そうした意味において、国税当局が生命保険契約の差押・取立にかかわり、これまでも「解約権の行使に当たっては慎重を期する必要がある」と、事務連絡等の文書で指示してきた経緯がある。それを受けて、19年春、パブリックコメントにかけられた国税徴収法基本通達改正案に、(不十分ながらも)これらの趣旨が盛り込まれた意義は大きい。この通達を納税者・税理士等が理解し、徴収現場にも徹底させることはきわめて重要であるので、以下に紹介する。
徴基通67条関係の6(生命保険契約の解約返戻金請求権の取り立て)
生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえた場合には、差押さえ債権者は、その取立て権に基づき滞納者(債権者)の有する解約権を行使することができる(平成11.9.9最高判参照)。ただし、その解約権の行使に当たっては、解約返戻金によって満足を得ようとする差押債権者の利益と保険契約者および保険金受取人の不利益(保険金請求権や特約に基づく給付金請求権の喪失)とを比較衡量する必要があり、例えば、次のような場合には、解約権の行使により著しい不均衡を生じさせることにならないか、慎重に判断するものとする。
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(1) |
近々保険事故の発生により多額の保険請求権が発生することが予測される場合 |
(2) |
被保険者が現実に特約に基づく入院給付金の給付を受けており、当該金員が療養生活費に当てられている場合 |
(3) |
老齢又は既病歴を有する等の理由により、他の生命保険契約に新規に加入することが困難である場合 |
(4) |
差押にかかる滞納税額に比較して解約返戻金の額が著しく少額である場合 |
徴基通67-6で指摘しているような事例に直面した場合、あるいは生活保障を主目的にする切実性のある生命保険契約が差押さえの対象となった場合、徴収職員に対してこの通達を示し、「差押をやらせない」「取立てをさせない」ための説得とたたかいが大切である。 |
(かどや・けいいち) |