個々の実情に沿った対処こそ基本
一口に滞納といっても、色々あります。何故滞納になったのか、という「滞納原因」一つ取ってみても、たとえば、一生懸命に事業に精を出していても、業績が上がらず資金難に陥るといった場合、また、分かりやすくするため極端な例を引きますが、申告時の納税資金をギャンブルや遊興で使ってしまった場合もあります。滞納整理を行う際、徴収行政としては、前者の場合には納税者の立場に立って緩和措置を適用する方向で対処する、後者の場合は少々厳しく対処するということになります。
また、滞納している納税者の現状・現況がどうかということも滞納整理の方向を左右します。たとえば、資金繰りも厳しい、預金や財産もなく、融資も受けられず納付困難といった例、逆に預金や財産が十分あるが他の投資に回したいので納税は後回し、といった例。前者には事情をよく聞いて納税の緩和措置を適用する方向で対処する、後者は差押処分・換価処分という強制徴収の方向で対処するということになります。
このように、滞納整理行政というのは先ず、なぜ滞納しているのか、滞納者の事業や生活の現況・収支状況はどうなのか、財産状況はどうなのか、滞納についての誠意があるのかどうか、ということを滞納納税者一人ひとりとよく話し合い、事情を聞き、場合によっては調べ(質問検査権・捜索)た上で、一人ひとりの実情に添った形で処理方向を決めていく、これが徴収行政の本来のあり方です。にもかかわらず、滞納整理の「入り口」段階で、何ら事情も聴かず一方的・問答無用なやり方は明らかに間違いといえます。 |
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当局も緩和措置の重要性を認識
滞納整理は主として、国税徴収法や国税通則法を適用しますが、これらの法律はもちろん強権部分もありますが、事情のある者については、納税の緩和措置を適用するように設計されています(徴151・換価の猶予、徴153・滞納処分の停止、通46・納税の猶予など)。実際、捜索・差押・公売といった強権力で対処しなければならない対象はごく一部で、大部分は納税の緩和措置を適用することによって問題の解決がはかれています。
このことは徴税当局も十分承知しています。たとえば、平成18年8月開催の徴収統括官・特官会議(東京局)の資料では、平成18事務年度の「徴収事務運営」の中で「滞納処分の適法性・妥当性の確保」を言いつつ、「納税に対する誠意が認められない場合(財産やお金があっても納税に応じないといった場合:角谷注)には、財産差押など強徴処分を行い、また、納付困難な事情があると認められる場合には、納税の緩和措置として分納を認めるというように、個々の事案に即応した厳正・的確な滞納整理を行う」としています。また、職員向けに税務行政の基本姿勢を定めた「税務運営方針」の滞納整理の項には、「不十分な調査による安易な処分が行われることがないよう配慮する」と述べています。 |
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実情踏まえた処理を求める
だから冒頭の例(前号)のような、いきなり差押とか、捜索とか、資金繰りの事情も聞かないで、いきなり「3ヶ月以内に完納しろ」「短期納付以外は認められない」とか、まして分納中に差押などはとんでもないことで、税務当局自らの運営方針にも反するものです。担当官からこのような乱暴なことを言われたら、「税務当局自身、よく事情を聞いて個々の事案に即した処理をしなさい、といっているではないか」「まず、私の滞納事情を聴取したうえで、キチンと対処してください」と主張することが大切です。これは滞納問題の具体的対処法を考える以前の「入り口」の対処法。問答無用のやり方が氾濫する中、これらのことをしっかり踏まえて、税務当局・徴収担当者と対峙することがたいへん重要といえます。 |
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滞納への具体的対処法
具体的な対処法に話を進めます。申告した税金を納めないでおくと、およそ一ヶ月以内に「督促状」が届きます。法律ではこの督促状が発布された時点で「滞納」ということになります。そして、「督促状を発布した日から起算して10日を経過した日までに完納しないとき、差押しなければならない」とされています。しかし、実際はこの法律どおりにすぐに差押ということは、先ずありませんが、放置しておくと「差押予告書」「差押手続き予告書」といった書類が届きます。
これらの書類は本来、納税者との接触を図り事情を聞くことを目的に送付されますが、何の応答もない場合、「納税の誠意無し」と判断する材料に使われます。文書に気付かなかったり、気付いても放置すると、いきなり差押ということになりかねないので注意を要します。とにかく滞納になったら、早めに税務署や区役所等(徴収担当)へ相談に行くことが大切といえます。
そうしたことを前提に滞納問題への対処法を述べます。滞納問題への対応は、その内容によって臨機応変になるので一概に定式化できませんが、一般論として |
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事前に税理士等と十分相談する。
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税務署等へ行く場合は、税理士等と同行する。(委任状を持参した方がよい)
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なぜ滞納に至ったのか(納付困難の理由)、生活や事業の現況、収支状況、納付計画(毎月の分納額)を報告できるようにしておく。(少額滞納・短期完納の場合は大まかに、大口滞納・長期分納の場合はなるべく詳細に)
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税務署では、聞かれなかったことまで言う必要はないが、事実を知ってもらった方が良いと思われることは、伝える。
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不可能と思われる無理な分納計画には、決して妥協しない。しかし、決めた分納計画は誠実に実行する。
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納税の誠意があること強調し、延滞税の一部免除が伴う換価の猶予(徴151)扱いを求める。
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換価の猶予に絡めて担保提供を促されること が多いが、なるべく提供を避けたい。適当な財産がない場合、滞納額が50万円以下の場合は不要なので、知っておくこと。
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災害・病気・盗難・貸し倒れ等で納付困難になった場合は、納税の猶予(通46)の申請をする。
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調査で数年分の修正申告の提出をさせられる 場合、納税の猶予(通46二・賦課遅延に基づく納税の猶予)を申請するときは、修正申告の提出と同時に申請する。
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などに留意する必要があります。 |