(3)税源移譲による影響と問題点 |
地方財政計画による税収見込み
税源移譲に当たっての試算によれば、個人道府県民税の増収2兆1800億円、個人市町村民税の増収8300億円の計3兆100億円でした。
平成19年度の地方財政計画によると、地方税総額は40兆3728億円で、平成18年度の34兆8983億円に比して、金額で5兆4745億円、率で15.5%の伸びとなっています。
19年度の地財計画での税収見込みを税目別に見ると、道府県民税2兆6055億円、市町村民税1兆8663億円となっており、合計4兆4718億円で、税源移譲分を大きく上回っています。この上乗せ分は法人住民税の増加分(道府県・市町村あわせて約9000億円)と、景気の回復による増収部分です。また、他の税目で大きく増収となっているのは、法人事業税で約8000億円の増となっています。 |
|
急激に悪化している実際の税収の動向
地方財政計画では、上記のように40兆3728億円を越える税収を見込んでいましたが、景気の冷え込みから40兆円を下回る可能性が指摘されています。
例えば、東京都多摩市では、昨年12月市民税10億円の減額補正を行いました。原因について市当局は、「住民税フラット化の影響や、景気の停滞による所得の伸び悩み」と説明しています。
このような状況は全国的に広がり、本年1月15日、総務省は地方財政計画の税収見込み40.3兆円を7000億円も下回る見通しを明らかにしました。特に法人二税が急激に落ち込み、地方税収だけでなく国税も同様な事態となり、地方交付税の財源不足も2992億円に上ることも明らかとなりました。
このような事態を受け、総務省は減収補填債の許可と、地方交付税財源不足を一般会計から穴埋めするための法改正を行うこと決定しました。
この減収補填債は、既に80自治体(15道府県、7政令市、58市町村)1800億円(道府県1400億円、政令市を含む市町村400億円)に達しており、今後更に拡大する見通しです。増田総務相は、法改正が通らないと、少なくとも宮城、千葉、新潟、兵庫、岡山の5県が赤字に転落する見通しであることを明らかにしています。
税源移譲元年の平成19年度で、戦後3度目、第1次石油危機(1975年)の際の3447億円、ITバブル崩壊による不況(2002年)の1227億円に続く、減収補填債の発行という事態をうんだことは、景気の動向に左右される現行の地方税制の問題点と共に、この間政府の進めてきた「三位一体改革」が、地方の実態を無視した無謀な「改革」であったことを改めて明らかにしています。 |
|
フラット化による急激な負担増により、大きく落ち込む住民税徴収率
地方自治体は、景気の落ち込みによる減収だけでなく、税源移譲に伴って行われた個人住民税の税法改正で、税率が1律10%とフラット化された影響で、全国全ての都道府県で徴収率が軒並みダウンし、税源移譲された税源が税収とならない事態が広がっています。
昨年12月15日に朝日新聞が報道したように、2007年10月末時点で、都道府県の個人住民税の徴収率が、前年同期に比べて軒並み落ち込み、全国平均で43.5ポイントと前年同期の46ポイントから平均で2.5ポイント下がっています。
自治体担当者はこの原因について、「税源移譲で所得税が減る代わりに住民税が倍に増えた低所得者層で滞納や分割払いが増えている」と指摘しています。特に、住民税5%・所得税10%が、住民税10%・所得税5%に逆転した、年間課税所得200万円以下の層の滞納が増加し、これに加えて定率減税が全廃されたことで大幅に負担が増加した層にも滞納が広がっていると指摘されています。
このような状況について、昨年12月に滋賀県大津市で開催した、私どもが主催する「第22回地方税全国研究交流集会」において、岡山市の住民税職場からの参加者は、「平成18年と平成19年の6月に岡山市役所で起こったこと」と題して以下のように、税源移譲による住民税の改正について報告しています。
平成18年は、6月13日に納税通知書を発送したところ、14日から約10日間は、市民税課の14本の電話がほとんど通話中という状態だった。来庁者も、多い日は1日約200人が窓口に訪れた。
平成19年は、6月8日に納税通知書を発送し、翌週の月曜日11日からは1日約千件の電話と、約150人の来庁者が数日続き、その後、件数は減少したものの月末まで問い合わせがあった。
問い合わせの内容としては、いずれの年も「これは間違いではないのか」というものが多くあった。ただし、18年は、それまでずっと非課税だった人が課税になって「なぜ市県民税がかかるのか」というケースが多く、19年は、前年に比べて税額が2倍や、4倍に増えたとか、10万円も増えたということで「どうして、こんなに増えるのか」という内容だった。問い合わせをされる方は、前年との所得の比較がしやすい年金生活者と退職者が多かった。(中間略)
税源を移譲したといっても、移譲された税源をすべて徴収しなければ、税収とならない。税源移譲で、住民税は低所得者の税率を上げて、所得税は低所得者の税率を下げているため、所得の少ない低所得者の徴税を市町村に押し付けているといえる。それでなくても生活の苦しい低所得者の住民税の課税額が上がると、滞納が増える可能性が高くなる。課税額が増えても、滞納が増えたのでは、徴収経費もかさみ、税収増には直結せず、逆に国税は、高額所得者中心に徴税を行えると考えられる。「国の徴収は高額所得者へシフト、地方は低所得者への徴税強化」が進むと予想される。
この報告のように、源泉徴収されない年金生活者や退職者など、相対的に所得の低い階層で、税額が倍以上となる現実が、先に指摘した滞納の増加になって表れています。
このような事態の進行に対して、全国の自治体では躍起になって税収確保の取組を進めています。東京都では、昨年11月29日、「個人都民税収入確保対策推進本部」を立ち上げ、都下全区市町村と連携して徴収対策を進め、また各自治体でも同様の取組が強められていますが、既に指摘したように、今回の徴収率低下は、源泉徴収されていない低所得者層の税額が倍以上に跳ね上がった事を背景にしているだけに、徴税攻勢の中で、納税者の生活実態を無視した乱暴な滞納整理が更に強められることが危惧されます。 |
|
市町村において、税源移譲の引き起こしているその他の問題点
今回の税源移譲は、今まで述べてきた問題点と共に、市町村で実際に賦課徴収業務に携わる職員から、以下のような問題点が指摘されています。
※税源移譲での調整として、調整控除、住宅ローン控除の調整、所得変動による経過措置などの派生的な制度を作り、市町村に押し付けている。しかし、この措置は、事務を複雑化させるだけで、多数の人が対象ではない。その上、所得変動による経過措置は、今年7月中に、該当者が市町村に申告するという制度である。こうした国の付け焼刃的な制度に市町村や国民が振り回されている。
※税源移譲による住民税の増税について、住民への説明はもっぱら市町村の窓口で行われることになり、対応は市町村職員が負わされた。また国の宣伝物が「負担は変わらない」とするものばかりのために、実際に住民税が増税となる市町村では独自に宣伝物や広報紙での宣伝、説明のための休日開庁など、多くの負担を強いられた。
※所得再配分的機能の喪失(低所得者への税率10%)
住民税は税率がフラット化され、それまで若干でもあった所得再配分的機能を喪失しており、応益負担中心となった。
住民税の税率が一律10%となり、例えば課税所得100万円であれば、住民税は約10万円となる。感覚的には、1ヵ月分の給料を住民税に充てるようなものであり、低所得者にとっては、この税率での負担はきついものである。
また、特別徴収で毎月の給料から引き去れていれば、まだ負担感は低いと思われるが、転職や退職、自営など納税通知書で納付する方は、納期ごとに年税額の4分の1の額を納付するので、税額が増えれば納税しにくく、負担感もより高まったと思われる。
所得税から住民税への税源移譲そのものは、地方分権拡大として評価すべきものです。しかし、今まで述べてきたように、今回の税源移譲とその実施方法は、そもそも移譲額が絶対的に不足していることをはじめ、多くの問題点をもったものとなりました。 |