論文

>「憲法と消費税」東京会・埼玉会・神奈川会合同チーム

特集  第43回神戸全国研究集会
「憲法と消費税」
神戸税経新人会プロジェクトチーム
メンバー   濱田 在人
大垣 恵美
金子 真澄
須藤  順
田中みのり
(リーダー)

(目 次)
1. はじめに
2. シャウプ勧告による税制
3. 消費税導入時の税制の問題点
4. 消費税の特徴
5. 租税機能から見た消費税
6. 憲法と消費税
(1) 憲法14条と消費税
(2) 憲法25条と消費税
(3) 憲法29条と消費税
7. 今後の課題
(1) 社会保障給付と税
(2) 家計調査によるシミュレーション
8. おわりに

1. はじめに

小泉前首相が「自分が首相のうちは消費税率の引き上げはしない。」と明言したことにより、5年間消費税の本格的な議論は行われていませんでしたが、その小泉前首相が任期を終え、消費税率の引き上げ論が浮上してきました。現在のところは夏の参院選を控えてこの話題は先送りされているような感じですが、議論が本格化するのは時間の問題です。

「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」では、日本の財政再建をめざす「歳出・歳入一体改革」が提起されました。その中では、財政健全化の目標年度である2011年度に国・地方の基礎的財政収支を黒字化するためには16.5兆円の対応が必要であり、その内「歳出改革」により14.3兆円〜11.4兆円程度を削減し、「歳入改革」により2兆円〜5兆円程度の増収を図ることとされました。

この「基本方針2006」では具体的な税制改革の内容にまでは踏み込まれていませんが、社会保障給付の安定的な財源として消費税を位置づけることについて「給付と財源の対応関係を検討する」としており、改革の柱として消費税増税を念頭においているようです。

そこで今回、全国研究集会において「憲法と消費税」というテーマが決定し、神戸会プロジェクトチームとして改めて消費税の存在や消費税の増税について、憲法から見て許されるべきものなのかどうかを考えてみました。

2. シャウプ勧告による税制

昭和24年5月、カール・シャウプ博士を団長とする使節団が来日し3ヶ月以上に及ぶ取材等を行い、同年9月に「シャウプ使節団日本税制報告書」(シャウプ勧告)を発表しました。

この勧告として発表されたものの基本方針として、「公平な租税制度の確立」「租税行政の改善」「地方財政の強化」というものでしたが、主要点として 直接税中心の税制、所得税について総合累進税の考えを推進、所得税の補完税として富裕税の創設、法人税と所得税の二重課税防止のための配当控除、留保益の累積額に対する附加税の課税、相続税と贈与税の一体化と累積的取得税の採用、租税特別措置の原則廃止、等が挙げられます。

これら主要点の中でも「直接税中心の税制」については、間接税よりも直接税の方が、納税者が租税を意識して納付し、担税力に応じた課税ができるということです。つまり税制の中でも所得税に重きを置くことを考えています。反対に間接税については、生活必需品といえないものに課税する物品税など個別消費税体系によるべきであるとされています。

また、所得税の課税ベースの拡大や例外なき総合課税のため、キャピタルゲインの全額課税とキャピタルロスの全額控除、基礎控除の充実や医療費控除等の社会政策的要素を加味することをしました。最高税率については富裕税を補完税とすることにより85%から50%へ引き下げを行いました。このようにシャウプ勧告は応能負担原則に基づいた公平な税制を目指したものでした。

しかし、昭和28年の税制改正からシャウプ税制とその考え方は次第に崩壊していきます。まず、富裕税が廃止され、相続税と贈与税を結合した累積的取得税方式も廃止、所得税関連では、有価証券の譲渡所得課税が廃止されました。また、利子所得を分離課税とするなど、例外なき総合課税の方針からは乖離していきました。

もう一つ大きな乖離としては、租税特別措置の増加です。昭和26年以降各種の特別措置が導入され、昭和32年には租税特別措置法が全面的に改正され、一層これらの措置が増加されました。

特別措置の目的となったのは、貯蓄の奨励、内部留保の充実、設備の近代化、輸出の振興など資本の蓄積と経済の発展を図るものでした。

昭和40年以降は税法の改正のつど租税特別措置の整理・合理化が叫ばれていますが、結果としてはその整理が進展しないばかりか、次々と新しい特別措置が設けられ、所得税の分野では資産性所得の優遇等が特別措置となっています。この結果、税制はいっそう複雑なものになり、中立性を失い、歪みを生じてしまいました。

また、シャウプ勧告の直接税中心主義に批判が強く、所得税の減税と間接税の増税が繰り返されました。また所得間の把握差(クロヨン)が生じ、これも税の不公平感を増幅したものになりました。

昭和48年の石油ショック後、戦後はじめてのマイナス成長を記録し、法人税収が大幅にダウンしました。また、インフレにより所得税負担が急増するのを防ぐために、2兆円規模の大減税を実施しました。これにより財政収支を急激に悪化させ、歳入を公債に依存する赤字体質が生じました。

このように、シャウプ勧告に基づく税制改革以来、幾度も部分的修正を加え、すでに税制の理想からは遠ざかってきており、また、経済社会においても産業構造と就業構造の変化が進み、勤労者世帯が増加し所得水準が大幅に上昇するなど、その「ゆがみ、ひずみ」は部分的修正では対応しきれない状況にまで広がってきていることから、税制調査会は昭和61年「税制の抜本的見直しについての答申」を発表しました。

この答申では、「公平」「公正」「簡素」「選択」「活力」を基本理念として、あわせて「中立性」の原則や「国際性」の視点にも配慮して見直しを行ったとしています。望ましい税体系のあり方としては、所得・消費・資産の間のバランスが大切だとして、累進税率の引き下げ、間接税の全面的な見直しが検討されました。

昭和62年度の税制改正答申では、さらなる税率の引き下げとともに、新型間接税としての「売上税」の導入が提案されましたが、その後廃案となっています。

シャウプ勧告には、「われわれが勧告しているのは、租税制度であって、相互に関連のない多くの別箇の措置ではない。一切の重要な勧告事項及び細かい勧告事項の多くは、相互に関連を持っている。もし重要な勧告事項の一部が排除されるとすれば、他の部分は、その結果、価値を減じ、場合によっては有害なものとなろう。」と述べています。

つまり、シャウプ勧告による税制は、制度として全体的につながりを持っているものであり、一部を削除したりした場合には意味のないものになってしまうことを始めから指摘しているにも関わらず特別措置の導入などにより崩壊していくのです。

3. 消費税仕入税額控除全面否認の最高裁判決

消費税は、シャウプ勧告による税制が戦後の経済社会の変化に対応しきれていないのではないか、という問題意識から税制調査会の「税制改革についての中間答申」(昭和63年4月) などに基づく税制の抜本的な改革の大きな柱の一つとして創設され、平成元年(1989年)4月1日から施行されました。

消費税が導入された当時の税制については所得課税にウェイトが偏っており、個人所得税率も昭和61年が10.5%〜70%の15段階、消費税導入当時の平成元年で10%〜50%の5段階と累進度が強く、昭和56年には一橋大学の教授であった石弘光氏が国民経済計算を用いて所得捕捉率の推計を行い、給与所得者・自営業者・農業所得者の間にクロヨン(9:6:4)またはトーゴーサン(10:5:3)に近い捕捉率の格差があることを示すなど、所得の種類間における捕捉のアンバランスが指摘されていました。

図A. 昭和61年分から平成10年分の個人所得税の税率推移
図A
さらに、法人所得税においては、法人税の実効税率は1980年代前半にはイギリスやフランス、アメリカなどと同じ50%台でしたが、1980年代後半以降イギリス、フランス、アメリカが大幅に実行税率を引き下げたにもかかわらず、日本は50%台のままであり、国際的にみても税率が高く国際競争力の観点からも税制の見直しが必要とされました。

図B. 各国の法人税実効税率の推移
図A

また、将来、本格的な少子・高齢化が到来する前に、勤労世代に偏らずより多くの人々が社会を支えていけるような税体系を構築するとともに、社会保障をはじめとする公的サービスの費用を賄うために安定的な歳入構造を確保することが重要な課題と考えられていました。税制改革法(昭和63年法律第107号)の第二条においても「将来の展望を踏まえつつ、国民の租税に対する不公平感を払しょくするとともに、所得、消費、資産等に対する課税を適切に組み合わせることにより均衡がとれた税体系を構築」することが税制改革の趣旨であるとしています。

消費税が導入されるまでは、わが国の消費課税としては物品税を中心とした個別間接税が課されていました。物品税は自動車やテレビなど奢侈品に対して課税されていましたが、消費が多様化してくると奢侈品の判断が難しく物品間での課税のアンバランスが生じました。また、サービスに対しては課税されず時代の変化に対応しきれないという問題があり、さらに、経済が国際化し、貿易取引が拡大する中で、諸外国との消費課税制度の違いが貿易摩擦の一因となるという問題もありました。

4. 消費税の特徴

個々人の税負担の能力を示す3つの指標には「資産」「所得」「消費」がありますが、消費税は文字通り財貨やサービスの消費に対して課税するものです。消費課税には、たばこ税、酒税、揮発油税などがありますが、消費税はすべての財貨やサービスの消費という行為に対して課税されるため、特定の財貨やサービスを消費する者ではなく、すべての消費者に対して課税される税です。勤労所得をはじめとして、所得を稼得する人も両親などからの贈与や相続財産で生計を立てている人も、すべての人が消費活動を行っており、すべての者に公平に課税することができる税といえます。

また、消費支出は生涯にわたって行われるため、例えば勤労している時期だけというように一定の時期に偏らずに課税することができ、あらゆる世代に公平に負担を求めることができます。所得税は毎年の税負担、贈与税や相続税はその発生時点での税負担を求めているのに対して、消費税は生涯を通じた税負担を求めているという点に特色があります。

さらに、少子・高齢化とともに社会保障をはじめとして、景気の変動に関係なく支出が求められる財政需要が増大していくことが見込まれるため、景気変動に影響を受けにくい消費税は、安定的な歳入確保の面から優れているという特徴もあります。

日本の消費税は付加価値税タイプの間接税です。この他に消費に負担を求める間接税としては、小売売上税(アメリカの一部で採用)、単段階課税(イギリスなど)や取引高税(フランスなど)等がありますが、付加価値税タイプの税は次の点で他のタイプの間接税より優れていると考えられます。
生産から販売に至るすべての段階における事業者の売上げに対して広く課税することにより、あらゆる財貨・サービスを課税対象とすることが可能である。
卸売段階などにおける単段階課税と異なり、生産や販売などのすべての段階で発生する付加価値を実質的な課税ベースとすることができ、また、サービスをも課税対象とすることが可能である。
取引高税と異なり、仕入税額控除や控除不足額の還付により税の累積を排除する仕組みが組み込まれていることから、国境税調整が可能であり、また、取引の形態によって税負担が変動することがなく、産業構造に対して中立的である。
卸売段階などにおける単段事業者全般を幅広く納税義務者とすることにより、納税額が多くの事業者に分散されることから、単段階課税のように一部の事業者に納税が偏ることによる租税回避の誘因を小さくすることが可能である。
仕入れに係る税額を控除するためには、仕入れの事実を証明する書類(インボイスや請求書等)を保存しておく必要があるため、事業者の手許には仕入先の売上げに関する書類が保存されることとなり、納税義務者間に適正な納税申告を促す効果がある。

5. 租税機能から見た消費税

租税の目的・機能として、4つの分類があるとされています。
国や地方公共団体が国民に対して公共サービスを提供することを任務として存在しているため、国民が要求するその公共サービスの財源調達機能
公正な社会秩序を保つため、税を通じての富の再分配機能
国家が財政、経済を通じて国民経済の安定と雇用、福祉政策を推進させるための景気の調整機能
国家産業の保護や発展のための保護関税の機能
財源の調達機能について
平成19年度の一般会計歳入予算をみると、一般会計歳入総額829,088億円のうち租税及び収入印紙は534,670億円(64.5%)となっており公債金収入は254,320億円(30.7%)となっています。公債金収入のうち特例公債(赤字国債)発行は202,010億円となっています。

財政法第4条では、「国家の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を持ってその財源としなければならない」と規定し均衡財政を原則としています。但し書きにおいて公共事業費等の財源については国会の決議を経た金額の範囲内で公債を発行することができるとされており、これに基づき建設国債が発行されています。これに対し、歳入不足を補うために発行されるのが特例国債です。特例国債の発行にあたっては財政法で禁止されていることから、発行されるたびに新たに特例国債の発行に関する法律を制定しています。

歳入総額のうち税収の占める割合が17年度は57.4%、18年度補正予算60.5%、19年度64.5%と推移していますが、これでは財源の調達機能を十分に果たしているとは言えません。

均衡財政を実現させるためには、無駄な歳出を減らすことはもちろんですが、必要な歳出をまかなうために安定的な財源の調達も考えなければいけません。

少子高齢社会がますます進行するにつれ、社会保障関係費の増大が見込まれているなか安定的な財源が求められるのは必至です。

図C. 消費税収入、国内総生産、民間設備投資の対前年度増減率の推移
(平成10年〜14年度)

図C
(資料) 消費税収入は財務省編「財政統計」2004年度版、国内総生産と民間設備投資は
内閣府経済社会総合研究所編「国民経済計算年報」2004年度版。

図Cは消費税収入、国内総生産、民間設備投資の対前年度増減率の推移を示したものです。平成10年度と平成11年度は国内総生産の前年比がマイナスであり不況でしたが、消費税収入の前年度比は8.3%増を記録しています。不況期には消費税収入が増えていることになります。好況期には、事業者の売上高が増え、設備投資が増え、仕入税額控除が増えることになりますので、その分だけ事業者の消費税納税額は増えないことになります。平成12年度は、国内総生産が前年度比1.1%増になり、不況から一時的に脱却しましたが、消費税収入は6%減となっています。これは、好況期の平成12年度に設備投資が6.6%も増え、仕入税額控除が急増したためです。

つまり、図Cによれば、民間設備投資の対前年度伸び率の推移が逆V字型を示すと、消費税収入の伸び率はV字型を示すことになります。

図Cからも分かるように消費税については景気の自動調整機能(景気の自動調整機能については後述)は全くないことがわかります。消費税は、事業者(納税者)にとっては資金繰りが悪くなる不況期でも納税を強いられるという短所もありますが、国庫収入を確保する見地からは、所得税や法人税のように景気に左右されないという長所もあります。
富の再分配(所得再分配)機能について
所得に対して累進的な負担を求める所得税中心の税制の下では、高所得者ほど所得に対する税の負担額が高いため税負担後の所得をみると、結果として税負担前の所得に比べ高所得者と低所得者の格差が縮小します。これが税制の有する富の再分配機能です。

また、本質的な富の再分配は社会保障等の政策による給付によって実現されます。憲法第25条の生存権の保障を実現するために生活保護法等の社会福祉立法が設けられており、その原資として租税収入が使われていますので、給付による富の再分配についても税が大きな役割を果たしています。

日本の所得再分配の程度を計測している統計として、厚生労働省が実施している所得再分配調査があります。所得再分配調査ではジニ係数(所得などの分布の均等度を表す指標)を使って所得再分配の程度を計測しています。ジニ係数は0に近いほど所得格差が小さく、1に近いほど所得格差が大きくなります。

所得再分配調査をみると昭和56年の当初所得のジニ係数は0.3491、再分配所得(税引き後、社会保障給付後)は0.3143となっており、10%所得の不平等が改善されています。改善の内訳は税による再分配が5.4%、社会保障による改善が5.0%となっています。平成14年の調査では当初所得のジニ係数は0.4983、再分配所得は0.3812となっており、23.5%所得の不平等が改善されています。改善の内訳は税による再分配が0.8%、社会保障による改善が21.4%となっています。

昭和56年と平成14年を比べると、当初所得のジニ係数は0.3143から0.4983と不平等度が増加しています。その原因としては市場経済におけるリストラの進行、パートタイマーなどの増加による賃金雇用条件の格差や無職・無年金・低所得の高齢者の急増などが考えられます。ジニ係数の社会保障給付による改善は5.0%から21.4%へと大幅に増加していますが、税による改善は5.4%から0.8%と推移しています。これは所得税・住民税の課税の累進度が著しく低下し、高所得者への課税が軽減されたことが原因と考えられます。

消費税は、実質的には消費者がその消費額に対して一律に負担する税です。収入に対する消費税の負担の割合をみると、所得の低い層の方が所得の高い層に比べ収入に占める消費額の割合が高く、消費税の負担も低所得者の方が高所得者よりも収入に対する消費税の負担の割合が多くなります。つまり、消費税は所得に対して逆進的になっています。

所得に対して逆進的である消費税は、徴収の段階における所得再分配機能は果たしません。むしろ所得に対して逆の再分配が生じることとなります。
景気調整機能について
税制が持つ景気調整機能には、自動景気調整機能(ビルト・イン・スタビライザー)があります。この機能は、累進課税制度に特有のものです。

すなわち、景気の後退期には国民所得が減少しますが、累進課税制度のもとでは、所得の減少率よりも税負担の減少率が大きくなります。租税の減少を通じて国民の可処分所得は国民所得の減少より少なくてすみ、景気の浮揚に役立ちます。

これとは逆に景気の過熱期には国民所得は増加しますが、累進課税制度のもとでは税収の増加率は国民所得の増加率を上まわります。これによって国民の可処分所得は国民所得よりも減少しますから景気の過熱を防ぐことができるといえます。

近年のように消費税が税収面からみて基幹税となってくると、租税の自動調整機能に大きく期待するわけにはいかなくなります。
保護関税機能について
国内産品と輸入産品の価格を比較し、輸入品の方が安価であれば、国民の需要は輸入品に移り、国内産業は打撃を受けます。しかし、輸入品に関税を課して国内産品の価格よりも輸入品を高くすれば、従来輸入品に向いていた需要は国内産品に移り、国内産業は発展します。
保護関税はこのような国内産業の保護、発展のために課されています。
次ページへ
▲上に戻る