1. 緒説 |
以下においては、このような国税庁担当官の考え方の問題点を指摘していくこととするが、各論点の前提となるべき、大陸法系と英米法系との比較法上の問題点を指摘することを最初に行う。
これは、成立の歴史も背景も異なる判例法の法系について、成典化されているとはいえ、字面のみを捉えて、大陸法系において通有する法解釈を行うことは浅薄の誹りを免れないことを指摘するためである。 |
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2. 大陸法系と英米法系 |
英米法系における多様な事業体は、判例法によって長い年月をかけて発展させられて来たさまざまな便宜的な要素を含む独特の概念の集積である。
これに対して、我が国における法の継受は、基本的に大陸法系であり、整合性を重視した成文法の体系である。
英米法系の判例法によって育まれてきた諸概念は、たとえ法典化され、明文化されていたとしても、我が国の大陸法の体系における根本的な諸概念のそれぞれと、明確な対応関係をつけて理解することは不可能であるし、無理にそれを行おうとすれば有害ですらある。 |
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3. 2つの法系の対応関係、接合の困難性 |
英米法の諸概念を、大陸法系の整然とした法体系の知識で、理解しようとすれば、不自然な法解釈を強いたり、誤謬を招いたりする可能性を排除できない。
信託の概念の英米法からの輸入が、ひとつのその例であり、ドイツ法的所有権の絶対を基礎とする大陸法系の我が国の私法の体系にうまくはめ込むことにおいて、さまざまな理論的な問題をクリアしなければならず、解釈論も立法論を含めて議論は多岐にわたっていた。
新信託法は信託を法人化するものであるという批判(新井誠教授)があるのは、そのひとつの典型である。また、信託税制において、さまざまな擬制を用いた課税が行われているのもその一例である。
さらに、民法43条(現在は削除されている。)のウルトラ・ヴァイレスの法理が、3人の起草者のうち、英国留学組であった穂積陳重によって、挿入されて、そのために大陸法系の他の条文との解釈的接合の困難を来していたことは、良く知られているとおりである。 |
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4. 法人の概念 |
我が国が継受した大陸法系の流れを汲む法人理論は、「法人とは自然人以外のもので権利義務の主体となりうるものである」という極めて整然とした立法の形式である(例えば、我妻栄「民法講義I・新訂民法總則」114頁以下)。
ところが、英米法の世界では、権利義務の主体とか法人格などの法概念は必ずしも整然とは整理されておらず、判例法によって育まれてきた多様な事業体が存在し、それぞれの使い勝手に便利な点があることは良く知られている。
また、そのように便利であるからこそ、我が国においても立法によってかかる多様な事業体を輸入する作業が行われてきた。
このような事情であるから、我が国におけるような権利義務の主体とか法人とか法人格の概念を、英米法系の法律専門家に説明しようとすると、かなりの困難に逢着することは周知の事実である。 |
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5. 租税法に特有の問題点 |
かかる状況の下で、ひとつひとつにその妥当性に疑義のある一定の基準を設けて、英米法系における多様な事業体について、日本法上の法人であるか否かを決定しようとする作業自体に無理があることは、このような事情によってほぼ明らかであると考える。
租税法という、憲法84条の租税法律主義が支配する特殊の法領域においては、とりわけ慎重でなければならない法解釈論において、このことはなお一層妥当する。
裁判所による法創造行為によって認められて良いのか否かすらも否定的に考えざるを得ない。
即ち、租税法律主義の精神に立ち返って、法の明文によって、処理されるべき事柄である。 |