論文

特集滞納問題 > 特別寄稿「靖国問題を考える」
滞納事例、その対応と教訓
東京会風間  


【事例3】
売掛金差し押さえに請願書で対抗
(2001.11税経新報481号P.36〜42、東京会・大竹千聡会員)


F社は、資金繰り困難で源泉税と消費税の滞納が続き、W署の徴収担当者の指示で平成12年8月29日に50万円の手形8枚を振り出したが、10月10日支払い分の入金遅延について10日ほど延期を申し出たところ、担当者Aは不在で、対応した統括官Bは更に50万円の手形を上乗せするように振り出しを求めた。Fは10日の手形が不渡りになるのを恐れて、やむなく50万円の手形6枚を追加して振り出した。

しかし所詮無理な計画だったので資金繰りがつかず、10月23日O会員に相談があり、F社の社長と共にAに会い、手形明細に今期未確定の消費税の概算額が記載されていることを指摘し検討を求めた。11月21日改めてFとW署に出かけ、得意先2件の倒産があり、その内の一件は連帯保証であることを示し、現在の50万円の分納が精一杯であると述べ納付計画の変更を申し出た。

ところが統括官Bは、滞納は悪質だから手形すべてを返却しても売掛金を差し押さえると言い出した。

そこで大竹会員は、12月8日を回答期限にした請願書と、国税通則法46-2-5該当( 取引先の倒産・・・通則法基本通達12(1)ニ(イ)(ロ)(ト))を事由とする納税猶予の申請書を W署長宛に提出した。申請書を提出して1週間後、F社にW署統括官Bより電話があり「納税の猶予を許可するので納付計画と手形を持参するように」との通知で無事解決した。

【コメント】
この事例の場合、第一に確定前の消費税について手形を振り出させていますが、これは国税通則法第15条後段「・・・国税に関する法律の定める手続きによりその国税について納付すべき税額が確定される」規定を逸脱する違法な行為です。

第二には少なくとも分納している誠実な納税者を「悪質」と認定し売掛金を差し押さえて換価したとすれば、本来滞納者の個別事情を斟酌し事業の継続を保障すべき徴収法151-1-1の主旨に反する違法な処分となります。

第三に既に得意先の倒産の事実を納税者側が疏明しているにも関わらず、その事情を知りながら納税猶予該当事実の教示を怠り強徴処分に移ろうとしたB統括官の言動は、納税者の権利を黙殺するもので「公務員職権乱用」のそしりは免れません。

III滞納処分の停止事例の場合

【事例4】
相続人死亡に伴う納税義務の承継国税とその連帯納付義務に基づく滞納国税について滞納処分の停止即納税義務の消滅を決議させた事例


平成6年1月29日に被相続人KMが逝去、相続人は妻KH、長女KA、次女UM、三女SM、長男KSであった。妻KHを除く各相続人は同年10月相続税の延納申請をした。延納分については長女、次女、三女は平成14年10月までの第8回延納分まで納付を完了したが、相続人長男KSの相続税延納分は当初より納付がなく滞納となっていた。

平成15年1月17日に長男KSが急死したため急遽、KSの納税義務の承継と、相続税延納取消滞納分についての連帯納付責任問題が生じた。その結果、KSの相続延納不履行分本税利子税を含めた62,721千円の連帯納付責任額とKSの所得税滞納7,630千円についての納税義務の承継をどうするかが問題となった。長男KSの滞納はH税務署より国税局に徴収引継となったと徴収部特別整理の担当者から通知があり、この問題の解決のためD経理に相続人4名が協議のため来社した。長男KSの妻KKは相続開始時にはすでに離婚して相続権はなく、相続人はKSの長男と連帯納税義務を有するKSの母、長姉、次姉、三姉の5名だった。

平成15年4月、相続人は揃って相続放棄を申し立て、同年7月に受理されたためにKSの所得税は納税義務の承継者不存在として国税徴収法第153条5項による滞納処分の停止即納税義務消滅は確実となった。

問題となったのは被相続人KMの妻KHが相続した資産であるが、KHは老齢で資力はすでに喪失し、子供たちの仕送りに頼っている状況で、資産は唯一長男の嫁KKの借入保証としてH信用に差し入れている3,000万円の定期預金のみであった。しかしKKの借入金返済は滞り、満期にKKの借入金と相殺すれば残余がないことが明白となった。その他の相続人の相続財産についても相続税延納担保となっており、延納履行中であり延納期限を10年残している事情があったので処分を見送り、今後各相続人の延納の履行継続を条件として長男KSの相続税延納分滞納は徴収法第153条第5項の滞納処分の停止即納税義務消滅決議を行なうこととなった。

【コメント】
バブル崩壊以降、相続人の資力喪失で相続税延納取消に係る滞納事案が目だっており、担保物処分に際しても、延納申請時より担保価格が下落しているために滞納額に満たずに、相続人の固有財産まで滞納処分が及ぶ事態も起きています。

この事案の場合も、延納取消に伴う滞納について滞納した相続人死亡のために連帯納付義務を延納履行中の他の相続人が負う羽目となったものですが、類似ケースとして、参考のため北野弘久教授の論文(税経新報489号P53)を徴収担当者に示し、連帯納付義務の賦課には本来疑義があり、誠実な納税者の生活と財産を保障するのは行政上の責任として停止相当と強調したことが最終決断の重要な要因となりました。
【事例5】
事業閉鎖前の取締役辞任にともなう退職金の受給等について事情説明書で疏明し滞納処分の停止に導いた事例


Z流通(株)は、物資の流通、保管、運輸を業として平成14年4月まで営業してきたが、賃借していた倉庫、駐車場について賃貸人と契約を巡ってトラブルとなり、裁判の結果Z社側は敗訴し、賃貸料債務とその損害金の債務不履行を理由に売掛債権について同年5月1日付で地裁より債権差押及び転付命令がだされた。それに先立つ同年4月8日、得意先からの取引中止の通告と売掛金差押を受け、従業員の退職が相次いだ結果、7月24日をもって事業閉鎖を余儀なくされた。

平成元年に入社しソフト開発事業部として独自に立上げた長男Bは、社長Aと仲違いし、平成14年1月ソフト事業部を廃止し別会社で独立すると申し出て同年2月退職金を受けとり、同年4月ソフト開発の新会社Q社を設立、営業を始めた。平成16年5月、J税務署より呼び出しがあり、Z流通の事業閉鎖の事情、Z流通内のBの経営関与関係、Q社とZ流通との事業関連、退職金受給の経緯について事情聴取が行なわれ、Z流通の滞納整理を促されたが、Bには直接納税義務はなく、Z社は既に事業を閉鎖しており、無財産かつ事業再開の見込みのない旨説明し、徴153条1項1号(無財産)及び徴153条5号による処分停止即納税義務消滅を要請する「事情説明書」を提出し処分停止となった。

【コメント】
この事例では、Z社が事業閉鎖倒産した時期と取締役Bが退社した時期とが接近していたために誤解を生みました。しかし、Z社の倒産はBの退社当時予測できない事故であり、ソフト事業部は社内の独立した部門として経理上も明確にしてきた事情もあり、元よりBには債権者を害する意図などなかったことを認めさせ、事なきを得ましたが、滞納事案では予め充分周辺事情を把握して対応することが何よりも大切です。

IVおわりに

所得税、消費税など大衆増税の強化による納税者の激増に備え、徴収行政も指導から滞納処分を軸とする強徴処分体制に移りつつあります。すなわち、これは納税緩和措置を退け、専ら「債権回収」に力点をおいた処分行政に変わることを意味しています。この傾向は国、地方自治体共通で、相互依存的に、時には対抗的に強められています。徴収法制定当時、政府税調の徴収制度調査会会長だった我妻栄氏が「徴税当局の認定と裁量に任されている幅が相当に広い(中略)近代法治国家の公権力としても異例に属する。(中略)

よく切れる刀を持つものが必要以上に切らない自制することはすこぶる困難である」と戒めた憂慮が現実になりつつある今日、当局を指導行政の原点に立たせ、納税者の生活と経営、権利と財産を擁護する滞納分野での役割は税理士に強く求められていると言っても過言ではありません。

(文責・かざまみつる)

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