論文

> 法人事業税の地方配分問題について
「三位一体改革」による自治体財政の現状と税源移譲の現実
中村  幸夫(地方税全国研究交流集会事務局長)

はじめに

いま東京など一部の自治体を例外として、ほとんどの自治体は、「三位一体改革」による地方交付税の大幅削減によって、大変な財政危機に陥っています。

「三位一体改革」以前の平成13年度では、地方財政計画総額が89.3兆円であったものが、平成18年度には83.1兆円となり、総額で6.2兆円、率にして93.06%まで引き下げられました。

これは、「三位一体改革」に基づき、3兆円の地方税の税源移譲が行われたものの、地方交付税が平成13年度に比して約5兆円も財源保障なしに削減されたことによります。

このような地方交付税の大幅削減は、全国の自治体財政に深刻な影響を与えています。特に規模の小さな自治体ほど、その影響が大きくなり、地方交付税減少が、そのまま自治体施策の後退・縮小・廃止など、住民生活に直接に影響を与えています。

また、税源移譲された個人住民税は、移譲と共に税率が一律10%とフラット化されたことによる影響などによって、徴収業務をおこなっている市町村に様々な問題を引き起こしています。

この小論では、「三位一体改革」の結果とその中で行われた、税源移譲の現状と問題点について検討を行いたいと思います。

I  「三位一体改革」による自治体財政の現状

(1)「三位一体改革」の結末
地方自治体財政の規模は、総務省が毎年度ごとに作成する「地方財政計画」により大枠が定められています。

「三位一体改革」以前の平成13年度の地方財政計画は、下表のように、総額89.3兆円、この内38.4%、34.2兆円あった地方交付税、国庫支出金、地方特別交付金などの国からの財政支出が、平成18年度には、地方財政計画総額83.1兆円の32.28%、26.9兆円、そして平成19度には金額で約25.7兆円まで引き下げられました。

もちろん「三位一体改革」に基づき、3兆円の地方税の税源移譲が行われ、地方税収入は、平成13年度に比して、平成19年度で113.47%となり、金額で約5兆円ほど増加しています。これは税源移譲分3兆円と景気回復による増収分ですが、地方財政計画全体では平成13年度約89.3兆円から、平成20年度約83.4兆円と5.9兆円も減少しています。

このような大幅な地方財政計画の減少の大部分は、上記表で明らかなように、地方交付税が平成13年度の20.3兆円から、平成19年度の15.2兆円に、実に6.1兆円も大幅に削減されたことによるものです。

国庫支出金は、同じように約3兆円減少しましたが、この減額分は、3兆円の税源移譲で補填されました。しかし地方交付税は何等の補填措置も行われずに6兆円を上回る削減が行われたために、全国の地方自治体、なかんずく小規模自治体ほど大きな影響を受け、予算編成自体ができないほどの影響を受けているのが現実の姿となっています。
  地方財政
計画総額
地方
交付税
構成比 国庫
支出金
構成比 地方特別
交付金
構成比 地方税 構成比 地方
贈与税
構成比
13年度 893,071 203.498 22.79% 130.745 14.64% 9.018 1.01% 355.810 39.84% 6.237 0.70%
18年度 831,508 159.073 19.13% 102.015 12.27% 8.160 0.98% 348.983 41.97% 37.324 4.49%
13年度比 93.11% 78.17%   78.03%   90.49%   98.08%   598.43%  
19年度 831,261 152.027 18.29% 101.739 12.24% 3.120 0.38% 403.728 48.57% 7.091 1.44%
13年度比 93.08% 74.41%   77.81%   34.60%   113.47%   113.69%  

総務省作成、各年度「地方財政計画」より。単位は億円

(2)地方交付税の大幅削減による地域間格差の拡大
このような現状に対して、全国知事会は「三位一体改革により5兆1千億円もの交付税が削減され、各地方公共団体の一般財源総額は大幅な減少を強いられている。これが地方自治の根幹ともいえる『政策的経費に使える一般財源』の逼迫につながっているほか、地方交付税制度が有する財政力の格差是正機能を減退させ、地域間の格差拡大をきたしている」と指摘しています。

更に、政策的経費に使える一般財源は、都道府県の交付団体ベースで、平成15年度4.1兆円が平成19年度2.2兆円と1.9兆円減少し、財源不足対策の起債や基金取り崩しなどの対策額は、同時期に0.8兆円が1.8兆円に増加している。また地域間格差の拡大については、平成15年度と平成18年度では、東京都を除く全国の地方税+地方交付税の格差(0.21)は、地方税の格差(0.11)より拡大していると指摘しています。

つまり、地方交付税の大幅な削減が地方の政策的経費の減少―住民施策の縮小などにつながっていること、また財源調整機能が縮小し、地域間格差拡大の原因となっていることを明らかにしています。

地方交付税制度の目的は、法1条で「地方団体の自主性を損なわずにその財源の均衡化を図り、交付基準の設定を通じて地方行政の計画的運営を保障することにより、地方自治の本旨の実現に資すると共に、地方団体の独立性を強化すること」とされ、財源調整機能と財源保障機能という二つの機能を持つことを明らかにしていますが、この間の地方交付税の大幅削減によって、地方自治体の一般財源総額は大幅な減少を強いられ、財政調整と財源保障という地方交付税の持つ二つの機能が共にその役割を果たせなくなっている現実を厳しく指摘しています。

II  平成20年度与党税制改正大綱に示された政府の対応策の問題点

このような現状に対して、地方六団体や全国知事会などは、平成18年5月以降、1地方税財源対策の充実として、国税と地方税の税源配分を5:5とすること。2地方交付税の名称を『地方共有税』とし、地方固有の共有財源であることを明確にすること。3大幅に削減された地方交付税を復元・充実すること。などの要求を繰り返し政府に提出しています。

これらの地方からの要求に対する「回答」として出されたのが、昨年12月12日に示された、与党『平成20年度税制改正大綱』です。その詳しい内容は、本号掲載の「法人事業税の地方配分問題について」で論じていますので、詳細はそちらに譲り、ここでは羅列的に問題点のみ指摘するに留めます。

1  地方財政の危機の解決策にはなり得ない
2  地方分権の理念に逆行する、地方税の国税化
3  租税原則に反する「暫定措置」
4  消費税の大幅引上げが「暫定措置」解消の前提であること

以上4つの問題点を指摘しましたが、今回の「暫定措置」は、先に指摘したように、地方交付税の大幅削減という、「三位一体改革」によってつくられた地方財政の危機と地域間格差を、自治体間の財政力格差の「是正」という形で切り抜けようとするものであり、本質的に問題の解消にはなりえない、「小手先」の「改革」です。

現行税率と改革税率の対照表

所得税 住民税
現行 改正 現行 改正
課税所得(万円) 税率% 課税所得(万円) 税率% 課税所得(万円) 税率% 税率%
0〜330以下 10 0〜195以下 5 0〜200以下 5 一律10%
  10 195超〜330以下 10 200超〜700以下 10
330超〜900以下 20 330〜695以下 20 700超 13
  20 695超〜900以下 23    
900超〜1800以下 30 900超〜1800以下 33    
1800超 37 1800超 40    
この改正は、所得税については平成18年度から、住民税は平成19年度から実施されました。
(2)税源移譲に伴う住民税率フラット化などの変更
1 個人住民税税率10%のフラット化
  今回の税源移譲に伴って、個人住民税の税率が10%の一律税率となりました。これは、この間の政府税調の議論を踏まえ、「個人所得課税体系における所得税と個人住民税の役割分担を明確にする」として、所得税では、応能負担と所得再配分機能を残し、個人住民税では「受益者負担・負担分任」の観点から、所得再配分の考え方を取らず、10%のフラット化されました。
2 調整控除、住宅借入金等特別控除の調整、所得変動に掛かる減額措置の導入
税源移譲に伴って、所得税と住民税の人的控除の差額を調整するために、次のような調整控除が導入されました。
次の額を所得割額から控除する。
ア、 個人住民税の合計課税所得金額が200万円以下の場合
「人的控除の差の合計額」と「合計課税所得金額」のいずれか少ない金額の5%(県民税2%、市民税3%)
イ、 個人住民税の合計課税所得金額が200万円を超える場合
[「人的控除の差の合計額」−(「合計課税所得金額」−200万円)]の金額(5万円未満の場合は5万円)の5%(県民税2%、市民税3%)
住宅借入金等特別控除の調整
平成11年から18年までの居住者について、確定申告時期に申告を求めた上で、税源移譲による影響額を翌年度の住民税の所得割の額から控除する。(県民税3/5、市民税2/5)
住民税の減額部分は全額国費で補填されることとなっている。
所得変動に掛かる減額措置
平成18年の所得はあったが、平成19年の所得がなくなったことなどにより、平成19年分の所得税の減額が受けられず、平成19年度の住民税のみ増額になった方について、平成20年7月1日から31日までの期間に、19年度住民税の課税市町村に申告をすることによって、平成19年度の住民税額を、移譲前の住民税額に減額する。
19年中に死亡した者や国外に転出したものは対象とはならない。
3 都道府県税と市町村税の税率配分の変更
市町村税率 都道府県税率 合計
変更前 変更後 変更前 変更後 変更前 変更後
3% 6% 2% 4% 5% 10%
8% 2% 10%
10% 3% 13%
上記の表のように、市町村分より、都道府県分が増加割合が高く、その一方、市町村分は増加する部分と減額となる部分が相殺され、増収割合は、都道府県と比して少ないものとなっています。

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