論文

特集滞納問題 > 特別寄稿「靖国問題を考える」
滞納事例、その対応と教訓
東京会風間  

Iはじめに

国、地方自治体を通じ税務当局にとっては滞納整理が緊急課題となり、大衆大増税とともに予想される大量発生の滞納と累積滞納の圧縮を最重点にしています。

言うまでもなく、消費税の課税最低限の引き下げ、所得税の配偶者特別控除の一部廃止、老年者控除の廃止、年金控除の引き下げなどの増税で負担能力をはるかに超え、納税に耐えられない滞納者が激増するのは避けられません。

これに対応するのに、従来の職員配置では増大する滞納者に個別対応することができないため、税務当局は現在、国税局にコールセンターを置き、国税局全体の一定額以下の新規発生滞納に対して一律に催告する一方、未納者や催告に応じない者に対しては差押えなど、滞納処分を基本に滞納整理を進めることを方針にしています。その結果として、指導的な滞納整理は退けられ、納税者の財産権、営業権を侵す売掛金等債権差押をほのめかした納付の強要が罷り通っているのが現状です。

この傾向は国、地方自治体を問わず強められ、生活と財産権侵害に類する滞納整理に対して無防備な納税者のみならず、税理士の顧問先にも及んでいます。

昨年、埼玉税経新人会のアンケートでも会員の顧問先に「滞納あり」としたのは90.5%、内半数は「差押え」されており、「納税緩和措置」の利用は26.5%に留まっている現状です。そこで先ず、滞納発生時にいかに対応し、差押えられる前に何をすべきか、その後の税務折衝について、いくつかの事例を教訓に述べてみたいと思います。
1滞納が発生したら先ずやるべきこと
(1) 督促状を受けた後、速やかに、先ず担当者に会い、滞納の事情を説明して納税計画について折衝することです。滞納額が多額又は累積して一定額を超え、納税が長期にわたる場合には、税務署から国税局所掌に移すための保全措置として差押等が行なわれることがありますので注意が肝要です。又、担当者のほうも、増大する滞納の個別管理に限界があり、個別事情の把握ができず、加えて実績優先の事務運営の影響で一律、機械的な処分をする傾向があります。
(2) 分納を認めさせる。
税務当局は「安易な納税緩和措置をするな」と担当者に指示し、法的な猶予措置(納税の猶予・換価の猶予など)よりも、滞納処分を優先し即納させることに重点をおいています。加えて、現場は統括官を含めては猶予措置についての精通者が少なく、未経験者が多数を占めている現状から、猶予措置については消極的になっています。

納税者側から納税の猶予、又は換価の猶予の手続きをアプローチし、強徴処分を防ぎ期間中の延滞税を免除させ、さらには滞納処分の停止を求めるなど、納税緩和措置の積極的な活用を働きかける必要があります。
2差押えされたらどうするか
直ちに差押えを解除させるため担当者と接触し、早めに解除を求めます。解除理由としては、無益な差押えの禁止(徴48(2))、超過差押の禁止(徴48-2)、差押禁止財産(徴75〜78)、差押国税の消滅又は超過(徴79-1)、他の差押財産提供による差押替(徴79-2)、第三者の権利の目的になっている差押替の請求(徴50-2、-4)、相続のあった場合の差押替の請求(徴51-3)などがありますが、差押財産が事業継続や生活維持に不可欠であること等を理由に2ヶ月以内に異議申立をするか、換価の猶予をさせた上で、差押を解除(通48(2)、徴151-2)させることです。

その際には、差押に替えて別の担保を提供するか、手形提供(通55-4)をもって担保とすることができます。

又、生活困窮による滞納処分の停止を求め(徴153-1-1)、差押えの解除を求め、又は当面支障なければ差押財産を担保として猶予を求める場合もあります。
3納付見込みの立たない場合
滞納処分の停止を求める(徴153)・・・個人の場合には生活困窮、無財産、法人の場合は休業、事業再開の見込みなく無財産等・・・の理由。

捜索(徴142)については、従来、倒産、不渡事故など租税債権の確保にとって緊急を要する場合、あるいは資力が充分あるのに再三の説得に応じない「悪質」な滞納事案、又は「滞納処分の停止」事案を処理するための財産調査の捜索は行なわれてきましたが、最近は財産権、営業権、又は生活権を脅かす専ら「債権回収」を目的とする強徴処分のための「捜索」が行なわれているのでご注意ください。

II猶予事例の場合

【事例1】
分納金額の過少を理由に、売掛金差押をほのめかした保険金解約の強要に抗議して、換価の猶予を認めさせる


平成16年4月、(有)N社の社長一行がI土建支部の紹介で来所した。話を聞けば、L税務署W特別徴収官付のK上席より「500万円の滞納に分納金額(月5万円)では金額が少なすぎるので、増額か社長の生命保険を解約してでも即納しなければ、直ちに差押えを行なう」と言われた。仔細を聞いて納税折衝を引き受けることにしたが、行きがかり上、顧問税理士Tに相談するということで別れた。その後NはT税理士と一緒に税務署に行ったものの、T税理士は高圧的なK徴収官の言いなりになり、逆に生命保険を全部解約して即納を迫ってきたということで、頼りにならないと見切りをつけ再びD事務所を訪れた。

改めて仔細を聞き、 直ちにL税務署のK徴収官の指定日の前日、Nと一緒に当方が赴く旨、K徴収官に伝えたところ、K徴収官は「当日都合が悪い」と面談を避け「保険契約を解約し、即納しなければ会っても意味がない」と述べたために、直接Kの上司であるW特別国税徴収官と面談すると通告した。

当日W特別徴収官に会い、部下のK徴収官が誠実な納税者に無理やり保険の解約を迫り、売掛金の差押の脅しで分納の積増しを強要していることについて厳重に抗議するとともに、納税の指導に当たっては納税者の個別事情を充分に斟酌し、納付能力の範囲で換価の猶予による分納を認めるよう要求、あわせて善良な納税者に対するK徴収官の高圧的言動に抗議し反省を促した。

その後、W特別徴収官との直接折衝で一部納付(100万円)の上、長期分納の納税計画を「見込み納付能力調査」に準じて作成呈示し、証券委託(先付小切手)の提供をもって担保提供に代え、換価の猶予を認めさせた。

【コメント】
最近、前担当者と協議して決めた分納の約束を履行していても、後任の担当者になり、期間が長過ぎるという理由で「回収」を早めるため、納税緩和措置を指導せず、売掛金差押の脅しで即納を迫る傾向が強まっています。このケースでも、黙っていたらK徴収官に売掛先を調査され、N社の営業に重大な損害を与える売掛金差押が行なわれ、信用失墜から経営危機に陥る処でした。何よりも毅然として対応することが大事です。
【事例2】
二署にまたがる滞納について納税の猶予、決議させ、猶予と差押と該当期間中の延滞税について免除を認めさせた事例


M書房はY税務署より原稿料等の源泉未納について5,353千円に及ぶ納税告知があり、納期限内の10月25日(納期限10月26日) にN社長と共にY税務署に行き、納税猶予の申請(通46-3、賦課遅延による)を行ない、平成13年11月12日付で納税猶予許可通知を受けた。ところがM書房は平成12年本店をT区内に移しており、法人税、源泉税、消費税含めた460万円余の滞納があったことから、平成14年2月12日に不動産の差押えを受けた。

事前に徴収担当者は納付を促し差押予告も発したとのことだったが、Nにはその認識がなく突然の差押と感じていた。早速、U税務署に赴き、将来の借入担保確保を理由として差押の解除を求めたが、直ちには解除できないため、止むなく先付小切手により分納を履行し差押を解除させた。その後Y署にも赴き、不履行だった残額も分割で完納し、Y・U両税務署に延滞税の期間中の軽減免除を認めさせた。

Y署の担当者は「納税の猶予」手続きや延滞税免除の条件についての知識に乏しく、当方が納付能力調査、担保提供手続き、延滞税免除手続きなどを教えて猶予処理を促した。

【コメント】
源泉所得税の納税地は給与等の支払地(所法7、18)のため、徴収義務者が支払地であり、住所、又は本店所在地を移転しても源泉税滞納は元署の所管となります。従って移転先税務署に滞納が移される所得税、消費税、法人税と元署の滞納と二重に管理されることとなり、猶予等の手続きもそれぞれの税務署と折衝する必要があります。

なお、差押又は担保が滞納額全額を充足している場合には、その期間中の延滞税の軽減免除をさせることができます(通63-5)。
次ページへ
▲上に戻る