論文

> 税理士の債務不履行責任
徴収行政の現状と方向及び滞納処分に関する基礎知識(下)
神奈川会角谷啓一

(目  次)
一  はじめに  事例に見る滞納問題の重要性
「大滞納時代」はすぐそこ(滞納をめぐる情勢と徴収行政の現状・方向)
滞納整理の基本原則(徴収の理念・考え方)
担当官と話し合う主なテーマ(以上前号掲載
これで十分  滞納問題予備知識
(1)納税の猶予
(2)換価の猶予
(3)事実上の猶予
(4)延滞税の免除
(5)質問検査権・捜索
(6)差押関係
(7)滞納処分の停止
(8)不服の申立て
滞納が発生したときの対処法
不当な処分がなされた時、されそうになった時

凡例
通...国税通則法
徴...国税徴収法
例:徴151ニ…国税徴収法151条1項2号

五  これで十分  滞納問題予備知識

(1) 納税の猶予(地方税法:徴収の猶予)
通46一〜五
納税の猶予とは
「納税の猶予」というと、一般的に「納税を猶予する」とか「分納を認める」とかいう意味にとられますが、そういうことではなく、災害、盗難、病気、1年以上の課税の遅れ等が原因で納付が困難になった場合に、納付困難と認められる金額を限度として、申請に基づいて分納を認めるという納税の緩和制度のことをいいます。従って、原則として「納付の困難性が災害等に起因していること」が必要になります。

※賦課遅延(通46三)に基づく納税の猶予の申請は納期限内が条件になります。

猶予該当事由と延滞税免除との関係
通46一、二(災害、病気等が原因)に該当する場合は延滞税が全額免除(猶予期間)となるので有利です。不渡手形を受けるなど不良債権発生の場合も、通46(一、二類似)として延滞税が全額免除対象(通基通46−12(1))となります。それ以外は、実務上メリットとしては、換価の猶予(徴151)とあまり変るところがありません。

猶予該当金額(納付困難な金額が限度となる)
実損金額−現在納付可能資金=猶予該当金額
不良債権発生の場合
{1年以内に発生した不良債権−(全体の売掛債権×5%)}−現在納付可能資金= 猶予該当金額

猶予期間通46
とりあえず1年以内で申請します(1年以内の延長可、最長2年間)。

分納額通46
実行可能で妥当な毎月の分納額を決めて納税の猶予を申請します。毎月の分納額は、収支状況等(資金繰り)をもとに算定します(申請にかかる分納額について、問題がある場合は税務署が見込納付資力調査を行い是正を求める場合もありますが、その場合も協議により決めることになります)。

担保の提供通46
規定では猶予の対象額が50万円超の場合に担保が必要とされていますが、実務ではおおむね百万円以上でしょう。担保となるものが無い場合、やむなしとされています。

申請書の提出通46
通令15に基づく「納税の猶予申請書」の提出が条件となっています。

納税の猶予の効果通48など
 (1)新たな滞納処分の禁止
 (2)申請があれば差押解除ができる
 (3)時効の中断(申請時)
 (4)時効の停止(猶予期間)
 (5)延滞税の免除(全額又は2分1)
(2) 換価の猶予徴151
換価の猶予の要件
換価の猶予とは差押をされている財産の公売(換価)処分を猶予することですが、実務では、いま差押されていなくても、差押をうけたとした場合も含めて広く適用されています。換価の猶予の要件は次のとおりです。
・滞納になっていることが前提
・納税について誠実な意思があること
・財産を直ちに換価することによって事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれ(1項1号)
・財産を直ちに換価するより、換価を猶予したほうが徴収上有利(1項2号)
※例示:全財産を換価しても滞納額に不足するような場合

猶予該当金額(納付困難な金額が限度となる)
滞納税額−現在納付可能資金=猶予該当金額

(猶予期間、分納額、担保の提供)納税の猶予と同じ

申請書の提出は不要 換価の猶予は職権による法律行為

換価の猶予の効果徴151など
(1)換価(公売)処分の制限
(2)差押の禁止はないが、差押の猶予又は解除(事業の継続、生活維持困難のおそれの場合)
(3)時効の停止
(4)延滞税の免除(2分の1)
(3) 事実上の猶予
納税の猶予や換価の猶予に該当するのに、処理手続きが面倒(延滞税の免除が伴うなど)なため、実務では「事実上の猶予」(納付契約書)として済ませる例が多い。しかし、これでは延滞税の免除など、猶予の効果としてのメリットがえられないので、担当官に対して「換価の猶予にしてください」と主張することが大事です。また、納税の猶予の方が得策と判断した場合は、納税の猶予の申請書を提出します。
(4) 延滞税の免除について通63
納税の猶予に伴う免除(通63
通46
全額免除(災害・納期末到来分)
通46一、二
全額免除(災害・病気)
通46五(一、二号類似)
全額免除(不良債権の発生等)
通46三、四
2分の1免除(事業の休・廃止等)
通46五(三、四号類似)
2の1免除
※2分の1免除とは14.6%の半分7.3%のことですが、現在は措94によって、免除率が10.2%。従って4.4%(平19年12月31日まで)を納付すればよいことになるので免除の効果は大きい(以下同じ)。

換価の猶予に伴う免除(通63
2分の1免除(徴151)

充足差押又は充足担保に伴う免除(通63)2分の1免除

それぞれの免除の期間
納税の猶予・換価の猶予に伴う免除の場  合は、その猶予期間(最長2年間)が免除  の対象となります。充足差押・充足担保に  伴う免除の場合は、その充足している期間  が免除の対象となります。
(5) 質問検査権・捜索
税務署や市役所などには滞納処分のための財産調査の必要上、質問検査権及び捜索の権限が与えられています。実務では、納税者等が知らないのをよいことに、無制限に行われる傾向がありますが、国税徴収法は、かなり厳格に規定しています。その点を踏まえて滞納納税者の権利を主張することが大事です。

質問検査権(徴141)
質問検査権は、あくまでも「必要と認められる範囲内」であって、例えば、銀行や取引先を調査(文書照会も含む)する場合は、調査をするに足りる「相当な理由」がなければなりません。したがって、無差別な文書照会等が行われた場合は、違法行為なので、抗議し是正させることが必要です。

捜索の権限(徴142)
捜索は、徴収職員が裁判所の令状なしで行うことが出来る強力な権限ですが、それだけに、かなり厳格に規定されており、無制限に行うことを戒めています。とくに「第三者の物又は住居等」を捜索する場合は、滞納者の物を第三者が引き渡さないとき、第三者が親族等の場合は、「滞納者の物を所持していると思われる相当な理由があり、かつ、その引渡しをしないとき」に限定しています。したがって、第三者の捜索に当たっては、物の引渡しを求める行為をしないまま、いきなり捜索はできないことに着目する必要があります。
(6) 差押関係
滞納処分の差押といっても、なんでも無条件にできるものではありません。いろいろな制限・制約があるということを念頭に置いて、状況に応じて差押をさせない、あるいは差押の解除を求めるなどの対応が必要となります。

差押の要件(徴47)
差押は、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときにできる、とされています。
例外として繰り上げ請求(通38)、繰上げ差押(徴47)に該当する場合はそれ以前に差押が可能となります。

差押に関する滞納納税者の保護規定
(ア)超過差押、無益な差押の禁止(徴48) 徴収に必要な財産以外の差押の禁止、また租税に優先する抵当権等で担保される私債権等が多額で、当該物件を換価しても租税への配当が明らかに見込めない財産の差押は禁じています。

※滞納納税者を困らせて納税に仕向ける、差押解除の際に「ハンコ代」を稼ぐという姑息な考え方から、実務ではこの規定を無視し、差押える場合が多いので要注意。

(イ)差押財産の選択(徴基通47−17) 差押財産の選択にあたっては、徴収職員の裁量とされていますが、生計や事業に与える影響が少ないことを考慮する、などが定められています。

(ウ)差押禁止財産(徴75) 家具、調度品、食料、燃料、実印、仏壇など。

(エ)一定部分の給与差押禁止額(徴76) 住民税+源泉所得税+最低生活費+体面維持費

(オ)猶予に伴う差押解除(通48、徴151 納税の猶予の効果、換価の猶予の効果で説明済

(カ)差押財産の使用収益原則としてできます。
財産の場合 徴61
不動産の場合 徴69
船舶の場合 徴70
(7) 滞納処分の停止(徴153)
次のようなケースに該当する場合は、滞納処分の停止になります(いずれも第一次納税義務該当がないことが前提)。

生活が困窮で財産無く、当分状況の好転が見込めない(個人、徴153一)
※およそ70歳以上等の場合は、徴153により停止兼即納税義務の消滅が可

倒産等で休業(状態)に陥り、再建見込みなく財産もない(個人、法人共通、徴153一)
※およそ70歳以上の個人及び法人の場合は、徴153により停止兼即納税義務の消滅が可

倒産、休業に至らないまでも、細々経営が続いており業績の好転が見込めないため、納付資金のねん出が困難、かつ、めぼしい財産もない(個人、法人共通、徴153一)

※この判断が一番難しい。細々経営であっても、事業活動を行っている限り、たとえ少額であっても消費・源泉といった税金が発生する。これが新規発生の滞納となり、既滞納分にプラスされる。実務では、このように新規の滞納が次々発生する場合は、処分停止に踏み切れない(実は、このようなケースがいちばん多く、行政としても頭の痛いところ)。

そこで、3〜4年新規滞納を発生させない実績をつくると同時に、既滞納分についても多少なりとも減少させる、今後とも新規滞納を発生させないことが確実視される、財産もない、資力も乏しい、という条件が整った場合に限り、既滞納分について処分停止することが可能となります。

納税者が死亡、めぼしい相続財産もない。相続人も生活維持に精一杯で納税の余力および固有の財産もない(徴153一)

※本人死亡の場合は、相続人にたいして納税義務を承継(通5)するのが原則であるが、承継しても明らかに徴収見込みがない場合は、承継させても意味がないので、そのまま処分停止(兼納税義務消滅)を行うことが多い。
(8) 不服の申立て(通75、77など)
異議申立て税務署が行った差押等の処分を知った日の翌日から起して2ヶ月以内に申立て(書面で原処分庁へ)。

異議決定書異議申立ての日の翌日から起算して原則として3ヶ月以内に送達しなければなりません。

審査請求
・異議決定書の送達があった日の翌日から起算して1ヶ月以内に(書面で国税不服審判所へ)。
・異議申立ての日の翌日から起算して3ヶ月を経過しても異議決定がなされない場合(書面で国税不服審判所へ)。

六  滞納が発生したときの対処法

個々の実情に沿った対処こそ基本
一口に滞納といっても、色々あります。何故滞納になったのか、という「滞納原因」一つ取ってみても、たとえば、一生懸命に事業に精を出していても、業績が上がらず資金難に陥るといった場合、また、分かりやすくするため極端な例を引きますが、申告時の納税資金をギャンブルや遊興で使ってしまった場合もあります。滞納整理を行う際、徴収行政としては、前者の場合には納税者の立場に立って緩和措置を適用する方向で対処する、後者の場合は少々厳しく対処するということになります。

また、滞納している納税者の現状・現況がどうかということも滞納整理の方向を左右します。たとえば、資金繰りも厳しい、預金や財産もなく、融資も受けられず納付困難といった例、逆に預金や財産が十分あるが他の投資に回したいので納税は後回し、といった例。前者には事情をよく聞いて納税の緩和措置を適用する方向で対処する、後者は差押処分・換価処分という強制徴収の方向で対処するということになります。

このように、滞納整理行政というのは先ず、なぜ滞納しているのか、滞納者の事業や生活の現況・収支状況はどうなのか、財産状況はどうなのか、滞納についての誠意があるのかどうか、ということを滞納納税者一人ひとりとよく話し合い、事情を聞き、場合によっては調べ(質問検査権・捜索)た上で、一人ひとりの実情に添った形で処理方向を決めていく、これが徴収行政の本来のあり方です。にもかかわらず、滞納整理の「入り口」段階で、何ら事情も聴かず一方的・問答無用なやり方は明らかに間違いといえます。
当局も緩和措置の重要性を認識
滞納整理は主として、国税徴収法や国税通則法を適用しますが、これらの法律はもちろん強権部分もありますが、事情のある者については、納税の緩和措置を適用するように設計されています(徴151・換価の猶予、徴153・滞納処分の停止、通46・納税の猶予など)。実際、捜索・差押・公売といった強権力で対処しなければならない対象はごく一部で、大部分は納税の緩和措置を適用することによって問題の解決がはかれています。

このことは徴税当局も十分承知しています。たとえば、平成18年8月開催の徴収統括官・特官会議(東京局)の資料では、平成18事務年度の「徴収事務運営」の中で「滞納処分の適法性・妥当性の確保」を言いつつ、「納税に対する誠意が認められない場合(財産やお金があっても納税に応じないといった場合:角谷注)には、財産差押など強徴処分を行い、また、納付困難な事情があると認められる場合には、納税の緩和措置として分納を認めるというように、個々の事案に即応した厳正・的確な滞納整理を行う」としています。また、職員向けに税務行政の基本姿勢を定めた「税務運営方針」の滞納整理の項には、「不十分な調査による安易な処分が行われることがないよう配慮する」と述べています。
実情踏まえた処理を求める
だから冒頭の例(前号)のような、いきなり差押とか、捜索とか、資金繰りの事情も聞かないで、いきなり「3ヶ月以内に完納しろ」「短期納付以外は認められない」とか、まして分納中に差押などはとんでもないことで、税務当局自らの運営方針にも反するものです。担当官からこのような乱暴なことを言われたら、「税務当局自身、よく事情を聞いて個々の事案に即した処理をしなさい、といっているではないか」「まず、私の滞納事情を聴取したうえで、キチンと対処してください」と主張することが大切です。これは滞納問題の具体的対処法を考える以前の「入り口」の対処法。問答無用のやり方が氾濫する中、これらのことをしっかり踏まえて、税務当局・徴収担当者と対峙することがたいへん重要といえます。
滞納への具体的対処法
具体的な対処法に話を進めます。申告した税金を納めないでおくと、およそ一ヶ月以内に「督促状」が届きます。法律ではこの督促状が発布された時点で「滞納」ということになります。そして、「督促状を発布した日から起算して10日を経過した日までに完納しないとき、差押しなければならない」とされています。しかし、実際はこの法律どおりにすぐに差押ということは、先ずありませんが、放置しておくと「差押予告書」「差押手続き予告書」といった書類が届きます。

これらの書類は本来、納税者との接触を図り事情を聞くことを目的に送付されますが、何の応答もない場合、「納税の誠意無し」と判断する材料に使われます。文書に気付かなかったり、気付いても放置すると、いきなり差押ということになりかねないので注意を要します。とにかく滞納になったら、早めに税務署や区役所等(徴収担当)へ相談に行くことが大切といえます。

そうしたことを前提に滞納問題への対処法を述べます。滞納問題への対応は、その内容によって臨機応変になるので一概に定式化できませんが、一般論として

事前に税理士等と十分相談する。
税務署等へ行く場合は、税理士等と同行する。(委任状を持参した方がよい)
なぜ滞納に至ったのか(納付困難の理由)、生活や事業の現況、収支状況、納付計画(毎月の分納額)を報告できるようにしておく。(少額滞納・短期完納の場合は大まかに、大口滞納・長期分納の場合はなるべく詳細に)
税務署では、聞かれなかったことまで言う必要はないが、事実を知ってもらった方が良いと思われることは、伝える。
不可能と思われる無理な分納計画には、決して妥協しない。しかし、決めた分納計画は誠実に実行する。
納税の誠意があること強調し、延滞税の一部免除が伴う換価の猶予(徴151)扱いを求める。
換価の猶予に絡めて担保提供を促されること が多いが、なるべく提供を避けたい。適当な財産がない場合、滞納額が50万円以下の場合は不要なので、知っておくこと。
災害・病気・盗難・貸し倒れ等で納付困難になった場合は、納税の猶予(通46)の申請をする。
調査で数年分の修正申告の提出をさせられる 場合、納税の猶予(通46二・賦課遅延に基づく納税の猶予)を申請するときは、修正申告の提出と同時に申請する。
などに留意する必要があります。
税務署等が「差し押さえる」といってきた場合
税務署等が急いで「差し押さえる」という場合は、倒産とか破産の申し立てがあった場合、滞納額が何千万、何億円という大口の場合、お金や財産が十分あるのに納税に応じない場合、再三の納付催告や来署(所)依頼などに応じない場合  などです。

こうした状況下での差押処分は、滞納整理を進める行政として妥当な行為といえるでしょう。この中で、気をつける必要があるのは、の場合。滞納を放置するということは、今日の社会常識からいって良いことではありません。前に述べたように、滞納になったら誠意をもって相談に行く、催告書や差押予告書が届いたら放置しない、税務署等からの文書を軽く(甘く)見ないで、その都度目を通す、これらの心がけが大事になります。
差押をされてしまったとき
一度差押されると、なかなか解除は難しいものがあるので、前記の心構えで差押をさせないようにすることが先ず肝心です。

それでも差押されてしまったらどうするか。一口で言うとその差押に妥当性があるかどうかを確認すること。まず、差し押さえられた財産が本人の所有物かどうかのチェックが必要です。その上で、以下の点について検討します。

国税徴収法では、「徴収に必要な財産以外の差押」を禁止しています(徴48)。たとえば、滞納額10万円の滞納処分で、1,000万円もする土地を差し押さえた場合は、「超過差押」ということで原則として違法です。

その逆の、金銭的価値のない物件の差押も「無益な差押」(48条)ということで違法です。たとえば、評価額1,000万円の土地上に、1,500万円の抵当権が設定されており、その抵当権が滞納税金に優先していると仮定すると、その土地は税務署にとってなんの価値もありません。それでも嫌がらせのために税務署がその土地を差し押さえた場合、それは違法な差押になります。

また、通達には、「差押財産の選択に当たっては、徴収職員の裁量とされているが、生計や事業に与える影響が少ないことを考慮する」(徴基通47−17)と定められているので、その点からのチェックも必要です。

以上のような違法な、あるいは基本通達に反するような差押は、キチンと交渉し差押を解除させる必要があります。解除に応じない場合は当然異議申し立て(処分を知った日から2ヶ月以内に)も検討する必要があります。

差押を受けた後、納税の猶予又は換価の猶予の扱いを受けた場合は、一定の条件のもとに「差押が解除できる」とされているので、速やかに分納の相談を行い、納税の猶予など緩和措置を受ける方向も追求すべきです。

七  不当な処分がされた時、されそうになった時

公務員に成果主議が持ち込まれつつある今日、功をあせった徴収職員が不当な処分を仕掛けてくることがままあります。こうした時、当局に抗議をしたり、担当官を追及・説得することも大事です。その材料となる「武器」を紹介します。
(1) 我妻栄氏の発言
※我妻栄氏は現行の国税徴収法制定(昭和35年)に当たっての租税徴収制度調査会の責任者

「(国税徴収法は)強制力の行使の程度(強弱)等において、徴税当局の認定と裁量の幅が相当に広い。これは法治国家として異例に属するが、調査会がこれを了承したのは、最悪の場合は是認せざるをえないと考えたからだ。従って、制度の運用に当たって当局は、慎重を期することが当然の前提として諒解されている」(『国税徴収法精解』の発行にあたって寄せられた序文の要旨。昭和35年1月)
(2) 政務運営方針(昭和51.4.1)の「滞納整理関係」から

「租税の徴収に当たっては、第三者の権利の尊重に留意するとともに、法律に定められた諸制度の運用については、いやしくも拡張解釈による不当な処分や不十分な調査による安易な処分が行われることがないよう配慮する」。
(3) 佐々木憲昭議員の追及による政府・当局の回答(17.3.15衆院金融委)

※静岡県東部X署で起きた自殺事件に関連して

(遺族に対し)誠実に対応したい(徳井国税庁徴収部長)。
(消費税の)新たな課税事業者で国税が滞納 になった場合には、滞納者個々の事業に即しながら、適切な処理を図っていく。滞納者から分割の申し入れがあった場合も十分相談し、滞納者の実情に即した対応をとる(谷垣財務大臣)。
※「滞納者の実情に即した対応」=消費税滞納に限らず、滞納整理行政全体についての当局の基本スタンス
(納税者に親切な態度で接し不便をかけないように務め、納税者の苦情や不満は積極的に 解決する、などを記載した)税務運営方針(昭和51年)は、税務行政を遂行する上での原則論。今後とも税務運営方針の趣旨に即して税務行政をすすめていく(徳井国税庁徴収部長)。

(かどや・けいいち)

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