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速報!! 倉敷民商弾圧事件に広島高裁逆転判決岡山地裁に差し戻す
東京会 湖東 京至(2018年1月12日執筆)
2018年1月12日広島高裁岡山支部(長井秀典裁判長)は倉敷民商禰屋町子事務局員に対する1審判決(懲役2年、執行猶予4年)を破棄し、地裁に差し戻す禰屋さん側全面勝利の判決をおこなった。

事件の発端と地裁判決
事件は2013年2月、倉敷税務署法人税担当職員による倉敷民商会員(当時)のI建設株式会社に対する一般の税務調査からはじまった。ところが、何を間違ったか、同年5月、突如一般の税務調査から広島国税局査察部の査察調査に切換え、民商事務局などを捜査・差押をおこなった。

2014年1月、I社を担当していた禰屋さんを法人税法違反(脱税ほう助)で逮捕するとともに、併せて税理士法違反で起訴した。禰屋さんは以後428日間身柄を拘束された。本犯のI建設の社長夫妻は逮捕されず、I建設は修正申告に応じたが、その中身を見れば、いわゆる期間のずれがほとんどであり、架空の経費や架空の在庫調整などもない。そのため、査察事件の動かぬ証拠であるいわゆる「タマリ」もなく重加算税も課されていない。「タマリ」がないことは広島国税局の木島査察官も法廷で証言している。

つまり本来、査察事案としてなじまないものであった。にもかかわらず、1審の岡山地裁が強引に有罪判決の根拠とした根拠は、検察官が証拠として請求した「査察官報告書」である。あまつさえ、地裁の江見裁判長はその査察官報告書を鑑定書として提出することを勧奨したのである。同裁判長はその内容をそのまま信用し、査察官の判断どおり事実を認定し有罪判決をおこなったのである。

地裁の江見裁判長がある偏見をもって判決文を書いたことは、地裁判決当日、あらかじめ40人もの制服警官を待機させ、閉廷後いっせいに法廷内に突入させ傍聴人に威圧を与えたことを見れば明白であろう。

査察官報告書は証拠にならず、高裁判示
広島高裁の長井裁判長は、そもそも地裁判決が木島査察官の査察官報告書を鑑定書にあたるとして証拠能力を認めたこと自体、刑事訴訟法321条4項(注1)の解釈を誤ったものだと断定した。鑑定書とは本来、専門性の高い第三者等の研究者に依頼して書いてもらうものである。査察官は捜査機関から鑑定を委嘱されたものでもなく、捜査官そのものであり、鑑定人としての適格性を欠いている。加えて査察官報告書には他の査察官が作成した文書や供述録取書、供述書の伝聞証拠が引用されていて信用できない。つまり、証拠としての価値がないと判示したのである。

また、査察官報告書にある具体的な事実についても検討している。たとえば、I建設が意識的に期間のずれを行ったものであるかどうかについても、まったく審理をしていない。期末棚卸高の調査についても、ただ、法人税法の規定に従ってきまるものを計上しただけであり、専門的知識経験を必要とするとは考えにくい。したがって査察官報告書が鑑定書面になるとは認められない、としている。

さらに売上高調査書の作成についても、一般的な常識を超えた専門的部分があったとは考えにくく、ここの点でも査察官報告書が鑑定書にあたるとは認められない、とした。

最終的に高裁判決は、「原審は、本件査察官報告書等が鑑定書面に当たると認めることはできないのに、これを鑑定書面として採用して取り調べ、事実認定に用いたのであるから、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続きの法令違反がある。したがって、そのほかの控訴理由について判断するまでもなく、原判決は破棄されるべきである」とした。つまり、税理士法違反などは審理する必要もないというのである。

高裁、差戻し審における審理の仕方まで指示
このあと、高裁判決は差戻し後の地裁の審理のあり方についても細かく指示している。これも極めて稀有のことであろう。すなわち、 検察官は査察官報告書によらない別の方法によって立証すべきであること、 検察官・裁判所は適切な争点整理を行うべきであること、 検察官は真に立証すべき事実は何かを吟味しその主張を明らかにすべきであること、 検察官は必要な資料を抽出して整理し、その記載内容から必要な部分を転記して原資料を明示したわかりやすい一覧表を作って証拠請求すべきである、と述べている。暗に、過少申告事案を強引に査察事件にでっちあげた、と批判しているのである。併せて地裁で禰屋さんの有罪を主張した検察官の無能ぶりを指摘している。筆者が傍聴したときにも、簿記会計や法人税法の初歩的知識なしに査察官報告書をただオウム返しに述べている感じて、意味不明の弁論が目立っていた。

高裁判決は最後にこう結んでいる。「差戻し後の第一審においては、あらためて検察官が主張を明らかにして立証の対象を明確にし、その点に絞った分かりやすい簡潔な立証活動を行ってもらいたい。」

この判決文は最大の皮肉である。つづめて言えば、「二度とこんな幼稚な立証をしては困る」という意味であろう。倉敷民商事件は、もともと弾圧事件であり、でっち上げの冤罪である。地裁判決のあまりのお粗末さに司法が「カツ!」を入れたのである。

最高裁で審理中の税理士法違反事件に与える影響
さて問題は最高裁である。同じ倉敷民商弾圧事件で同民商事務局長の小原淳氏と事務局次長の須増和悦氏が税理士法違反で最高裁に上告中である。2015年12月、広島高裁岡山支部は地裁判決を支持、両氏に懲役10月執行猶予3年の判決を行った。両氏は直ちに最高裁に上告、最高裁は未だ審理中で決定はされていない。今次の広島高裁の判決を受けて最高裁はどう判断するのであろうか。

弁護団は判決後の声明で、検察側が直ちに控訴の取下げをするよう求めている。だが、検察側は最高裁に上告するかもしれない。そうなれば、すでに最高裁に上告している小原・須増事件との合同審理となる可能性もなくはない。

一連の倉敷民商弾圧事件は、その発端となったのが査察事件である。一般の法人税調査を査察に切換え、倉敷民商に対する弾圧を行ったのである。発端となった査察事件が否定されたのであるから、その後の税理士法違反も成立するはずがない。それは今回の高裁判決が「判断するまでもなく」無罪としたことをみれば明らかであろう。

われわれは、今回の高裁判決をよりどころとして、最高裁門前要請行動や最高裁に対する署名活動を一層強化し、この時代遅れの、民主主義国家にふさわしくない弾圧事件に対し、公判法廷を開き原判決破棄、差し戻しの勝利を勝ち取るための運動をさらに強化しなければならない。
(注1)刑事訴訟法321条4項は、同条3項に「検察官などが検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、本人が作成したものであることを供述したときは、証拠とすることができる」とする規定があり、鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても3項と同様に証拠とすることができる」とする規定である。広島高裁判決は木島査察官による査察官報告書は木島一人が書いたものではなく、一部に部下が作成したものがある。このことは木島査察官自身が認めているところであるから、これだけでもこの規定に違反しているのである。

(ことう・きょうじ)

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