労働基準法では、使用者は労働者を解雇しようとするとき、少なくとも30日前に予告をしなければいけないと定められており、30日前に予告をしないときは、30日分以上の平均賃金を支払わなければいけないことになっている。

経営者の中には、「Aさんは、まだ試用期間中の3ヵ月目に入ったばかりだから即時解雇しても大丈夫」と勘違いしている人も多い。実際は即時解雇が許されるのは、試用期間中であれば14日以内に限られ、仮に試用期間中でも14日を超えて雇用される人は、解雇予告をしなければならない。

遅刻欠勤が多く本人の勤怠不良が原因による解雇の場合、即時解雇しても問題ないと思い込んでいる人も意外に多いが、法律では、本人の責に帰すべき事由による解雇は、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合に限り解雇予告手当を支払うこと無く、即時解雇ができることになっている。しかしながら実際には、懲戒解雇の場合であっても適用になるのは盗取、横領等の刑法犯などごく一部に限られており、現実的には解雇予告手当を支払ってから懲戒解雇するしかない。

いずれにしても解雇に関しては法律や判例を細かく押さえ、専門家に相談しながら慎重に進めて、安易な解雇をしないことがトラブルを回避するコツといえるだろう。

4  年次有給休暇のトラブルと労働基準監督署の調査について

年次有給休暇に関するトラブルといえば、退職時に労働者が残日数全部を請求してきた場合に、会社が有給休暇を認めず、その結果としてトラブルになるケースは多い。年次有給休暇は要件を満たせば自動的に発生するものであり、会社は従業員から有給休暇の請求があれば認めなければならない。ただし、使用者側にも請求された時季を変更することができる権利があるので、繁忙期などに請求を受けた場合には他の日に変更することができる。しかしながら、退職間際に請求された場合には、変更してもらおうとしても他に日がないのだから、請求を受けなければならない。ただし業務の引継ぎなどで会社側が出社を要請し、その結果として退職日までにどうしても消化できなかった年次有給休暇がある場合には、会社は年次有給休暇を買上げることができる。

パートタイマーにも週の勤務日数に応じて年次有給休暇が付与されることを知らない経営者も多い。パートといっても例えば週に5回、1 日6時間勤務している勤続8年のパート社員の場合、出勤率要件も満たしていれば、正社員と同じように40 日分(消化日数0の場合で繰り越し分も含む)の年次有給休暇を保有していることになる。仮に時給1,000円とすると、合計24 万円分にもなってしまうことは理解しておきたい。いずれにしても年次有給休暇を計画的に取得してもらえるように、会社としても体制を整えていかなければならない。また場合によっては労使で協定を結んで年次有給休暇を計画的に付与するのも1つの方法である。

最後に労働基準監督署の立ち入り調査について簡単にふれておく。調査には定期的に行われる定期監督と労働者からの法令違反の申告を受けた場合に行われる申告監督、定期監督後や申告監督後の指導後の状況確認のための再監督の3つの種類がある。近年は、申告監督が多く、これまでにあげたサービス残業代の請求や解雇予告手当未払いなどは申告により、法令違反が発覚するケースが多い。労働基準監督署からの出頭要請や現地に調査が入ることになった場合には、まずは専門家に相談し、今後の対策を一緒に検討するのがよいだろう。

そもそも労使トラブルが起きる背景には、労働環境や職場の雰囲気に問題があるケースも多いので、そのあたりをもう一度チェックし、経営者側は、働く労働者の気持ちになって考えてみることも重要ではないだろうか。
(しょうじ・ひでたか)

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