論文

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これでいいのか?政府税調答申
〜応能負担を無視し、庶民増税を推進するとは〜
東京会久保田幸夫


政府税制調査会とは、税制についての基本事項を調査、審議するために設置された首相の諮問機関である。委員は学者、経営者、労働組合幹部、地方自治体首長、マスコミ関係者で構成され、中長期的な観点から、税制を検討し毎年度の税制について答申する。しかしこの答申は近年特に国民の期待するものとはかけ離れてしまった。なぜなのかを考えてみたい。

また自民税調(公明党関係者を含む)は具体項目ごとの税率や課税方法などを事実上決定する慣行、実質的な役割分担が続いている、とされているが、今年度は「役員報酬の損金算入の制限措置」というきわめて乱暴な改正を突然にもりこんだ。税法に無用な混乱をきたすことなので、批判せずにはいられないのである。

1、増税答申

政府税制調査会(以下政府税調という)は2005年11月25日「平成18年度の税制に関する答申」をだした。総論としての基本的考え方では次のように述べている。

「今、わが国は、先進国中最悪の危機的財政状況の下、少子、高齢化、グロ−バル化といった大きな構造変化に直面している。この中で、政府は、将来にわたり公正な社会を維持し、持続的な経済社会の活性化を実現するため、広範な分野の構造改革にとりくんでいる。例えば、近年、不良債権処理の促進や大胆な規制改革が進められ、経済の体質強化や民需中心の経済活性化が図られている。税制についても、新たな社会に相応しい姿に再構築するため、「あるべき税制」の具体化に向けた取り組みを進めている。

厳しい財政状況に対する国民の将来不安を払拭し、公的部門を持続可能なものにしていくことが極めて重要な課題である。このため、「三位一体の改革」を実現することに加え、給付と負担のあり方を抜本的に見直す社会保障制度改革、さらに歳出・歳入両面からの財政構造改革を断行していかなければならない(以下途中略)。

今後これらの改革を実行していくにあたり、まずはあらゆる分野で徹底した行財政改革を進め、公的部門の無駄をなくしてほしいというのが国民の声である。税制調査会としても、一般会計・特別会計ともに徹底した歳出削減や予算配分の重点化・合理化を実現し、聖域なき歳出改革が図られることが不可欠であると考えられる。

他方、高齢化の進展に伴い公的サ−ビスの費用が急速に拡大している中、租税を含むわが国の国民負担は、他の先進諸国と比較しても低い水準になっている。歳出改革を断行しつつも、なお必要とされる社会共通の費用については、制度、執行両面の取り組みを通じて、国民全体で広く公平に分かち合う必要がある。今後、所得、消費、資産等の課税ベ−スを通じてどのように負担を求めることが適当かといった検討を含め、税体系全体の抜本的改革を総合的に議論していかなければならない(以下略)。」

政府税調は政府に対して、「三位一体の改革」を促し、徹底した行財政改革を進め、公的部門の無駄をなくし、歳出削減を迫っているが、結局のところ、政府が為している構造改革や規制改革の推進に高い評価を与え、一般国民には「増税」を押し付けようとしている。私にはとても理解できない。構造改革や規制改革で犠牲になっている弱者の中小企業や人間を完全に無視しているからだ。格差社会の増大をそのまま認め、一部の大企業や大金持ちを当然視し、多くの企業や人間を希望のない生活に追い込む。

本来税制は「応能負担の原則」により、社会保障とともに所得の再配分の機能が求められていた。政府税調はそうした税制の本来あるべき機能を審議すべきなのに、いわばその任務を放棄して、“国民全体で広く分かち合う”などという一見聞こえのいい表現で一般国民を納得させようとしているが、国民の不満は深いところで充満しているに違いない。

2、格差社会のもたらすもの

格差が増大していることはさまざまな資料によって、はっきりしているし、国会でも取り上げられるようになった。格差の増大を否定するかのような発言を政府首脳や、一部の政治家がしているのはまことに嘆かわしい。私は特に若い層の働き手がニ−トとよばれたり、アルバイトで当座を凌いでいることに、ほとんど無関心であることを日本の将来に関わることとして座視しがたい。若者たちが未来に対して希望を失い、結婚もしない、もちろんこどもも持たない、では日本のこれからが思いやられる。

先日(06年2月5日付け)朝日新聞の世論調査の結果として、74%が所得の差は拡大している、という結果を報道していたが、同紙は所得再分配の機能低下は歴然だとして、つぎのような記事を掲載した。短い記事なので一部を紹介したい。

「小泉政権の「小さな政府」路線が始まって5年たった。一方で、所得など経済格差が広がり、競争の敗者がそのまま「弱者」として固定化しつつある。また、企業や地域といった共同体も崩れ始め、一人一人が寄り添う場所を失い、孤立し始めている。

そうした人々を支えるセ−フティネット(安全網)を整えるのは政府の役割だ。だが、老後不安を和らげるために支えあうシステムである年金や医療保険制度は十分に機能せず、世代間の相互不信を強めている。

朝日新聞平成18年2月5日付
(表1)

経済格差を緩和する役目を担うのが政府による所得再分配だ。高所得者には高めの税率をかけたり、生活が苦しい人を生活保護などの社会保障で助けたりすることで、稼いだ時点の所得の格差が大きく開いていても、稼ぎが少なく苦境に立った人にも目配りする。

その調整の度合いを測る指標が、所得格差を示す「ジニ係数」。格差は1に近いほど激しく0に近いほど小さい。稼いだ時点の当初所得だと、72年の0.353から0.498と格差が広がっている。

こうした格差を、高所得者に対する税率をより高くして、低所得者の税負担を軽くする考え方で緩和してきた。だが政府は、高所得者の稼ぐ意欲を高めて景気を良くするため、として、70年代は75%だった所得税の最高税率を段階的に引き下げ、99年には37%までに引き下げた。いわば「勝ち組」といえる高所得者にやさしい処置だった。

その結果、税による所得の再分配機能は大きく低下し、72年には格差を4.3%緩和する効果があったのが、02年には0.8%まで縮小した。(途中省略)財政赤字が膨大だから政府を小さくする、というやみくもな論理では、社会を支えあう仕組みが縮小するばかりになる。(左の表1を参照)」

再配分機能を考えない税制調査会への痛烈な批判といっていいだろう。

3、税制調査会の歴史

税制調査会という機関はいったいいつごろできて、どんなことを答申してきたのだろうか。

昭和20年8月15日を境にして、わが国の秩序は大きく変わった。無論、税制もしかりである。昭和21年3月にはたいした論議もなく、所得税法をはじめ税法改革は国会を通過した。同年12月に苫米地義三氏を会長にして委員30名で構成する税制調査会が発足している(大蔵大臣の諮問機関)。以下税制調査会の会長と組織は以下のとおりである。

現在ある税制調査会はここから続き、以後会長職は東畑精一(40年8月から49年10月)、小倉武一(49年10月から平成2年12月)、加藤寛(2年12月から12年7月)、石弘光と続くことになる。前年なくなった鈴木章氏の『政府税調の本音とウソ』によれば税制調査会というのは大正14年に初めてできたとのことである。

年月日 責任者 人数  
23.4.10 税制調査懇談会   36 閣議決定 答申なし
24.1. 7 税制審議会 汐見三郎 10 大蔵省に設置  
24.3.25 税制審議会 大蔵大臣 33 内閣に設置 24年税制改正
          25年税制改正
26.3 税制懇談会   6 大蔵省に設置 答申行わず
28.8. 7 税制調査会 小暮武太夫 25 内閣に設置 各国売上税制度の概要
    汐見三郎(代理)     
30.8. 2 臨時税制調査会 愿安三郎 25 内閣に設置 31年度税制改正
30.2.16 租税徴収制度審議会 我妻 15 大蔵省に設置 滞納処分と強制執行との調整
税制の改正について
32.6.14 税制特別調査会 井藤半弥 当初15後25大蔵省に設置 相続制度ほか
33.7.22 臨時税制懇談会 井藤半弥 30 総理大臣委嘱  
    高木寿一(代理)    34年度税制改正の意見要録
34.4.12 税制調査会 中山伊知郎 30 総理府設置法で内閣に設置
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