【事例4】
相続人死亡に伴う納税義務の承継国税とその連帯納付義務に基づく滞納国税について滞納処分の停止即納税義務の消滅を決議させた事例
平成6年1月29日に被相続人KMが逝去、相続人は妻KH、長女KA、次女UM、三女SM、長男KSであった。妻KHを除く各相続人は同年10月相続税の延納申請をした。延納分については長女、次女、三女は平成14年10月までの第8回延納分まで納付を完了したが、相続人長男KSの相続税延納分は当初より納付がなく滞納となっていた。
平成15年1月17日に長男KSが急死したため急遽、KSの納税義務の承継と、相続税延納取消滞納分についての連帯納付責任問題が生じた。その結果、KSの相続延納不履行分本税利子税を含めた62,721千円の連帯納付責任額とKSの所得税滞納7,630千円についての納税義務の承継をどうするかが問題となった。長男KSの滞納はH税務署より国税局に徴収引継となったと徴収部特別整理の担当者から通知があり、この問題の解決のためD経理に相続人4名が協議のため来社した。長男KSの妻KKは相続開始時にはすでに離婚して相続権はなく、相続人はKSの長男と連帯納税義務を有するKSの母、長姉、次姉、三姉の5名だった。
平成15年4月、相続人は揃って相続放棄を申し立て、同年7月に受理されたためにKSの所得税は納税義務の承継者不存在として国税徴収法第153条5項による滞納処分の停止即納税義務消滅は確実となった。
問題となったのは被相続人KMの妻KHが相続した資産であるが、KHは老齢で資力はすでに喪失し、子供たちの仕送りに頼っている状況で、資産は唯一長男の嫁KKの借入保証としてH信用に差し入れている3,000万円の定期預金のみであった。しかしKKの借入金返済は滞り、満期にKKの借入金と相殺すれば残余がないことが明白となった。その他の相続人の相続財産についても相続税延納担保となっており、延納履行中であり延納期限を10年残している事情があったので処分を見送り、今後各相続人の延納の履行継続を条件として長男KSの相続税延納分滞納は徴収法第153条第5項の滞納処分の停止即納税義務消滅決議を行なうこととなった。
【コメント】
バブル崩壊以降、相続人の資力喪失で相続税延納取消に係る滞納事案が目だっており、担保物処分に際しても、延納申請時より担保価格が下落しているために滞納額に満たずに、相続人の固有財産まで滞納処分が及ぶ事態も起きています。
この事案の場合も、延納取消に伴う滞納について滞納した相続人死亡のために連帯納付義務を延納履行中の他の相続人が負う羽目となったものですが、類似ケースとして、参考のため北野弘久教授の論文(税経新報489号P53)を徴収担当者に示し、連帯納付義務の賦課には本来疑義があり、誠実な納税者の生活と財産を保障するのは行政上の責任として停止相当と強調したことが最終決断の重要な要因となりました。 |